
仕事を辞めたいと思ったとき、どのように考え、対処すれば良いのでしょうか。「疲れた」「ストレスに耐えられない」と感じながらも、「希望の転職が実現できるか不安」と悩む方も多いようです。そのようなときは、まず自分がなぜ辞めたいのかを整理し、問題を解決する方法を探ってみましょう。辞めたくなったときに考えたいこと、冷静に判断する方法について、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
目次
仕事を辞めたいと思ったら、どうしたら良い?
仕事を辞めたいと思ったとき、一時的な感情で退職に踏み切ることは避けましょう。現状の不満を解決することに気をとられ、目的や今後のビジョンが明確でないまま転職活動を進めても、うまくいかないケースがあります。
反対に、不満を抱えたまま仕事を続けても、後になって「やはりあのときに転職しておけば良かった」と後悔するケースもあります。
まずは冷静に現状の課題を整理し、辞めずに解決する方法を探るところからはじめ、難しいようであれば転職するかどうかを検討しましょう。
仕事を辞めたいと思う8つの理由
まずは、自分が何に対して不満を抱いているのかを明確にしてみましょう。
厚生労働省が公表している調査データから、「仕事を辞めた理由」のトップ5を紹介します(※)。2023年(令和5年)の1年間で転職した人の「前職を辞めた個人的な理由」は、男女それぞれで以下の順位となっています。なお、トップ5は、介護・育児・結婚・会社都合などのやむを得ない事情や、「その他の個人的理由」「その他の理由(出向等を含む)」「定年・契約期間の満了」を除いています。
<男女別・前職を辞めた理由トップ5>
【男性】
1位「職場の人間関係が好ましくなかった」(9.1%)
2位「給料等収入が少なかった」(8.2%)
3位「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(8.1%)
4位「仕事の内容に興味を持てなかった」(7.4%)
5位「会社の将来性が不安だった」(5.2%)
【女性】
1位「職場の人間関係が好ましくなかった」(13.0%)
2位「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(11.1%)
3位「給料等収入が少なかった」(7.1%)
4位「能力・個性・資格を生かせなかった」(5.4%)
5位「仕事の内容に興味を持てなかった」(5.0%)
(※)出典:「令和5年雇用動向調査結果の概況」(厚生労働省)表5 転職入職者 1)が前職を辞めた理由別割合
上位の理由の背景にある事情は人によってそれぞれですが、次のような状況が考えられます。
職場の人間関係が悪い
職場の上司や同僚と相性や価値観が合わなかったり、コミュニケーションがうまく取れなかったりと、人間関係に悩むケースです。特に、職場にハラスメントをする人がいる場合などは、強いストレスを感じるでしょう。
残業や休日出勤が多い
残業や休日出勤が多いといった労働環境では、肉体的・精神的に疲れてしまったり、プライベートの時間を大事にできなかったりと、ストレスが溜まりやすくなります。慢性的に人手不足の職場や、長時間労働が常態化している職場などの場合は、これに当てはまることが多いでしょう。
給与が少ない
「給与が少ない」「給与額が働きに見合っていない」と感じると、モチベーションの低下につながりやすくなります。業界・企業・職種の給与水準が低いケースもあれば、成果が報酬に反映されにくい人事制度であるケースも考えられます。
仕事内容が合わない
仕事内容に不満を抱いたり、やりがいを感じられなかったりすることもあります。興味のない部署や職種に配属され、「やりたい仕事ができていない」と感じる人もいれば、なかなか成果が挙がらず「自分には向いていない仕事だ」と感じる人もいるでしょう。
また、仕事内容そのものは自分の希望に合っていても、「仕事の進め方」が合わないと感じるケースも考えられます。
能力や個性を活かせない
「自分が得意とするスキルを十分に活用できない」「自分の考えやアイデアを提案しても受け入れられない」など、自分の強みが活かせていないと感じると、物足りなさや不満を抱くこともあるでしょう。
また、会社が提示しているキャリアステップに対し、「自分が思い描くキャリアを築けない」と感じるケースも考えられます。
会社の将来性に不安を感じている
業績の低迷やリストラの実施に加え、自社が扱う商品・サービスの市場が縮小傾向にあったり、強力な競合他社が台頭していたりすると、会社の将来性に不安を感じるでしょう。また、経営陣が世の中のトレンドに無頓着であること、新たな取り組みをしないことに不信感を抱くケースも考えられます。
社風や企業文化が合わない
社風や企業文化が自分に合わないために、居心地の悪さを感じてしまうこともあります。また、「企業理念」「ミッション・ビジョン・バリュー」などに共感できず、モチベーションを維持できない人もいるでしょう。M&Aによる統合・合併などを機に社風が変わってしまい、違和感を抱くようになったというケースも考えられます。
ライフスタイルが変化した
結婚・出産・介護などによってライフスタイルが変化したことで、これまでのような働き方ができなくなり、転職を考えるケースも少なくありません。
年代別の転職のきっかけランキング
仕事を辞めたいと思うきっかけは、年代によっても差が見られるようです。
株式会社リクルート(現・株式会社インディードリクルートパートナーズ)が2024年に実施したアンケート調査より、転職のきっかけとして多いもののランキングを年代別にご紹介します。
(※)出典:「年代別転職理由の本音」(株式会社リクルート(現・株式会社インディードリクルートパートナーズ))
20代の転職のきっかけランキング
1位は「労働時間・環境が不満だった」(26.6%)。20代で特徴的なのは、2位の「仕事が合わなかった」(22.0%)、「キャリアアップしたかった」(22.0%)、4位の「自身の働き方を見直したかった」(21.1%)など、今後のキャリアアップを意識した理由がランクインしていることです。
30代の転職のきっかけランキング
1位の「給与が低かった」(29.0%)、3位の「労働時間・環境が不満だった」(25.8%)、5位の「年収を上げたかった」(24.7%)と、30代は報酬や労働時間・環境など、労働条件に対する不満が多いようです。また、「会社の将来に不安を感じた」(28.0%)「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」(25.8%)と、会社の経営や仕事内容などに対する不満も高い結果となりました。
40代の転職のきっかけランキング
1位は「労働時間・環境が不満だった」(36.1%)と、40代では労働条件に対する不満が他年代と比較してかなり高い数値が出ました。また、「会社の将来に不安を感じた」(30.6%)「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」(29.2%)と、会社や上司・経営者への不満・不安、「給与が低かった」(29.2%)「年収を上げたかった」(27.8%)と報酬に対する不満・不安も見られました。
50代の転職のきっかけランキング
1位は「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」(34.5%)が圧倒的に高く、50代では同年代となる上司・経営者とうまくいかなかったことが伺われる結果となっています。2位以下は、「給与が低かった」(27.3%)「年収を上げたかった」(27.3%)「昇進・評価が不満だった」(18.2%)と、労働条件・報酬に対する不満が挙げられました。
仕事を辞めたくなったときの対処法
仕事を辞めたいと思ったら、一時的な感情に任せて転職に踏み切るのではなく、まずは次の対処法を試してみることをおすすめします。
会社の制度や事業の将来性などを調べる
自分が認識していなかった制度や仕組みが設けられていて、それを利用することで問題を解決できることがあります。
例えば、働き方に不安を抱いているなら、「時短勤務」といった働き方や特別な休暇制度、福利厚生などを活用すれば、ゆとりを持った働き方ができる可能性があります。活用できる制度がない場合も、仕事とライフスタイルを両立するための方法がないか上司や人事に相談することで、柔軟な対応をしてもらえるケースもあります。
キャリアに対して不安を抱いているなら、資格取得やスキルアップを支援する制度、異動を叶える社内公募制度などがあるかどうかを確認しても良いでしょう。
昇給制度や昇給モデル、インセンティブ制度などを調べ、今後、給与アップできる可能性を探る方法もあります。評価に不満がある場合は、上司に評価基準を確認し、評価につながりやすいことを実践してみても良いでしょう。
会社の将来性に不安を抱いている場合は、中長期計画などを調べ、今後の事業展開を把握してみましょう。マーケット状況や競合他社を研究するのも一つの方法です。
キャリアプランを見直し仕事の選択肢を広げる
将来のキャリア展望が見えない場合は、上司や先輩などに相談して、仕事の目標設定やキャリアプランの設定を見直す方法もあります。上司や人事に先輩社員のキャリアステップ事例などを聞き、どのような可能性があるのかを探ってみても良いでしょう。自社内で希望を叶えられなくても、グループ会社への異動や転籍などで実現できるかもしれません。
仕事内容そのものが自分に合わないと感じている場合は、部署異動のほか、社内プロジェクトに手を挙げるなどして、やりたい仕事ができる可能性を検討してみましょう。
仕事の進め方やコミュニケーションを見直す
思うように成果を挙げられずに悩んでいる場合は、活躍している先輩や同僚にやり方を聞いてみることで、改善点が見つかるかもしれません。
また、仕事量が多く負荷がかかり過ぎていると感じている場合、上司に相談して適切な仕事量への調整を図ってもらいましょう。
人間関係がうまくいかないと感じている場合、相手を避けずに自分から歩み寄って話し合ってみると、関係性を改善できるケースもあります。逆に、「仕事のみの付き合い」と割り切って一定の距離を置くことで、ストレスを軽減できるかもしれません。
専門窓口に相談する
パワハラ・セクハラなどのハラスメントに悩んでいる場合、まずは上長に相談したほうが良いですが、それが難しい場合、会社の相談窓口などに相談しましょう。社内では相談できない状況である場合、総合労働相談コーナーなど、公的機関の相談窓口を利用することもできます。
(※)参考:あかるい職場応援団「相談窓口のご案内」(厚生労働省)
休暇を取ってリフレッシュする
上記に挙げたような積極的なアクションを起こす気力が失われている場合は、有給休暇を取り、ゆっくり過ごす時間を設けてみるという方法もあります。心身をリフレッシュすれば、冷静に考えて今後の行動を判断できるようになるかもしれません。
仕事を辞めるかどうか考える前に確認しておきたいこと
仕事を辞めるかどうかを具体的に検討する場合は、まず以下の行動を起こしてみると良いでしょう。
転職市場について調べてみる
転職サイトなどを調べ、どのような求人があるのか確認してみましょう。自分の希望を叶えられるような仕事や会社があるのか、採用条件を満たせるような経験・スキルが自分にあるのかを把握することが大切です。「どのような仕事・会社なら転職できそうか」という自分の可能性を知ることで、今後のキャリアの道筋を考えやすくなるでしょう。
周囲の転職経験者に話を聞いてみる
友人や知人、所属企業を辞めた先輩など、転職を経験した人に話を聞き、参考にしてみましょう。実際に転職してみてどう思っているのかを聞くと、新たな視点を得て、転職が自分にとってプラスになるかどうかを検討しやすくなるかもしれません。
また、転職活動の進め方や大変だったこと、転職先選びで注意したことなどを聞くことで、今後の転職活動に役立てられるでしょう。
転職エージェントに相談してみる
転職支援のプロである転職エージェントに相談することで、転職市場の状況を把握しやすくなります。自分の希望や経験・スキルをもとに採用の可能性がある求人を紹介してくれるため、今の自分の市場価値や、転職できそうな仕事や企業について理解が深まるでしょう。転職すると決めていない状態でも相談は可能です。
また、キャリアの棚卸しや応募書類の作成、面接対策などをサポートしてくれる転職エージェントもあります。「転職活動の進め方がわからない」「選考で何をアピールすれば良いかわからない」という人にも役立つでしょう。
仕事を辞めるかどうか、冷静に判断する方法
仕事を辞めたいと思ったら、下記の方法を参考に「辞めるかどうか」を検討してみましょう。
1:辞めたい理由を書き出し、問題点を考える
今の会社に対して不満や悩みがある場合は、感情が先に立ち、冷静に現状を分析・判断できていない可能性があります。まずは自分の気持ちを吐き出し、頭の中を整理してみることが大事です。
辞めたいと思った理由、現在の仕事内容や待遇、働く環境、職場の人間関係などに対し、不満に思うことや嫌だと感じている点をどんどん書き出していきましょう。また、書き出したことは、嫌だと思う順番に並べてみます。不満や悩みを言語化し、優先順位をつけることで、どうしても解決したい問題点が明らかになるでしょう。
2:現職のメリットと問題の解決策を考える
「辞めたい」と思い始めると、現職への不満ばかりを意識するようになりがちです。しかし、「現職のメリット」にも注目してみましょう。転職した後で、メリットを失ったことに気づき、後悔するケースは少なくありません。
不満の原因となっている問題点については、自身の努力で解決できるものかどうかを考えてみましょう。自身での解決が難しいと考えられる課題を以下に挙げるので、参考にしてみましょう。
<自分では解決することが難しい課題の一例>
- 日常的に残業が多いなど労働環境が悪く、改善が望めない
- 給与アップする方法がなく、将来的にも希望する年収を実現できない
- 会社の経営状況が明らかに悪化している
- 希望を叶える異動や配置転換ができない
- スキルアップが見込めない(成長できない)
- ライフスタイルの変化に対応できる制度・環境がない
3:転職のメリット・デメリットを考える
転職には、メリット・デメリットの両面があると考えられます。何がメリット・デメリットとなり得るかは、人によって異なります。以下の観点で、自身にとってのメリット・デメリットを考えてみましょう。
- 年収・待遇
- 得られる経験・身につくスキル
- 人間関係
- 働き方やワーク・ライフ・バランス
- 社風・カルチャーとのフィット感
4:1~3を総合して転職した方が良いかを判断する
1~3で明らかになった解決策やメリット・デメリットを総合して、転職した方が良いか現職に残った方が良いかを判断しましょう。
「仕事を辞めたい」と思ったら、転職活動を行うタイミングも検討しよう
仕事を辞めたいと思った場合、スケジュールを立てて転職活動を行うタイミングを検討してみましょう。
働きながら転職活動を進める場合、準備を開始してから入社するまで、一般的に3カ月程度かかります。退職するタイミングが繁忙期などと重なると、職場に負担がかかり円満退職が難しくなる可能性もあります。適切な退職タイミングを設定し、逆算して活動スケジュールを組むと良いでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2024年10月02日
記事更新日:2025年09月24日
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。