ある時点までの結果やプロセスを振り返り、今後に活かすために行われる「フィードバック」。企業においては、人材育成や事業戦略推進の手段のひとつとして盛んに行われています。その中でも、フィードバックの効果を高めるために注目されているのが「ポジティブフィードバック」。評価者である上司は何を意識すれば良いのか、部下のどのような行動に注目すれば良いのかなど、基本から解説します。

ポジティブフィードバックとは

ポジティブフィードバックとは、人や物・出来事の良い面を指摘するフィードバックの手法です。
そもそもフィードバックは、起きたことを振り返って今後に活かすことが目的であるため、理想と現実のギャップを比べれば、自然と「できなかったこと」や「悪かったこと」に目が行きがちです。そうした指摘が行き過ぎると、単なる批判や過度なダメ出しと受け取られ、フィードバックを受ける人の意欲をいたずらに下げてしまいかねません。
そこで、たとえば上司から部下へのフィードバックなら、「できたこと」「良かったこと」に注目した指摘を意識することで本人のモチベーションを引き上げ、個人の強みを更に伸ばすような成長支援を行っていくのが、ポジティブフィードバックです。

※フィードバックに関しては以下の記事もご参照ください
・フィードバックとフィードアップの違いは?ビジネスでの使い方を事例付きで紹介

ネガティブフィードバックとの違い

ネガティブフィードバックとは、ポジティブフィードバックとはアプローチが全く逆で、起きてしまった問題や課題にフォーカスしていく手法です。上述の通り失敗や間違いにフォーカスしたフィードバックであるため、伝え方次第では単なる批判・叱責と受け止められるリスクがあります。

しかし、ネガティブフィードバックにもメリットはあります。ネガティブフィードバックは、深刻なミス・トラブルやリスクが発生した場合など、再発防止のために原因を深く掘り下げて行くときに有効です。実施する際は、「人格攻撃にならないように、本人の素養と発生した問題を切り分けて話す」ように伝え方に注意しましょう。

ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックの例文

たとえば、以下のような若手社員にフィードバックをすると仮定します。

  • Aさんは、入社3年目の営業。4月から担当エリアが変更
  • 上半期(4~9月)の業績は目標に対して95%で未達成
  • 月間目標は6ヶ月中4ヶ月達成
  • 既存顧客との取引は純増。新規顧客の開拓が伸び悩んでいる

すると、同じ状況でもどのような視点で事実を捉えるかによって、フィードバックで話す内容は大きく変わります。

ポジティブフィードバックをする場合

「新しい顧客を担当して慣れない中でも、あと一歩のところまで良く健闘したね」
「月間では半分以上の月を達成できているよね。達成できた月は何が良かったと思う?」
「引き継いだお客様と信頼関係を築けていることが数字に表れているね」

ネガティブフィードバックをする場合

「95%で未達成ということは、残りの5%は何が足りなかったと思う?」
「月間目標も、1/3は未達成だったね。達成できなかった月は何が原因?」
「新規受注の数字が良くないけれど、どのような営業活動をしていたのかな?」

ポジティブフィードバックを職場で実施するメリット

相手の強みをさらに伸ばせる

ポジティブフィードバックは、対象者の良い面に注目して行うものですから、自ずと本人が得意なこと(強み)に言及することが増えるでしょう。もともと得意で高い成果が出せるものや、好きな業務を中心に評価・アドバイスされることで、さらにその強みを伸ばしていくことが期待できます。また、本人が気づいていない強みを発見することにもつながり、強みを自覚することで自分の持つ能力を的確に発揮する効果も期待できます。

弱点の克服につながる

ポジティブフィードバックを意識すると、「本人は苦手意識があるが、客観的に見ると良くできている(そこまで悪くない)こと」を指摘できる場合があります。客観的な良い評価を聞くことで自信をつけ、苦手意識を払拭できることもあります。

仕事の意欲が向上する

前向きな言葉を多くかけられることで仕事へのモチベーションが上がるのもポジティブフィードバックのメリットの一つです。良い評価を沢山受けることで自己肯定感が高まり、自律的・主体的な行動につながることが期待できます。

良好な関係を築くことができる

フィードバックは人を評価する側面があるため、むやみに否定的な意見ばかり伝えると、相手との関係を壊してしまうリスクがあります。そのため、ポジティブフィードバックを意識すると相手との人間関係を壊さずにフィードバックをすることが可能です。フィードバックを受ける相手にとっても、自分の良い面を中心に話をしてもらえることは、「ちゃんと見てもらえている」「分かってくれている」という安心感や信頼感につながります。

ポジティブフィードバックのやり方・ポイント

目標を設定・確認する

そもそもフィードバックの意義は、何らかの目標を実現するために組織や個人のパフォーマンスを高めることにあります。そのため、フィードバックを行うときは何のためのフィードバックかの認識がすり合っていないと相手からも効果的に受け止められません。フィードバックの場を持つときは、目的・目標を相手とすり合わせ、適宜再確認しながら進めましょう。

目標の達成に良い影響を与えたアクションを伝える

目標が認識できたら、その実現に向けてプラスの影響を与えた事柄を中心にフィードバックしましょう。目的が明確であるほど対話する内容や方向性も明解になり、ポジティブフィードバックの納得感を高めることができます。

より良くするためのアドバイスをする

過去を振り返るフィードバックが一通りできたら、未来に向けたアドバイスを行います。ポジティブフィードバックをしておくと相手も評価者の言葉を受け入れやすくなり、苦手なことに対するアドバイスにも耳を傾けやすくなる効果があります。

次回までにやるべきこと・挑戦することの認識を合わせる

フィードバックの効果を高めるには、振り返りとアドバイスだけで留めず、次回のフィードバックまでにやるべきことを実務レベルに落とし込んで相手と約束をすることも欠かせません。「来週までに○○を終わらせる」など、具体的な行動や定量的な目標を立て、相手と認識を合わせておくと、効果的なフィードバックのサイクルを回し続けることができます

ポジティブフィードバックの注意点

根拠のない褒め方をしない

上述の通り、ポジティブフィードバックは会社や個人の目標を達成するためのものであり、目標達成に効果を発揮できたかという尺度で評価するようにしましょう。単なる印象で相手を褒めても客観性に乏しく、納得感がありません
また、ポジティブフィードバックは、相手をやる気にさせるだけものではなく、個人の成長につなげていくものです。漠然と相手を喜ばせるような声をかけるのではなく、相手に伸ばしてほしい強みや克服してほしい弱点に言及するようにしましょう。

褒める場所は相手のタイプを見極めて選ぶ

ポジティブフィードバックを他のメンバーもいる前で行うと、対象の本人の意欲を高めるだけでなく、周囲の人たちも好事例から学ぶことができ、組織風土を良くする効果もあります。周囲の人たちがいる場所で称賛しても良いでしょう。ただし、相手のタイプによっては逆に萎縮してしまう場合もありますので、タイプを見極めて褒める場を設けることも検討しましょう。

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