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ITは“作るだけの部門”ではない。事業変革の中核へ ――IT本部長が語る、変革期のIT本部で働く意味

トヨタファイナンス株式会社は、トヨタグループの金融中核として、自動車販売を支えてきた企業です。一方で現在は、従来のBtoBtoCモデルからBtoCwithD(with Dealer)への転換を掲げ、「モビリティ金融サービス会社」への進化を加速させています。その変革の中心にあるのがITです。いまやITは単なるシステム基盤ではなく、事業そのものを前に進める推進力になりつつあります。今回は、IT本部 本部長の梅原氏に、変革の背景や現在地、そしてIT人材に期待する役割について伺いました。

※BtoCwithD(with Dealer)とは、トヨタファイナンスがトヨタ販売店(Dealer)と連携しながらお客様(Consumer)へ商品・サービスを提供するビジネスモデルです。

■プロフィール
トヨタファイナンス株式会社 / IT本部 本部長
梅原 明

1995年に同社へ中途入社。2019年10月よりIT本部長に就任し、現在はビジネスモデル変革を支えるIT戦略の立案・実行を統括している。

——目次
・ビジネスモデル転換を支えるIT部門のミッションとは
・顧客接点とデータが切り拓く、新たな事業モデル
・顧客起点で再構築する戦略と実行のリアル

・オーナーシップが価値を変える―IT人材に求める役割
・デジタルと人の力で進化する働き方と組織文化
・変革の真っただ中だからこそ味わえるやりがいがある

ビジネスモデル転換を支えるIT部門のミッションとは

── 梅原さんが所属するIT本部のミッションについて教えてください。

現在、当社では「VISION2030」とIT本部における「アクションプラン」の策定を進めており、その実現に向けてIT本部が担う役割はこれまで以上に大きくなっています。単なるシステム部門ではなく、事業変革を前に進める推進力として機能することが求められています。

その中で私たちが向き合っているテーマは、大きく四つあります。まず一つ目は、事業インフラの早期整備とグロースへの準備です。現在、BtoBtoCモデルからBtoCwithDモデルへの転換を進めていますが、その実現には従来とは異なるサービス基盤やインフラが不可欠になります。一部では土台が整い始めているものの、価値創出への接続にはさらなる磨き込みが必要です。そのため、変革のスピードに遅れることなく、必要な機能をいち早く提供することが重要になります。特にBtoCの領域では、顧客の反応を踏まえた高速な改善が前提となるため、アジャイル開発とデータドリブンな意思決定を軸に、アジリティの高い開発体制を構築しています。

二つ目は、安全性・安定性の確保です。デジタル化が進む現在、ITはすでにサービスそのものといえる存在です。システムの安定稼働は顧客体験の質を左右し、信頼の基盤にも直結します。金融という事業特性を踏まえ、セキュリティや外部脅威への対応も含めて、高い品質を維持し続けることが求められます。

三つ目は、コスト構造の最適化です。ビジネスモデル変革に伴う先行投資が続く中で、既存のシステム資産の整理や最適化も並行して進めています。攻めの投資と守りの効率化を両立させることで、持続的な成長を支える基盤を整えていきます。

そして四つ目が、働き方のデジタル変革です。生成AI、デジタルコミュニケーションツール、ローコード開発といったテクノロジーを活用し、業務そのものを見直しています。重要なのは、単なるデジタル化ではなく、人が価値を発揮すべき領域に時間を割ける状態をつくることです。効率化によって生まれた余力を、より創造的な業務へとつなげていく。この循環を生み出すことが、IT本部の重要な役割になっています。

顧客接点とデータが切り拓く、新たな事業モデル

──事業変革を推進する背景について教えてください。

こうした取り組みの背景には、外部環境の大きな変化があります。人口減少に伴う自動車販売の縮小や、ペイメント領域における競争の激化など、従来の延長線では持続的な成長が見込みにくい状況となっています。そのため、新たな事業の柱を構築する必要があり、ビジネスモデルそのものの転換に踏み切りました。

その中で当社が着目しているのが、「顧客接点」と「データ」です。車という商材は購入後の接点が限られる一方で、金融サービスは日常的に利用されるため、継続的にお客様とつながることができます。この特性はグループ内でもユニークであり、顧客体験を再設計するうえでの大きな強みとなります。

具体的には、「TOYOTA Wallet」を軸としたデジタル接点の拡張と、「トヨタアカウント」によるID統合を進めています。これにより、あらゆるサービスの入口を一本化し、お客様との関係性を継続的に深めていくことが可能になります。さらに、ペイメントを通じて得られるデータは、お客様の趣味嗜好に最も近い情報です。このデータを分析・活用することで、一人ひとりに最適な価値提供が実現できるようになります。

IT本部の役割は、こうした仕組みを構築することにとどまりません。顧客接点とデータを起点に、どのような価値を提供できるのかを構想し、事業そのものを進化させていくことにあります。ITを通じて新たな体験を設計し、顧客との関係性を再定義する。それが、今まさに取り組んでいるミッションです。

BtoCで必要なのは「正しく作る力」より「素早く学ぶ力」

──戦略と変革推進のリアルについて教えてください。

BtoBtoCからBtoCwithDへの転換において、私たちが重視しているのは、顧客との関係性そのものを再設計することです。そのための具体的な取り組みは大きく二つあります。

一つ目は、販売店に対する価値提供の再定義です。従来はお客様に代わって販売店がローン手続きなどを担っていましたが、現在はアプリを通じてお客様が直接申し込みできる仕組みへと移行しています。これにより、販売店は本来の価値である提案業務に集中できるようになり、同時に私たちは顧客との直接的な接点を持つことで、サービス改善のスピードを高めることが可能になります。

二つ目は、ビジネスの進め方そのものの転換です。BtoBでは計画の精度が重視されますが、BtoCでは顧客の反応を踏まえた改善のスピードが競争力となります。そのため、仮説に依存するのではなく、実際のデータやフィードバックを起点に改善を重ねる「フィードバックドリブン」の考え方を軸に据えています。この思想を実現するために、アジャイル開発と内製化をセットで推進しています。

こうした取り組みは、単なる仕組みの変更にとどまらず、組織の意思決定や価値観そのものを変えていくことを意味します。そのため、変革は方針を打ち出せば一気に進むものではありません。むしろ、これまでの常識から見れば“非常識”とも言える挑戦であり、そこには必ず戸惑いや反発が生まれます。

特に、従来のやり方で成果を上げてきた層ほど、価値観や判断基準が固まっているため、変化に対する抵抗は小さくありません。私自身も当初は、BtoCへの転換やアジャイル開発の必要性をロジックで伝えようとしてきました。しかし、理屈だけで人が動くわけではないという現実にも直面しました。

最終的に組織を動かすのは、説明の巧拙ではなく、実際に生まれた成果です。小さくても成功をつくり、その事実を積み重ねながら仲間を増やしていく。変革を前に進めるうえでは、そうした地道なアプローチこそが不可欠だと考えています。

──では、その内製化は具体的にどのような領域から進めているのでしょうか。

まずは、お客様が直接触れるスマートフォンアプリやWebプロダクトから着手しました。顧客体験に直結する領域を自らの手でコントロールすることで、改善サイクルを高速で回すためです。現在はデータ基盤や社内業務システムへと領域を広げており、AIやローコードツールを活用しながら、社員自身がシステムを構築できる環境づくりも進めています。

こうした取り組みによって、組織には新たな視点が生まれています。経験則ではなく、顧客の行動やフィードバックを起点に価値を捉えることで、意思決定の質とスピードが高まってきました。現場では小さな改善を積み重ねながらサービスを磨き込む動きが広がり、その成果が着実に表れています。

変革は一度で完結するものではありません。日々の改善から得られた学びを次のアクションへとつなぎ、小さな成功を積み重ねていく。その連続がやがて組織の標準となり、競争力へと昇華していきます。

オーナーシップが価値を変える―IT人材に求める役割

──これからのIT人材に期待する役割について教えてください

新たに加わっていただくIT人材に最も期待しているのは、圧倒的なオーナーシップです。私たちが内製化を進めている理由の一つも、まさにここにあります。自社のプロダクトやお客様に対して主体的に向き合い、当事者として価値を高め続ける。その意識を持つことで、エンジニアの行動は大きく変わります。

具体的には、自ら課題を見つけ、改善の提案を行うことが前提となります。ビジネスサイドとも対等に議論しながら、プロダクトの方向性に関わっていく。さらに、ユーザー体験の向上だけでなく、内部構造の改善やリファクタリングといった領域にも自発的に踏み込んでいく。このように、単なる開発担当ではなく、プロダクト全体に責任を持つ存在としての役割を期待しています。

──では、具体的にどのようなポジションや役割を担っていただくのでしょうか。

現在は、BtoCプロダクトの開発エンジニアやQAエンジニアといったポジションを中心に体制強化を進めています。お客様が直接触れる領域だからこそ、スピードと品質の両立が求められます。その中で技術力を磨き、スペシャリストとして専門性を高めていく道もあれば、マネジメントに軸足を移し、組織を牽引する役割を担うことも可能です。また、全体のグランドデザインやアーキテクチャを描くポジションも存在しており、志向や強みに応じて多様なキャリアの選択肢を用意しています。

当社の特徴は、完成された環境ではなく、変革の中心に身を置ける点にあります。既に整った仕組みの中で最適化を図るのではなく、自らの意思で変化を生み出し、事業そのものを進化させていく。そのプロセスに関わることで得られる経験や達成感は、他では得難いものになるはずです。

今後は、DX人材をはじめとするスペシャリストが長期的に価値を発揮できる環境づくりにも力を入れていきます。専門性を軸としたキャリアが正当に評価され、組織の中で存在感を発揮できる状態を目指しています。

変革の中核に立ち、自らの意思で価値を生み出したい。そのような志向を持つ方にとって、当社は大きな挑戦と成長の機会を提供できる環境だと考えています。

デジタルと人の力で進化する働き方と組織文化

──IT活用を起点に、働き方や人材のあり方はどのように変化していますか

ITの活用によって私たちが目指しているのは、単に業務をデジタルに置き換えることではありません。重要なのは、テクノロジーを使って業務の進め方そのものを見直し、人が本来価値を発揮すべき領域に、より多くの時間とエネルギーを割り当てられる状態をつくることです。効率化そのものが目的ではなく、その先にある創造性や意思決定の質の向上までつなげていくことに意味があると考えています。

その中で、活躍している人材に共通しているのが「好奇心」です。新しい技術やツールが出てきたときに、誰かに教わるのを待つのではなく、まず自分で触ってみる。試しながら理解を深め、使いどころを考える。そうした姿勢を持つ人は、変化の早い環境の中でもキャッチアップが早く、結果として周囲に与える影響も大きくなっていきます。特にAIのように進化のスピードが速い領域では、この差がそのまま行動量や成果の差として表れやすいと感じています。

実際、これまで目立つ存在ではなかった社員が、AIをきっかけに大きく変化した場面もありました。自ら新しい技術に触れ、得た知見をコミュニティで発信し始めたことで、周囲からの見られ方も変わり、新たな役割を担うようになっていったのです。こうした変化を見ると、テクノロジーは単なる業務効率化の手段ではなく、個人の可能性を引き出し、組織の中での価値発揮の幅を広げるものでもあると感じます。

──変革を進める中で、組織文化や挑戦に対する考え方にはどのような変化がありますか

組織文化の面では、コミュニケーションのあり方も変わってきています。チャットツールなどを活用しながら、役職や立場に関係なく意見を交わせる環境づくりを進めています。部門長クラスに対しても気軽にメッセージを送れるようにするなど、必要以上に心理的な距離が生まれないよう工夫しています。変革を進めるうえでは、単に仲が良いことよりも、顧客価値のために率直に議論できることのほうが重要です。立場を超えて意見をぶつけ合いながらも、同じ方向を向いて前に進める組織でありたいと考えています。

一方で、挑戦を歓迎することと、失敗を安易に肯定することは同じではありません。よく「チャレンジだから失敗してもいい」と言われますが、私は少し違う考えを持っています。十分に考え抜いたうえで挑み、それでも防げなかった失敗は、組織として受け止めるべきです。しかし、最初から防げたはずの失敗まで許容してしまえば、それは挑戦ではなく甘さになってしまいます。

だからこそ、挑戦する本人は「失敗してもいい」と考えて臨むのではなく、「絶対に成功させる」という覚悟で打席に立つべきだと思っています。そのうえで、結果としてうまくいかなかったときに、周囲がその挑戦を受け止める。この順番が大事です。変革の途上にある組織だからこそ、言われたことをこなすのではなく、自ら考え、やり切る覚悟を持った人と一緒に前へ進みたいと思っています。

デジタルと人の力を掛け合わせながら、新しい働き方と組織のあり方を形にしていく。その前提にあるのは、好奇心を持って学び続ける姿勢と、当事者として本気で挑戦に向き合う意思です。そうした一人ひとりの行動の積み重ねが、組織の変化を少しずつ前に進め、やがて大きな変革につながっていくのだと考えています。

変革の真っただ中だからこそ味わえるやりがいがある

──今後の展望と、読者の方にメッセージをお願いします。

現在取り組んでいる四つのテーマはいずれも、短期的に完結するものではなく、5年単位で進めていく中長期の取り組みです。今後はそれぞれのテーマをさらに高いレベルで実装し、事業としての価値創出へとつなげていきます。一方で、AIをはじめとした技術革新や市場環境の変化により、将来の予測が難しい時代に入っています。そのため、目指すべきゴールは明確に持ちながらも、そこに至るプロセスは柔軟に変化させていくことが重要になります。

組織として目指しているのは、5年後に振り返ったときに「ここまで成長できた」と実感できる状態です。日々の変化は中にいると気づきにくいものですが、実際に他部門へ異動した社員からは、文化の変化を実感する声も上がり始めています。そうした積み重ねが、やがて組織全体の新しいスタンダードとして定着していきます。

最後に、入社を検討されているIT人材の方にお伝えしたいことがあります。キャリアは自らの選択によって形づくられるものであり、その責任もまた自身にあります。現在、当社は大きな変革の途上にあり、その分だけ挑戦の機会も豊富に存在しています。事業の変化を外から眺めるのではなく、自らが中心となって動かしていく。その経験を通じて得られる達成感や成長は、他では得難いものになるはずです。

変革の機会は常に存在するわけではなく、タイミングによって大きく変わります。いまはまさに、その中心に立てるフェーズにあります。自らの意思で価値を生み出し、組織とともに成長していきたい。そのような志向を持つ方にとって、大きな可能性が広がっている環境だと考えています。

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※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。