月に住む家を作る、技術研究担当編|株式会社竹中工務店

昼は110℃、夜は−170℃にもなる月面をはじめ、宇宙空間は生身の人間が到底耐えられない過酷な環境です。それでも、近い将来、月や火星で人々が過ごすことになったとき、地球にいるときと同じように快適に過ごせる居住空間を作りたい。そんな夢を持ち、竹中工務店で宇宙建築の研究をしているのが、入社2年目の龍崎さんです。 まだ正解も前例もないその未来を実現するために、今どのような研究が行われているのでしょうか。また、この仕事に向いているのはどのような人なのでしょうか。
株式会社竹中工務店 技術研究所 社会価値創造研究部 空間価値創造グループ 龍崎 輝
・2025年 新卒入社
・2026年 技術研究所 社会価値創造研究部 空間価値創造グループ 配属
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人が月で暮らす未来を、現実のものに
―お仕事の内容を教えてください。
私は、月面における建築物の温熱環境や快適性についての研究をしています。今はまだ人類が月に住める状況ではないため構想段階ではあるのですが、近い将来、当社が月に建築物を作るということを想定して、今から先行して研究を進めています。
―宇宙飛行士が月面に滞在するための建築物、ということでしょうか?
そうとも限りません。今はまだ「宇宙に滞在する」というと、訓練を受けた宇宙飛行士が国際宇宙ステーションなどに滞在するイメージしかないと思います。でも近い将来、月面での有人活動や長期滞在が本格化すると、民間人もたくさん宇宙に行くようになるはずです。私が研究している宇宙建築は、そういった宇宙飛行士や民間人を含む、多様な居住者のためのものです。過酷な宇宙環境でも快適な居住空間で過ごしていただける建築物の実現を目指し、日々研究に取り組んでいます。
―宇宙建築はいつ頃に実現しそうですか?
国際的なミッションである「アルテミス計画」などで、2030年代には宇宙飛行士が月面に滞在する時代になると考えています。そのような将来において、月面で建築が必要となった際には、当社から居住空間や建築技術を提案できるように研究開発を進めています。

龍崎さんが見つめているのは、人が月で暮らす未来。かつて「遠い未来の話」として語られていた夢が、もうすぐそこまで来ています。
全社横断型チームで考える、宇宙建築の空調
―どのような体制で宇宙建築の研究をしているのでしょうか。
「竹中宇宙建築タスクフォース(TSX)」という全社横断型の宇宙建築チームを組み、業務を進めています。設計部や技術研究所など、当社の各部門のメンバーが30名ほど所属していて、定例ミーティングでさまざまな課題について議論を重ねています。
ちょうど今日も、TSXの設備系メンバーでのミーティングがありますね。普段は地上の建築設備や建築環境の設計・研究開発などを担当しているメンバーが集まり、宇宙建築の空調や快適な居住環境を実現するために必要な技術や課題について議論していきます。
具体的には、当社が設計した、宇宙探査の状況に応じて規模を拡大していける宇宙建築「LUNAR COSMOS(ルナコスモス)」についてです。個室に囲まれるような形で中央にコモンスペースが配置されているのですが、こちらの空調シミュレーションについて意見交換をする予定です。この「LUNAR COSMOS」が、2040年代には月で実際に人間が活動できる拠点になればいいなと思っています。
―宇宙建築の空調は、地球の空調とは違うのでしょうか。
特に月面だと重力が小さいので、空気が地上と比べて循環しにくくなります。そうすると、自分の口から出た二酸化炭素が身体の周りに溜まってきてしまい、少し苦しくなることが想定されているんです。これが一番の違いですね。そしてもちろん、月面は昼夜で極端な温度差が生じる過酷な温熱環境という問題もあります。そのため宇宙建築では、地上以上に空調設備による気流制御や温熱環境の維持が重要になります。
一方で、宇宙建築の研究は、地上の建築環境技術とも全く無関係というわけではありません。例えば当社の技術研究所では、個人ごとに調整できる空調付きの椅子やソファを開発しています。こうした技術をそのまま宇宙で使うわけではありませんが、「一人ひとりに適した環境を提供する」という考え方は、宇宙建築にも通じる部分があると思います。将来的には、居住者一人ひとりに合わせて環境を調整できるような宇宙建築も考えられるかもしれません。

まだ誰も住んでいない場所の住環境を考える。だからこそ様々な専門家が集まり、ゼロから議論を重ねています。
「GREEN×EXPO 2027」関連業務、国際コンペへの挑戦や論文執筆まで
―他にはどのような業務をされているのでしょうか。
今ですと、2027年の春から横浜で開催される「2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO2027)」関連の業務にも取り組んでいます。この園芸博に竹中工務店からもパビリオンを出展する予定でして、そのパビリオン工事用の仮設事務所を木造で建てる取り組みが進められています。それが結構新しい取り組みになっていて。このプロジェクトに関しては、木造仮設事務所が働く人に与える影響についての調査を担当しています。
また、業務の合間を縫って、「国際宇宙建築コンペ」にも取り組んでいますね。
―「国際宇宙建築コンペ」とはどういったものなのでしょうか?
毎年若手社員が国際コンペにチャレンジしており、今年はフランスのコンペに取り組んでいます。意匠・構造・設備の部署を横断する同期メンバーでチームを組み、意見を交わしながら提案を考えている最中です。
―並行して論文も書かれていると伺いました。
そうですね。宇宙建築に関する研究成果を、学会で発表するための論文としてまとめています。ゆくゆくは、宇宙の温熱環境の分野で博士号を取得できればと思っています。

宇宙建築チームでのプロジェクトに加え、日本を代表する大規模イベントの業務、国際的なコンペティションへの挑戦、さらに論文の執筆まで。このストイックさこそ、龍崎さんが入社2年目にして同期や先輩から一目置かれている理由のようです。
宇宙建築の夢を叶えられるのは「ここしかない」
―宇宙建築に興味を持ったきっかけを教えてください。
大学生のときにたまたまインターネットで、NASAの火星住宅コンペの結果を見つけたんです。そこで、日本人の建築家・曽野正之さんという方が設計した火星の住宅が目に入って。氷でできた家なんですけど、まず見た目がすごく格好いいんですね。それまでは、そもそも火星に家を建てるっていうことを想像すらしたことがなかったので、「これからは地球以外の星に建物を建てる時代が来るんだ」とすごくワクワクしたのを覚えています。それが、宇宙建築が好きになったきっかけです。
―竹中工務店を選んだ理由を教えてください。
就職活動では、「宇宙建築の実現に貢献したい」という夢を実現できる会社を探すことに専念しました。でも、宇宙建築に本格的に事業として取り組んでいる建設系の会社が見つからなかったんです。
そんなとき、大学の研究室で当社の技術研究所の説明会が開催されました。興味本位で参加したところ、当時の所長が「ちょうど宇宙建築のチームができたから、ぜひ見学においで」と言ってくださって。竹中工務店なら、宇宙建築を仕事にできる。それを知った瞬間、「ここしかない」と思いました。
―夢が仕事になったんですね。
そうですね。恵まれた場所に採用していただいて良かったなと思っています。

まだ前例の少ない「宇宙建築」という道を模索するなかで出会った、竹中工務店という舞台。この最高の巡り合わせを引き寄せたのは、龍崎さんの宇宙への情熱です。
最も必要なのは、やる気と情熱
―竹中工務店の宇宙建築チームには、どのような人が向いていると思いますか。
私たちは宇宙専門のメーカーや研究機関ではなく、ベースは建築の会社です。だからこそ、宇宙に対する特定の知識があるということよりも、やっぱり一番はやる気があること。宇宙に対する憧れとか「宇宙建築を実現させたい」という強い思いがある方と一緒に働きたいなと思います。
―異業種から転職で入られる方も多いですか。
建築や宇宙の分野以外の業種から転職してこられる方も多いですよ。そもそも、竹中工務店の技術研究所には、建築出身ではないバックグラウンドの研究員がたくさんいます。私が所属するTSXでも建築以外の分野を専門とする研究員が多く、それぞれの専門性を生かしながら宇宙建築の実現に向けて力を合わせています。
―まだ正解がないものを研究するのは大変ですか。
そうですね。あまり調べても分からないことが多いので、「これはどうなんだろう」と試行錯誤することがほとんどです。大変ですが、その分やっぱり面白いですし、やりがいがあると感じています。
―龍崎さんも月面に行ってみたいですか。
最初の方は少し怖いですけど……、安全性が確保されたら、私もぜひ行ってみたいなと思っています。
―最後に、龍崎さんにとって“宇宙建築”とは。
ずっと実現させたいと思ってきた夢でした。でも今は「夢」というだけではなく、実際に研究を積み重ねて実現させたいもの、実現させるものになっています。

夢だった宇宙建築を、少しずつ現実へ。龍崎さんの挑戦はまだ始まったばかりです。
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