現代社会においては、会社も従業員も社会全体の規律である法令を遵守することが重視されています。さらにインターネットが普及したことで、企業に対する社会の目は、年々厳しさを増しています。
こうした社会背景のもと、企業の社会的責任(CSR)を問う意識が一般にも浸透してきました。コンプライアンス(法令遵守)を徹底しながら、従業員や消費者、取引先、株主、地域社会など、さまざまな利害関係者からの要求に適切に対応することが、これからの企業に求められています。

コンプライアンスとは

最初に、「コンプライアンス」という言葉の定義や、企業がコンプライアンスを重視する背景について説明します。

コンプライアンスの定義・意義

「コンプライアンス」とは、「法令遵守」を意味する言葉です。ただし、単に法律を守ればよいというだけではありません。現在の企業には、世の中に存在する法令を遵守した上で、社会規範に従い、公正で健全な経営を行うことが求められています。

では、健全な経営とは何でしょうか。健全な経営とは、従業員や消費者、顧客、株主、地域社会など、さまざまな利害関係者の利益を守りながら、企業としての成長を遂げていくことといえます。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの関係

コンプライアンスと関連する言葉として、「コーポレートガバナンス」があります。
コーポレートガバナンスとは、企業内での不正発生を未然に防止し、効率的な業務遂行を実現することです。そのために「経営者を監視・監督する仕組み」を構築・運営することや、そのような健全な経営を目指す姿勢そのものも含む言葉でもあります。

コンプライアンスとコーポレートガバナンスは、どちらも健全な経営を目指すという点では同じです。しかし、コンプライアンスが一般の従業員も含めた企業全体の取り組みを指すのに対し、コーポレートガバナンスは監査役や社外取締役など、特定の組織に対する取り組みとなります。

企業がコンプライアンスを重視する背景

インターネットやSNSが普及したこともあり、企業の不祥事が公になりやすくなりました。不祥事が公になった場合、企業の社会的信用が失墜し、その後の企業経営に大きなダメージを与える可能性が高いでしょう。
加えて、経済のグローバル化が進展したことで、海外の市場や投資家などからのコンプライアンス徹底の要求も強まっていることが考えられます。
これらの経営環境に対応しつつ企業としての成長を遂げるために、企業がコンプライアンスを重視する姿勢が強まっているといえます。

内部統制とコンプライアンス

コンプライアンスとは法令を遵守するという企業経営上の目的であり、内部統制はコンプライアンスを徹底するための手段である、という関係にあるといえます。

内部統制とは

内部統制とは、会社の業務の適正化を実現させるために、「事業活動に関わるすべての従業員が遵守する必要のある社内ルールや仕組み」を整備した上で、適切に運用するプロセスやその体制のことです。

金融庁は内部統制を、

企業内で「業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されている」ことが、合理的に保証されるために、遂行されるプロセス

引用:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2019年12月6日)

であると定義しています。

内部統制と取締役の責任

会社法では取締役の義務として、内部統制システムの構築と運用が定められています。
取締役は会社における「善良なる管理者」であり、その義務として「善良なる管理者の注意義務」(略して「善管注意義務」)を負うとされます。いくつかの役割がありますが、そのなかで「取締役は、会社が健全な経営を行うための内部統制システムを整備した上で的確な運用を行うことに対する義務を負う」と解釈されています。

つまり取締役は、取締役会で内部統制の整備や運用に関する方針を決定し、それに対する実行と監督を行う責任があるということです。

コンプライアンスリスクの種類

コンプライアンスリスクには、「法令に対する違反行為」「社内規則に対する違反行為」「倫理規範に対する違反行為」などが挙げられます。

法令違反

法令違反とは、国が定めた法律や政令、省令、地方自治体が定めた条例や規則に違反する行為を行うことです。
法律とは、日本国内に居住し、もしくは事業を行うすべての人間が遵守しなければならない強制力のある社会的ルールのことであり、その細目を定めたものが政令、運用上のルールを定めたものが省令です。
条例や規則とは、特定の都道府県や市町村に居住し、もしくは事業を行うすべての人間が遵守しなければならない社会的なルールのことです。
法令違反に関しては、「故意による違反」と「過失による違反」があります。

故意による違反

故意による違反とは、法令に違反することを認識した状態で、違法行為を行うことです。
たとえば、会計に関する法律や税法に違反していると知りながら、不正会計処理や脱税をしたり、労働法に違反すると知りながら違法労働を強制したり、権利保護に関する法律に違反すると知りながら権利侵害などを行うことです。

過失による違反

過失による違反とは、法令に違反するかどうかを確認する注意を怠った状態で違法行為を行うことです。

たとえば、長年の慣習や誤った解釈によって引き起こされた財務や労働に関連する不正、そこから発生した事故などがあります。

社内規則違反

「社内規定違反」とは、企業が独自に定めた規則に違反した行為を行うことで、社会に対して損害を与えてしまうことです。

たとえば、顧客や消費者の安全や利益を守る規則に違反する不正行為や、違反から引き起こされた事故などがあります。

倫理規範違反

「倫理規定違反」とは、職務上当然守らねばならない職業倫理に反した行為を行うことで、社会に対して損害を与えてしまうことです。
たとえば、情報管理を徹底すべき立場の者が、当然求められる倫理規範を破り、情報漏洩を起こしたり、衛生管理を徹底すべき立場の者が倫理規範を破り、その結果、健康被害が引き起こされたりといったケースがあります。

コンプライアンス違反が起きる理由

コンプライアンス違反が起きる主な理由として、以下の4つが挙げられます。

法律に関する知識不足

経営者やマネージャー、現場担当者など、組織としての対応を決定する立場にある者が、自社の事業や現場の業務に関連した法律の知識がない場合、コンプライアンス違反が発生しやすくなります。法令に違反しているという認識のないまま、違法行為を働いてしまうからです。

不正が起こりやすい環境が存在する

業務に対する管理体制が不十分な場合、不正によるコンプライアンス違反が発生しやすくなります。
たとえば、企業がきちんとした情報管理体制を敷いていない場合、個人情報をはじめとした情報の不正利用や社外流出が発生するリスクが高まります。あるいは、社内の金銭の出入りの記録や保管に関して管理体制が整っていない場合、横領などの不正行為が行われるリスクが高まります。

過失が起こりやすい環境が存在する

業務に対する注意義務を徹底する体制が不十分な場合、過失によるコンプライアンス違反が発生しやすくなります。
たとえば運送業で、車両整備や過積載禁止ルールなどが徹底されていなかった場合、交通事故が発生しやすくなります。その場合、本来守るべき安全義務を守らなかったとして、コンプライアンス違反を問われるリスクが高まります。あるいは、工場などで有害物質の管理方法が明確に定められておらず、環境汚染などを発生させた場合、コンプライアンス違反を問われるリスクが高まります。

コンプライアンス違反の指摘や是正をしづらい環境が存在する

社内の風通しが悪い、立場の下の者が上の者に対して意見しづらい空気が存在する、社内でパワハラが蔓延しているなど、社内の雰囲気の悪い企業があります。このような企業では、コンプライアンス違反が存在しても当事者にそのことを指摘したり、是正を働きかけたりしにくいため、高い確率で社内でのコンプライアンス違反が見過ごされてしまいます。

そのことが後々に公になり、企業が責任を追及され、社会的な信用が低下すると、経営の危機を招くことがあります。

※パワハラに関しては、以下の記事をご参照ください
パワハラとは?定義と種類や相談されたときのチェック方法と進め方を解説

コンプライアンス遵守のための対策

コンプライアンス遵守を徹底するために、企業はさまざまな対策を講じています。
たとえば、株式会社リクルートでは、コンプライアンスに関する規程の作成と周知徹底、従業員に対するコンプライアンス教育の実施、社内外への相談窓口の設置などの対策を講じています。
参考:株式会社リクルート「社会的責任への取り組み・01コンプライアンス

コンプライアンス違反が起きる主な理由ごとに、どのような対策を講じるとよいのかご紹介します。

法律に関する知識を強化するための対策

法律に関する知識不足から起こるコンプライアンス違反を回避するためには、以下のような対策を講じることが効果的です。

弁護士などの専門家に相談できる体制を構築する

法律の解釈は複雑で、専門的な能力を必要とすることが多くなります。
必要な時に、いつでも弁護士などの専門家に相談できる体制を構築しましょう。その上で、必要に応じて自社の事業や現場業務に関連する法令の有無や、解釈に関する相談・確認をできる仕組みがあると効果的です。

遵守しなければならない法令の内容を把握する

自社の事業や現場業務に関連し、遵守しなければならない法令の内容を把握した上で、種類ごとに分類するなどの対応を行うとよいでしょう。
あわせて、弁護士などの専門家に相談できる体制が存在すれば、適切に指導をしてもらえます。

法改正情報をリアルタイムに入手できる体制を構築する

法令は、世の中の変化に応じて改正されることがあります。法令が改正された場合、企業は、速やかに対応しなければなりません。

そのため、自社の事業や現場業務に関連する法令の改正情報をリアルタイムに入手できる体制を構築しておくとよいでしょう。
弁護士などの専門家に相談できる体制があれば、法令の改正に際して、必要な情報提供や対応策を提示してもらうなど、適切な支援をしてもらえます。

不正や過失が起こりにくい環境を整備するための対策

不正や過失が起こりやすい環境下では、コンプライアンス違反も起こりやすくなります。そのようなリスクを回避するために、以下のような対策を講じていきましょう。

自社のコンプライアンス違反リスクを把握する

まず、自社の事業や現場業務に関して、どのようなコンプライアンス違反リスクが存在するのかを把握する必要があります。
公になっている他社のコンプライアンス違反事例を参考に、自社に置き換え、どのような状況でどのような違反が発生する可能性があるかを検証するとよいでしょう。

コンプライアンス対応に関する規程やマニュアルを作成し周知する

コンプライアンスを徹底するためのルールや行動規範などをまとめ、規程やマニュアルを作成し、社内全体に周知することも有効です。
マニュアルで重要なのは、周知と徹底です。すべての従業員が、規程やマニュアルの内容を理解し実行することで、企業としてのコンプライアンス遵守が完全なものとなるのです。

コンプライアンス教育を定期的に実施する

従業員のコンプライアンス遵守意識を徹底させるために、規程やマニュアルの確認、コンプライアンス対応事例の研究など、教育を実施するのも有効です。

これらの教育は、定期的に実施することが重要です。教育を継続することで、コンプライアンスが企業風土となり、従業員の意識が向上します。
教育に関しては、社外のコンプライアンス教育を活用する方法もあります。

コンプライアンス違反の指摘や是正をしやすい環境を整備するための対策

コンプライアンス違反を指摘したり、是正を求めたりしづらい環境が存在すると、コンプライアンス違反リスクが高まると既述しました。それを回避するために、以下のような対策を講じていきましょう。

自社の社内風土に関する課題を認識する

従業員にアンケートを実施するなどして、自社の社内風土に関する課題を認識しましょう。その上で、社内風土を原因として、どのようなコンプライアンス違反が発生するリスクがあるのかを検討しましょう。
この場合は、社内風土に関する課題を解決することが、コンプライアンス違反リスクの発生防止につながります。

社内の風通しをよくする

職位の上下や所属する部門の違いなどに関わらず、誰もが自由に発言できる社内風土を作ることは、コンプライアンス違反を防止する上で重要なポイントです。

気づいた人が指摘することでコンプライアンス違反が未然に防げる、すなわちコンプライアンス違反防止が会社全体の取り組みとなることは、企業として健全な姿です。

社内外に相談窓口を設置する

誰かがコンプライアンス違反に気づいたとしても、当事者に面と向かって指摘しづらいこともあります。

そのため、社内外に相談窓口を設置するとよいでしょう。

相談窓口は、社外にも設置するのが重要です。そうすることで、コンプライアンス違反に関する自浄作用効果が高まります。

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