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VUCA(ブーカ)とは
VUCAとは、将来を予測するのが困難な状態を示す言葉です。つまりVUCA時代とは、これまでの常識を覆すような社会変化が次々と起こる時代という意味で使われます。たとえばスマートフォンの登場によって、老若男女がデジタルデバイスを個人で所有するようになり、社会全体のデジタルシフトが一気に進みました。
このような変化は既存の延長線上にない場合も多く、人々の生活様式や価値観を一変させてしまうことがあります。個人が変化すれば自ずと企業活動にも影響が及び、従来続いてきた事業・サービスの価値を瞬く間に陳腐化させてしまうこともあります。
VUCAの意味
VUCAは、以下の4つの単語の頭文字を取った言葉です。
V=Volatility(変動性)
U=Uncertainty(不確実性)
C=Complexity(複雑性)
A=Ambiguity(曖昧性)
2010年代に一般に広まったVUCAですが、もともとはアメリカで軍事用語として使われていました。冷戦の終結とともに国家間の問題が複雑さを増し、軍事戦略を立てることが難しくなったこと。テロの驚異という新たな戦いが始まったことなど、従来のやり方が通用しなくなった状況を指していました。
その後、一般の社会でも従来の常識が通用しないような大きな変化が起きはじめたことから、VUCAはビジネス用語としても使われるようになります。ビジネスに多大な影響を与えるVUCA時代の変化としては、以下のようなテーマが挙げられます。
- デジタル技術の急速な進化
- 気候変動・海洋汚染など、環境破壊の深刻化
- グローバル経済が引き起こす問題の複雑化
- 社会構造の変化(日本国内の人口減少、人生100年時代、世界的な人口爆発)
- 新型コロナウイルスによる世界的なパンデミック
一筋縄では解決・対応できない問題や、事前に対策を打てなかった問題が多く、それが多方面に渡っている。これがVUCA時代の大きな特徴です。
VUCAにおける国の提言
行政でも、VUCA時代に対応した政策を推し進める動きが活発化しています。経済産業省では、VUCA時代の環境変化によって日本の産業界が多くの課題に直面していると指摘。2019年に発表した「人材競争力強化のための9つの提言(案)」では、グローバル化・デジタル化・少子高齢化などの社会変化に対応するには、人材マネジメントのアップデートが必要だと提言しています。つまり、企業がVUCA時代を生き抜く経営戦略を実現するには、人材戦略が重要になるということ。まさしく採用をはじめとした人事領域が鍵になるといわれています。
出典:経済産業省「人材競争力強化のための9つの提言(案)~日本企業の経営競争力強化に向けて~」(2019年)
VUCAで重要な思考法「OODAループ」
VUCA時代に適応しやすい思考法として提唱されているのが「OODAループ」です。これは、多くのビジネスシーンで用いられている「PDCAサイクル」と比較すると捉えやすいでしょう。
PDCAは、計画(Plan)を立て、実行(Do)して、その結果を評価(Check)することで計画と実績に差が生じている原因を突き止め、計画に近づくように改善(Act)するものです。PDCAにおいて計画は絶対的なものであり、計画を実現するために改善を繰り返すサイクルであると捉えられます。
一方のOODAは、現状の観察(Observe)から始まるのが特徴です。その上で今起きていることを理解(Orient)し、やるべきことを決めて(Decide)、行動(Act)してみるという流れを繰り返します。つまり、想定外のことが起きることを前提に、事業活動の最前線で何が起きているかを正しく把握し、それに対応できるように素早く意思決定をしていくことに重きが置かれています。そのため、当初の計画を絶対視しすぎず、環境の変化に合わせて柔軟に対応しやすいのが大きなメリットです。スピード感を持って意思決定できることも、VUCA時代に適しているといわれています。
VUCA時代に必要なスキル
VUCA時代では、働く個人一人ひとりにも時代に適したスキルが求められます。具体的に求められるスキルについては、OODAループに沿って捉えると分かりやすいです。
情報収集力
目の前で起きていることについて詳細に観察することはもちろん、マーケットや社会全体に視野を広げて情報を収集する力が求められます。そのため、顧客や関係者との高いコミュニケーション力が自ずと必要になってくると共に、組織の枠を越えてネットワークを広げることも必要になります。
状況把握力
収集した情報が総合的に何を示しているのかを見極め、正しく現状を把握する力です。漠然とした情報や主観に惑わされず、客観的な事実(ファクト)をベースに状況を見定めることが求められます。
意思決定力
今の状況や個人・組織としての優先順位を整理し、これから何をするか(しないか)を決断する力です。現状の最善策を導き出す論理的な思考力に加えて、一定の裁量と責任を負いながら正解のない問題に対して決断する力も問われます。
実行力
ものごとの動くスピードが早いVUCA時代は、いかに素早く計画を実行に移せるかが鍵になります。そのため、じっくり準備をして行動するより粗削りでも良いからはじめてみることが重要。フットワークの軽さに加え、多少の失敗を恐れず挑戦するスタンスや、試しに動いてみて反応を見ながら軌道修正していくことも大切です。
VUCAに求められるリーダーとは
ミッション・ビジョン・バリューを明確にし、組織内に共有できる
変化が激しく将来の予測が困難な時代は、状況に合わせて計画の変更や組織・サービスのかたちを柔軟に変えていくことが必要になってきます。しかし、企業として普遍のミッション・ビジョン・バリューがなくては、組織で働く人たちは、変化にただ振り回されているだけのように感じ疲弊してしまいます。
変化に柔軟になる一方で、全員が共感し心の拠り所になるようなミッション・ビジョン・バリューを示し、共有する重要性がこれまで以上に高まっています。
個人の挑戦や成長を加速させてくれる
素早い判断・行動が重要なVUCA時代は、大きな意思決定を行う経営陣やマネジメント層はもちろん、それぞれの役割を担う個人の動き方がより重要になります。一人ひとりの状況判断力や意思決定力を高めることが組織全体の変化対応力に直結するため、VUCA時代のリーダーは個人にある程度の裁量を委ねるような挑戦を促し、成長機会を提供することも大切になります。
一人ひとりの強みに注目し、多様性を活かした組織運営ができる
VUCA時代はこれまで組織に蓄積されたノウハウや経験では対処できない問題が次々に起こり得ます。そのため、組織の中に多様な人材を迎え入れ、さまざまな強み・能力・価値観を持っておくことが大切。複雑な問題に対処するときにも、多角的な視点でものごとを検討しやすくなります。
ただし、多様性とは単にさまざまな属性の人が組織に所属していれば実現できるものではありません。一人ひとりの個性を尊重し、その力を発揮できてはじめて意味を成すものですから、リーダーによるマネジメントも、一人ひとりの強みに注目し、どうやって個性を伸ばすかを重視したものであるべきです。
VUCA時代の人材育成
ダイバーシティ&インクルージョンを前提とした人材育成
多様性の推進はVUCA時代を生き抜く上で避けては通れないテーマです。上述した経済産業省の提言でも、VUCA時代は同質性の高いコミュニティよりも多様な人材が集うコミュニティを目指すべきとされています。それぞれが持つ異なる能力を発揮するには、全ての従業員に紋切り型の育成プランを提供するのではなく、個人に合わせた育成プランを設計・提示することが企業に求められるでしょう。
※ダイバーシティ&インクルージョンについては、以下の記事もご覧ください。
・ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介
リカレント教育の推進
リカレント教育とは、高校や大学などの教育機関を卒業した後も、就労と教育のサイクルを繰り返すこと。つまり、生涯に渡って学び続けることです。VUCA時代は、過去に学んだ知識やこれまでの経験で得たノウハウが通用しなくなることが度々起こります。そのため、常に個人の知識やスキルをアップデートし続けることが必要です。企業の人材育成においても、新人育成に注力するだけでなく全従業員を対象に学びの機会を提供し続けることが求められます。
課題解決力と課題発見力の向上
既定の仕事を決められた手順でただやり続けるのでは、環境の変化に対応することができません。VUCA時代は変化に受け身になるのではなく、一人ひとりが問題を主体的に捉えて解決していく能力が求められます。
また、起きている問題を解決するだけでなく、変化の予兆を捉えて新たに取り組むべきテーマを設定する「課題発見力」を身につけることも、いちはやく時代の変化に対応するために必要な能力だといわれています。