近年、企業の採用担当者から、「苦労して採用できても、入社後に起こるさまざまなミスマッチなどから早期離職に至ってしまう」といった声をよく聞きます。このように新入社員の組織への定着が課題となる中で、その解決への取り組みとして「オンボーディング」と呼ばれる手法が注目を集めています。この記事では、オンボーディングの目的や実施するメリット、具体的な事例などを解説します。

オンボーディングとは?

オンボーディングとは、航空機や船に乗るという意味の「on board(オンボード)」から生まれた造語で、新たに入社した社員が早く仕事に慣れて活躍できるよう支援する活動を意味しています。

新人研修やOJTと同義で捉えられることがありますが、新たに入社するすべての社員を対象にした受け入れ体制や育成など、組織に早く馴染むためのより広義の取り組みを指します。

※新入社員研修に関しては、以下の記事をご参照ください

役立つ新入社員研修とは?カリキュラムの作成方法、ポイント、注意点を伝授

※OJTに関しては、以下の記事をご参照ください

【人事必見】OJTとは?意味やメリット・デメリットと導入するポイントを解説

オンボーディングの目的

オンボーディングの主な目的は、新たに入社した社員の早期離職防止と早期戦力化の問題に対応することです。

新たに入社した社員に、仕事と職場環境に早く慣れて実力を発揮してもらうためには、人材の志向や特性に合わせて指導することが必要です。さらに新たな仕事、入社してからの環境変化、職場の人間関係などのさまざまな不安を、周囲からの働きかけやコミュニケーションを通じて解消していくことも大切です。

オンボーディングは、これらの取り組みを体系化して実践することで、新入社員の早期離職を回避し、会社に定着してもらい、できるだけ早い時期から能力を発揮してもらうことが目的となるといえるでしょう。

オンボーディングを実施するメリット

オンボーディングを実施することによるメリットの例として、以下のような項目が挙げられます。

新入社員の早期離職低減と定着率向上

入社して間もない社員が早期離職してしまう大きな要因は、入社した後に感じるミスマッチです。入社前の期待や事前に認識していたことと、入社直後の印象とのギャップが、慣れない環境に対する不安や相談相手がいない孤立感などで増幅され、本人が合わないと思い込んでしまうことがあります。

このミスマッチの意識を低減させるため、オンボーディングの取り組みによって、人間関係を早期に確立し、内定時から新入社員が組織に早く馴染めるよう配慮することで、新しい仕事内容や職場環境への不安を軽減することが期待できます。

早期戦力化による業績への貢献

新たな人材の早期戦力化も、オンボーディングに期待される効果です。教育や各種支援体制などにより効果的な人材育成を実施できれば、新たに入社した社員の職場への順応を早め、その人本来の能力を早期に発揮でき、会社全体の業績への貢献につながります。

採用と人材育成のコストパフォーマンス向上

オンボーディングによって、早期離職者の割合を抑えることができれば、人材補充のための採用活動を減らすことができ、育成した人材が退職してしまうことによる教育投資の無駄を減らすことができます。採用や人材育成には、直接的な活動費用だけでなく労力や時間などさまざまな間接コストがありますが、これらの抑制が期待できます。
また、オンボーディングを通じて人材育成のノウハウを積み重ねることで、会社全体の人材育成能力の向上を期待することができます。

これらのコストパフォーマンス向上が期待できるのは、オンボーディングのメリットといえます。

会社に対する評価とエンゲージメント向上

オンボーディングでは、新入社員にさまざまな支援を提供します。社員同士が対話する機会が増えるなど、その取り組みが会社全体に波及することで、組織に対するエンゲージメントの向上が期待できます。

オンボーディングでコミュニケーションが増すことによって、個々の社員が抱える課題や悩みを素早く把握して対応することができ、職場環境の改善につなげやすくなることが期待できます。

オンボーディングを通じた新入社員を歓迎する姿勢や人材育成能力の向上は、入社希望者にとっても好ましく、応募者数の増加や、社外からの評価向上につながる可能性もあります。

社員のエンゲージメント向上によって、社員からの紹介が活用しやすくなるなど、採用活動への効果を期待することができます。

※エンゲージメントに関しては、以下の記事をご参照ください
エンゲージメントとは?高めるポイント、調査方法、向上させる施策を紹介

オンボーディングを行う際の人事がやるべきポイント

オンボーディングに実際に取り組むにあたっては、採用や人材育成を主管する人事部門が中心になることが多いはずです。オンボーディングでは、従来の入社時教育などと比較して実施する期間や関わる社員が増えるため、実施手順や方法の確認など、準備を十分に行ったうえで進めていく必要があります。

人事として準備すべき主なポイントを以下で確認しておきましょう。

実施内容の検討

まず具体的な実施内容を検討します。

新入社員と人事担当者は入社前からコミュニケーションを取ることが多いですが、その段階からどのような取り組みを実施していくかを検討していきます。

入社前では歓迎メッセージの送付や事務手続きのほか、定期的なコミュニケーション、社内情報提供、入社日から1カ月程度では役員、人事、配属先ほか関係者との面談、歓迎・懇親イベント、それ以降の一定期間では、配属先でのOJT、上司や人事、メンターなどによる目標設定とフィードバック、相談対応ほかフォローアップなどを行います。


※メンターに関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見】メンターとは?OJTとの違い、導入ステップ、成功させるコツを紹介

※フォローアップに関しては、以下の記事をご参照ください
フォローアップとは?具体的なやり方、タイミング、ポイントを解説

組織体制作り

新たに入社してくる社員に対して、「どの部署の誰が」「いつ、どのくらいの期間」「何をするのか」について確認し、関係者それぞれの役割分担など、受け入れと育成に関する具体的な組織体制を検討します。

情報共有と認識合わせ

新たに入社してくる社員について、受け入れ側の関係者が把握している情報はそれぞれの立場や担当業務によって異なり、期待する役割や指導方法などの認識にもバラつきがある可能性があります。

これらの情報を関係者間で事前に確認、共有し、認識合わせをしておくことが重要になります。入社直後から一定の期間は、現場と人事でよく連携を取りながら、状況を共有しておくことが必要です。

人間関係づくり

新たに入社してくる社員との人間関係づくりは、オンボーディングを進めるうえで重要なポイントです。これは配属先や人事だけでなく、関わる可能性があるすべての関係者を含みます。

実際の施策としては、各部門の業務説明やメンバー紹介、関係者との面談ほかコミュニケーション機会の設定、歓迎会ほかウエルカムイベントの実施などが考えられます。部署ごとのバラつきがなく確実に実施されるよう、担当者を決めるなどの準備が必要です。

目標設定とフィードバック

新入社員との間で、当面の目標設定と成果の確認を、面談などによって随時行っていきます。目標への取り組みに対するフィードバックは特に重要と考えられ、入社直後から1カ月程度の期間は、週単位などの比較的細かい頻度で、目標設定とフィードバックを継続することが望ましいです。

期間の経過に合わせて徐々に面談回数を減らしていくことが多いですが、このあたりは新入社員の慣れ度合いなどに応じて柔軟に対応していきます。
また、すべて配属先の現場まかせにせず、人事をはじめとした関係者も、フォローアップには積極的に関わることが望ましいです。

※フィードバックに関しては、以下の記事をご参照ください

ポジティブフィードバックとは?モチベーションを上げる方法を例文と共に紹介!

オンボーディングの事例

オンボーディングを実際に実施した企業の事例を以下にご紹介します。

(1)GMOペパボ株式会社

インターネットサービスを展開しているGMOペパボ株式会社では、従来の中途入社の成長支援は事業部ごとの取り組みでしたが、部門ごとの偏りが課題として認められたため、全社共通のオンボーディングプログラムを策定しています。

社内チャットツールを活用した「ペパボカクテル」では、事業部ごとの取り組みを統合するため、メンターの決定、懇親会の企画、今後の理想像や目標についてオンボーディング担当者と相談し、入社後3ヶ月の過ごし方を表明・振り返りをする「やっていきシート」などの取り組みが行われています。こうした取り組みによって、全員が部署の垣根なく自由に会話できる環境がチャット内に整備されています。

ほかにも、エンジニア全体の社内勉強会である「ペパボテックフライデー」で新入社員に自己紹介の時間を設けるなど、さまざまなオンボーディングプログラムが実施されています。

出典:GMOペパボ株式会社 Pepabo Tech Portal「中途入社のパートナー向けにペパボカクテルを開始しました」「Pepabo Tech Friday 始まってます!」

(2)サイボウズ株式会社

グループウェアの開発、販売、運用を提供するサイボウズ株式会社では、中途入社を含めたすべての新入社員に向けて、入社3カ月で営業職として独り立ちできるように、提案に必要な基礎スキルを学ぶオンボーディング研修を行っています。

入社後3カ月間の実際のプログラムとして、1カ月目は、主に会社組織、製品に関する学習と提案練習、2カ月目は、提案パターンの習得と、実際の顧客商談に同席して製品紹介をするなどの提案実習、3カ月目は販売パートナーなど周辺ビジネス理解と、習得した基礎スキルをもとに、顧客デモなどを交えた提案実習の経験を積み、研修最終日には、社内メンバーに向けたプレゼン形式で課題発表を行うことになっています。

現場の営業担当者が、研修期間を通じてチューターとして新入社員を支援する役目を担っており、さまざまな疑問や不安を気軽に相談できる体制が作られています。

出典:サイボウズ株式会社「オンボーディングと学習支援」

ここまで見てきたように、「オンボーディング」は決して新しい取り組みというわけではなく、すでにさまざまな会社で行われている内容が多く含まれています。従来からの取り組みとの違いは、社内での人間関係作りや不安解消などの業務以外のフォローを含めて、新入社員に対するさまざまな取り組みを体系化し、モレなく実践していることです。

「オンボーディング」を進めるにあたっては、これまで実施してきた新入社員研修や受け入れの取り組み内容を確認し、それぞれの目的を明確にして、全体の体系化から始めることが望ましいです。まずはできるところから、一歩ずつ進めていくとよいでしょう。

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