応募の際に少しでも自分の能力を高く見せたいと思うのは、応募者の当然の心理です。しかし学歴や職歴を詐称する「経歴詐称」は許される行為ではありません。経歴詐称には、どういった種類があるのか、経歴詐称が発覚した場合の懲戒解雇の判決事例、会社側として経歴詐称を見抜くポイントなどをご紹介します。

経歴詐称とは

「経歴詐称」とは、労働契約を締結する際の応募書類や面接などで、労働者が使用者に対して年齢や学歴、職歴、犯罪歴などを偽ったり、あるいは隠したりすることにより、企業側の使用者に対する評価を積極的に誤認させることを指します。

よくある経歴詐称とは 

よくある経歴詐称としては「学歴詐称」、「職歴詐称」の2つがあります。

学歴詐称

採用基準として高卒、大卒、あるいは大学院卒といった学歴の基準を設けている企業が多く、採用時の給与は学歴によって異なるケースが多いため「学歴詐称」が起こりがちです。例えば高卒なのに大卒と詐称するケースもありますし、逆に大卒なのに高卒と偽るケースも学歴詐称にあたります。

職歴詐称

「職歴詐称」とは、企業名や雇用形態、職務内容、在籍期間、転職回数、保有資格などを偽ることです。職歴も学歴とならび採用の基準として大きな要素となるもので、応募者側にはよく見せたいという心理が働きがちです。例えば営業未経験だったのに「3年の経験がある」と偽ったり、電気工事士一種の保持者と履歴書には記載されていたのに実は電気工事士二種だったなど、業務に必要な資格を取得していないのに詐称したりするケースがあります。

経歴詐称した人を雇用するリスク

経歴を詐称した人を雇用した場合、企業側にはどのようなリスクが生じるのでしょうか。

パフォーマンスが低い

「職歴」「学歴」を詐称して入社した場合、業務に対してのスキル・知識が不足していることが考えられ、実際の業務につくと企業が期待している成果をあげられないことが予想されます。

コンプライアンス上のリスクが高い

意図的に「詐称」をして入社する人物の場合、取引先・社内に対して誠実な対応ができず、トラブルに発展するリスクが高くなる傾向にあります。そういう人物を雇用して経営している企業としてコンプライアンス企業の信頼が損なわれることになる可能性もあります。 

経歴詐称で解雇した事例

経歴詐称は軽いものから企業秩序に与える影響が重大なものまでさまざまで、詐称の内容などによって解雇できる場合とできない場合があります。解雇にあたっては、労使間の「高度な信頼関係」を破壊するかどうかという観点と、労働契約の目的となる職務の遂行に支障はないか、また、企業秩序(事業運営のために維持すべき社内のシステム)を損なうことがないかといった観点で判断されます。過去の判決事例から経歴詐称で解雇が認められた例と認められなかった例を紹介します。

学歴詐称・有効事例

ある企業は、中学校または高等学校卒業者のみを対象として、オペレーター(印刷製袋機を運転、操作する作業担当者)を求人しました。当該企業は、同求人を見て応募した者(A)を採用しましたが、Aは、採用時に提出した履歴書の学歴欄において、実際には短期大学を卒業しているにもかかわらず、高等学校卒業の学歴しか記載せず、また、採用面接時においても最終学歴は高等学校卒業である旨回答しました。当該企業は、学歴詐称を理由にAを懲戒解雇しました。
  裁判所は、①Aが学歴の重要部分について意識的に詐称したこと、②採用時に当該企業がAの真実の学歴を知っていたらAを採用しなかったであろうことを重視し、企業が行ったAに対する懲戒解雇を有効と認めました。
  裁判所は、②の判断にあたって、㋐当該企業が前述した求人方針(中学校または高等学校卒業者のみを対象)を採用していた理由、㋑当該企業における同職種の労働者の学歴の実態、㋒求人条件よりも高学歴の者が応募してきた際の過去の対応等について詳細に検討しています。

東京地判昭54.3.8 

学歴詐称・無効事例

ある企業は、高等学校卒業以下の学歴の者を採用する方針をとっていたところ、最終学歴が大学卒業であることを秘匿して採用された者(B)について、学歴詐称を理由に懲戒解雇しました。
  裁判所は、①当該企業が募集広告において学歴に関する採用条件を明示していなかったこと、②採用面接時にも学歴を確認していなかったこと、また、③Bの勤務状況にも問題がなか
ったことなどから、学歴詐称により、企業の経営秩序を企業からの排除が相当といえる程に乱したとはいえないとして、企業が行ったBに対する懲戒解雇を無効としました。
  本事例からは、学歴詐称が認められる場合においても、落ち度といえるような対応が企業側にある場合(①、②)や企業に実害が生じたといえないような場合(③)には、学歴詐称を理由とした懲戒解雇が無効とされた事例です。

福岡高判昭55.1.17 

職歴詐称・有効事例

ある企業は、特定のシステム開発のために、JAVA言語を操ることのできる人材を募集しました。そして、経歴書と面接時の説明からすれば、JAVA言語を用いてシステム開発に従事した経験があり、JAVA言語のプログラマーとしての高い能力を有していると判断するのが通常といえる者(C)を採用しました。
  しかし、Cは、実際には、JAVA言語のプラグラミング能力がほとんどありませんでした。
  裁判所は、Cが経歴書に記載し、面接において告げた経歴は虚偽の内容であると認定し、「重要な経歴を偽り採用された」との懲戒解雇事由に該当するとして、企業が行ったCに対する懲戒解雇を有効と認めました。
  本事例は、労働者が実際には企業の求める能力がないにもかかわらず、その能力を有するかのように偽ったといえる事案です。

東京地判平16.12.17

職歴詐称・無効事例

ある企業は、パチンコ店のホールスタッフ(有期のアルバイト)として採用した者(D)について、採用直前の3ヶ月間、風俗店に勤務していたことを履歴書の職歴欄に記載しなかったことが「にせの経歴を作り、その他不正なる方法を用いて雇入れられた時」の懲戒解雇事由に該当するとしてDを懲戒解雇しました。
  裁判所は、Dが職歴を記載しなかったことによって企業秩序が侵害されたことがあったとしても、程度としては軽微であり、また、Dの勤務態度等について特段問題があったとも認められないなどとして、企業が行ったDに対する懲戒解雇を無効としました。
  本事例からは、企業が問題とする職歴詐称により、実際の業務における支障が生じたと認めることが困難といえる事案です。

岐阜地判平25.2.14

解雇できない可能性があるケース

業務とは直接関係のない資格などについて詐称していた場合

例えば、普段は英語力が必要でない業務の場合、履歴書のTOEIC®Testsの点数を実際より高く書いたとしても、解雇は認められない可能性があります。

採用にあたり学歴・経歴を重視しない場合、求人情報に明記していない場合

企業が募集の際に学歴の条件について明示していなかった場合、応募の際に「未経験歓迎」や「経験不問」等の記載をしている場合は、学歴・職歴詐称があったとしても重要な経歴詐称にはあたらない場合があります。

面接で応募者に経歴や資格などについて確認していない場合

面接時に経歴や資格などについて面接官から質問されなかった場合は、積極的に質問をしない限りは労働者側から申告の義務はありません。また企業側が質問をしなかったことに関して、労働者の責任を問うことはできませんので、十分に注意しておきましょう。

高いパフォーマンスを発揮している場合

学歴詐称の事実はあったものの、入社後は高いパフォーマンスをあげ、企業に不利益を与えていない場合は解雇が認められないと可能性があります。

経歴詐称が発覚したときの対処と流れ

経歴詐称が発覚したとしても、その社員が高いパフォーマンスをあげており、社内の人間関係も良好であれば、あえて解雇する必要はありません。また故意に詐称したのか、単なる書き間違い、言い間違いで結果的に詐称しているようなかたちになってしまったのかによっても、対処の方法が異なってきます。十分な情報収集をしたうえで、本人に確認し、しっかり事実を把握しましょう。

事実や資料の確認

詐称された内容、採用の可否(詐称があることを知っていたら採用したか否か)、配属、給与決定に与えた影響、採用後の業務への取り組み態度・成績などの事実を確認し、採用時の資料などを調査します。

弁明の機会

本人から事情をヒアリングするとともに、弁明の機会を与えます。

処分の決定、通告

社内で論議し決定した処分を本人に文書により通告します。

労働者との交渉

労働者が処分に不服をとなえる場合は、交渉を行います。もし交渉が決裂した場合は、裁判に発展することもあります。

解雇とする場合

重大な詐称の場合は解雇も考えられます。解雇には懲戒解雇、普通解雇の2つの種類があります。

懲戒解雇

懲戒解雇とは、労働者が悪質な非違行為(非行や違法行為のこと)を行った場合や、重大な規律違反があった場合になされる解雇のことです。懲戒処分は会社によって定め方が異なりますが、一般的には軽いものから戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇(諭旨退職)、懲戒解雇があり、懲戒解雇はもっとも重い処分です。懲戒解雇は労働契約を会社側から一方的に解約する行為であり、制裁としての性質があります。懲戒解雇にする場合は、その事由が就業規則などで明記されていることが前提であり、相当の根拠を予め労働者に明示し、弁明の機会を与えることが必要です。退職金制度がある会社の場合、退職金規定などで「懲戒解雇の場合には退職金を支給しない」と定めている場合は、退職金を不支給とすることができる場合があります。

※懲戒解雇について下記記事をご参照ください。

【弁護士監修】懲戒処分とは?種類と処分の流れをわかりやすく解説

普通解雇

普通解雇は懲戒解雇、整理解雇以外の解雇、すなわち労働者の債務不履行を理由とする解雇で、制裁の性質は有していません。また退職金は規定通り支払うのが一般的です。

経歴詐称を見抜くポイント

もし入社前に詐称を見抜くことができれば、あとあとのトラブルにはなりません。懸念点があれば事前に確認することが経歴詐称の有効な対策となります。

書類との照合

詐称を見抜くためには履歴書、職務経歴書など本人が作成した書類の他、以下の書類を確認することが有効となります。
雇用保険被保険者証…前職の会社名や離職日が記載されています。
源泉徴収票・市区町村が発行する課税証明書…職歴に関する情報を収集することができます。
年金手帳…前職までの年金の加入歴が確認できます。
資格を証明する書面、卒業証書…保有する資格の真偽、学歴が確認できます。

面接時のヒアリング

面接の際に、たとえば「10名の部署の管理職」という経歴で、部下の育成方法や部下を成長させたエピソードなどを質問した際に、答えが具体的でない場合は注意したほうがよいでしょう。また履歴書の空白期間についても、慎重に確認しましょう。

リファレンスチェック

経歴詐称を見抜く方法として、「リフェレンスチェック」があります。
リファレンスチェックは応募者の前職での仕事ぶりについて、応募者が選んだ推薦者にメールや電話で問い合わせて情報を得ることです。メリットとしては、前職での仕事ぶりや人柄などリアルな情報が得られるため経歴詐称を見抜くことはもちろん入社後のミスマッチを防げることがあります。またデメリットとしては、個人情報に関わることですので推薦者がみつかるまで時間がかかることや、応募者が推薦する人物のためその人の主観が含まれた情報であることを加味する必要があることが挙げられます。

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