「インセンティブ制度」を導入しようか検討しているという企業や、「インセンティブ制度」を導入しているがうまく機能しているか分からないと考えている企業は多いのではないでしょうか。制度の導入には大きなメリットがある反面、デメリットも存在します。今回は「インセンティブ制度」の導入や運用で人事担当者が知っておくべきポイントをご紹介いたします。

インセンティブ制度とは

人事制度における「インセンティブ制度」とは、端的にいうと「報酬や動機付け」という意味であり、社員のモチベーションを高めるための外部的な刺激のことですよく勘違いされるのは、金銭的な報酬=インセンティブ制度だと思ってしまうことです。それだけではなく、さまざまな取り組みのプロセスに対する表彰や結果への達成感を与えることもインセンティブとなります。リクルートワークス研究所2009年10月号、Works 96 『「私」を動かすインセンティブシステム(※)』によると

「日本企業では長期雇用の年功型は80年間続いた合理的なインセンティブシステムだった。1990年代から、成果主義を中心に欧米から輸入した報酬に直結するようなわかりやすいインセンティブシステムを導入したが、企業側の思惑通りに人は動かない。特に日本企業においてはこれまで、仕事へのやりがいや自己実現といった、数字では測りにくいものをインセンティブとして位置づけ、機能させてきた」

と記されています。このことから日本企業では、年功序列型の評価制度から徐々に業績連動型のインセンティブ制度に移行してきた歴史が分かります。また一概に報酬だけがインセンティブ制度の有効な手段ではないことが見て取れます。

※出典:リクルートワークス研究所 2009年10月号、Works 96 『「私」を動かすインセンティブシステム』5P、6P、10Pより

インセンティブ制度の種類

それではインセンティブ制度の種類にはどのようなものがあるのでしょうか。一般的には「人間の本質的な欲求」と密接に関わっていると考えられています。1つ1つ見ていきましょう。

1.物質的インセンティブ

(生理的な欲求や安全的な欲求、場合により承認欲求を満たすもの)
もっとも一般的なインセンティブ制度が、成果に対して金銭的な報酬を与えるインセンティブです。分かりやすい例でいうと、営業職で目標を達成した社員に報奨金を支給したり、固定給にプラスして1件受注するごとに〇万円を支給したりする場合です。個人単位で設定する企業もあれば、チーム単位や部署単位で設定する企業もあります。

2.人的インセンティブ

(社会的な欲求を満たすもの)
主に上司や同僚、または取引先など関りのある人の関係性がもたらすインセンティブです。対象社員に「ここなら自分は居心地がよい」という安心を与え、「この人たちのために頑張りたい」というモチベーションを引き出します。

3.評価的インセンティブ

(承認欲求や自己実現欲求を満たすもの)
成果やプロセスに対して評価を与えるインセンティブです。全社員の前で表彰を行うことや、昇進・昇格をさせることなどで評価します。評価をされた社員は「自分の働きをしっかり見てくれている」という思いが強くなり、一層貢献度が強くなります。

4. 理念的インセンティブ

(社会的欲求や自己実現欲求を満たすもの)
経営理念やビジョンにより「社会的意義のある仕事をしている」というモチベーションが源泉のインセンティブです。自分の仕事が世の中に貢献している自信が持てれば、従業員は帰属意識も強くなり、士気高く仕事が行えます。

5. 自己実現的インセンティブ(自己実現欲求を満たすもの)

仕事を通じて自己実現が叶えられるインセンティブです。「自分が成し遂げたい夢と今の仕事が繋がっている」と感じることができれば、従業員はやりがいを持ち主体的に働くことができます。

インセンティブ制度に適した職種・企業

ここではインセンティブ制度に適した職種や企業を見ていきます。まずは上記で説明した物質的インセンティブに適した職種として、業績が明確に数値化されている場合が多い営業職があげられます。特に高単価な商材を扱う不動産業界や、個人向けに通信回線や保険などを開拓していく商材の営業はインセンティブ制度をうまく活用し、従業員のモチベーションアップに活かしています。もちろん、営業職以外でも物質的インセンティブの適用は可能です。定量的にしろ定性的にしろ「なぜその人にインセンティブが与えられるのか周囲に説明できる」その条件が整えば技術職でも導入できます。表彰制度はどのような職種でも取り入れやすいので、人事は導入がしやすいです。インセンティブ制度に適した企業という観点では、成果主義の企業に適しているといえます。

インセンティブ制度のメリット・デメリット

次にインセンティブ制度のメリットを詳しく見ていきます。

従業員のモチベーション向上

インセンティブ制度は仕事に対するモチベーションを高める効果があります。特にあと一歩という時には「目標を達成すれば金銭的な報酬が得られる」という欲求や「周りの人のためにも頑張ろう」という意欲が湧いてきます。

成果が明確になる

客観的な成果を鮮明にする効果があります。入社年次や年齢に関係なく結果を出した従業員が表彰され報酬を得れば、周りにも成果が鮮明になります。会社がどのような人や行動を評価しているのか、評価基準や会社の方向性を示すこともできます。

一方、デメリットはあるのでしょうか。

意欲が下がってしまう場合もある

インセンティブ制度の度合いが高いと「頑張っても結果が出ない」という従業員は意欲が下がってしまうケースもあります。また、成果を上げ続ける従業員と成果を上げられない従業員がはっきりしてしまう場合もあります。そんな時には表彰や報酬の度合いが高くなっていないか細かな設計や微調整が必要です。

チームの関係性が悪化してしまう可能性がある

個人の実績を重視しすぎるとチームワークを阻害する可能性が出てきます。するとチーム内での情報共有ができない、営業ノウハウがナレッジ化されていないという事態が起こってしまう要因になります。「チームのインセンティブ」を検討するなどして、組織全体で成果を上げる設計が必要です。

インセンティブ制度の導入方法

次にインセンティブ制度の導入手順をお伝えします。

1.目的と対象を決める

まず、なぜインセンティブ制度を導入するのか、そしてどのような状態になれば目的が達成できたのかを決めます。「営業組織を活性化させ、昨年対比で120%の売上を達成したい」「社員のやる気を最大限に引き出し、社員満足度を10%アップさせたい」などです。ここが明確化できずにあいまいになってしまうと、効果を振り返ることができません。続いて、どの組織のどの人まで適用するのかも同時に考えます。先ほども話したように、個人への適用範囲とチームでの適用範囲など全体のバランスを見て設計を行います。

2.ニーズをくみ取ってインセンティブ内容を決める

現場と乖離があるインセンティブ制度はうまく機能しません。現場社員の声も参考にしながら金銭的な報酬を高めるのか、表彰制度などを取り入れるのか、ニーズをくみ取って決めていきましょう。具体的な内容を決める際には企業としてどの位のコストを投資して、どのようなリターンが見込めるのかしっかり検討する必要があります。

3.全社員にアナウンスを行う

導入時のアナウンスは分かりやすく丁寧に行います。目的を伝えた上で制度の詳細・具体的な内容を伝え、なるべく誤解が生まれないように努めましょう。一度導入した金銭報酬は途中で止めたり下げたりするのが難しく、モチベーション低下の悪影響が懸念されます。金銭的な報酬を出す場合はより慎重に検討します。

4.運用しながら改善していく

導入後は「業績はどうなったか」「従業員のモチベーションは変化したか」をチェックしていきます。モチベーションの変化は数値化するのが難しいため、直接アンケートなどを取るのがよいでしょう。結果が伴っていないと判断した場合は改善を行いますが、インセンティブ制度は短期的に修正するのが難しいので、場当たり的ではなく「こうなったら、こう変更する」と事前に考えておくとよいです。

インセンティブ制度の導入事例

それでは、具体的でユニークなインセンティブ制度の導入事例を3つご紹介いたします。

フォルシア株式会社

情報検索プラットフォームなどを開発しているフォルシア株式会社。会社の利益に貢献した社員に、フェアに利益の一部を分配したいという想いから生まれた3C制度。会社への貢献度Contribution、業務に対する責任感・献身度Commitment、会社への安定的関与Consistency、これら3つの”C”に基づいて、3C対象者全員に「あなたに総額◯◯◯◯万円のボーナスを自分を除く3C対象者に分配する権限があったとしたら、それぞれにいくらずつ分配しますか」というシートにそれぞれ分配額を記入してもらいます。この結果を集約し特別賞与額を決定。対象社員に支払います。少数による恣意的な分配額の決定ではなく、一緒に働く社員間の相互評価を大切にした結果の独自のインセンティブ制度です。本当にフェアである為には、「どのように評価するか」が最も重要なポイントだと考えるフォルシア株式会社ならではの取り組みです。

出典:フォルシア「評価制度」

※本事例は、公開日時点の内容になります。

株式会社カヤック

カヤックでは少し変わったインセンティブ制度を導入しています。社員は毎月サイコロを振って給料を決め、「月給×サイコロ出目の%」が、+αとして支給されます。たとえば、月額30万円の人が、サイコロで6をだしたら、30万円×6%=1万8千円が賞与に+αで支給されるということです。これはカヤックが、「面白がって働く人を評価する会社」としているからで、評価制度こそが社風をつくると考えられているからです。

出典:カヤック「サイコロ給とスマイル給」

※本事例は、公開日時点の内容になります。

株式会社リクルート

株式会社リクルートは従業員が自発的に新規事業を創造する風土の育成・イノベーション機能強化を目的として「Ring」を行っています。「Ring」は、3名以上のグループであれば社外メンバーの参加も認められています。

出典:リクルート「Ring」

※本事例は、公開日時点の内容になります。

インセンティブ制度を導入する際の注意点

インセンティブ制度を導入する際にはどのような点に注意すべきでしょうか。導入方法でも示した通り、目的と対象を明確化し、社員のニーズをくみ取ってインセンティブ内容を決めることが大切で、公平性の視点が欠かせません。たとえば、営業職で月間の金銭的な報酬を用意する場合、チーム目標も月間で連動しているか?一人だけが達成した場合はそれでよいのか?などを考慮する必要があります。反対に個人報酬がチーム報酬より低い場合も実は不公平感を生んでしまいます。目標を大きく達成した人から見たら「次からは誰かが頑張ればいいや」と思ってしまう可能性もあります。正解はありませんが、長期目線で改善を続け、個人が輝き組織としてモチベーション高く働けるインセンティブ設計を考えていく必要があります。

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