土日などの会社で定められた公休とは別に、法律(労働基準法)に基づいて、従業員が希望に応じて有給で取得できる休暇が、年次有給休暇です(以下、年次有給休暇を「有給」と呼称します)。2019年の労働基準法の改正で、一定の条件を満たす従業員に年5日を取得させることが義務化されました。そこで今回は、年次有給休暇(有給)の仕組みの基本を解説します。

有給消化とは

有給消化とは、従業員に個別付与された年次有給休暇(有給)の日数を消費することです。 そもそも有給とは、法律に基づいて労働者に与えられた権利であり、雇用形態に関わらず一定の要件を満たしたすべての労働者に付与されるものです。有給は、勤続年数に応じて毎年所定の日数が付与されます。もっとも、有給付与から2年以内に有給を取得しない場合、原則として、時効により当該有給を取得する権利は消滅します。そのため、「権利があるうちにできるだけ使う」という意味合いで有給消化と表現する場合もあり、退職が決まった従業員が退職日の直前にまとめて取得することを「有給消化に入る」と呼ぶことが一般化しています。

有給の取得条件とは

厚生労働省は、有給を「法律で定められた、労働者に与えられた権利」としており、労働基準法において、「1:6か月継続して雇われている」「2:全労働日の8割以上を出勤している」の2点を満たす労働者は、有給が取得できることを定めています。また、付与された日から1年を経過した日に同条件を満たしていれば、勤続期間に応じた日数の有給が新たに付与されます。
※出典:厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています

労働基準法では、「有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない(労働基準法第39条⑤)」と定められており、企業は従業員が希望する日の取得を認めなければならないのが原則です。ただし、そうすることで事業の正常な運営が妨げられる場合にのみ、他の日に取得日を変更するよう要請することができますが、有給の取得自体を拒否することはできません。

有給の対象は?アルバイト・パートも取得できる?

有給は、正社員などのフルタイム従業員だけでなく、アルバイト・パートのように所定労働日数が少ない働き方の人たちにも付与されます。ただし、フルタイム従業員は入社から6ヶ月経過した時点で10日の有給が付与されるのに対し、週あたりの所定労働日数が4日以下の労働者は、その日数に比例して付与される日数は少なくなります。

筆者作図
※出典:厚生労働省 年次有給休暇取得促進特設サイト「労働者の方へ」

有給消化の義務化について

2019年4月の労働基準法改正により、企業は一定の条件を満たす従業員に対して、有給の権利を付与するだけでなく、取得させることも義務化されました。

義務化の背景

上述の通り、本来有給は労働者(被雇用者)の権利であり、付与された日数の範囲で自由に行使することができるものです。しかし、職場の同僚への気兼ねや、上司や会社に休暇を申請すれば自身が不利益を被るのではないかといったためらいから、日本における年次有給休暇の取得率は低調でした。この状況を打開するために、企業側に従業員の有給取得を義務付けるような法改正がされています。

義務化の内容

対象となるのは法定の年次有給休暇が10日以上の全ての従業員です。企業は対象者に毎年5日間の有給を確実に取得させることが課せられています。ただし、この法改正の趣旨は「年間5日の有給を取得させれば良い」というものではありません。まったく取得できなかった人もいた社会の状況を踏まえて最低5日を義務付けたのであり、厚生労働省は「本来有給はすべて取得されるべきもの」として取得率の更なる向上を目指しています。

企業の対応方法

最も理想なのは、従業員が自らの意思で年5日以上の有給申請・取得をしていくことです。しかし、これまでの社会において個人の判断に任せるだけでは有給消化が進まなかった状況を踏まえると、企業は以下いずれかの方法で確実な有給消化を実行する必要があります。

企業と従業員が個別に取得日を話し合い、決定する

たとえば「期初の面談時に年間の有給取得計画について話し合う場を設ける」「ある期間までに年間の有給取得が5日未満の従業員は、年度末までの有給取得計画を提出する」といったルールを設け、企業が個別に有給取得を促していく方法です。

年次有給休暇の計画的付与制度の導入

年次有給休暇の計画的付与制度とは、企業が従業員の有給取得日を「あらかじめ指定して」取得させる制度です。制度を利用するには、労使協定の手続きが必須です。また、名称の通り計画的付与が大原則であり、労使協定で定めた日にちを後から会社側の都合で変更することはできません。
なお、この制度を利用する場合でも有給日数のうち5日は個人が自由に取得できるものとして企業が日にちを指定することはできません。

どちらの方法が良いか

厚生労働省が法改正にあわせて発行した解説書によれば、「既に5日以上の有給を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、また、することもできない」とされています。
出典:厚生労働省「­­年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」2019年4月

そのため、自社の有給取得実態に応じて選択することが望ましいでしょう。ほとんどの従業員が取得義務の5日を越えて有給消化できている場合や、それに近い実績の場合は、個別の働きかけを行う方が適切です。一方で、多くの従業員が有給をほとんど取れていない状況であれば、年5日の取得を確実におこなうために計画的付与制度を検討しましょう。(こちらの場合、会社が日にちを指定することで全社一斉の有給取得日をつくることも可能です)。計画表を作成し、それぞれの休暇予定を可視化することは、同僚や上司に気兼ねなく休めることにもつながり、有給を取りづらいというハードルを解消していきます。

有給休暇取得を促進するメリット・しないデメリット

有給取得を促進するメリット

  • 心身共にリフレッシュでき、生産性が高まることが期待される
  • 働く環境の魅力が向上し、求職者に自社をアピールしやすい
  • 従業員のさまざまな事情に対応しやすく、離職防止につながることが期待される

有給取得を促進しないデメリット

  • 疲労を回復する機会が少なく、生産性が下がる懸念がある
  • 有給が取りづらい風土=社内の風通しが悪く、信頼関係が築きづらいリスクがある
  • 働く環境の観点で求職者から敬遠され、離職率が悪化する恐れがある

従業員の休暇日数が増える(=稼働日数が減る)ことは、一見すると売上や利益の毀損のようにも感じられますが、上記のように従業員の生産性やモチベーションを上げ、長期的な活躍を促す効果が期待できます。また、個人が休暇を取りやすくするためには、業務を属人化させず一人が休んでも他の誰かがカバーできるような、チームで仕事をする体制が不可欠です。こうした有給を取りやすい体制へ変えていくことも、業務効率や生産性の向上に寄与します。

有給休暇取得の義務に違反したらどうなる?

「年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合」「使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合」は、労働基準法第120条により、30万円以下の罰金が課せられます。また、「労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合」は、労働基準法第119条により、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。

なお、違反は対象となる労働者1人につき1罪として扱われるため、対象者の人数分の罰則が企業に課せられます
法に抵触しないような企業運営は当然ながら、有給取得は従業員にも企業にとってもメリットがあるものです。義務の5日を取得させて終わりではなく、誰もが自由に権利を行使できる環境整備を行いましょう。

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