女性活躍を入口に、誰もが挑戦できる職場へ。マツダ技術本部発「アスタープロジェクト」の挑戦

(写真の左右: 左 川中さん、右 水口さん)

広島を拠点に、世界へ向けたクルマづくりを展開するマツダ株式会社。自動車メーカーとして技術革新に挑み続ける同社では、ものづくりの未来を支える組織づくりの一環として、DE&I推進や女性活躍にも力を入れています。なかでも、生産技術を担う技術本部では、現場の女性社員の声から立ち上がったボトムアップの取り組み「アスタープロジェクト」を推進。女性社員の声を起点に、職場環境やキャリア形成のあり方を見直しています。制度を整えるだけでなく、声を聴き、対話を重ね、誰もが力を発揮できる組織づくりに取り組んでいます。

マツダ株式会社/技術本部 プラント技術部 部長

水口 亜希

マツダ株式会社/技術本部 プラント技術部 第一エネルギー技術グループ アシスタントマネージャー

川中 祥子

女性の声が届きにくい職場を変えるために

── アスタープロジェクトは、どのような背景から始まったのでしょうか。

女性活躍推進法の施行以降、マツダでも女性活躍に向けた取り組みを進めてきました。2016年度以降、女性管理職の幹部級人数や男性育休取得率などの数値目標を定めるなど、全社としての方針も明確になっていました。一方で、技術本部は、生産技術を担う組織という職種柄もあり、全社平均と比べても女性の比率が低く、労使懇談会などで意見を集めようとしても、女性社員の声が十分に届きにくい状況がありました。

制度は整っていても、現場では活用しづらさが残っており、管理職として活躍する女性も限られていました。さらに、昇進を勧められても「自分には難しい」と感じる女性社員も少なくありません。こうした状況を変えるには、制度を知らせるだけでなく、現場の小さな声を拾い上げ、働く環境や意識そのものを変えていく必要がありました。

そこで立ち上がったのが、技術本部発のボトムアップ型の取り組みである「アスタープロジェクト」です。人事本部が全社の女性活躍や多様な人材活躍をリードする一方、アスタープロジェクトでは、社員の細かな意見を吸い上げ、対策を打ちながら活動を広げてきました。女性活躍を女性だけのテーマで終わらせず、組織の風土や文化をより良くするための入口として捉えていることが、この取り組みの大きな特徴です。

120人へのヒアリングから見えた、声にならない課題

── プロジェクトを進める中で、女性社員の声をどのように集めていったのでしょうか。

発足当初に最も難しかったのは、女性社員の本音を集めることでした。技術本部では女性の人数が少なく、身近なロールモデルがいないため、自分の意見や考えに自信を持ちにくく、昇進やキャリアについても「私には難しい」と感じてしまう空気がありました。最初は集まって意見を聞こうとしても、「特にありません」「今まで考えたことがありません」という反応が多く、課題そのものが表に出にくい状態だったのです。

そこで、技術本部の女性社員約120人と、一人ひとり1時間ほど向き合い、個別にヒアリングを行いました。大勢の前では言葉にしづらいことも、個別に話すことで少しずつ出てくるようになります。さらに、アンケート形式で意見を集めたり、年代の近いメンバー同士で対話する機会を設けたりしながら、さまざまな方法を組み合わせて声を拾っていきました。

声を聴く機会が増えるにつれて、「そういえば、こんなことがありました」「実は、こう感じていました」と、これまで表に出てこなかった思いも話してもらえるようになりました。最初から大きな意見が出るわけではありません。だからこそ、安心して話せる場をつくり、課題を言葉にしていくプロセスそのものを大切にしています。

── 集めた声を、どのように組織の理解や改善につなげていったのでしょうか。

女性社員の声を集めるだけでは、職場は変わりません。大切なのは、その声を周囲の理解につなげ、行動を変えていくことです。そこで、女性社員だけでなく、同僚や上司、管理監督者にも活動の意義を伝える機会を設けてきました。たとえば、社内制度説明会では、制度の内容だけでなく、制度を使いやすくするために周囲がどのように声をかけ、配慮すればよいのかも共有しています。

生理休暇についても、以前は取得しづらい制度の一つでした。取得の仕方を伝えるだけでなく、管理監督者に対して、女性が申し出やすい雰囲気をつくることの重要性を説明してきました。本部長や部門長にも、活動の意義や進捗を定期的に報告し、協力を依頼しています。ボトムアップの活動でありながら、上位層の理解も得ながら進めている点は、アスタープロジェクトの特徴です。

また、活動の成果や課題を感覚だけで捉えないよう、アンケートを通じて職場満足度やキャリア形成に関する意識を定量的に把握しています。4年間の活動を通じて職場満足度は上がってきた一方で、キャリア形成に関する数値には課題が残っていることも見えてきました。

“配慮”で、挑戦の機会を奪わないために

── アンケートやヒアリングを通じて、特に重要な課題として見えてきたことは何ですか。

活動を始めた当初は、トイレなどの設備面に関する声も多くありました。しかし、対話やアンケートを重ねるうちに、課題の中心は少しずつキャリア形成へと移っていきました。昇進試験への負担感があること。出産や育児休暇から復職した後、自分が望んでいない配慮によって仕事の幅が狭まり、キャリアが分断されてしまうこと。女性社員が長く働き続けるうえで、単に制度があるだけでは解決できない課題が見えてきました。

なかでも印象に残っているのは、本人が望んでいない配慮が、かえって成長の機会を狭めてしまうことがある、という気づきです。上司や周囲は、良かれと思って仕事量を減らしたり、難しい仕事を避けたりすることがあります。もちろん悪気があるわけではありません。ただ、本人が挑戦したいと思っている場合、その配慮は成長機会を奪うことにもなります。大切なのは、周囲が一方的に判断するのではなく、本人がどう働きたいのか、どのようなキャリアを描きたいのかを対話の中で確認することです。

── キャリア形成を支えるために、どのような取り組みを進めていますか。

現在、特に大切にしているのは、キャリア形成を支えるためのつながりづくりです。技術系職場では、同じような悩みを持つ女性が身近に少ないこともあります。そのため、社内のさまざまな部署や社外の人とつながり、自分以外の経験や考え方に触れる機会を増やしています。人事本部とも連携し、社外研修や、女性活躍推進のために展開されているメンター・メンティ制度などを本部内にも展開してきました。

直近では、キャリア形成をテーマにした座談会を開催し、部門の係長級以上の女性社員に登壇してもらいました。管理職になるまでのプロセスや苦労、育児との両立などを聞くことで、「管理職は完璧でなければならない」という思い込みが少しずつほぐれていきます。できない部分は周囲と協力し、支え合いながら進めればよい。その気づきが、「私も挑戦してみようかな」という前向きな気持ちにつながっています。

つながりが、自分の可能性を信じる力になる

── 実際に管理職へ挑戦する動きも生まれているのでしょうか。

アスタープロジェクトの活動を通じて、実際に管理職へ挑戦する社員も生まれています。私自身もその一人です。以前は、「自分に務まるのだろうか」「管理職として十分に役割を果たせるのだろうか」という不安がありました。女性は身近にロールモデルが少ない分、挑戦する前に自分の可能性を狭めてしまうことがあります。

その気持ちを変えるきっかけになったのは、周囲からの声かけや、社内外の女性管理職と話す機会でした。別部門で活躍する方の経験を聞き、同じように悩みながらも一歩を踏み出している姿に触れることで、「自分にもできるかもしれない」と思えるようになりました。完璧な管理職を目指すのではなく、困ったときに相談し、周囲と協力しながら進めていけばよい。その考え方に出会えたことが、昇進試験へのチャレンジを決意する大きな後押しになりました。

── 管理職になったことで、見える景色や仕事のやりがいに変化はありましたか。

管理職になってからは、これまで見えていなかった世界が見えるようになりました。上司として支えてくださっていた方々の苦労や判断の重さも少しずつ理解できるようになり、感謝の気持ちも強くなっています。もちろん、まだ不安がなくなったわけではありません。それでも、困ったときに相談できるつながりがあることは、大きな支えになっています。

そうした支えがあるからこそ、より大きな仕事にも挑戦できるようになりました。現在は、新しい発電所の建設プロジェクトにも携わっています。本社工場の自家発電設備を、石炭火力からLNG由来の都市ガスを燃料とするガスコージェネレーションシステムへ切り替えていく取り組みであり、カーボンニュートラルの実現にも関わる重要なプロジェクトです。管理職として、より多くの人の働きやすさや悩みに向き合いながら、技術者として社会に貢献できる仕事に挑戦できることに、大きなやりがいを感じています。

ライフイベントを越えて、誰もが挑戦できる職場へ

── 現在、新しく進めている取り組みはありますか。

育休前後のキャリアの分断や停滞を防ぐために、技術本部では「育休復職支援プログラム」を立ち上げました。社内の別部門の女性社員が大学院での研究を通じて考案したプログラムを、技術本部でパイロットとして導入しています。

特徴は、育休前、復職前、復職後の3回に分けて、本人、上司、女性サポーターが対話する機会を設けていることです。育休に入る前と復職後では、本人の気持ちも、家庭環境も、職場の状況も変わります。その時々で、どのように働きたいのか、どのようなキャリアを描きたいのかを丁寧に確認し、長期的な視点でキャリア形成を考えられるようにしています。

まだ始まったばかりの取り組みですが、育休前に面談した社員からは「安心して育休を迎えられた」「困ったときに相談しやすくなる」という声が届いています。管理職からも、本人ときちんと対話する機会ができてよかったという反応がありました。制度を用意するだけでなく、本人と上司、第三者が一緒に話し合える場を設計していることが、この取り組みの大きな意味だと感じています。

── 今後、どのような職場を目指していきたいですか。

女性活躍を入口に取り組みを進めてきましたが、目指しているのは女性だけが働きやすい職場ではありません。女性が抱えている課題に向き合うことで、障がいのある人、育児や介護と仕事を両立する人、自分らしいキャリアに悩む人など、さまざまな社員が働きやすい環境づくりにもつなげていきたいと考えています。

これからさらに大切にしたいのは、一人ひとりが自分の状況や考えを言葉にでき、その人に合った働き方やキャリアを選べる職場にしていくことです。男性育休のような制度についても、取得すること自体を特別なことにせず、本人が必要なタイミングで周囲と対話しながら活用できる状態を目指しています。制度があるだけでなく、安心して使える風土まで整えていくことが重要です。

その土台として、現在は部内で週に1回、30分ほど、互いの関心ごとや担当業務を紹介し合う場も設けています。この場は、男性育休を取得した社員が体験談を共有する機会にもなっており、男性が育休を取得しやすい風土づくりにもつながっています。グループやチームが違っても、互いの仕事や価値観を知っていれば、困ったときに声をかけやすくなります。誰もが自分なりのキャリアを描き、必要な支援を受けながら挑戦できる。そうした職場を、アスタープロジェクトを通じてさらに広げていきたいです。

── これから技術職としてのキャリアを考える方へ、メッセージをお願いします。

技術職として長く働いていくうえでは、自分がどのような仕事に挑戦したいのか、どのような働き方を大切にしたいのかを考え続けることが大切だと思います。ライフイベントや環境の変化によって、働き方やキャリアへの考え方が変わることもあります。そのときに一人で抱え込むのではなく、周囲と対話しながら、自分に合った道を選べることが重要です。

マツダでは、制度を整えるだけでなく、一人ひとりが自分の状況や考えを言葉にし、必要な支援を受けながら働ける環境づくりを進めています。そうした土台があるからこそ、技術者として新しい挑戦にも向き合いやすくなると考えています。若手であっても「挑戦したい」と声を上げられ、その声を受け止め、任せ、支える風土があることは、マツダらしい魅力の一つです。

広島に根ざしながら、世界に向けたものづくりに関わることができる。ライフイベントを迎えても、自分らしいキャリアを考え続けられる。技術の世界で自分の可能性を広げたい方には、やりたいことを大切にしながら、新しい一歩を踏み出していただきたいです。

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