企業が成長していくためには計画や戦略を基に適切な人材配置を行う必要があります。自社に必要な人材を採用していくにあたり、コンプライアンス違反を行ってしまうと法令違反や社会的信用の失墜につながるリスクがあります。今回は採用コンプライアンスについて対策などを含め解説します。

採用コンプライアンスとは

採用コンプライアンスとは、企業が採用活動を行うにあたって、法令で定められた規則や社会的な信義則を遵守することを指します。

採用活動に関する主な3つの法令

企業の採用活動を規制する主な法律に「雇用対策法」「男女雇用機会均等法」「職業安定法」があります。

雇用対策法

雇用対策法では、法律で定められた例外的なケースを除いて、募集や採用に関して「年齢を制限すること」を禁止しています。そのため、募集広告に「30歳以下の人限定」などと記載することや、年齢を基準に選考することは原則できません。

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法では、募集や採用に関して「性差別を行うこと」を禁止しています。
次のような対応を行うと性差別に該当します。

・募集・採用の対象から男女のいずれかを排除すること。
・募集・採用の条件を男女で異なるものとすること。
・採用選考において、能力・資質の有無等を判断する方法や基準について男女で異なる取扱いをすること。
・募集・採用に当たって男女のいずれかを優先すること。
・求人の内容の説明等募集・採用に関する情報の提供について、男女で異なる取扱いをすること。

参考:厚生労働省「企業において募集・採用に携わるすべての方へ 男女均等な採用選考ルール」2023年5月

職業安定法

職業安定法では、募集を行う際に最低限明示しなければならない労働条件等の内容や採用面接時に聞いてはならないことなどが定められています。

募集を行う際に最低限明示しなければならない労働条件等の内容は12項目(派遣労働者として雇用する場合は13項目)あります。

参考:厚生労働省「労働者を募集する企業の皆様へ」

「募集時等に最低限明示しなければならない労働条件」に関しては、令和6年4月1日より、以下の3項目が追加されます。

・従事すべき業務の変更の範囲
・就業の場所の変更の範囲
・有期雇用契約を更新する場合の基準に関する事項

参考:厚生労働省「職業安定法施行規則の改正」

公正な採用選考の基本

前述した採用活動に関する3つの法令とは別に、厚生労働省が採用活動に関して望ましい対応を示した「公正な採用選考の基本」を公表しています。

企業が採用選考を行う際には「応募者の基本的人権を尊重すること」「応募者の適性や能力に基づいた基準により行うこと」を基本的な考え方として行うことが重要であるということが記されており、採用選考時に配慮すべき事項に関しても具体的に記されています。
これは、採用活動を行うにあたっての社会的な信義則としての内容ですが、企業には法令に準じた対応を行うことが求められています。

参考:厚生労働省「公正な採用選考の基本」

※コンプライアンスに関しては、以下の記事をご参照ください。
コンプライアンスとは?基本的な意味や対策をわかりやすく解説

採用選考で聞いてはいけない11の項目

採用選考時に、「個人の責任ではない事項」、ならびに「本人の自由であるべき事項」について合理的な理由なしに聞くことは控える必要があります。

個人の責任ではない事項

主に以下の4項目が該当します。

1.本籍や出生地に関すること

部落差別などを禁止する観点から、採用面接時に本人の本籍地や出生地に関する事項を確認することは控える必要があります。

口頭で質問をしない場合であっても、「戸籍謄(抄)本」や本籍地が記載された「住民票の写し」の提出を求めた場合は同様の行為があったものとみなされます。

2.家族に関すること

どのような職業に就いているのか、本人との続柄、健康状態、病歴、社会的地位、学歴、収入、資産状況、勤務先といった求職者の家族に関する事項を確認することは控える必要があります。

3.住宅状況に関すること

現在住んでいる家の間取りや部屋数、一戸建てかマンションかなどといった住宅の種類や近隣の環境といった求職者の住宅状況に関する事項を確認することは控える必要があります。

4.生活環境や家庭環境などに関すること

同居人の有無や同居人がいる場合の本人との関係性、日々の生活習慣や一日の過ごし方といった求職者の生活習慣に関する事項、ならびに家族の生活環境や家族との人間関係といった求職者の家庭環境に関する事項を確認することは控える必要があります。

本人の自由であるべき事項

以下の7項目が該当します。

5.宗教に関すること

信仰している宗教があるか、どのような宗教を信仰しているのかといった求職者の信教に関する事項を確認することは控える必要があります。

6.支持政党に関すること

支持政党、選挙でどの候補者に投票したか、家族はどの政党を支持しているのかといった求職者や家族の政治に関する考え方に関する事項を確認することは控える必要があります。

7.人生観や生活信条に関すること

今後どのような人生を送りたいと考えているのかといった求職者の人生観に関する事項、ならびに普段生活をするうえでどのようなことを信条としているのかといった求職者の生活信条に関する事項を確認することは控える必要があります。

これらに関しては、面接時のコミュニケーションを円滑にする目的で一般的な会話をする場合には問題になることは基本的にはありません。しかし「将来結婚する予定はあるのか」「結婚をして子供ができても働き続けるつもりなのか」などといった私生活の自由に踏み込む発言を行うのは厳禁です。

8.尊敬する人物に関すること

誰を尊敬しているのか、なぜ尊敬しているのかといった求職者の尊敬する人物に関する事項を確認することは控える必要があります。

先に解説した「宗教に関すること」「支持政党に関すること」「人生観や生活信条に関すること」に関する確認に発展してしまう可能性があるためです。

9.思想に関すること

政治や社会に対してどのような見解を有しているのか、どのような考え方に支配されながら日常生活を送っているのかといった求職者の思想に関する事項を確認することは控える必要があります。

10.労働組合や社会活動に関すること

過去の労働組合への加入状況や活動内容といった求職者の労働組合の履歴に関する事項、ならびにどのような学生運動や社会運動に参加したのかといった求職者の社会活動に関する事項を確認することは控える必要があります。

11.購読新聞や購読誌、愛読書などに関すること

どこの新聞を読んでいるのか、定期的に購読している雑誌は何か、どのような書籍を愛読しているのかといった求職者の図書関連に対する志向に関する事項を確認することは控える必要があります。

採用コンプライアンスを守るための対策

採用コンプライアンスに関しても、一般的なコンプライアンスへの対応と同様に、「遵守すべき内容の明確化」を行ったうえで「対応のマニュアル化」「関係者に対する教育の徹底」「定期的な運用チェック」「相談窓口の設置」などさまざまな対策を講じる必要があります。ここではそれぞれの対策について解説します。

遵守すべき内容の明確化

採用活動を行うにあたって、どのようなことを遵守する必要があるのかを明らかにします。
不適切な採用活動を行うことは、そのあとの採用活動にも影響が出てしまいます。先に解説した「採用活動に関する3つの法令」や「公正な採用選考の基本」といった国が定めた内容だけでなく、自主的に遵守すべきことがあると考える場合は、遵守すべき内容に加えます。

対応のマニュアル化

採用コンプライアンスを遵守するための対応を明確化したあとは、関係者全員が徹底できるようマニュアル化します。

募集に関する対応

法律で定められた労働条件などを明示するための雛形を作成し、人材要件の決定や募集広告の記載内容が法律に違反していないかをチェックする体制を整えます。また募集時の対応フローをマニュアルの中で明文化します。

採用面接に関する対応

求職者に必ず確認すべきこと、求職者に確認してはならないことなどを具体化し、マニュアルの中で明文化します。

採用選考に関する対応

法律上行ってはならないことを明確にし、選考の進め方をマニュアルの中で明文化します。

関係者に対する教育の徹底

しっかりとした内容のマニュアルが存在しても、採用活動の関係者が内容を熟知していなければ、企業として採用コンプライアンスを遵守することはできません。そのため採用コンプライアンスを遵守するためのマニュアルを採用活動の関係者に共有し、理解を深めるための教育を定期的に実施することが大切です。

定期的な運用チェック

採用コンプライアンスの遵守を徹底するためには、採用活動の関係者が作成したマニュアルの内容を理解している状態にある必要があります。そのため採用活動終了時に対応の振り返りを行い、不適切な対応が行われていた場合には、「不適切だった対応」「不適切な対応が生じた理由」「再発防止のための対策」を検証します。そのうえで今後の対応を共有することが効果的です。

相談窓口の設置

不適切な対応が故意ではなかった場合、当事者が自身の対応が不適切であったことを認識できない可能性があります。そのため不適切な対応に気づいた社内外の人間が相談できる窓口を設け、当事者に不適切な対応であることを認識させる仕組みを設けることが効果的です。

採用は、企業の看板を背負いながら行う活動です。そのため不適切な対応が行われた場合、企業の社会的評価が悪化し今後の採用活動に支障をきたす恐れがあります。さらにはステークホルダー(利害関係者)からのイメージの悪化を招くことにより、経営活動そのものに支障をきたすことも考えられます。そのようなことを生じさせないためにも、採用コンプライアンスの遵守を徹底したうえで適切な採用活動を行えるように努める姿勢を企業が持つことが重要です。

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