経営環境の変化の速度が早まっている現代社会において、即戦力人材の採用に対する企業のニーズが高まっています。このような状況下で、一度会社を退職した社員を再雇用する「出戻り社員」の採用が注目を浴びています。今回はこうした出戻り社員の採用に関するメリットや、採用する際の注意点などについて解説します。

出戻り社員とは

出戻り社員とは、何らかの理由で退職したものの、再び雇用された社員のことです。一度企業を辞める選択をした人の中には、「育児や介護など家庭の事情によってやむを得ず離職したけれど、状況が変わったので今は働ける」「異なる環境で働いてみて、自分には前職が合っていると認識できた」など、以前勤めた企業で再び働きたいと考えている人が一定数存在します。こうした人のニーズに着目し積極採用を行うことを、「出戻り採用」「カムバック採用」などということもあります。

出戻り社員が注目されている背景

終身雇用が当たり前の時代は転職をすること自体が珍しく、出戻り社員の採用を否定的に捉える風潮もありました。しかし、現代は少子高齢化にともなう労働力人口の減少によって社会全体が慢性的な人手不足に陥っています。人材の流動化が進み、新たな人材確保の難易度が高まってきていることを背景に、一度企業を退職した人たちにも目が向けられるようになってきました。

働く個人の変化としても、人々が企業や仕事を変えることは以前に比べて一般的になり、女性の社会進出も進んでいます。キャリアを中断して大学院などに進学するケースや数年間育児に専念し落ち着いてから再び働き出すケース、起業や副業へのチャレンジなど、キャリアの選択肢は多様化しました。一直線に進んでいくキャリア以外にもさまざまな道が認められるなかで、かつて在籍していた企業に戻るという選択肢も前向きに捉えられるようになっていると考えられます。

出戻り社員を採用するメリット

出戻り社員を採用するメリットはさまざまですが、代表的なメリットは以下の通りです。

業務知識があり、戦力化が早い

出戻り社員は自社で働いた経験があるため、一般公募で採用をする場合に比べてスキルや知識の合致度が高いのが特徴です。業界・職種に関する知見があるのはもちろんのこと、自社特有の仕事の手順を熟知していたり業務に用いるツールやシステムなどにも慣れている場合が多いため、即戦力に近い形で採用ができ、育成にかかるコスト・手間も最小限に抑えやすい傾向にあります。

企業の風土・カルチャーに馴染みやすい

スキルや知識と同様に、企業風土を熟知しているのも出戻り社員を採用するメリットの一つです。社風は言葉で伝えることが難しい要素であり、実際に働いてはじめて実感する人が多いでしょう。一般の採用では、社風や組織の気質が合わずに早期離職につながるケースも少なくありません。その点、出戻り社員は企業のカルチャーを肌で感じて理解したうえで、改めて入社を希望する人材であり、企業風土のミスマッチが起こる可能性は低い傾向にあります。

採用コストを抑えられる

出戻り社員の採用では、本人と企業間での相互理解が得られた状態で採用が行われるので、採用にかかる工数が出戻り社員以外の人を採用するよりも少なくて済むのが特徴です。また、過去に接点があった関係だからこそ容易にアプローチできる場合が多く、採用コストを抑えた募集や採用を行うことができます。

※採用コストに関しては、以下の記事をご参照ください

採用コストの平均は?新卒・中途の一人当たりの金額と削減方法を紹介

出戻り社員を採用するデメリット

著者の周囲でも出戻り社員の採用に前向き企業が増えてきました。これらの企業で出戻り社員を実際に再雇用した後にどうなったか、その様子を聞くと、出戻り社員ならではのデメリットも存在することがわかります。主なデメリットは、以下の2点に整理することができます。

過去の経験が邪魔をして、今のやり方に適応できない可能性がある

企業は常に変化しているため、出戻り社員がかつて在籍時代に経験したことが、そのままでは通用しないことも珍しくありません。退職してから再び入社するまでの期間が長ければ長いほど、在籍時代の経験が通用しなくなる可能性は高まります。その場合でも、本人が新しいやり方を学び適応しようとしてくれれば問題ないのですが、過去のやり方やルールを引きずり、学び直しを邪魔してしまう場合もあります。

現役社員から不平不満が出るリスクがある

出戻り社員を採用する際、過去の実績や他社で得た経験を加味して、相応の役職・ポジションで入社してもらうこともあります。しかし、本人の実力やポテンシャルだけを見て決めるのではなく、現役社員からどのように見られるかに対する配慮も必要です。自社で努力を続けた経験を認めてもらえていないと感じることで、現役社員のモチベーションが著しく低下してしまうリスクがあります。

出戻り社員を採用する際の注意点

自社の業務や文化をよく知り、定着化も期待できる出戻り社員に力を発揮してもらうためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。著者が見聞きした例を踏まえた、注意点は以下の通りです。

在籍時からの良好な関係づくり・円満退社が大前提

出戻り社員に活躍してもらうためには、前提として再雇用を受け入れてもらう必要があります。しかし在籍時の企業に対する印象が悪いと、採用の依頼に応じてくれる可能性が低くなります。したがって出戻り社員の採用を成功させるためには、在籍時の企業に対する印象をよくすることが重要です。

企業の施策として、従業員満足度や従業員エンゲージメントの向上に努めることは、社員との関係性をよくしてパフォーマンスを高めるだけでなく、退職した社員に「また戻って働きたい」と思い出してもらえる効果も生まれてきます。また、退職の申し出を行った社員に対して最後まで丁寧なコミュニケーションを心掛け、円満退社という印象で送り出すことも大切です。

先入観で相手を見ない

出戻り社員の過去の経験は、採用する側が人物を正しく評価する妨げになってしまう場合もあります。過去在籍していた時の実績を持ち出すことで過大評価を行い、あるいは退職後の経験を考慮せずに過去在籍していた時の印象だけで過小評価するなどの事態を防ぐために、かつての実績や印象は参考にしつつ、あくまでも今現在の実力や仕事への姿勢・業務における価値観などを客観的に確認したうえで評価することを意識する必要があります。

出戻り社員の具体的な採用方法

出戻り社員の採用を成功させるための主な施策をご紹介します。

アルムナイネットワークの構築・活用

アルムナイ(alumni)とは、英語で卒業生、同窓生を意味する言葉で、ビジネスシーンでは退職者を指します。つまり、アルムナイネットワークとは退職者同士もしくは退職者と現役社員とのつながりや交流を意味します。あらかじめ退職者とのネットワークやコミュニティを形成しておくことで、採用ニーズが発生すれば速やかに情報発信を行うことができます。つながりを持ち続けておくことで、本人が再び退職前の企業で働きたいと思ったときにも、企業に再雇用の相談をしやすくなります。

時短勤務や副業・業務委託などの可能性も柔軟に検討する

育児や介護などを理由に退職した社員の場合、働く時間や場所の条件が出戻りの大きなハードルになる可能性があります。そのため、時短勤務や日数を限定した勤務、在宅勤務や、フレックスタイム制などを可能とするなど、勤務条件を見直すことが出戻り採用の成功確率を高めることにつながります。また、独立・起業した人であれば、パートナー企業として業務委託契約を締結したうえで業務を依頼することや、転職をせずに副業として協力してもらうことも選択肢の一つです。一度退職をしている人だからこそ、雇用関係を続けられなかった何らかの理由があることを念頭に、柔軟に対応することが必要です。

出戻り社員を受け入れるときのポイント

親しき仲でも特別扱いしすぎない

出戻り採用は、出戻り社員以外の人を採用するよりもお互いを知っている状態で選考が行われるため、書類選考の免除や面接回数の短縮などの効率的な採用をしやすいメリットがあります。その一方で、確認のプロセスを省略してしまうと、入社後に「話が違う」「それは聞いていなかった」といった行き違いが発生するリスクがあります。旧知の仲だからということを理由に口約束で採用に関する話を進めるのではなく、労働基準法第15条で書面での明示が義務づけられている労働条件などをはじめとした重要な確認事項は慎重に確認しあう必要があります。

※出典:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」

今の職場に上手く馴染めるかを考慮

出戻り社員は、個々の社員とも少なからず関係性のあった人達です。その人材が戻ってくると、ほかの社員にどのような影響があるか考慮した方がよいでしょう。

たとえば、「かつての先輩・上司をマネジメントしなければならなくなった」など、昔の人間関係が尾を引くことが今後のマネジメントに悪い影響を与えることもあります。人間関係も考慮したうえで配属先を決定し、配属前に出戻り社員と配属先の双方との間で丁寧にコミュニケーションを取ることが大切です。

出戻り社員を活用している企業を紹介

以下に著者が過去に関わった出戻り社員を活用している企業の事例をご紹介します。従業員250名の事務機器などの販売を行っているA社は、以前より退職者の出戻りを歓迎するという方針を打ち出しており、社員にもそのことを周知しています。また、各々の部門が実施する社員同士の食事会などに退職者が参加することも許容しています。

そのため、自分自身に対する人事評価への不満や他社との処遇比較などを理由に退職した社員が出戻る事案がいくつもありました。

A社は、出戻った社員は、原則退職前の業務に配置しています。再雇用をした際に退職前の業務が存在しない場合であっても、退職前の業務に類似する部分があり、本人の実績が活かすことのできる業務に配置しています。

A社は、出戻り社員が前職で培ったスキルや経験を活かせるような環境をつくることで、社員満足度や業績の向上を実現しています。A社に関しては、出戻り社員が再雇用後に能力を発揮し成長することで、管理職や取締役に昇進した事案も少なくはありません。

企業の存続には、経営環境の変化に対応するための経営の計画や戦略を経営者が策定し、それを確実に実践することが大切です。そのためには、最適な人材を組織に配置する必要があります。こうした最適な人材の配置を行ううえで、即戦力人材の確保にもなり得る「出戻り社員」の雇用は重要な施策の一つです。

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