ジョブローテーションは戦略的に社員の部署を異動させるもので、多くの日本企業で従来より実施されてきました。異動を通じてさまざまな業務を経験でき、企業全体の業務を理解できる、人材育成に役立つといったメリットがあります。この記事ではジョブローテーションの目的、メリット・デメリットおよびその効果について解説します。

ジョブローテーションとは?

ジョブローテーションとは、従業員のスキル向上や能力開発を図るため、戦略的に部署や業務の異動を行い、成長を促す制度です。さまざまな部署や業務を経験させることでスキルアップを支援します。また、従業員の配置転換を行うことで、従業員の視野を広げるだけでなく、これまで認識していなかった適性の発見など、能力開発の面でも効果が期待できます。

ジョブローテーションの3つの目的

ジョブローテーションとはどのような目的で活用されるのでしょうか。以下に、ジョブローテーション導入の目的について解説します。

1.従業員に自社の業務を理解してもらう

ジョブローテーションではさまざまな部署の業務を経験します。そのため、自社業務の全体の流れに対する従業員の理解度向上が期待できます。従業員に自社の業務を理解してもらうことを目的とした導入を検討してもよいでしょう。

2.長期的な人材育成が見込める

定期的にジョブローテーションを実施することで、配属先の業務への適応力や、そのほかの従業員との関係構築力の向上が期待できます。こうした点から、長期的な視点での人材育成を目的として、定期的なジョブローテーションの実施を検討してみてもよいでしょう。

3.業務の標準化促進

特定の従業員が長期間同じ業務に従事していると、特定の従業員にしか業務のやり方が分からなくなる可能性があります。その結果、従業員不在時の代理対応ができないなど、業務効率が低下する恐れがあります。こうした事態を防ぐためにも、定期的にジョブローテーションを実施し、従業員を入れ替えることで業務の標準化を促すことが可能です。

ジョブローテーションと他の制度との違い

ジョブローテーションは、従業員が部署を異動し業務内容が変わるという点から、人事異動や社内公募制度と混同されやすい制度です。ここでは、人事異動や社内公募との相違点について解説します。

人事異動との違い

人事異動とジョブローテーションは目的が異なります。組織の活性化を目的とした転勤および転籍、出向・昇格・降格・解雇・配置転換などを行う人事異動に対し、ジョブローテーションでは、従業員の教育や能力開発を目的としています。

※人事異動については、こちらもご覧ください。

配置転換とは?目的や手順と不当になる事例をわかりやすく紹介

社内公募制度との違い

社内公募制度とは、社内で人材が必要となった部署が社内で募集を行い、その職種を希望する従業員が自主的に応募する制度です。自ら手を上げて応募した従業員に対して選考を行い、配置転換する従業員を決定する社内公募制度に対し、ジョブローテーションでは企業側が従業員を選び配置転換を行う点で異なります。

ジョブローテーションを行うメリット

ここでは、ジョブローテーションのメリットについて解説します。

社内各部署との連携、ネットワークの構築が可能になる

ジョブローテーションは従業員に対して、社内の多様な部署を経験する機会を与えることができます。その過程で築かれた人間関係は、部署間の連携を高め、結果的に業務の円滑化につながる可能性があります。また、こうしたネットワークの構築によって、他部署との協働が求められた際にスムーズな対応が期待できます。

業務の効率化・生産性向上が期待できる

前述したように、ジョブローテーションでは従業員が定期的に入れ替わるため、業務の標準化が期待できます。業務の標準化が確立されれば、欠員などへの対応がスムーズになるため、結果的に業務の生産性が高まります。

社内の活性化につながる可能性がある

ジョブローテーションによる定期的な配置転換によって、新しい人間関係が生まれやすくなります。このような新しい人間関係は、部署内の視点に偏りを防ぎ、新たな視点から業務に取り組むきっかけになり得ます。ジョブローテーションによって起こる社内の活性化はメリットの1つといえます。

ジョブローテーションを行うデメリット

ここでは、ジョブローテーションによるデメリット、注意点について解説します。

従業員の離職につながる可能性がある

ジョブローテーションで配属された業務が合わない、苦手などといった理由で従業員がストレスを感じ、不満を抱いてしまう可能性があります。そうした不満を解消するためにも、定期的な面談を行い、本人の考え方や希望などについて十分に理解する必要があるといえます。

受け入れ側の部署に教育コストがかかる

ジョブローテーションによって異動した従業員は、配属先で新たな業務を覚える必要があります。そのため受入れ先の部署では、従業員教育の時間確保や教育担当の配置など、新たな教育コストが発生する可能性があります。ジョブローテーションの導入を検討する際には、受け入れ先の時間的余裕や発生する教育コストについても考慮することが大切です。

従業員に対するジョブローテーションの効果

ジョブローテーションが従業員にもたらす効果としては、新しい業務への挑戦が新たな興味や関心につながっていくことで、認識していなかった能力に気づくきっかけになる可能性があることです。また複数の部署で働くことを通じて、周囲との人間関係構築力やコミュニケーション能力が向上することも期待できます。

ジョブローテーションを導入しやすい企業

次に著者の経験を踏まえ、ジョブローテーションの導入に適している企業と適していない企業の特徴を整理していきましょう。ジョブローテーションに適している企業の特徴としては以下のようなものが考えられます。

・新卒一括採用を実施できるほど従業員数が多い企業
・複数の部署を持っている企業
・支店や子会社との連携を持っている企業

また、提供する製品やサービスについて、複数の部署が連携して業務を行なっている場合には、ジョブローテーションを実施することによって、従業員に業務の全体的な流れを理解してもらうことができると考えられます。

ジョブローテーションが向いていない企業

一方で、ジョブローテーションが向いていない企業の特徴としては、以下のようなものがあげられます。

・業務に専門的な知識やスキルが必要な企業
・新卒一括採用での入社が少なく、中途採用社員が多い企業

これらの企業では、ジョブローテーションを行うことのできる部署や対象となる従業員が少ないため、社内でのジョブローテーションの実施優先度が高くないと考えられます。

ジョブローテーションの企業事例

ここでは、ジョブローテーションを導入している企業の事例をご紹介します。

システム開発企業A社

システム開発を行っているA社では、新卒・中途採用を問わず入社した従業員には入社後に新人研修およびその後の育成プログラムとしてジョブローテーション制度が導入されています。事務、技術、営業などについて異なる職種で入社した従業員が、関連企業で行われる2年程度の業務経験を通じて自社の全体像や強みを理解します。

従業員は一定期間さまざまな職種に携わるなかで企業全体の業務内容を理解し、社内の部署がどのように連携しているかについて体系的に学べるようになっています。こうした従業員の興味や関心を高め、能力の向上につなげるこの取り組みは、低い離職率と高い定着率につながっていると考えられます。

ジョブローテーションの導入フロー

ここでは、ジョブローテーションの導入フローの一例をご紹介します。

1.ジョブローテーション導入目的の明確化

ジョブローテーションを導入する際には、導入目的と導入によって得たい効果や結果について明確にすることが大切です。従業員にはどのような経験を積んでもらうのかについて検討し、目的を決めましょう。

2.対象となる従業員を選定

導入目的を明確化したうえで、異動の対象となる従業員を選定します。過去の事例を参考にしながら、勤務年数、適性などを考慮したうえで選定しましょう。

3.配属先の決定

次にジョブローテーションによる配属先と期間を決定します。事前に対象となる従業員の意思や希望を確認するとともに、配属先が希望している人材条件に照らし合わせて検討するとよいでしょう。従業員の適性を踏まえて、配属先を決定することが大切です。

4.ジョブローテーションの実施

対象者と配属先が決定したら、ジョブローテーションの実施を対象従業員と配属先に連絡します。どちらに対しても、配属の理由や目的に加えて、期待していることや求めることについても丁寧に説明することが望ましいです。面談の機会を設けるなど、対象者の不安や質問に対して十分に耳を傾けながら、不安を解消していきましょう。また、配属後も定期的な面談を設定してフォローやサポートを行うとよいです。

ここまでジョブローテーションのメリット、デメリット、そして、導入フローについてご紹介しました。まずは、自社がジョブローテーションの導入に向いているのか、導入のメリット・デメリットについて十分に確認することが大切です。また、実際の導入に際しては、異動する従業員の希望や適性を尊重する必要があります。対象となる従業員と時間をかけて対話し、無理のない計画を立てましょう。配属後も定期的な面談を実施するなど、さまざまなフォローやサポートを行うことを心がけていきましょう。

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