
今の時代、転職で「市場価値が高い」のはどんな人材?
市場価値を高めるために、どんな努力をすればいい?
自分の市場価値はどうやってはかる?
そんな疑問と転職市場で自分の市場価値を上げるヒントについて、リクルートのHR統括編集長・藤井薫がお答えします。
転職において「市場価値が高い」とは、どういうこと?
転職において「市場価値が高い」とは、つまりどういうことでしょうか。
それは人材の「需要」と「供給」のバランスで決まります。「需要が高い」とは、ある特定の経験・スキルを持つ人材を募集する企業が多いということ。それに対して、その経験・スキルを持つ求職者が少ない場合は、需要に対して供給が追い付いていない状態となり、その経験・スキルを持つ人は「転職市場価値が高い」ということになります。
では、近年、「市場価値が高い人材」とは、どんな経験・スキルを持つ人なのでしょうか。社会構造の変化、それに伴う企業の戦略をもとに読み解いていきましょう。
今後、市場価値が高まる人材とは?
「社会背景」から読み解く
今後、どんな人材が求められるようになるのか。それをつかむためには、社会構造の変化に目を向けてみる必要があります。
今、社会全体が「サービス業」へシフトしています。産業構造においてサービス業の比率が高くなっていく「サービス経済化」が進展しているのです。
例えば自動車メーカー。これまでは自動車をつくって販売する「メーカー」という位置付けでしたが、昨今では「モビリティサービス企業」への転換を打ち出しています。これは車の運転者・同乗者にさまざまなサービスを提供することを指し、すでに「カーシェアリング」などの新たな事業が始まっています。
また、「月々○○円の会費を払えば、△△が利用し放題」といった「サブスクリプション」モデルのサービスも、さまざまな業種の企業で活発化しています。
少子高齢化が進み、国内マーケットは縮小に向かいます。「モノ」が売れなくなる時代、新たなサービスでマーケットを開拓する動きが、今後も続いていくでしょう。
さて、こうした「サービス経済」には、ある特徴が見られます。
それは4つの英単語の頭文字を取って「VUCA」と呼ばれています。
● Volatility(変動性)
● Uncertainty(不確実性)
● Complexity(複雑性)
● Ambiguity(曖昧性)
「Volatility(変動性)」は、いわば「熱しやすく冷めやすい」ということ。今年流行ったものが翌年には見向きもされなくなり、新たに流行したものもその翌年には消えてしまう……そんな性質を指します。
「Uncertainty(不確実性)」「Ambiguity(曖昧性)」は、例えば「これまで大人気だったブランドといえど、新商品を発売しても売れるかどうかわからない」など、予測がつかない状況。「Complexity(複雑性)」は、「Aの結果を期待して仕掛けたら、思いがけずBの結果が出た」など、物事の因果関係が明確ではない状況などが挙げられます。
「企業戦略」から読み解く
では、「VUCA」の時代にあって、どんな企業が生き残っていくか。それは「トライアル・アンド・エラー・アンド・ラーン」を高速回転させていける企業だと考えられています。
1つの商品・サービスを長期間かけて綿密に作り込んだとしても、当たるかどうかの予測がつきません。それよりも、プロトタイプ(試作モデル)を作ってみて、世の中に出してみて、その反響から「撤退」「継続」「改善」などの判断をスピーディに下していくスタイルが今の時代には合っているといえます。
こうしたスタイルは、「リーンスタートアップ」「アジャイル開発」「テスト・アンド・ラーン」「ABテスト」といった手法で、先進企業に取り入れられています。
つまり、こうした「勝ち残る企業戦略」を実践していける人材のニーズが高く、「市場価値が高い」というわけです。
市場価値が高い人材の要件――3つのスキルとは
これまでの転職市場では、「成功体験を持ち、そこで得たノウハウを自社で再現できる人」が求められていました。ところが、変化のスピードが激しい昨今、過去の成功体験は通用しなくなってきています。
代わりに、先ほど触れたような「トライ・アンド・エラー・アンド・ラーン」の戦略を推進できる人材が求められています。その人材要件を分解すると、3つのスキルが浮かび上がります。
【1】「見立て」のスキル
……マーケットや事業の構造を俯瞰して、課題の分析・設定、仮説の組み立てができる
【2】「仕立て」のスキル
……【1】で設定された課題・仮説に対して、仮説検証の設計、課題解決するための工程設計ができる
【3】「仕掛け」のスキル
……【2】で設計された計画を実践するにあたり、その知見・ノウハウを持つ専門家などを巻き込み、協力を得られる。チームビルディングができる
この3つのスキルは、業種の枠を越えて持ち運べる「ポータブルスキル」です。すべてを持っていればもちろん強いのですが、1つでも持っていれば市場価値は高いといえます。どのスキルを求めるかは、求人企業の事業特性、事業フェーズ、すでに持っているリソースなどによって変わるからです。
野球であれば肩の強さが求められ、サッカーであれば脚力の強さが求められる、あるいは、フォワードとディフェンダーしかいないサッカーチームがミッドフィールダーを求めるのと同様です。
市場価値が高いスキルを磨くために、今の職場でできること
上記に挙げた「見立て」「仕立て」「仕掛け」のスキルは、今の職場でも、日頃意識することで磨くことができます。
これは、特に難しいことにチャレンジしなければならないわけではありません。これまでもやってきているようなことを、意識して増やしていけばいいのです。
例えば「見立て」。営業の皆さんが顧客と対話する中で、相手が明確に口にしたわけではなくても「こういうことで困っているのではないか」「こんなことを考えているのはないか」と想像し、それに則した提案をしてみる、といったことをしているのではないでしょうか。表面だけを見るのではなく、想像力を働かせて課題を引き出すのは「見立てのスキル」といえます。
「仕立てのスキル」については、プロジェクトの遂行にあたって緻密な計画やスケジュールを立てたり、ミスやエラーが起こらないように対策したりすること、品質を一定レベルに維持することなどがこれに当たります。
多くの人を巻き込む「仕掛け」のスキルとは、人を魅了する話術や高度な交渉術などを指すわけではありません。相手の立場に立ち、相手の価値観を尊重しながら、自分たちの取り組みの意義や価値を伝えることで、「助けてあげよう」「協力したい」と思わせられる――そんな力です。
自分はどの部分を得意とするのかを考え、日々の仕事の中で重点的に磨くようにしてはいかがでしょうか。そして転職活動の際には、どんなことを意識して取り組み、どんな成果を挙げたかを言語化してアピールしましょう。
自分の「学びのスタイル」を認識しておく
もう一つ、転職活動の際のアピール材料として、自分の「学びのスタイル」を認識しておくことをお勧めします。
これまでの人生で、さまざまな「転機」を経験してきていることでしょう。例えば、就職、異動、転勤、出向、昇進・昇格、転職など。そうした変曲点において、新しい仕事をキャッチアップしたり環境になじんだりするために、どのような「学び方」をしてきたかを振り返ってみてください。
「本を読んだ」「セミナーを受講した」「くわしい人に聞きに行った」「自分自身で試行錯誤を繰り返した」など、人それぞれだと思います。
変化のスピードが激しい時代、どの企業も「変化対応力がある人材」を求めています。変化に直面したとき、自分はどのように対応していくのかが、学び方のスタイルに表れているのではないでしょうか。
自分の考え方をどう変えていくか、新しい考え方を取り入れていくのか、自分なりの流儀のようなものを認識して言語化しておくと、面接で説得力のあるアピールができるでしょう。
自分の転職市場価値、どうはかればいい?
自分の経験・スキルは転職市場でどの程度の価値があるのか――それをはかるためには、次のような方法があります。
●自身のキャリアを振り返り、整理する
これまでの経験やスキル、仕事内容を「時期」「会社」「部署」「業務内容」「扱った商品・サービス」「目標」「成果」「工夫したこと」といった観点から、棚卸ししてみましょう。仕事経験がまだ浅い人は、知識や人脈、経験、特技、人間性などをキーワードに振り返ってみることをお勧めします。
●求人サイト・求人SNSなどにキャリアを公開し、オファーを待つ
求人サイト・求人SNSなどに匿名または実名で自分のキャリアや転職希望条件を公開。どんな企業からどんなポジションでオファーが来るかを待ってみるのも手です。
●転職エージェントに相談してみる
転職エージェントのキャリアアドバイザーからは、「このキャリアは転職市場でどう評価されるか」「どんな転職先の選択肢があるか」「年収相場はどのくらいか」「同じようなキャリアの人が、実際にどんな転職を実現しているか」などの情報を得ることができます。
自分では「大したことない」と思っていた経験・スキルが、意外な業界や企業で求められていることもありますので、プロの視点での客観的なアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。

1988年にリクルート入社後、人材事業の企画とメディアプロデュースに従事し、TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長などを歴任する。2007年からリクルート経営コンピタンス研究所に携わり、14年からリクルートワークス研究所Works兼務。2016年4月、リクナビNEXT編集長就任。リクルート経営コンピタンス研究所兼務。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)。