企業の人事は、従業員のパフォーマンスを高めるための様々な役割を担っており、従業員のストレスやメンタルヘルスにどう対処していくかもテーマの一つになってきています。近年注目されているキーワードが、「コーピング」。この記事では、「ストレッサー」「問題焦点コーピング」「情動焦点コーピング」など、コーピングにまつわる用語を交え基本から解説。研修や制度など、実際のアプローチ手法も紹介します。

コーピングとは

ストレスコーピングとは

コーピングという言葉は、英語で「うまくやる、対処する」という意味の言葉、copeに由来します。つまり、ストレスコーピングとは、ストレスの対処をうまくすること。人は、過剰なストレスが慢性的にかかると心身に様々な悪影響を及ぼす場合があります。コンディションが悪化した状態で業務を続ければ、パフォーマンスの低下やミスの多発といったリスクも高まるため、企業が従業員のストレスコーピングを支援することは、個人の健康はもちろん事業運営上も軽視できない観点になっています。

ストレスの原因と仕組み

では、そもそもストレスとは何が原因でどのように発生するものなのでしょうか。厚生労働省が運営する健康情報サイト「e-ヘルスネット」によれば、ストレスとは「外部からの刺激などによって体の内部に生じる反応(ストレス反応)」と定義されています。この外部からの刺激(ストレッサー)こそストレスの原因。ストレッサーにはさまざまなものがあり、物理的な痛みや不快感を伴うものもあれば、病気や飢え・睡眠不足などの生理的なもの、職場や家庭の人間関係における不安・緊張・恐怖・怒りなどの心理的・社会的なものもあります。特に近年は職場における過重労働やハラスメントの問題など、心理的・社会的ストレッサーによる悪影響に真剣に向き合うことが、企業に求められています。

また、同じストレッサーによる刺激でも、受け止める人によって反応はさまざまで、同一人物でも時と場合によって感じ方は異なります。適度な緊張感を保って仕事に取り組める人もいれば、過度にプレッシャーを感じて本来の能力を発揮できない場合もあります。つまり、ストレッサーは良いストレスにも悪いストレスにもなるということ。そのため、ストレッサーやストレス反応をうまく制御し、心身への負荷を減らしたり良いストレスへと促したりするための、ストレスコーピングが大切になります。

出典:厚生労働省「生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット」ストレス(2021年)

コーピングの種類

上述の厚生労働省「e-ヘルスネット」では、ストレスコーピングの方法は、大まかに「問題焦点コーピング」と「情動焦点コーピング」のふたつに分けられるとしています。

問題焦点コーピング

問題焦点コーピングとは、問題=ストレスの原因であるストレッサーそのものに働きかけること。例えば対人関係が原因で心身に悪影響を与えている場合に、相手に働きかけたり、相手と距離を取る(関係を断つ)ことでストレッサーを低減させたりすることも問題焦点コーピングのひとつです。また、短納期・低予算といった業務遂行の条件が過度なストレスになっている場合に契約内容の変更を交渉するなど、ストレスの根本となっている原因を変化させることが問題焦点コーピングの特徴です。

情動焦点コーピング

情動焦点コーピングとは、情動=ストレッサーに対する自身の反応を変えること。例えば対人関係が原因でストレスを感じている場合に、相手の言動のネガティブな側面を見るのではなく、ポジティブな側面に目を向けてみる。難易度の高い仕事を任されたときに、「無茶な仕事を押し付けられた」と考えるか、「会社から期待されている」と捉えるか。考え方や感じ方を変えることで、ストレスを制御するのが、情動焦点コーピングの特徴です。

このように、問題焦点コーピングと情動焦点コーピングは対照的なアプローチです。問題焦点型は、原因そのものを取り除こうとするため、本質的な問題解決に近づくことが見込めますが、他者や周囲の環境に働きかけることが必要なため、それなりの労力がかかりますし、どうしても変えられないこともあります。

対する情動焦点型は自己に対するアプローチであるため、ストレッサーそのものに働きかけられない場合でも効果を発揮することが可能です。その一方、良くも悪くも「自分の気持ち次第」であり、問題の原因であるストレッサーは残り続けます。メリット・デメリットを理解し、状況に応じて使い分けることが賢明です。

出典:厚生労働省「生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット」ストレスコーピング

企業が実践できるストレスコーピング

従業員自身がストレスに対する反応・行動の自分の傾向を知る

上述の通り、同じストレッサーでもストレス反応は人によってさまざまです。そのため、全員一律の対応を行うことは難しく、ある程度のセルフコントロールや個別対応をしていくための指針になるものがある状態を目指すと良いです。その足掛かりとなるのが、ストレスコーピングテストなどによって、一人ひとりのストレス耐性やストレス反応の傾向を明らかにすること。自分自身の癖を知れば、ストレッサーに接したときの反応を意識的に変えやすくなります。また、上司が部下それぞれの特性を考慮しながら業務を任せたり、ストレスを抱えているときのアプローチを変えたりすることにも役立ちます。

定期的なストレスチェック

過度なストレスを抱え続けると心身の不調となって現れ、休職や離職に発展しかねません。しかし、ストレスの悪影響は、ストレスを受ける本人ですら、深刻な状況になるまで無自覚であり、明らかな変化が起こるまで客観的に察知しにくいケースがあります。そのため、手遅れになる前に変化の予兆を発見できるかが大切。厚生労働省では、「労働安全衛生法」の改正により、2015年12月から労働者が50名以上いる事業所では、毎年1回のストレスチェックをすべての労働者に対して行うことを義務付けています。また、民間でもモチベーションサーベイなど、従業員のコンディションを可視化する
サービスが多数リリースされており、法律上の義務の範囲を越えて定期的なストレス
チェックを行うことが注目されています。

気軽に相談できる窓口・メンターを設ける

ストレスは他の病気の予防と同様に、ごく初期の段階で対処できれば、深刻な事態になることを避けられます。そのため、「ちょっとしたことでも気軽に相談できる相手がいるかどうか」はストレスコーピングにも影響する要素。例えば新入社員には上司や同じ部署ではない先輩をメンターにつけることで、評価や日常の人間関係を気にせず相談できるようにすることも解決策の一つです。また、何かあったときに相談者の不利益にならないような相談窓口を設けることも大切です。

長時間労働・ハラスメント対策を行う

職場における深刻なストレスの原因として挙げられるのが、「長時間労働」と「ハラスメント」です。これらをきっかけに、精神疾患の発症・過労死・自殺などが繰り返し起きたことを受け、国も規制の強化に乗り出しています。企業も防止・根絶に向けた対策が求められており、発生させないためのマネジメント研修や職場での啓蒙活動、万が一発生した場合の対応などを整えることで、安心・安全な環境をつくることが重要になっています。

企業のメンタルヘルス研修

近年では、社員研修にメンタルヘルスの要素を取り入れるケースが増えています。対象は、新人向けから管理職向けまで幅広く、自身でストレスコーピングしていくためのセルフケアの方法から、部下や周囲の人々への接し方・対応の仕方を学ぶものまで様々です。

なかでも管理職は部下に業務を任せ、業務を評価・指導し、日々の相談に乗る立場であることから、メンタルヘルスの鍵を握る存在。「どのような点に気を付けて部下を見れば良いのか」「心身に不調を抱えている部下に、どう対応して良いのか分からない」といったことに迷いやすいため、メンタルヘルスについて正しい知識を学ぶ機会を設けると良いです。

また、メンタルヘルスの問題は全員に適応できる正解はないからこそ、部門の責任者だけに任せるのではなく、人事はもちろん産業医など外部の専門家の力を借りながら対応していくことが欠かせません。ストレスを抱えている当事者はもちろん、それに対応している上司も一人で抱え込ませないことが、メンタルヘルス対応の鉄則だと言えます。

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