リテンションとは、人事用語で「人材の維持・確保」、マーケティング用語で「既存顧客維持」のこと。人材不足で悩む企業が増える中、優秀な人材の流出を防ぐための取り組みとしてリテンションへの注目が集まっています。そこで今回はリテンションの目的から、主な社員の離職理由、効果的なリテンション施策の取組み例についてご紹介します。

リテンションとは

リテンションとは、人事領域では企業にとって優秀な人材の流出を防止するための様々な施策のことを指します。もともとリテンション(retention)は英語で「維持・保持」を意味し、そこから転じて人事領域では「人材の維持・確保」、マーケティング領域では「既存顧客維持」といった意味で使用されています。

リテンションの目的と効果

リテンションの目的

リテンションを行う目的は、社内で人材を確保し、継続的な活躍を促すことにあります。少子高齢化や団塊世代の退職により、労働力人口が減少し続けている日本では、慢性的な人材不足に悩む企業が増えています。こうした状況下でも事業を安定且つ向上させていくためには、人材に働き続けてもらうための取組みが重要になっているのです。人材流出には、企業機密の漏洩や既存顧客の流出といった様々なリスクも伴うため、企業にとって大きな利益損失になりかねません。また、リテンションの失敗によって離職率が増加してしまうと企業イメージも損なわれ、新規採用も難しくなる負のスパイラルに陥る可能性もあります。

リテンションの効果

リテンションを強化することで、企業にとってさまざまな効果が得られます。

採用コストの引き下げ

離職が増えた分だけ、人材の補填のための採用・育成にかかるコストが増えます。リテンション強化により離職を減らせると、その分のコストの引き下げが可能になります。また、離職率が低いことは、採用におけるアピールポイントにもつながりますので、新規採用のしやすさにもつながっていきます。

社員のスキルやノウハウの蓄積

人材の流出は、その社員がこれまで蓄積したスキルやノウハウを失うことでもあります。リテンション強化によって社員が定着すると、スキル・ノウハウが維持され、またその社員に育成担当として別の社員にスキル・ノウハウを共有してもらうことで、社内で適切にスキル・ノウハウが蓄積されていきます。

長期的な事業の遂行

事業遂行にあたっては人材が欠かせないもの。しかし事業を担っていた人材が離職すると、事業戦略の遂行が難しくなります。リテンション強化により、事業戦略に必要な人材を確保・維持できれば、安定的かつ長期的な事業戦略の遂行が可能になります。

社員が離職を考えるとき

離職につながる主な要因は、「労働条件」「給与」「人間関係」にあるといわれています。特に労働条件は、昨今の働き方改革の急速な進行により、若手人材を中心にワークライフバランスを重要視する傾向が強まっています。残業時間や休日出勤など、他企業との労働条件の比較により、離職を考えるきっかけになることもあるようです。
さらに意欲的な人材の場合は、「働きがい」「自己実現」「成長実感」なども離職につながる要因となります。キャリア形成を望む人材にとっては、「評価体制や教育体制が整っていない」「思い描いていた仕事が実現できていない」といった理由から、新たなフィールドを求めて離職する人もいます。

効果的なリテンション施策の取組み例

自社にとって最適なリテンション施策を考える上で大切なことがあります。それはまず、離職を防ぎたい「リテンションの対象者」を決めることにあります。もちろん社員全体の離職率低下が最終的なゴールではあるものの、最初の取り組みとして、新入社員、休務が続いている社員などの対象を明確にすることで、具体的な施策に落とし込みやすくなります。
では、具体的にどのようなリテンション施策があるのかご説明します。大きくわけると「金銭的報酬」と、それ以外の労働環境改善やキャリア形成支援などの「非金銭的報酬」があります。

金銭的報酬

給与待遇面を改善する方法です。具体的には、人事報酬制度の見直しによる個人の能力に応じた給与や賞与、インセンティブの支給、ストックオプションなど。活躍次第で収入アップにつながる見込みがあれば、社員のモチベーションも高まります。
しかし、離職の理由として「労働条件」や「働きがい」「自己実現」などが揚げられるように、多くの人材が金銭的報酬だけを重視しているわけではありません。また、お金によるモチベーションには上限があり、最初のうちは給与額があがることで「もっと得たい」というモチベーションになりますが、一定の給与額を超えるとそれほどの喜びを感じにくくなるといわれています。専門用語では「トータル・リワード」といいますが、金銭的報酬と非金銭的報酬とをバランスよくうまく組み合わせた報酬体系を構築することがより重要になっています。

非金銭的報酬

1.就業環境の整備

非金銭的報酬とはお金ではない報酬のことを指し、社員の組織に対する取組みや貢献に報いるために機会や場を提供することをいいます。たとえば社員が
ワークライフバランスを大切に働ける環境や、社員の能力や個性を活かす仕組みなどが挙げられます。
第一に「就業環境の整備」の具体例として、長時間労働や休日出勤の削減、有給休暇取得の促進、在宅勤務やフレックスタイム制度、仕事と育児の両立支援などがあります。こうしたワークライフバランスの実現への取り組みは、リテンション強化だけでなく、生産性や業績の向上にも寄与する可能性があります。

2.成長機会の提供

第二に「成長機会の提供」です。スキルアップ研修や資格取得支援制度などの能力開発機会、表彰制度、希望職種・部門へ異動できる社内公募制度、中長期的なキャリアプラン形成を支援する制度などを整えることが効果的です。成長意欲の高い人材にとっては、このような精神的な報酬が、やりがいや自己成長につながります。

3.組織風土の改善

3つ目は「組織風土の改善」です。風土や人間関係の良い職場では、社員が離職を思いとどまる傾向があり、リテンション強化のために非常に重要な要素の一つです。施策例としては、メンター制度や1on1ミーティング導入によるサポート体制の構築、社内SNS導入による情報共有の促進、定期的なレクリ
エーションや懇親会の開催による社内コミュニケーションの活性化などがあります。

退職時面接

より自社に合ったリテンション施策を実施していくためには、まず自社の離職原因を正確に把握する必要があります。そのためのおすすめの方法が、人事による退職時面接の実施です。これにより離職が撤回されることはほとんどありませんが、よりリアルな離職理由を把握し、具体的なリテンション施策へと落とし込んでいくことにつながります。

また、突然の離職を防止するための人事サービスもあります。たとえば、リクルートが運営しているのが「ReCoBook」。離職を防止するためには、人事が予兆を早めに見つけてケアすることが大事ですが、現場の様子をキャッチするのは難しいものです。そこで新人に定期的に「こころチェック」を受けてもらうことでタイムリーに状態を把握し、面談のポイントなどもサポートします。こうしたサービスを活用いただくのも、一つのリテンション施策です。
ReCoBookの詳細については、こちらをご確認ください。

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