
厚生労働省が定期的に発表する「有効求人倍率」。この指標はどのような意味を持ち、転職活動ではどのように活かせば良いのでしょうか。そこで、有効求人倍率の意味や計算方法、新規有効求人倍率との違いなどについて解説します。また、リクルートエージェントのリクルーティングアドバイザーが有効求人倍率の高い業界の採用動向もご紹介します。
有効求人倍率とは
「有効求人倍率」とは、ハローワークにおける求人数や求職者の就職状況を厚生労働省が集計し、「一般職業紹介状況」として毎月発表している指標を指します。求職者1人に対して何件の求人があるかを表しており、総務省がまとめている「完全失業率」とともに雇用動向を掴む重要指標とされています。有効求人倍率や完全失業率は経済の動きとも関連するため、景気を測る際の指標にもなっています。
ただし、統計の対象はハローワークを通じた求人に限られているため、民間の転職サイトや転職支援サービスが扱っている求人は含まれていません。また、パートタイムの求人は含まれていますが、新卒や日雇労働の求人も含まれていないことに注意が必要です。
有効求人倍率の計算方法
有効求人倍率は、月間有効求人数を月間有効求職者数で割った数を指します。
<計算方法>
有効求人倍率 = 月間有効求人数 ÷ 月間有効求職者数
月間有効求人数:「前月末に未充足で有効な求人数」+「当月の新規求人数」
月間有効求職者数:「前月末に就職未決定で有効な求職者数」+「当月の新規求職申込件数」
<例>
求人数150万人分 ÷ 求職者100万人 = 有効求人倍率1.5倍
(1人あたり1.5件の求人がある状態)
有効求人倍率の見方
有効求人倍率は、求職者1人あたり何件の求人があるかを表した指標です。そのため、1倍を上回れば求職者数よりも求人数が多くなるため「売り手市場」と言えるでしょう。逆に、1倍を下回ると求職者数よりも求人数が少なくなるため、「買い手市場」となります。有効求人倍率は、職業別や都道府県別でも集計されており、職業やエリアによって倍率が異なります。転職活動を始めるにあたり有効求人倍率を参考にする場合は、自分が希望する職業やエリアの有効求人倍率を確認するようにしましょう。
新規求人倍率との違い
有効求人倍率に関連する用語に「新規求人倍率」があります。新規求人倍率とは、新規求人数を新規求職申込件数で割った数を指します。新規求人数とは、期間中に新たに受け付けた求人数(採用予定人員)、新規求職申込件とは、期間中に新たに受け付けた求職申込みの件数を指します。
新規求人倍率と有効求人倍率は、対象となる求人や求職者が異なるため数値にも違いがあります。新規求人は景気動向などを反映して積極的に募集を行う企業が多い一方で、新規の求職者数には限りがあることから、新規求人倍率は有効求人倍率よりも高くなる傾向があります。
有効求人倍率、新規求人倍率(四半期平均、季調値 1963年第1四半期~2024年第3四半期)

(※)出典:「有効求人倍率、新規求人倍率」(労働政策研究・研修機構)
資料出所
厚生労働省「一般職業紹介状況」、内閣府「景気循環日付」
注1:新規学卒者を除きパートタイムを含む
注2:1973年から沖縄を含む
注3:四半期平均
注4:図中、灰色の期間は、景気の下降局面(山から谷)である。
直近の有効求人倍率
正社員全体、職業別、都道府県別の有効求人倍率をご紹介します。
正社員全体の有効求人倍率
正社員の有効求人倍率は、2008年のリーマン・ショック、2020年の新型コロナウイルス流行の時期に下がりましたが、全体としては上昇傾向となっています。

職業別有効求人倍率
パートタイムを除く常用雇用の有効求人倍率です。特に高いのは、自衛官や警察官、消防員など保安に関する職業や、建築・土木作業に関する職業となっていますが、求人実数としては他の職業に比べて多くはありません。
職業別有効求人倍率(パートタイムを除く常用)
| 西暦 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 |
| 職業計 | 1.23 | 1.23 | 1.22 |
| 管理的職業従事者 | 0.98 | 1.16 | 1.09 |
| 専門的・技術的職業従事者 | 1.94 | 1.92 | 1.99 |
| 事務従事者 | 0.42 | 0.43 | 0.43 |
| 販売従事者 | 1.88 | 2.11 | 2.19 |
| サービス職業従事者 | 2.58 | 2.69 | 2.63 |
| 保安職業従事者 | 6.80 | 7.08 | 6.95 |
| 農林漁業従事者 | 1.22 | 1.15 | 1.14 |
| 生産工程従事者 | 1.99 | 1.77 | 1.67 |
| 輸送・機械運転従事者 | 2.20 | 2.33 | 2.34 |
| 建設・採掘従事者 | 5.71 | 5.83 | 5.74 |
| 運搬・清掃・包装等従事者 | 0.70 | 0.72 | 0.69 |
| 介護関係職種(注2) | 3.54 | 3.79 | 3.87 |
(注1)平成21年12月改定「日本標準職業分類」に基づく区分。
(注2)介護関係職種は、「福祉施設指導専門員」、「その他の社会福祉専門職業従事者」、「家政婦(夫)、家事手伝い」、「介護サービス職業従事者」の合計。
都道府県別有効求人倍率
都道府県別の有効求人倍率です。東京を除くと、有効求人倍率が高いのは北陸となっています。一方で東京を除く関東は千葉、神奈川などが1倍を切っている年度もあり、全国平均と比べると低い水準となっています。
“都道府県(受理地)別
有効求人倍率(実数)(パートタイムを含む一般)”
| 西暦 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 |
| 全国 | 1.31 | 1.29 | 1.25 |
| 北海道 | 1.15 | 1.04 | 0.99 |
| 青森県 | 1.18 | 1.17 | 1.10 |
| 岩手県 | 1.32 | 1.22 | 1.19 |
| 宮城県 | 1.40 | 1.34 | 1.23 |
| 秋田県 | 1.49 | 1.32 | 1.26 |
| 山形県 | 1.57 | 1.38 | 1.34 |
| 福島県 | 1.43 | 1.37 | 1.26 |
| 茨城県 | 1.49 | 1.37 | 1.32 |
| 栃木県 | 1.19 | 1.15 | 1.16 |
| 群馬県 | 1.48 | 1.40 | 1.33 |
| 埼玉県 | 1.05 | 1.05 | 1.04 |
| 千葉県 | 1.00 | 0.99 | 0.99 |
| 東京都 | 1.60 | 1.78 | 1.76 |
| 神奈川県 | 0.90 | 0.91 | 0.91 |
| 新潟県 | 1.58 | 1.53 | 1.46 |
| 富山県 | 1.57 | 1.44 | 1.39 |
| 石川県 | 1.63 | 1.57 | 1.53 |
| 福井県 | 1.88 | 1.79 | 1.73 |
| 山梨県 | 1.41 | 1.26 | 1.28 |
| 長野県 | 1.55 | 1.41 | 1.31 |
| 岐阜県 | 1.66 | 1.58 | 1.52 |
| 静岡県 | 1.29 | 1.21 | 1.11 |
| 愛知県 | 1.39 | 1.33 | 1.28 |
| 三重県 | 1.40 | 1.27 | 1.16 |
| 滋賀県 | 1.13 | 1.05 | 1.01 |
| 京都府 | 1.22 | 1.21 | 1.23 |
| 大阪府 | 1.27 | 1.27 | 1.21 |
| 兵庫県 | 1.03 | 1.02 | 1.00 |
| 奈良県 | 1.23 | 1.15 | 1.15 |
| 和歌山県 | 1.16 | 1.13 | 1.13 |
| 鳥取県 | 1.53 | 1.36 | 1.29 |
| 島根県 | 1.71 | 1.52 | 1.42 |
| 岡山県 | 1.55 | 1.53 | 1.44 |
| 広島県 | 1.57 | 1.53 | 1.43 |
| 山口県 | 1.54 | 1.49 | 1.45 |
| 徳島県 | 1.26 | 1.20 | 1.14 |
| 香川県 | 1.51 | 1.42 | 1.46 |
| 愛媛県 | 1.44 | 1.36 | 1.36 |
| 高知県 | 1.21 | 1.14 | 1.10 |
| 福岡県 | 1.21 | 1.23 | 1.18 |
| 佐賀県 | 1.36 | 1.34 | 1.29 |
| 長崎県 | 1.20 | 1.21 | 1.18 |
| 熊本県 | 1.42 | 1.30 | 1.22 |
| 大分県 | 1.40 | 1.41 | 1.35 |
| 宮崎県 | 1.44 | 1.37 | 1.29 |
| 鹿児島県 | 1.34 | 1.20 | 1.13 |
| 沖縄県 | 0.94 | 1.05 | 0.98 |
(※)出典:「一般職業紹介状況(職業安定業務統計) / 一般職業紹介状況 / ~令和7年5月 / 都道府県(受理地)別 労働市場関係指標(実数、季節調整値)『第11表ー6 有効求人倍率(実数)』」(厚生労働省)
【業界の業界】「建築技術者(施工管理)」の採用動向
職業別に有効求人倍率を見てみると、「専門的・技術的職業従事者」の「建築・土木・測量技術者」は2022年度6.53、2023年度6.61、2024年度6.71と高い水準で推移しています。そこで、リクルートエージェントのリクルーティングアドバイザーに、建築・土木・測量技術者の採用動向や転職のポイントについて聞きました。
職業別有効求人倍率(パートタイムを除く常用)「専門的・技術的職業従事者」
| 西暦 | 2022年度 | 2023年度 | 2024年度 |
| 職業計 | 1.23 | 1.23 | 1.22 |
| 専門的・技術的職業従事者 | 1.94 | 1.92 | 1.99 |
| 製造技術者(開発) | 2.09 | 2.32 | 2.41 |
| 製造技術者(開発を除く) | 0.90 | 0.89 | 0.89 |
| 建築・土木・測量技術者 | 6.53 | 6.61 | 6.71 |
| 情報処理・通信技術者 | 1.64 | 1.67 | 1.69 |
| その他の技術者 | 2.34 | 2.21 | 8.51 |
| 医師,歯科医師,獣医師,薬剤師 | 2.95 | 3.08 | 3.17 |
| 保健師,助産師,看護師 | 2.40 | 2.24 | 2.33 |
| 医療技術者 | 2.96 | 3.03 | 3.10 |
| その他の保健医療従事者 | 1.91 | 2.04 | 2.15 |
| 社会福祉専門職業従事者 | 3.19 | 3.02 | 2.95 |
| 美術家,デザイナー,写真家,映像撮影者 | 0.19 | 0.17 | 0.16 |
| その他の専門的職業 | 0.61 | 0.63 | 0.61 |
建設業界のマーケットの動き
都市の再開発やインバウンド需要に伴う宿泊施設不足、災害復旧やインフラの老朽化などの要因によって、国内の建設需要は高まっていると言えます。一方で、建設業界では「2024年問題」に代表される、深刻な人手不足が課題となっています。
もともと建設業界は「3K」と呼ばれ、人材が不足していたことに加え、工期が長期にわたるケースも多く、一定の経験・スキルを身につけるまでに時間がかかる傾向がありました。さらに働き方改革の一環で、2019年には「時間外労働の上限規制」が施行され、原則として月45時間・年360時間を超える時間外労働ができなくなりました。建設事業やドライバー、医師などは5年間の猶予期間が設けられましたが、2024年4月から建設業界でも「時間外労働の上限規制」が適用されています。その結果、建設業界の人手不足は深刻な状況となり、特に人材ニーズの高い施工管理技術者は、60代以上の人材も含めたシニア層や未経験者の採用にも門戸を広げています。そこで、次項からは建設業界の職種のなかでもニーズが高い施工監理技術者の採用動向と、未経験から転職する場合のポイントについてご紹介します。
施工管理技術者の採用動向
施工管理の業務は幅広く、現場で指揮管理するだけではなく、書類作成やデータ入力などのデスクワークも多いのが特徴です。多様な業務を抱える施工管理の業務負荷を減らすために、近年では施工管理が行っていた書類作成などの業務を扱う「建設ディレクター」という専門性の高い事務職種が登場しています。
未経験から施工管理を目指す場合は、経験者の採用が追いつかず未経験者も採用対象としている施工管理の求人に応募し、建設の知識や経験・スキルを身につけると良いでしょう。未経験で大手の建設会社に転職することは難しいかもしれませんが、未経験も受け入れてくれる企業で施工管理の経験・スキルを身につけ、数年後に経験者として大規模な案件を扱う建設会社に転職することで、人材としての市場価値を高めることができるでしょう。その際は、1級建築施工管理技士の資格も取得していれば、さらに評価される可能性が高まります。
未経験から施工管理技術者に転職するポイント
未経験から施工管理に応募する場合、選考ではコミュニケーション能力を見られる傾向があります。施工管理は現場で指示管理する役割を担いますが、年の離れた職人の方とやり取りする場面も生じます。そのため世代を超えて様々な経験・スキルを持つ方とコミュニケーションを図り、円滑に工事を進められるかどうかが重視されます。また、未経験の場合は、「なぜ建設業界を志望したのか」を具体的に伝えられると良いでしょう。例えば「DIYが趣味で建築に興味がある」「小さい頃からものづくりが好きだった」など、これまでの自分の経験と紐づけて志望動機を語れると説得力が増すでしょう。
なお、厚生労働省が発表している「令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」の「第2表 賃金改定区分・企業規模・産業別1人平均賃金の改定額及び改定率」では、令和6年の1人平均賃金の改定額が、建設業は15,283円と全体で2番目に高い水準となっています。
(※)出典:「令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(厚生労働省)
働き方改革による職場環境の改善や待遇の向上など、建設業界ではポジティブな要素が増えています。特に施工管理はニーズが高いため、経験・スキルを身につけ実績を重ねることで、キャリアアップ・年収アップが目指せるかもしれません。もし未経験職種への転職を検討している場合は、選択肢のひとつとして施工管理を検討してみてはいかがでしょうか。
アドバイザー 小林 史弥
大学では建築学科を専攻し、新卒で不動産管理会社に入社。マンション管理業務に従事した後、株式会社リクルート(現:株式会社インディードリクルートパートナーズ )に転職し、建設業界の転職支援を行っている。
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