
「志望動機」「自己PR」と同様に、「転職(退職)理由」は面接でよく聞かれる質問の一つです。では転職理由はどのように伝えればいいのでしょうか。転職理由の考え方や採用企業が判断しているポイント、転職理由の例文などを人事コンサルティングSeguros代表コンサルタント粟野友樹氏が解説します。
面接で転職理由を聞かれるのはなぜ?
面接で転職理由を聞く理由は大きく三つあります。それぞれ解説していきます。
同じ理由ですぐ辞められたら困るから
転職理由を聞く理由の一つ目は、短期離職の懸念を解消することが挙げられます。人材募集は企業にとって投資活動と言われており、ハイリターンを得るためにもできるだけ長い期間働いてくれる人を採用したいというのが企業の本音でしょう。そのため、転職理由を確認しておくことで「他の社員とうまくやれるのか」「同じ理由ですぐに辞めないか」などの短期離職の懸念を見極めているのです。
特に前職を短期離職している方は「短期離職に至った理由」も聞かれる可能性が高いため、面接担当者が納得できる理由を述べられるよう準備しておきましょう。
入社後のミスマッチを防ぐため
転職理由を聞く理由の二つ目は、入社後のミスマッチを防ぐことが挙げられます。入社後にミスマッチが発覚すると当人だけでなく、企業側にも影響を与えてしまいます。募集要項で仕事内容・仕事環境のすべてを伝えるのは難しいため、任せたい仕事内容をすり合わせたり、応募者が想像している企業へのイメージを確認したりすることで、ミスマッチが発生しないか見極めているのです。
また転職理由によっては「うちの企業なら懸念が解消できるのか、やりたいことが実現できるのか」となど深く質問される可能性もあるため、的確な回答ができるように準備しておきましょう。
仕事への姿勢や考え方を知るため
転職理由を聞く理由の三つ目は、仕事への姿勢や考え方を知ることが挙げられます。募集要項のみでその企業を理解しきれないように、履歴書や職務経歴書のみでは応募者の考え方や人柄を理解することはできません。そのため仕事に対する姿勢や考え方、キャリアビジョン、成長意欲など書類上では判断できないことを転職理由から見極め、理解を深めているのです。
転職(退職)理由の回答例文【ケース別】
転職(退職)理由の回答例をケース別にOK例とNG例をそれぞれ紹介します。
「人間関係」が退職理由の場合
入社後に実現したいことが含まれておらず、採用担当者から受け身の印象を持たれる可能性があります。意欲を伝えるためにも、転職で実現したいことを具体化しましょう。
OK例
「前職では経理として、請求管理や月次決算を担当していました。上司である経理責任者が社長の身内で、経理担当者として納得のできない指示も多く、顧問税理士との板挟みになることもしばしばありました。
御社は〇〇をメイン事業として上場しており、前職での業界特有の経理知識を活かせます。将来的には経理の視点での財務体質や経営の改善提案を行いたいと考えておりますが、まずは即戦力として、一日も早く御社の成長に貢献したいと考えております。」
NG例
「前職では経理として、請求管理や月次決算を担当していました。上司である経理責任者が社長の身内で、経理担当者として納得のできない指示も多く、顧問税理士との板挟みになることもしばしばありました。疑問を抱きながらも、社長の身内なので誰も強く言えませんでした。
上場企業である御社なら、適切な会計が行われているので安心です。経理経験を活かして貢献したいと考えております。」
「仕事が合わない・向いていない」が退職理由の場合
仕事において自分が何を大切にしたいのかを伝えないと、好き嫌いだけでまた退職してしまうのではと疑問を抱かれる可能性があります。自分がしたいことを明確に伝えましょう。
OK例
NG例
「営業として目標数字を追いかけ続け、目標達成能力が着実に身についていると実感していました。しかし数字に追われ続けることに疲れてしまい、満足なパフォーマンスができなくなりました。
働く場を御社へ移すことによって、気持ちを新たに営業として貢献したいと感じております。」
「体調不良」が退職理由の場合
体調不良が原因であると、面接担当者は「現在は問題なく働けるのか」という疑問を持ちかねません。診断を受けたなど、納得できる理由をもとに回復した旨を伝えましょう。
OK例
NG例
「職種を変えたい」が退職理由の場合
職種を変えるときは、業界や職種を問わず活かせるスキル(ポータブルスキル)をうまくアピールしましょう。「課題分析力」「コミュニケーション力」「交渉力」「企画提案力」「調整力」など、自分が強みとするスキルを活かして貢献したい旨を伝えます。
OK例
NG例
「年収が低い」が退職理由の場合
「もし給与が上がらなかった場合、辞めてしまうのでは?」と不安を抱かれる恐れがあります。これまでの経験・スキルを活かして入社後にどのように貢献できるのか、具体性を高めましょう。
OK例
「前職ではITサービスの法人営業を担当していました。グループ会社の案件を請け負うケースが多く、新規顧客を獲得しても評価や報酬に結びつきませんでした。
営業活動が評価に反映される職場であれば、モチベーション高く仕事にまい進できると考えています。御社は新サービスのリリースに伴い、営業部門を強化されています。新規の法人営業で培った経験を活かして、サービスの拡大とトップシェアの獲得に貢献したいと考えております。」
NG例
「前職ではITサポートの法人営業を担当していました。グループ会社の案件を請け負うケースが多く、新規顧客を獲得しても給料は低いままでした。
御社の求人には賞与やインセンティブ制度が整っていると記載されていました。給与アップを目指して、売り上げに貢献したいと考えております。」
「スキルアップ」が退職理由の場合
「スキルアップができない」は「退職理由」としては問題ありませんが、もう一歩踏み込んで、スキルアップを図ることによって何を実現したいのかを明確にしましょう。
OK例
「前職では人事アシスタントとして、面接日程の調整や会議室の手配などを行っていました。ベテラン社員が多く役割分担が明確に決められており、人事としてのスキルアップを図ることができませんでした。
御社は人事の裁量が大きく、採用から教育まで幅広く担当するという方針をお持ちです。また、多店舗を展開し採用を積極的に行われておりますが、採用ページや転職サイトに掲載している求人がとても分かりやすく、人事の方のスキルが十二分に発揮されていると感じました。これまでアシスタント業務が中心でしたが、採用業務の効率化のために、採用管理ツールの使い方を工夫したり、書類をテンプレート化したりした経験もあります。これまでの人事経験を活かし「御社で活躍する人材」の採用に貢献したいと考えています。」
NG例
「前職の人事部門はベテラン社員が多く、若手は面接日程の調整や会議室の手配など、アシスタント業務が中心となっていました。アシスタント業務だけで手一杯でスキルアップができないため、業務の効率化を図りましたが、ITに疎い組織でなかなか認めてもらうことができませんでした。
御社は人事の裁量が高く、採用から教育まで幅広く担当するという方針をお持ちです。様々な業務を通じて、スキルアップを実現したいと考えております。」
「労働環境」が退職理由の場合
ネガティブな表現が多いと、愚痴のように聞こえてしまいます。労働環境を変えることで、どのように貢献できるのかという部分を多めに伝えて、ポジティブな印象を与えましょう。
OK例
NG例
面接で評価される転職理由のポイント
面接担当者に評価されるためのポイントについて解説していきます。
事実ベースでエピソードを作る
「残業が多い」「上司と合わない」など、退職理由がネガティブな内容になることもあります。「ネガティブな理由だとマイナスの印象を持たれるのでは…」と不安に感じる方もいるようですが、退職理由がネガティブであっても、伝え方次第でマイナスとはならないこともあります。
逆に、ネガティブな退職理由を隠そうとして建前で転職理由をまとめてしまうと、面接担当者も定着性や活躍の可能性を判断することができません。また取り繕った転職理由で内定を得たとしても、入社後にミスマッチを感じるリスクもあります。転職理由は具体的なエピソードを交えて、事実ベースでまとめるようにしましょう。
「退職理由:2割」+「転職で実現したいこと:8割」で構成
転職理由をまとめる際は、「退職理由:2割」+「転職で実現したいこと:8割」を意識して構成するのがお勧めです。特に退職理由がネガティブな内容だった場合、退職理由のボリュームが多すぎると、面接担当者が「前向きな入社後の活躍イメージ」を持つことができません。退職理由はあくまで「転職のきっかけ」程度にとどめ、「転職で実現したいこと」を中心に構成するようにしましょう。
退職理由と転職理由は違う
中途採用の面接では、必ずと言っていいほど「転職理由」を聞かれます。転職理由を「給料が低いから」「転勤があるから」など、「退職理由」と混同している方もいるかもしれませんが、転職理由は「転職を考えたきっかけ(退職理由)」だけではありません。「転職によって実現したいこと」を含めて伝えるのが理想的です。
退職理由を前向きに言い換える
転職理由を考えるにあたり、「退職理由がはっきりしても、転職理由は思いつかない…」という方もいるでしょう。転職理由が思いつかないときは、退職理由に隠されている前向きな仕事への思いを考えてみましょう。
退職理由の変換例
・残業が多くてつらい → 効率的に仕事を進めて成果を出したい
・仕事が単調でつまらない → やりがいを感じる新しい仕事にチャレンジしたい
・ギスギスした職場の人間関係が合わない → チームワークを活かして働きたい
応募先で「実現可能なこと」を意識する
応募している仕事内容と転職理由がかけ離れていて、入社後に実現できそうもない転職理由では、面接担当者も評価することができません。前向きな転職理由が明らかになったら、応募する企業でどのように実現できるのかを考えましょう。また面接では、転職理由とともに志望動機も聞かれることが一般的です。転職で目的を実現するために、なぜ応募企業を選んだのか志望動機との整合性もチェックしておくことが重要です。
転職理由を実現させるための行動まで具体的に伝える
面接担当者が「うちに入社したら転職理由の実現が可能だな」と感じても、内容が漠然としていると評価しづらいため、採用後の姿をイメージできるくらい具体的な行動イメージを伝える準備が必要です。ただし具体的に伝えるために話が長くなってしまうと意図が伝わらなかったり、コミュニケーション能力不足だと判断されたりする可能性もあるため、要点をおさえて簡潔に伝えるのが重要です。
退職理由に困ったら面接対策もできるエージェントに相談
今回は面接で転職理由を聞かれた際の、ケース別の例文と答え方について紹介しました。転職エージェントを活用すれば「企業が納得できる退職理由」についてアドバイスを受けることもできます。面接対策にぜひお役立てください。

約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。