
人材を募集する際に作成されるのが「求人票」です。企業が求人を出す際には、労働条件明示義務に基づき、必ず提示すべき情報があります。加えて、応募を促す目的で独自に詳細な情報を記載しているケースもあります。求人票の見方と、応募する企業を見極めるために確認しておきたいポイントなどについて、社会保険労務士法人 岡 佳伸氏と組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏が解説します。
求人票に必ず明示されている項目
人材を募集したり、人材紹介会社に求人を申し込んだりする際に、必ず明示しなければならないと法で定められた項目があります。働く上でとても重要な情報になるため、以下に解説する項目は応募前に必ず確認しておきましょう。
| 項目 | 記載例 |
| 業務内容 | 雇入れ直後: 一般事務 変更の範囲: 製造業務を除く当社業務全般 |
| 契約期間 | 期間の定めなし |
| 試用期間 | 試用期間あり(3カ月) |
| 就業場所 | 雇入れ直後:本社(東京都千代田区丸の内〇ー○ー○) 変更の範囲:全国の支社・営業所 |
| 就業時間 | 9:00~18:00 |
| 休憩時間 | 60分(12:00~13:00) |
| 休日 | 土日、祝日(年末年始を含む)、有給休暇は入社3カ月未満は0日、12カ月以下5日、入社2年目より年次20日付与 付与 |
| 時間外労働 | あり(月平均20時間) |
| 賃金 | 月給25万円(ただし、試用期間中は月給20万円) |
| 加入保険 | 雇用保険、労災保険、厚生年金、健康保険 |
| 受動喫煙防止措置 | 屋内原則禁煙 (喫煙室設置あり) |
| 募集者の氏名または名称 | ○○株式会社 |
| (派遣労働者として雇用する場合のみ) | ※「雇用形態:派遣労働者」のように派遣労働者として雇用することを示す必要あり。その場合は更新上限の有無と内容の記載が必須。 |
業務内容
「一般事務」「営業」など、職種名や業務内容が記載されます。ジョブローテーションなどで入社後に仕事内容が変わる場合は、入社段階での業務内容とともに、「変更の範囲」として他の業務内容や職種が必ず記載されています(詳細は下記照)。
契約期間
正社員雇用の場合は、「期間の定めなし」と記載されています。契約社員など有期雇用の場合は契約更新の有無の記載が必要です。契約更新がある場合には、契約更新の基準と更新の上限の記載が必須となります。
(記載例) 契約の更新 有(●●により判断する) 更新上限 有(通算契約期間の上限 ●年/更新回数の上限 ●回)
雇用形態や契約期間は、働く上で重要な項目なので、必ず確認しておきましょう。
試用期間
試用期間が設けられている求人の場合は、この項目に試用期間や試用期間中の労働条件(試用期間中に労働条件の変更があるかないか、どのような条件なのか)について記載があります。
就業場所
勤務先の場所が記載されます。異動に伴う転勤が発生しうるポジションの場合、入社段階での勤務先とともに、「変更の範囲」として今後の見込みも含め、その労働契約の期間中における就業場所や従事する業務の変更の範囲( 他の業務内容や職種がなど)の記載が必須となっています。ここでは、全国の支社」「都内の営業所」などの記載が必須となっています。変更がなければ「なし」と記載することになっています。
就業時間
就業時間が記載されます。フレックスタイム制を導入している場合は、標準的な就業時間とともに、フレキシブルタイムやコアタイムが記載されていることもあります。
休憩時間
休憩時間が決まっている場合は、具体的な時間帯が記載されます。一斉休憩の適応除外の場合は「1時間」など時間が書かれていることもあります。
休日
曜日の他に、年末年始の休暇や夏季休暇などが記載されます。企業によっては、年間休日の日数も記載されていることも少なくないようです。
時間外労働
時間外労働の有無とともに、月平均の時間外労働時間が記載されます。時期によって業務量に波がある場合は、月平均以外に繁忙期の一時的な時間外労働時間の目安が記載されていることもあります。
賃金
賃金には基本給の他に、各種の手当や昇給、賞与などが記載されることもあるため、年収がどのくらいになるのかを確認しておきましょう。給与が経験・スキルや実績によって変わるため、求人票には「xx万円~xx万円」など幅を持たせているケースもあります。
加入保険
被保険者が1人以上の法人事業所や常時従業員を5人以上雇用している個人の事業所は、厚生年金保険や健康保険への加入が法で義務づけられています。パート・アルバイトであっても、正社員の1週間の所定労働の4分の3以上働く場合又は社会保険適用拡大事業所加入要件を満たす場合は、被保険者の要件を満たすため、この項目に社会保険が記載されます。、被保険者の要件を満たすため、この項目に社会保険が記載されます。
受動喫煙防止措置
2020年の改正健康増進法の施行により、求人票には就業場所における受動喫煙防止のための取り組みを明示することになりました。受動喫煙防止措置の有無と、措置を行っている場合は「敷地内禁煙」「喫煙専用室設置」など、具体的な対策が記載されます。
募集者の氏名または名称
法で定められているのは募集者の氏名または名称、住所です。求人票によっては従業員数や資本金、設立年や具体的な事業内容、企業の特徴などが記載されていることもあります。
必須項目に加えて企業を見極めるポイント
求人票に記載されている必須項目に加えて、応募前に確認しておきたいポイントを解説します。
具体的な業務内容
具体的な仕事内容が記載されている求人票であれば、応募する仕事に活かせそうな経験・スキルを履歴書や職務経歴書で記載するなど、アピール材料を見つけて活かすことができます。もし求人票に簡単な仕事内容や職種名しか記載されていない場合は、企業のホームページや採用ページなどを確認し、具体的な業務内容が記載されていないか確認してみましょう。他に情報が見つからない場合は、自分の志向や経験・スキルなどにマッチするポジションなのか判断ができないため、面接などで具体的な業務内容を確認するようにしましょう。
必要な経験・能力など
求人票によっては、募集しているポジションに必要な経験・能力が記載されていることもあります。中には、「開発経験○年以上」「ビジネスレベルの英語力」「普通自動車運転免許」など、一定の実務経験や語学力、資格を求める企業もあるため、自分の経験・能力が合致しているか確認しましょう。
企業情報
企業の理念や価値観、事業内容や職場環境、従業員数や売上高など、企業について詳しく知ることは、働く環境や仕事の進め方、社風との相性などを確認するために重要となります。例えば、同じ「経理」の募集でも、上場して従業員が何千人もいる大手企業と、中小企業では、仕事の進め方や役割が大きく異なるのが一般的です。大手企業であれば、従業員が多いために役割分担が進んで特定の業務を担う傾向がありますが、中小企業であれば、少数精鋭になるために様々な業務を任され、他の職種との兼務になることも考えられます。求人票に企業情報が記載されていない場合は、企業のホームページや採用ページ、企業情報を掲載している情報サイトなどを確認してみましょう。
求人票の不明点はメモし、面接で必ず確認する
求人票には、応募する上で知りたいことが全て書かれているわけではありません。求人票で分からないことがあったら、企業のホームページや採用ページなどを確認し、できる限り情報収集をしておきましょう。それでも不明点がある場合はメモをしておき、面接で確認しておくことが重要です。転職活動が進んで複数の企業に応募すると、選考が並行して行われるようになります。同時並行で複数の企業で動きがあるため、それぞれの進捗ややりとりは、記録に残しておくとよいでしょう。記憶だけに頼っていると、どの企業に何を確認したのか、分からなくなる可能性があります。転職活動中の不明点や聞いたことなども併せてメモしておきましょう。
求人選びに悩んだら転職エージェントに相談を
求人票を見てもなかなか応募企業が決まらない場合は、転職エージェントに相談するという方法もあります。自分ひとりで考えていると、答えが出ず思うように転職活動が進められなくなることもあるかもしれません。転職エージェントは、求人の紹介だけでなく、募集している企業の情報提供や、キャリアプランへのアドバイスも行っています。転職市場の動向や相場観も把握しているので、転職活動に役立つ情報を得られるでしょう。
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。