転職回数と採用実態の関係

更新日:2024年5月14日

「転職回数が多いと転職活動で不利になる?」「転職回数が多いのは何回から?」など、転職回数に関する疑問は少なくありません。中途採用の選考で、応募者の転職回数はどのような影響を与えているのでしょうか。そこで、全国のビジネスパーソンや採用担当者にアンケートを行い、転職回数と採用実態の関係について調査してみました。 

サマリ

転職回数についてアンケートを行ったところ、「転職したことがない」と答えたのは20代で62.3%、30代で44.5%、40代で34.4%、50代で31.7%という結果になりました。企業の採用担当者に何回目から転職回数を気にするか聞いたところ、3人に1人以上は「転職回数は気にならない」と回答しています。また、「採用担当が応募者を選考する際に重視すること」については、「コミュニケーション能力」が34.1%のトップ回答となりました。

1. 年代別転職回数

正社員として働く全国のビジネスパーソンに対して転職回数について聞いたところ、20代で「転職したことはない」と回答した人が62.3%という結果になりました。30代になると転職未経験者は44.5%に減少し、半数近くが転職を経験するように。また、転職回数は年代を追うごとに増加し、50代では3回以上の転職をしている人が約4割を占めています。 

2. 「転職回数」が多いって何回から?

企業の採用担当者は、何回目の転職回数から気にするようになるのでしょうか。企業の採用担当者にもアンケートを行ったところ、「転職回数は気にならない」と回答したのは37.0%と、約3人に1人は転職回数を気にしていないことが分かります。その一方で、「3回」と回答した人は23.9%と大幅に高くなり、「4回」から「6回以上」を合わせると半数近くを占めています。 

採用担当の声
1回
  • 辞め癖がついてないかどうか(小売業界 5,000人以上)
  • 転職を繰り返してると忍耐力がないと思うから(その他 5,000人以上) 
2回
  • 転職回数が多いと採用しても長続きしない(建設業界 3,000~4,999人) 
  • 経験に関しての不安(小売業界 300~499人) 
3回
  • 頻繁に転職している人には意欲が感じられない(Web・インターネット業界 300~499人) 
  • 定着しない可能性が高いから(クレジット・信販・リース 100~299人) 
4回
  • あまり転職回数が多い人は胆力が足りない、または周囲とうまくやっていけない可能性が高いと考えるため(化学・素材業界 300~499人)
  • 一社あたりの勤続年数が短くなってくるため、なぜ長く続けられなかったのか理由が気になるから(医療・福祉業界 100~299人)
5回
  • 一社あたりの就業期間が短くなるため、腰を落ち着けて仕事に取り組む意識がないと判断してしまう(その他 300~499人)
  • 転職を繰り返し、一つのところで長続きしていないということは、うちでもイヤなことがあったらすぐ辞めてしまうのではないかと思ってしまう(医療・福祉業界 500~999人)
6回以上
  • 単に回数だけでは判断できないが、7回以上は多いように思う(その他 50~99人)
  • 転職に抵抗がないと思うので、どのようなキャリアを描いて今に至るか気になる(医療・福祉業界 500~999人)
気にならない
  • 我が社の社風に合えば長期もあり得るし、こればかりは相性なので、特に気にしていない(教育業界 100~299人)
  • 転職経験がある方が経験が豊富かもしれないから(コンサルティング業界 3,000~4,999人)

3. 実際採用担当はどれくらい転職回数を重視しているのか

採用担当が面接で重視するポイント

前項では4割近くの採用担当者が「転職回数は気にならない」と考えていることをご紹介しましたが、選考では他にどのようなことを重視しているのでしょうか。「採用担当が応募者を選考する際に重視すること」を複数回答で聞いてみたところ、「コミュニケーション能力」が34.1%のトップ回答となりました。次いで「協調性・チームワーク(22.0%)」「社風とのマッチ度(18.7%)」「募集職種に関する知識や経験(15.7%)」「誠実さ(14.1%)」という結果になっています。組織でコミュニケーションやチームワークを図り、企業カルチャーにマッチして誠実に仕事を進める人柄や姿勢が重視されているようです。職種に関する知識や経験は身につけるのに時間がかかりますが、協調性や誠実さは面接でアピールすることが可能です。これまでの実績や自己PRを伝える際は、協調性や誠実さにも意識するといいでしょう。 

転職回数が多い人を採用した理由

転職回数が多い人を採用した理由にはどのようなケースが挙げられるのでしょうか。採用担当者の声をご紹介します

採用担当の声
  • それぞれの職歴で得た経験・スキルや学んだことを認識し、自身の言葉でアピールできる人。環境適応力の高さや、メンバー・上司・クライアントとのコミュニケーションが円滑にできると感じた(その他 300~499人)
  • 自社の人材にないスキルを持っており、自社での活躍の見通しがたったから(IT業界 50~99人)
  • 職種によるが、技術職は転職回数が自信の強さであるとの考えを持つ人がいる。短期間で貢献できそうという理由で採用した(その他 1,000~2,999人)
  • 転職回数が多くても、転職にそれなりの理由があったり本人のコミュニケーション能力が高かったりすれば、転職回数の多さは問題にならない場合もある(化学・素材業界 300~499人)
  • 求めている人材とマッチしていれば転職回数は気にならない。転職することで見えてくることもあるので転職回数の多さは悪印象ではないし、行動力があると捉えることができる。転職回数で先入観を持つのは採用担当としてやってはいけないと思う(銀行・証券業界 100~299人)
  • 面接でポジティブな意見や仕事に対する熱意が伝わり、将来に明るい光が見えたら応援したくなる(運輸業界 500~999人)

4. 転職回数に関する印象

企業によって社風や仕事の進め方、社内のコミュニケーションスタイルは異なります。また、事業内容や商品・サービスの特徴、取引先企業の規模や業界なども異なるため、経験社数が多いということは、幅広く豊富な職場体験をしていると言えます。新たな環境で成果を出す適応力やコミュニケーション力、柔軟性などが備わっているとも考えられるため、自己PRを作成する場合は伝え方を工夫してみましょう。

なお、転職回数よりも在籍期間の短さに対して、採用担当者が定着性を懸念する可能性があります。「入社してもまたすぐに辞めてしまうのではないか」「長く働いてもらえないのではないか」と不安を抱かれるかもしれないので、在籍期間を問われた際の回答を事前に準備しておきましょう。

5. 転職回数についての考え方

従来の日本では、新卒入社した社員が定年まで働くという、終身雇用制度をベースにした「メンバーシップ型雇用」が一般的でした。しかし近年では、産業・就業構造の変化やキャリア観や働き方の多様化により、欧米で採用されている雇用制度「ジョブ型雇用」が注目されています。職種を限定せずに総合職として採用し、ジョブローテーションを行いながら人材を育成するのが「メンバーシップ型雇用」ですが、「ジョブ型雇用」は企業が職務内容を定義して人材を採用し、職務に応じた実績で評価する制度です。 政府が2023年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」では、「三位一体の労働市場改革」として「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」が明示されました。「職務給の導入」は「ジョブ型雇用」を指しており、閣議決定されたことで今後は政府主導で推進されると見られています。

出典:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023」

https://www.cao.go.jp/press/new_wave/20230626.html

アンケート調査では、現在でも4割近い採用担当者が「転職回数は気にならない」と回答していますが、同じ企業で一生働く「メンバーシップ型雇用」から、職務内容や役割を明確に定義しそれに最適な人材をアサインする「ジョブ型雇用」に移行することで、企業とビジネスパーソンともに転職回数についての考え方は変わっていくでしょう。

キャリアアドバイザーの声

採用担当者への「転職回数は気になるか?」というアンケートで、「転職回数は気にならない」が37.0%という結果が出ましたが、実際は「転職回数」より「在籍期間」の短さを気にするように思います。例えば「転職回数4回」でも、40代でどの職場もある程度の在籍期間があればそれほど気になりません。でも、20代半ばで1年ごとに転職していたり、40代でも新卒入社の企業に20年在籍して、その後は半年ごとに4社変わったりしていたら「何かあったのかな」「うちも半年で辞めてしまわないかな」と不安になるでしょう。

短期間で転職を重ねると、採用担当者に「忍耐強くない」「不満を持ちやすい」という印象を与えてしまうこともあるので、経歴を伝える際は、「ストーリー性」を意識することが重要です。例えば、「営業→事務→営業」という経歴は、一見すると一貫性がないように感じますが、「営業にチャレンジするうちにサポート側の気持ちを知りたくなり事務に転職。視界を変えたことで営業としての関わり方や自分の適性が分かったので、再度営業に転職しました」と聞けば一貫性や成長意欲を感じます。転職にストーリー性があって、採用担当者に納得感を与えることができれば、在籍期間の短さをフォローすることができるでしょう。 

解説

応募者の転職回数は何回目から気になるのかを採用担当者に聞いたところ、今回のアンケート結果では37%が「転職回数は気にならない」との回答でした。実に3人に1人以上が、特段転職回数については気にならないという結果です。重要なのはあくまで、その方がどのような経験をしてきて、どのようなスキルを持っているかであり、アンケートのフリーコメントにもあったように「背景が重要で一概に判断できない」「先入観を持たないようにしている」という採用担当者もいます。転職理由は本当に人それぞれで無数の理由があります。本当に大事なのは、どう考えどのような成果を出してきたのか、どのようなスキルが身についておりそれが次の仕事でどう生かせるのかを考えられていることです。また、将来のキャリアプランをどれだけ考え語れるか、どうなっていきたいかを考えることも重要です。業界構造やビジネスモデル次第では、転職でないと職務を変えにくいケースもあります。そういった事情はしっかりと説明し、その中で自分はどのような経験を積んできたかをしっかりとアピールしていくことが重要です。  

■解説者:株式会社リクルート HR統括編集長 藤井薫
1988年
リクルートに入社
『TECH B-ing』編集長、『Tech総研』編集長、『アントレ』編集長などを歴任。
2014年
リクルートワークス研究所Works兼務
2016年
『リクナビNEXT』編集長就任
2019年
より現職
著書に『働く喜び 未来のかたち 転職市場の最前線から「未来のはたらく」が見えてくる』(言視舎)がある。

調査概要

調査1
【調査方法】インターネットによるアンケート調査
【調査対象】全国の20歳〜59歳の男女正社員
【調査期間】2024年1月30日〜2024年2月2日
【有効回答数】18,022名

調査2
【調査方法】インターネットによるアンケート調査
【調査対象】20歳〜69歳の男女のうち、過去1年以内に中途採用関与経験がある正社員
【調査期間】2024年1月31日〜2024年2月5日
【有効回答数】305名