懲戒処分は、懲戒解雇、減給、戒告などさまざまな種類の処分があり、従業員の違反行為があった場合に、就業規則に定められている内容に基づいて処分が行われます。懲戒処分を下した後に訴訟やトラブルにつながりやすいことから、きちんと内容を把握しておくことが重要です。今回は弁護士監修のもと、この懲戒処分の種類と流れをわかりやすく解説いたします。

懲戒処分とは

懲戒処分とは「就業規則に反し、不当な行為や不祥事を起こした従業員に対して企業が行う制裁」です。近年では企業のコンプライアンス意識が高まり、法令順守はもちろんのこと、社会的規範などの倫理基準においても、一層高いレベルでの正しい言動が求められるようになりました。そのような環境変化の中で、企業活動において懲戒処分も重要な要素の一つとして認識され、社会通念と照らし合わせて企業側は慎重かつ適正な処分を行うことが、企業秩序を守るポイントとなっています。懲戒処分を行う場合、労働基準法により、あらかじめ、就業規則においてその種類及び程度に関する事項が記載されている必要があるとされています(同法第89条9号)。また、労働契約法第7条において、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない」とされています。そのため、懲戒処分を行うためには、就業規則で「どのような場合にどのような種類の懲戒を行うのか」を明記し、かつ、しっかりと従業員に対して周知しておく必要があります※。就業規則の周知は、各作業所の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって行います。

出典:厚生労働省 【リーフレットシリーズ労基法89条】

懲戒処分の種類

一般的に処分の軽い順から「戒告(かいこく)」「譴責(けんせき)」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨(ゆし)解雇」「懲戒解雇」の7種類に分けられます。従業員が行った違反行為の内容、重さに応じ就業規則と照らし合わせて処分を決定します。

戒告(かいこく)

懲戒処分の中で最も軽い処分として定められることが多いのが戒告です。当該従業員に反省を促し、将来を戒めるようにすることが目的であるため、厳重注意として使われることが多く、口頭で済ませる場合もあります。

譴責(けんせき)

多くの企業では「自分の行為を反省させ、将来を戒めるために始末書を提出させる」という場合が多いです。人事査定などに多少影響することもありますが、一般的には制裁金(規範に背いた者から制裁の目的で徴収される金銭)は無い場合が多いです。

減給

減給は一定の期間、賃金額から一定額を差し引く処分です。労働基準法第91条において「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定められています。

出勤停止

企業が従業員に対して一定の期間、就業を禁止する処分を出勤停止といいます。基本的には出勤停止中は無給とされ、期間も定まっていない場合が多いのですが、不当な行為や不祥事の内容の重さと照らし合わせ、停止期間は7日間~1ヶ月間前後が妥当という見解が多いです。

降格

懲戒処分においての降格とは企業が強制的に職位を引き下げることです。該当する従業員は基本給や手当が減額になることが多いので、出勤停止よりも経済的なダメージが大きいです。これまでの4つ以上に慎重に進める必要があります。

諭旨(ゆし)解雇・諭旨退職

一般には、退職届の提出を勧告して即時の退職を求め、期間内に応じない場合には解雇する処分として定められることが多いです。諭旨解雇(諭旨退職も含む。以下同じ)は、従業員としての身分を失わせる懲戒処分であり、懲戒処分の中でも懲戒解雇に次いで重い処分です。企業は、「情状酌量の余地」「本人の深い反省」などを鑑みて、諭旨解雇なのか、懲戒解雇なのか、判断を下します。諭旨解雇の場合は退職金を支払う企業も多いのが特徴です。

懲戒解雇

懲戒処分で最も重い処分が懲戒解雇です。通常の解雇の場合、企業側は30日前に解雇予告を通告しますが、懲戒解雇は予告なしの即時解雇とされる場合もあります。懲戒解雇は「退職金などの支給がなく、即時解雇」という極めて厳しい処分になる場合もありますので、該当する従業員が不当解雇などを訴え、訴訟になることも少なくはありません。

懲戒処分をする際の流れ

懲戒処分を行う際の基本の流れは下記の通りです。

・事実確認を行う(本人、関係者へのヒアリング、客観的な証拠の収集など)
 ↓
・対象となる行為や言動の事実認定を行う
 ↓
(・本人に認定した事実を通知して、弁明の機会を付与する。)
※弁明の機会の付与とは、言い訳や反論する機会を与えることです。
※就業規則に弁明の機会の付与について規定がある場合、懲戒解雇など重い処分を行う場合には必須のプロセスです。
 ↓
・認定した事実を踏まえ、処分をするか否か、処分をするとして、どのような処分が適切か検討する
※その際、懲罰委員会の開催など就業規則に沿った手続きを行う必要があります。
 ↓
・最終的な処分を決定する
 ↓
・処分結果の本人への説明や通達を行う
 ↓
・処分を実施する

何か不正や不祥事が起こった際、事実確認を行わなければ前に進みません。人事担当者が自ら関係各所へのヒアリングを行ったり、証拠を集めたりと臨機応変に動く必要が多々あります。「諭旨解雇」「懲戒解雇」に該当するような場合は本人に弁明の機会を与えることも重要ですし、場合により弁護士・警察などとも連携を行い、適切な処分を実施します。

懲戒処分の内容はどうやって判断する?

それでは、従業員の不正や違反行為があった場合に、前述のように、さまざまな種類のある処分のうち、どの処分が妥当だとどのように判断するのでしょうか。懲戒処分は会社ごとの就業規則に基づいて判断する必要があり、企業秩序を保つためには処分内容の妥当性が重要です。この後に具体例も提示しますが、客観的に見て合理的な理由と平等が保たれている必要があるのです。そのため、「そもそも自社で、就業規則に懲戒処分の種類と事由についてどのように明記されているか」を、今一度見直しましょう。

懲戒処分の具体例

ここでは実際に懲戒処分となった具体例を5つご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

事例1【無断欠勤】

ある企業では、従業員が業務指示の拒否、会議への欠席などの勤務態度不良で譴責、減給及び出勤停止処分を受けました。このような状況において、従業員は、無許可で3度早退し、その後、さらに約50日間連続して無断欠勤をしました。企業は従業員を懲戒解雇。裁判所は、懲戒解雇を有効と認めました。
ただし、長期間に及ぶ無断欠勤がなされた場合においても、前述した事例のように、事前に軽い懲戒処分や注意指導がなされていないときは、懲戒解雇が無効とされる可能性が十分にあることに留意が必要です。また、懲戒を行う場合にメンタルヘルス不調がその背景にある場合にも留意が必要です。「上司などから嫌がらせを受けている」と信じて、無断欠勤を約40日間続けた従業員を企業が諭旨退職の懲戒処分にした事例があります。この事例において、裁判所は、企業は精神科による健康診断を実施するなどの対応をとるべきであり、このような対応をとらずに諭旨退職の懲戒処分をしたことは適切でない(諭旨退職の懲戒処分は無効)としました。

事例2【金銭的な不法行為】

ある企業では、従業員が顧客から集金した定期積金の掛金1万円を着服しました。企業は、従業員を懲戒解雇。裁判所は、懲戒解雇を有効と認めました。
金銭的な不法行為は、企業からの信頼を大きく裏切るものです。そのため金額の多寡を問わず、懲戒解雇を含む重い処分を行っても有効と認められやすい傾向にあります。ただし、金銭的な不法行為の一種である物品の横領の事例において、懲戒解雇を無効とした裁判例もあります。当該裁判例の事案は、タクシー運転手が営業車のタイヤ2本とキャブレター1個を取り外して自身の兄弟の車のそれと取り替えたというものです。裁判所は、このような行為は業務上横領に該当するとしましたが、当該従業員が他の従業員から注意を受けて自身の非を悟りすぐに返品したため、企業に損害を与えなかったことなどを理由として懲戒解雇を無効としています。

事例3【セクシャルハラスメント】

ある企業では、役職者である男性従業員が部下の女性従業員に対し、企業の慰安旅行中に実施された宴会等において手を握る、肩を抱くといった体に触れる行為をしました。また、当該男性従業員は部下の女性従業員に対し、胸の大きさを指摘し、サイズについて質問したりもしました。企業は、当該男性従業員を懲戒解雇。裁判所は、当該男性従業員の言動は女性を侮辱する違法なセクシャルハラスメント(以下、セクハラ)であると認定しながらも、企業において、当該男性従業員に対してセクハラについての注意や指導がされていないことを重視し、懲戒解雇を無効と判断しました。 セクハラがなされた場合の懲戒処分の判断では、問題となる行為の態様の悪質性が重要な判断要素となります。もっとも、前述した裁判例からは、問題となる行為の態様が相当悪質と考えられる場合であっても、直ぐに懲戒解雇のような重い処分をするのではなく、注意指導やより軽い処分から段階的に重い処分を行うことが必要とされる場合があることがわかります。

事例4【機密情報の漏えい】

ある企業では、退職の申出を行った従業員の電子メール等の履歴を調べたところ、当該従業員が企業のパソコンを使用して転職活動を行うとともに企業の機密情報を漏えいしていたことが発覚しました。企業は当該従業員を懲戒解雇。裁判所は、当該従業員が企業で開発を検討していた製品のサンプル開発依頼をしたり、機密性が高い会議への出席を希望したりするなど、自ら企業の機密情報に積極的に近づいてこれを入手したと評価できる点などを考慮し、当該従業員の行為の背信性は極めて高いと判断して懲戒解雇は有効と判断しました。
ただし、機密情報の持出しがある場合でも、例えば、企業内でのいじめ・差別的な処遇があるとして、従業員が自らの権利救済を求めるために弁護士と相談するにあたり、顧客情報などの機密情報が記載された書類を弁護士に開示・交付した場合などにおいては、機密情報の開示の目的や手段から違法性が認められない(懲戒事由に当たらない)とされるケースがあることに留意が必要です。

事例5【企業外の犯罪行為(痴漢行為)】

ある鉄道会社では、従業員が私生活において電車内で痴漢行為を行い、条例違反で起訴されました。鉄道会社は、従業員を懲戒解雇。裁判所は、電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の従業員であること、また、半年前に同種の痴漢行為により昇給停止及び降格の処分を受けていたことなどを踏まえ、報道で公になるか否かを問わず、懲戒解雇は有効と判断しました(注)。

一方、鉄道会社の従業員が自社の路線において痴漢行為を行ったことを理由として、諭旨解雇の懲戒処分を行った事案において、刑事罰は罰金20万円に留まっていること、それまでの勤務態度に問題はなかったこと、報道がなされなかったことなどから、企業秩序に与えた具体的な影響の程度は大きなものではなかったとして、諭旨解雇の懲戒処分を無効とした裁判例もあります。一度の痴漢行為によっては、直ちに懲戒解雇、諭旨解雇などの重い処分を行い得ない場合があることがわかります。

(注)

鉄道会社は、痴漢行為を行った従業員に規程に基づく退職金を支給しませんでした。裁判では、退職金の不支給についても争点となりましたが、裁判所は、退職金の不支給については、電車内での事件とはいえ、会社の業務自体とは関係なくなされた、従業員の私生活上の行為であること(会社との関係では直ちに直接的な背信行為とまでは断定できないこと)や当該従業員の功労を踏まえ、本来の退職金の支給額の30%を支給すべきとしました。

懲戒処分で退職金や保険金はどうなる?

懲戒処分で「諭旨(ゆし)解雇」「懲戒解雇」になった場合、退職金や保険金はどうなるのでしょうか。まず、失業保険はどのような解雇の形であっても受給対象者となります。
次に退職金は就業規則の定めに沿って判断を下しますが、一般的に「懲戒解雇の場合は退職金の支給をしない」という規定を設けている企業が多数です。一方で上記の事例からも分かる通り、判例では、退職金の不支給措置が許されるのは、企業に著しい損害を与えたなど労働者の永年の勤続の功を抹消してしまう程の重大な不信行為があった場合に限られるとされており、本来の支給額の〇〇%を支払うという事もあります。「諭旨(ゆし)解雇」の場合は退職金を支給する企業が多く、財団法人 労務行政研究所が2012年に行った調査(※)では、諭旨解雇では「全額支給する」が38.8%と最も多く、「一部支給する」の18.1%と合わせると、何らかの支給を行う企業が過半数に上ります。
※出典:財団法人 労務行政研究所「企業における懲戒処分の実態に迫る」
(2012年9月5日)

懲戒処分は社内で公表するべきか?

これも懲戒処分において人事が頭を悩ます問題です。基本的にはプライバシーの配慮から慎重なケースが多いですが「企業秩序の維持・回復」「再発防止」という観点で該当従業員の氏名を伏せて公表する場合があります。公表にあたり注意しなければならないのは、感情的な部分を排除し、公平性を保ち客観的な事実にフォーカスした公表を行うことです。再発防止ということが今いる従業員に伝われば、コンプライアンスの一環として公表する価値もあります。

まとめ

今回は懲戒処分の種類と流れを、事例も交えて解説してきました。人事として懲戒処分の知識は必須ですが、従業員に処罰を与えることだけを目的にするのではなく、コンプライアンス研修などを通じて問題を未然に防ぐスタンスも重要です。自社の就業規則を今一度見直しながら、この記事が改めて企業風土を考えるきっかけになればと思います。

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