
30代後半で転職を考える方々からは「希望どおりの転職の実現は難しいのではないか」「未経験分野への転職は可能なのだろうか」といった不安の声が聞こえてくることがあります。未経験業界・職種に転職できるか、年収を維持できるか、企業は30代後半に何を求めているか……といった疑問に、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が答えます。30代後半の転職を実現させるポイントもご紹介します。
目次
30代後半の転職でよくある疑問をプロが解説
30代後半で転職を検討する方々が抱きがちな疑問について、データを交えて解説します。
30代後半の転職は年齢がネックになる?
転職者全体に占める30代後半の割合は、以前より高まっています。厚生労働省が公表している「雇用動向調査」の「年齢階級別転職入職率」に注目してみると、「35~39歳」の数値は上昇傾向にあります。
2023年の「35~39歳の転職入職率」は10.3%。20年前(2003年)の8.8%、10年前(2013年)の9.3%より伸びています。
この傾向から、30代後半という年齢が転職活動のネックになるとは限らないといえるでしょう。
(※)出典:雇用動向調査4-2 性、年齢階級別転職入職率(厚生労働省)
30代後半でも未経験の業界・職種に転職できる?
リクルートエージェントを利用した転職者を分析したところ、2022年度に転職した35~39歳の方々の転職先は次のような内訳となっています。
「異業種×異職種」への転職……31.4%
「異業種×同職種」への転職……35.6%
「同業種×異職種」への転職……11.8%
「同業種×同職種」への転職……21.3%
このように、職種経験を活かして異業種への転職を果たしている人は4割近くに及び、3割の方は異業種・異職種へのキャリアチェンジを実現しています。

(※)出典:「異業種×異職種」転職が全体のおよそ 4 割、過去最多に 業種や職種を越えた「越境転職」が加速(株式会社リクルート(現・株式会社インディードリクルートパートナーズ))
今の年収を維持して転職はできる?
厚生労働省の調査によると、令和5年1年間の35歳~39歳の転職入職者のうち、前職よりも収入が「増加した」人は38.0%、「変わらない」人は31.3%、「減少した」人は29.9%と、収入が増加した人の割合がもっとも多くなっています。
(※)出典:令和5年雇用動向調査結果の概況(厚生労働省)
【役割別】30代後半の転職で企業が求めているものとは?
企業は30代後半の人を採用するにあたり、どのようなことを求めているのでしょうか。役割ごとにご紹介します。転職活動で何をアピールすればよいか、参考にしてみてください。
30代後半の即戦力に求めるもの
対象一例:営業、エンジニア、プロジェクトマネジャーなど
この層に求められることの一つとして、「早期に成果を出せる」ことが挙げられます。これまでの経験や身に付けているスキルを活かし、入社後の早い段階でパフォーマンスを発揮できるかどうかが問われるでしょう。
選考で注目されているポイントとしては、以下が挙げられます。
【営業の場合】
新規開拓力・既存深耕力・クロージングスキルなど、営業フェーズ別の実績に基づいた強み。担当業界や顧客層の知見、売上目標に対する達成率、チーム内でのKPI管理経験など。
【エンジニア・プロジェクトマネジャーの場合】
使用技術・フレームワーク・開発環境、プロジェクトマネジメントの規模(人数・予算)が、自社が求める要件と合致しているか。ステークホルダー(営業・企画・経営層・顧客・パートナー企業)との折衝力、納期調整の交渉力、仕様変更時のファシリテーション力など、チーム全体を前に進める推進力。
実績を「技術+ビジネス文脈」の両方から語れることがカギです。エンジニアの場合、単に「Vue.jsを使った開発」ではなく、「売上構成比の高いECサイトでVue.jsを用いてUI改善を実施、CV率5%向上」といったように、事業貢献を伴った実績でアピールしましょう。
30代後半のサポート職に求めるもの
対象一例:営業事務、一般事務、人事アシスタントなど
サポート職では、組織を支える安定感と、業務を確実に遂行する信頼性が重視される傾向にあります。「事務担当の1人」ではなく、現場全体の流れを把握し、先回りして動ける「チームを陰で支える要」のような存在が理想といえるでしょう。メンタル面でも、チームに安心感をもたらすような人物像が望まれる傾向があります。
選考で注目されているポイントとしては、以下が挙げられます。
- 「正確さ」と「スピード」の両立
- 業務改善への提案力
- トラブルへの初動対応
- ソフトスキル(ホスピタリティ、気配り、誠実な対応、相談しやすさ、など)
- クライアントや社内の関係者との円滑な連携力
<選考でアピールしたいポイント>
「ただの作業担当ではない」ことを伝えるには、「誰のために・どのように考えて動いたか」という文脈を入れることが重要です。例えば「営業が顧客対応に集中できるよう、毎朝の定型資料を自動化し月10時間削減」「営業事務部門の若手・新卒◯名の育成マニュアル作成と研修実施を担い、◯ヵ月での戦力化を実現」といった組織全体への貢献視点が効果的でしょう。
30代後半の専門職に求めるもの
対象一例:経理、法務、社内SE、IT企画など
専門職においては、業務遂行力にとどまらず、経営・事業に影響を与える視点と実行力が求められるでしょう。
選考で注目されているポイントとしては、以下が挙げられます。
【経理の場合】
月次決算・年次決算対応、会計監査対応、原価計算、内部統制構築、M&Aに関するデューデリジェンス経験など、専門性の深さ。
【法務の場合】
契約法務に加え、株主総会・取締役会運営、コンプライアンス体制の構築、M&Aやグループ会社統合時の法的支援、GDPRなどの国際法対応といった高度な業務への関与。
【社内SE/IT企画の場合】
基幹システム刷新、SaaS導入支援、セキュリティ強化、業務プロセスのDX化、生成AIを活用した業務効率化などの実績。AIなど新技術の取り扱い経験や、情報システム戦略の立案・実行力。
<選考でアピールしたいポイント>
専門知識や業務経験の深さだけでなく「それがどう経営・現場に影響を与えたか」を語ることも、専門職の評価を上げるポイントの一つになります。例えば「M&Aによる事業統合後、財務基準の統一を主導し、○ヵ月で新基準への移行を完了」など、ハードスキルと経営的視点の融合がカギになるでしょう。
30代後半のリーダー候補に求めるもの
対象一例:プロジェクトマネジャー、採用責任者、現場マネジャー、チームリーダーなど
リーダー候補には、「人を動かし、組織を育てる力」が求められます。30代後半は社会人経験もそれなりに長くなり、プレイヤーの延長ではなく、次期管理職・経営幹部候補としての視点と実行力を期待される傾向にあります。
選考で注目されているポイントとしては、以下が挙げられます。
【プロジェクトマネジャーの場合】
工数管理・品質管理・納期調整といったプロジェクト全体のハンドリング力。チームの動機づけ、顧客や外部ベンダーとの交渉、売上・予算・コスト管理、経営層とのレポートライン構築といったリーダー資質。
【採用責任者の場合】
採用計画の立案・実行だけでなく、中長期の組織づくり、育成スキームの導入、エンゲージメント向上のための制度提案など、採用実務だけではない戦略人事的な視点。
【現場マネジャー・チームリーダー】
KPI管理、評価制度設計、離職防止の施策実行など、経営に寄与する数字を動かすマネジメント力。自部署の目標が会社全体の戦略とどう連動しているかを理解し、チームを動かすことができる力。
<選考でアピールしたいポイント>
「自分が成果を出した」だけでは不十分で、「自分がいたから、組織や事業がどう変わったか・成長したか」を伝えるとよいでしょう。例えば「部下の1on1制度を導入し、離職率を半年で15%改善」「開発プロセスを標準化し、全社の納期遵守率を20%向上」など、経営貢献を示せる具体例があると非常に強い印象を与えます。
30代後半の転職を実現させるポイント
30代後半の方々が転職実現を目指す際は、次のようなポイントを意識してみてください。
どのような役割を担えるかを明確に提示する
組織の中で「どのようなポジションで、どのようなミッションを担って、組織・事業貢献できるのか」を具体的に提示しましょう。
30代後半は「プレイヤー」と「マネジャー」の両立ができる年代といえますので、その強みを打ち出すとよいでしょう。現場を深く理解したうえで、組織・事業に対して具体的にどのようなインパクトを出せるか、実現可能性の高い施策立案・実行ができるかを語ることが評価につながる可能性があります。
例えば、営業職であれば「個人で数字を持ちながら、チーム全体の提案精度を上げる」、プロジェクトマネジャーなら「プロジェクトを回すだけでなく、後輩を育成し、利益率を上げる」など、実行と育成、成果と組織貢献の両面を語れるとよいでしょう。
社会人経験が短い人とは違う視点で組織に貢献できることを伝える
30代後半にもなると、視座の高さ、視野の広さ、「自分ごと化」できる意識の高さがより求められるようになるでしょう。自身の仕事を「経営」や「事業」とつなげ、主体的に捉えていることをアピールすることが大切です。
サポート職であっても、そのような視点は重要です。例えば営業事務職であれば、「営業にとって必要な書類を整える」だけにとどまらず、「営業が顧客との提案に集中できるよう、先回りしてサポートする導線や体制を整える」など、事業・組織全体を捉えた視座の高さや当事者意識があることを伝えられるとよいでしょう。
また、目の前の目標達成だけでなく、部門間の利害調整やプロジェクト全体の優先度判断など、中長期での事業・組織の「全体最適」で動ける視点があることも伝えると、プラス評価につながりやすくなるでしょう。
転職の目的に納得感とストーリーを持たせる
これまでのキャリアを踏まえ、「なぜこのタイミングで転職するのか」「具体的なキャリアプランをどのように描いているのか」「どのような強みを持ちどんな役割を担えるビジネスパーソンなのか」などを明確化して伝えましょう。
30代後半の転職理由として、キャリア観・ライフステージ・価値観の変化が影響してくるケースが多く見られます。例えば、
「組織内でこれ以上の成長が難しいと感じた」
「子育てとの両立を考え、働き方を見直した」
「事業を創る・生み出す・再生するなど、自分の強みを活かせる領域でキャリアを伸ばしたい」
「より専門性を高め、追求したい」
「経営に近いポジションでビジネススキルを磨きたい」
こうした考えやビジョンを伝えると同時に、応募企業にどのように貢献できるのか、自分なりの強い意思と計画を伝えてみてください。「このような経験をしてきたから、御社にこのような貢献ができる・役割を担える」と、ストーリー立てて語ることで納得感を得やすくなるでしょう。
30代後半の転職は転職エージェントの活用も一案
30代後半となると、担当する業務範囲が広がると同時に、部下や後輩のマネジメント・育成を担うこともあると考えられるため、在職中の場合は、仕事をしながら転職活動をする時間を捻出するのが難しいこともあるでしょう。
その点、転職エージェントを利用すると、求人の紹介をはじめ、応募書類の書き方や面接対策のアドバイス、さらに面接の日程調整や応募企業とのやりとりまで、転職活動全般のサポートを受けることができるでしょう。
また、30代後半の方は選考で「経験・スキルのマッチ度」が注目されることもあるため、求人情報を精査し、自身に合う求人を選ぶことが重要でしょう。転職エージェントでは、各求人の募集背景や企業が抱える課題、求人票からは読み取れない「求める人物像」などの情報を入手できることもあります。
こうした情報をもとに、自身の強みが活かせる企業の選定や適切な面接対策ができ、企業からの評価を得ることにつながるかもしれません。
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2021年09月14日
記事更新日:2024年12月09日
記事更新日:2024年07月02日 リクルートエージェント編集部
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