転職市場が活性化する中、新入社員の受け入れから定着までの立ち上がり支援を行っていく「オンボーディング」が注目されています。人事だけでなく、配属先の社員を含めた組織全体での受け入れサポートが重要となる人材育成プログラムの一つです。そこで今回は、オンボーディングのメリットや行う手順、具体的な事例などをご紹介します。

オンボーディングとは?

オンボーディング(on-boarding)とは、新入社員の受け入れから組織の一員として定着させ、戦力として立ち上がるまでの一連の受け入れ支援を意味します。

もともとは船や飛行機に乗る「on-board」から派生した言葉で、新しく乗り込むクルーや乗客に対して必要なサポートによって慣れてもらうプロセスのことを指し、それが人事用語としても使用されるようになりました。新人研修やOJTと捉えられがちですが、それに限らず、情報提供や価値観の共有など、組織に馴染むためのより広義な取り組みのことを指しています。

※OJTについては、下記の記事をご参照ください
【人事必見】OJTとは?意味やメリット・デメリットと導入するポイントを解説

オンボーディングの目的

一般的なオンボーディング施策の多くは、「職務適応」や「職場適応」を目的としています。
近年、オンボーディングが重視されるようになった背景には、「新卒の離職率は3年で3割」※ともいわれるように、新入社員の早期離職が企業にとっての大きな課題となっていることが影響しています。そこで短期的な研修・フォローで終わらず、既存社員も巻き込みながらより大きな枠組みで継続的にサポートプログラムを実施し、組織への定着と早期戦力化につなげていくことがオンボーディングの目的です。

参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)」

オンボーディングを行うメリット

オンボーディングは、企業側と従業員側、双方にとってメリットがあります。

企業側のメリット

オンボーディングを行うことで、新しく入社したメンバーが早期に戦力化し、業績への貢献度が高まることは、企業にとって最大のメリットです。さらにもう一つのメリットは離職の防止です。多くの企業にとって新卒・中途問わず新規入社者の早期離職は大きな課題となっています。オンボーディングによって人材の定着率がアップすれば、その分だけ採用にかけるコストダウンにも寄与します。

従業員側のメリット

従業員が入社して間もない時期は、社内のルールやコミュニケーションの違いに戸惑い、疎外感を覚えやすいもの。しかし、オンボーディングによって、組織内や部門の壁を超えたコミュニケーションの機会が生まれ、従業員の関係性の構築や組織内での結束力の向上にもつながります。また、期待される役割が明確になることで、従業員の自律的な行動につながり、成果が周囲に認められることで、仕事へのモチベーションと組織への愛着心が高まり、さらに自律的な行動を促すという、好循環が生まれやすくなります。

オンボーディングの具体的事例

オンボーディングにはさまざまな種類があります。メンターがついて立ち上がりを支援したり、会社のビジョンや価値観を理解してもらうための冊子、社内ルールや社内用語をまとめた資料を新入社員向けに配ったりするほか、業務外ですが、ランチ会や飲み会で交流を深める施策を行う企業もあります。

より具体的な事例として、株式会社リクルート(※以下リクルート)で行っているオンボーディング施策を紹介します。リクルートでは、新卒入社者は入社後1年、中途入社者は入社後半年を目処とした早期立ち上がりを目指し、「自律(自己を律し、自己の責任で、自己選択できる力)」を支援するオンボーディング施策を実施しています。一般的に「職務適応」と「職場適応」を目的とするオンボーディング施策が多い中、「自己適応」にも着目しているのが特徴で、内省と周囲からのフィードバックにより自己理解を深め、自身の果たすべき役割を解釈し、何を成すか自己決定をすることを指しています。

新卒オンボーディング

リクルートでは新卒入社者に対して1年かけてオンボーディング施策を実施しています。具体的な「職務適応」の施策としては、入社後3ヶ月間は、最初にぶつかる壁を乗り越えるためのワークショップ「新人の壁」や職種ごとの「ブートキャンプ」などを実施するほか、定期的に「ロジカルシンキング」講座を実施して成長を支援しています。また「自己適応」の施策としては、「自己理解ワークショップ」などがあります。

中途オンボーディング

中途入社者に対しては半年かけてオンボーディング施策を実施しています。特に重視しているのは、中途入社者が戸惑いやすいカルチャーフィットの面での支援です。e-learningコンテンツを用意しており、随時受けられる体制になっています。

新卒・中途共通のオンボーディング

新卒入社・中途入社問わず、共通で行われているのが、入社して一定期間をあけて行う「360°サーベイ(多面観察)」です。サーベイの結果や他者からのフィードバックを受け止め、自分自身の現状を深く内省することで、職場での行動変容を促していくのが目的です。また、「よもやま」と呼ばれる上司とメンバーの1on1ミーティングも定期的に実施しています。「よもやま」とはその名の通り「とりとめのない雑談」という意味で、テーマやゴールを決めずにリーダーとメンバーが自由に雑談をすることをいいます。どんなことでも気軽に相談をしやすい関係性づくりはもちろん、埋もれがちな意見やチャンスの掘り起こしなどにもつながっています。

オンボーディングを行う手順

オンボーディングは、通常の新入社員教育よりも実施期間や関わる人が広がることから、事前にプロセスを策定した上で臨む必要があります。

目的を設定する

まず自社におけるオンボーディングの目的を設定しましょう。
オンボーディングによって新入社員にどのような価値観を理解し、どのようなミッションのためにどのようなスキルを身につけて、どう活躍してほしいのかという目指すべき姿を設定しておくことが重要です。限られた期間の中で何を伝え、何をすべきか、という優先順位付けにもつながっていきます。

プランを作成する

継続的な取り組みを行っていく必要のあるオンボーディングは、入社からタイムラインを引いて、1週間、1ヶ月、半年、1年といったポイントで達成すべき目標を設定し、具体的なプランを作成していきます。段階を追って目標を達成し、周りからのフィードバックを受けていくことで成長を重ね、最終目標を達成できるようなプランづくりがおすすめです。

組織環境を作る

人事だけでなく、配属先を含めたサポート体制が重要になるオンボーディング。配属先と協力しながら、メンター制度や1on1ミーティングなどの施策や組織の受け入れ体制を作り上げておくこと、現場から理解と納得を得ておくことも重要です。また、社内ポータルやSNSといったITツールを活用した施策などもありますので、検討してみましょう。

オンボーディングの実施・見直し

作成したオンボーディングがプラン通りにいかなかったときには、配属先と協力しながら課題を洗い出し、適宜見直しも必要になります。また、オンボーディングは、組織全体で新入社員を受け入れて育てていく文化を作り上げていくことでもあり、より会社にフィットする形へと継続的にアップデートしていくことが大切です。人事、配属先の管理職や従業員、オンボーディングの対象となった新入社員など、オンボーディングに関わった人からのヒアリングをもとに課題を洗い出し、より良いオンボーディングにつなげていきましょう。

オンボーディングのポイント

オンボーディングの成功は、組織全体としての受け入れ体制を作れるかにかかっています。新入社員にとっても、全く知らない組織に入ることは、人間関係の面で大きな不安要素です。上司や同僚など、組織全体で新規入社者を受け入れるアプローチを行うことで、不安を解消しましょう。既存社員と新規入社者が短期間で融合し、共に最大限能力を発揮できるようなチームとなっていくことが重要になります。

オンボーディングは、既存社員を巻き込みながら継続的に行う必要があるため、最初に体系化していくプロセスは少し難易度が高く感じるかもしれません。しかし、新入社員の早期戦力化や離職の防止、社員満足度の向上など、企業にとって非常に価値のある効果をもたらしてくれる取り組みでもあります。ぜひ長期的な視点で、着手可能な部分から、自社にあったオンボーディングを作り上げてみてはいかがでしょうか。

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