人間関係や仕事内容、待遇などへの不満が膨らんで「仕事を辞めたい」と思ったとき、一時の感情のままに退職してしまっても良いのでしょうか?
心のモヤモヤと向き合い、言語化することで、自分がどう働きたいのか、どんなキャリアを積みたいのかを考えるきっかけになるかもしれません。「仕事を辞めたい」という気持ちを整理して、前向きな行動に繋げていく方法を、人事コンサルティングSeguros代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
人が「仕事を辞めたい」と思う理由
人はどのようなきっかけやシチュエーションで「仕事を辞めたい」と思うのでしょうか?多くの転職に関する調査や統計に共通する、主な「仕事を辞めたい理由」をご紹介します。
人間関係が良くない
対上司・先輩・同僚など、仕事を辞めたい理由には人間関係の問題が常に上位にあります。会社では上司や同僚を自ら選ぶことができず、しかも日々長い時間を共にしなければなりません。「仕事だから」と割り切ることができず、ストレスを溜めてしまう人が多いのは、ある意味しかたがないことなのかもしれません。
労働条件が悪い
「残業が多い」「休日出勤が多い」「ノルマが厳しすぎる」といった労働条件の悪さは、自分では容易に解決できない理由の1つ。厳しい環境であっても、報酬や仕事のやりがいで報われれば我慢できる場合もありますが、そうでなければ、ただ辛さばかり感じてしまうことも多いものです。
給与が少ない
仕事に対するモチベーションには、やはり報酬が大きく影響するものです。「自分の働きに給与が見合っていない」「この会社にいても、希望する昇級は見込めそうにない」という気持ちが強くなると、やる気がなくなり、仕事を続けるのが難しくなってしまうでしょう。
会社の将来性や安定性に不安がある
近年はコロナ禍や円安により打撃を受けた企業が多く、また急速なDX化により産業構造が大きく変化しています。そうした時代的な背景もあり「会社の業績が悪く、今後の事業展開が不安」「経営体質が古く、今の時代の流れに置いていかれそう」などの理由で、仕事を辞めたいと考える人は増えているかもしれません。
仕事が面白くない、向いていない
特に若手のビジネスパーソンに多いのが、仕事内容に対する不満。1日の時間の多くを費やす仕事に「興味が持てない」「スキルアップが望めない」「自分の性格や能力に合わない」という思いを抱いてしまえば、苦痛に感じてしまうのは無理もないことかもしれません。
仕事を辞めたいときは自分と向き合うチャンスと考える
しかし、どのような理由でも「仕事を辞めたい」という感情を持つこと自体は、決してネガティブなことだけではありません。その悩みは、今の仕事に対して抱えている不満や疑問をひもとき、これからの自分のキャリアについて深く考えるきっかけになるからです。
「仕事を辞めたい」「でも本当に辞めていいのだろうか」と悩んでいる方は、次にご紹介する方法で、自分が何を大事にしたいのか、どのような働き方を目指したいのかを整理してみてはいかがでしょうか。
仕事を辞めたいときは5つのリストで整理しよう
仕事を辞めたいときは、次の5項目のリストを書き出して、今の感情を言語化してみましょう。頭の中のモヤモヤをアウトプットすると、もう少し現職で頑張るべきか、転職に踏み切るべきかの整理もできてくると思います。
【リスト1】今の仕事を辞めたい理由
会社を辞めたいと思う「退職理由」は、主に次の4つに分類できます。ここからさらに、「商品力がなく営業に自信が持てない」「上司が成果を見てくれずミスばかり指摘する」など、思いつく限り具体的に書き出してみましょう。
- 会社のビジョンや目標への不満
- 事業内容や仕事内容への不満
- 組織や人間関係への不満
- 評価や待遇、労働環境への不満
【リスト2】どうしても我慢できないこと/できること
仕事を辞めたい理由を書き出したら、それらを「どうしても我慢できないこと」と「我慢できること」に分けてみましょう。
そのときは、社外の人の話を聞くのもおすすめです。たとえば「残業が多い」という不満で頭が一杯になっていたとしても、他社で働く友人の話を聞いて比較すると「よく考えれば我慢できないほどじゃなかった」と気づき、少し冷静になれるかもしれません。
「どうしても我慢できないこと」に分類した不満についても、現職で絶対に解決できない問題かどうかを考えてみましょう。たとえば、残業が多いなら仕事の進め方を見直してみる。人間関係に悩んでいるのなら部署を異動するなどの方法で、解決できる余地があるかもしれません。
【リスト3】今の会社の良いところ
辞めたい会社の良いところ探しは心情的に難しいかもしれません。ですが、「残業は多いけど給料は悪くない」「人柄の良い社員が多い」など、何でも良いので現職で満足している部分をリストアップしましょう。すると、自分が何にやり甲斐を感じるのか、どんな働き方がしたいのかが見えてきます。
今の会社の良いところが見つからない場合は、他の会社と相対的に比べてみると見つかるかもしれません。同業他社で同年代の社員がどんな待遇や条件で働いているのか、転職サイトなどで調べてみてはいかがでしょうか。
【リスト4】転職するとしたら、次の会社に望むこと
このリストは、「2どうしても我慢できないこと」の裏返しと、「3今の会社の良いところ」を合わせて考えてみましょう。たとえば、「上司が仕事の結果しか見てくれない」ことを裏返せば、「結果だけでなく、仕事のプロセスも評価してくれる会社で働きたい」という希望が出てきます。今の会社の良いところとして「商品開発力がある」を挙げているのであれば、次の会社にも「扱う商品に力がある」ことを望むでしょう。
そして、これが転職の面接で伝えるべき本当の「転職理由」になります。もし最終的に転職を選ぶとしたら、ここは必ず明確にしておくべきところです。
【リスト5】転職せずに改善できることは何か
仕事を辞めたい理由の中で、「我慢できない」度合いが高いものから順に、現職で改善を図るための方法を考えて書き出してみましょう(次項参照)。このリストを作ろうとしたときに「状況を変えるために自分にできることは何もない」と判断したら、転職を視野に入れて行動を始めることをおすすめします。
自分で改善できることを考えて取り組んでみよう
上記「リスト5 転職せずに改善できることは何か」の例として、自分で取り組める改善策をご紹介します。
人間関係の不満の場合
人の性格や考え方を変えるのは簡単ではないので、やはり自分から歩み寄ることは一つの方法です。相手の考え方を知り、それを尊重することが関係改善に繋がるかもしれません。たとえば相手が上司なら、実際に上司に評価されている同僚の接し方や報連相の仕方を研究してみてはいかがでしょうか。
もし距離を置ける相手であれば、割り切って、仕事に必要なやり取り以外は距離を置く考え方もありです。どうしても相性が悪い場合は、チーム替えや異動によっても解決できることがあります。
給料が少ないことへの不満
まず、転職サイトなどで業界の平均給料を調べて、自分の収入を世の中の水準と照らし合わせてみましょう。そのうえで少ないと分かったら、評価を上げるにはどんな努力が必要かを知るために、会社の評価基準をもう一度確認することをおすすめします。
さらに評価面談などで、上司に自分の査定の内容を聞き、給料アップを望むにはどういったキャリアパスが考えられるかを確認しましょう。パフォーマンスや結果で昇給が可能なのであれば、何を改善し、いつまでにどんな結果を出すのかをすり合わせて、クリアしていくことを考えましょう。
仕事が面白く感じられない
なぜ仕事が面白くないのか、理由を深掘りしてみましょう。たとえば「成果が出なくて面白くない」のなら、成果を出すために仕事のやり方を見直す必要があります。その場合は自分ひとりで考えるより、仕事で必ず押さえるべきポイントについて、率直に上司に聞いてみるのがおすすめです。
「とにかくやる気が出ない」という人は、同じ仕事で成果を上げている人や、楽しそうに取り組んでいる人に、何をモチベーションにしているかを聞いてみましょう。その人の言葉がヒントになり、自分の仕事の捉え方も変わるかもしれません。
残業が多く、労働時間が長い
「月に何時間残業をしているか」「中でも何に時間がかかるのか」「どうすれば合理化できるのか」を整理してみましょう。たとえば、提案書の作成に時間がかかっている場合、部内で共有されているフォーマットを使えば早くできるのに、毎回一から作っていたというケースもあります。仕事の早い同僚のやり方を研究するのもおすすめです。
また、純粋に仕事量が多すぎて、自分のキャパを超えている場合もあります。他の社員に振り分けてもらえないか、上司に相談してみるのも一つの方法です。
自分にはこの仕事が向いていない
どんな仕事なら向いているのかを考えて、社内で仕事内容を変えることを検討しましょう。たとえば同じ営業でも、新規開拓は苦手ですが、お客様のフォローアップは得意という人がいます。その場合は、既存顧客のサポートを担当する部署に移る手があります。
また、営業そのものよりも売上やマーケットの分析が得意というのなら、営業企画で活躍できるかもしれません。最近は「社内求人サイト」を開設するなど、自分から異動に手を上げられる企業も増えているので、そうした制度を活用するといいでしょう。
自分でできることがなければ転職を視野に入れよう
転職活動で迷いが晴れることも多い
仕事を辞める前にできることを検討し、それでも希望する働き方が実現できないと感じたら、転職活動の始めどきです。一方で、その時点で「まだ迷っている」人も、試しに転職活動を始めてみてはいかがでしょうか。
「転職活動」=「転職」ではありません。まずは転職サイトなどで情報収集し、自分の経験・スキルを棚卸しして、履歴書や職務経歴書を書いてみることが大切です。自分の現状や立ち位置を理解できれば、「転職すべきかどうか」をより現実的に考えることができるでしょう。
また、転職活動をすることには、これまでと今後の自分のキャリアを見つめ直し、新たな可能性を発見できるというメリットがあります。実際に転職に踏み切らなくても、現職とは違う選択肢があることに気づいただけで気持ちが楽になり、悩みが軽くなるケースも多いものです。
初めての転職で情報を探すには
転職活動に踏み切ることを決めたら、まず自身の経験を振り返り「できること」「強みと弱み」「転職で何を実現したいのか」(上記リスト参照)を整理しましょう。これによって企業選びの軸が定まります。
企業を選ぶための軸が明確になったら、それに合致した求人情報を探しましょう。手始めに、自分で自由に求人情報を閲覧できる「転職サイト」や、自分の職歴や強みを登録しておき、企業からのスカウトを待つ「ビジネスSNS」などのサービスを利用してみましょう。
転職エージェントの利用もおすすめ
特に初めての転職の場合は、キャリアアドバイザーが転職活動全般に対してサポートしてくれる転職エージェントに相談するのもおすすめです。自力で数ある求人の中から適切な情報を集めたり、転職市場の相場感を測ったりするのはとても難しいもの。転職エージェントなら、相談者のキャリアや強みにマッチした選択肢を提案し、面接対策などの具体的なアドバイスも提供することができます。
たとえ転職エージェントを利用したとしても、最終的に転職しない選択をするのは何の問題もありません。ときには、現職で問題を解決するためのアドバイスも受けられることでしょう。「仕事を辞めたい」と思ったときは、気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。