職場でのパワーハラスメント(=パワハラ)。パワハラによって従業員の心身の健康が脅かされ、職場の環境が悪化することは、あってはならないことです。職場全体の生産性の低下、企業イメージのダウンにつながります。では実際、どのような行為や言動がパワハラに該当するのでしょうか。パワハラの種類、社内でパワハラを防ぐ方法、万が一パワハラが起きてしまったときに、どう対処すべきかについてご紹介します。

パワハラとは

パワーハラスメントという言葉の一部である「ハラスメント(Harassment)」とは、意識的・無意識的に特定・不特定、少数・多数を問わず不快な思いをさせる、苦痛を与える、居心地の悪さを感じさせる行為のことです。具体的には、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為がパワーハラスメント(パワハラ)です。他の種類のハラスメントとしては、性的嫌がらせであるセクシャルハラスメント、倫理や道徳に反したいじめや嫌がらせであるモラルハラスメントなどがあります。
出典: 厚生労働省 雇用環境・均等局 平成30年10月17日「パワーハラスメントの定義について」

総合労働相談コーナーへの職場でのいじめ・嫌がらせ相談件数は年々、増えており、すべての相談の中で7年連続トップと深刻な事態となっています。

出典:厚生労働省 平成30年 個別労働紛争解決制度施行状況

パワハラの定義

パワハラかそうでないかは、どのように区別するのでしょうか。より具体的な定義について確認しておきましょう。
厚生労働省では、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの」と定義しています。ここでいう「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。「労働者」とは、正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する全ての労働者を指します。「職場内での優位性」とは、職務上の地位のほか人間関係や専門知識、経験などのさまざまな優位性が含まれます。「パワハラ」という言葉は上司から部下へというイメージがありますが、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。
出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」

パワハラの種類

パワハラには、代表的な類型として6つあります。

1.身体的な攻撃

殴ったり、蹴ったり、社員の体に危害を加える行為や、相手に物を投げつけるような行為によって、従わせようとする行為。
【該当すると考えられる例】
話している途中で相手を殴打する
廊下ですれ違った瞬間に足蹴りをする

2.精神的な攻撃

脅迫するような言動や人格を否定するような侮辱、名誉棄損に当たる言葉、ひどい暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ。人格を否定するような言動には、相手の性的志向・性自認に関する侮辱的な言動も含まれます。
【該当すると考えられる例】
相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を、当該相手を含む複数の他者宛てに送信する

3.人間関係からの切り離し

特定の労働者に対して仕事から外したり、別室への隔離・無視や仲間外しを行ったり
などがあります。
【該当すると考えられる例】
自身の意に沿わない労働者に対して仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり自宅研修させたりする

4.過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害業務をする行為が該当します。
【該当すると考えられる例】
新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する

5.過小な要求

業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないこともパワハラになります。
【該当すると考えられる例】
管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる

6.個の侵害

私的なこと、性的志向・性自認や病歴、治療歴等の機微な個人情報について、本人の了解を得ずに、他者に暴露することは、「個の侵害」になります。
【該当すると考えられる例】
労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」
出典:厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」

パワハラの具体例

職場では業務上の指示・指導なのかパワハラなのか、なかなか線引きが難しいかもしれません。具体的には実際どのような行為がパワハラに該当するのでしょうか。裁判において違法性等が認められた例をご紹介します。

業務上明らかに必要性のない行為に関する例(大分地裁 平成25年2月20日)

X氏は化粧品販売会社からY社に出向し、美容部員として勤務していた。X氏は、Y社の販売コンクールで販売目標数が未達であり、その後の研修会にてY社の従業員Y1らから「罰ゲーム」と称し、X氏の意に反したコスチュームの着用を強制された。また、別の研修会にて、コスチュームを着用したX氏のスライドが投影された。X氏は以上を原因に、休業を余儀なくされる精神的苦痛を被った。また、Y社の従業員Y2が「X氏と連絡が取れず、X氏の病状の把握ができなかった」ことを理由に、X氏が受診したクリニックに対して医療情報の照会を行った。X氏は、上記が不法行為に該当し、精神的苦痛を被ったとして、損害賠償を請求した。結果、Y社及び、Y社従業員Y1らに対する請求が一部認容され、Y2に対する請求が棄却された。

過大な要求が行為に含まれていた例 (横浜地裁 平成11年9月21日)

A社の営業所に所属する運転士であるZ氏が、駐車車両に路線バスを接触させた。A社の営業所所長A1氏は上記を理由に、Z氏に対して、下車勤務として「約1か月の同営業所構内除草」を命じ、さらに乗車勤務復帰後も「1か月以上の添乗指導」を受けることを命じた。Z氏は精神的損害を被ったとして、A社と営業所所長A1氏に対し、慰謝料の支払を求めた。結果、請求の一部が認容された。

出典:厚生労働省 雇用環境・均等局 平成30年10月17日 「パワーハラスメントの定義について」
参考:厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」

パワーハラスメント防止措置とは

2020年6月1日より改正労働施策総合推進法として、職場におけるハラスメント防止策が強化されパワーハラスメント防止措置が事業主の義務(中小企業は2022年4月1日より義務化)となりました。事業主は職場においてパワハラを防止するため4つの措置を講じる責任があります。

  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  • そのほかあわせて講ずべき措置

この法律で職場におけるセクシャルハラスメントについても対策が強化されています。あわせて対応していきましょう。
出典: 厚生労働省 「2020年6月1日より、職場におけるパワハラ防止が強化されました」

パワハラ対策

パワハラは加害者と被害者だけの問題にすると、その場のみの対症療法になってしまいます。自社内にパワハラが起こる土壌があると捉え、根本的な原因究明とパワハラ防止対策を立てる必要があります。まず、パワハラに対する会社の姿勢を示しましょう。就業規則に罰則規定を設ける、パワハラ予防や解決方法のガイドラインを作成するなど、会社としてパワハラを絶対に許さないという態度をはっきりと打ち出します。

会社の方針等の明確化、周知・啓蒙

経営トップが職場からハラスメントをなくすという強いメッセージを発信することも重要です。また就業規則に関係規定を設ける、予防・解決についてガイドラインを作成するなど会社としての方針を明確にし、従業員に周知・啓蒙することも大切です。

相談等に適切に対応するために必要な体制の整備

パワハラが起こってから対処するのではなく、未然に防げるよう社内・社外に相談窓口を設け、少しでも気になることがあれば気軽に相談できる体制をつくりましょう。パワハラに関する定期的なアンケートの実施や、外部の講師を招いた研修なども、パワハラを未然に防ぐために効果的です。以下の厚生労働省の報告書なども参考にし、職場からハラスメントをなくしていきましょう。
参考: 厚生労働省 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会 報告書」2018年3月30日

パワハラかどうかのチェック方法

厚生労働省「あかるい職場応援団」のサイトに手軽にチェックできるリストがありますので利用してみるとよいでしょう。各都道府県労働局に総合労働相談コーナーなども設置されていますので、相談してみるのも一つの方法です。
出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」相談窓口のご案内

パワハラが起きた際の人事の対処・手順

従業員から「パワハラを受けた」と相談されたら、迅速かつ誠実に対処することが必要です。具体的には以下の手順が考えられます。

事実関係の迅速・正確な確認

担当部署および相談窓口が設置してあれば、専門の担当者とともにパワハラを受けた、パワハラ行為をした両方の当事者と同じ職場の従業員から事実関係のヒアリングを行います。調査経過は相談者に随時報告しましょう。

調査結果の精査

総合的に情報収集し報告書を作成。顧問弁護士など専門家を加えて、パワハラの有無を
慎重に判断していきます。

適切な対応の実施

パワハラに該当すると判断した場合は、行為者に対して社内規定にそって戒告や減給あるいは降格などの適切な処分を行います。相談者(被害者)には経緯・結果を丁寧に説明し、再発防止策もあわせて伝えて、今後安心して働いてもらえるようサポートしていきます。

パワハラ社員への対応方法

前述の改正労働施策総合推進法により、パワハラに対して懲戒処分等の措置をすることが事業主の雇用管理上の措置義務の一つとなりました。パワハラの加害者に対する処分は、処分を受けた社員の側と紛争が起こりがちなため慎重に進めていきましょう。内容に応じて弁護士など専門家とも相談しながら行為者については適切な処置を検討しましょう。

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