休職は、労働基準法などでは明確に定義されておらず、休職制度を導入するかどうかは企業それぞれの判断に委ねられています。そこで今回は、休職と欠勤の違いといった基本的な知識から、傷病手当金(休職手当金)の条件、給与や社会保険に関する会社側の対応、休職中の社員との連絡を取る際の注意点など、人事が知っておくべきことを紹介します。

休職とは

休職とは

休職とは、業務外でのケガや病気などにより従業員が長期的に会社を休みたいと申し出た場合、労働契約が継続されながらも業務につくことを免除される制度です。労働基準法では、休職についての明確な定義はなく、制度として導入するかどうかは企業の判断に委ねられています。

休職と欠勤の違い

休職と欠勤には、労働義務に関する違いがあります。
会社と従業員の間には「従業員は会社の指示に従って働き、会社はその対価として定めた給与を支払う」という労働契約が結ばれています。つまり、従業員には、会社の指示を受けた「労働義務」があるといえます。

休職は、企業の就業規則に定められた事由に該当した場合に労働義務の免除が従業員に認められるものです。一方で欠勤は、労働義務のある日、つまり労働義務の免除が認められていない日に自己都合で仕事をせず、労働義務を履行していないことになります。
欠勤の場合は、従業員には労働の対価である給料は支払われません。これは、休んでも給料が得られる有給休暇とも異なります。

休職が認められるケース

休職は企業独自の制度になりますので、認められる理由の内容は企業によって異なりますが、主に次のようなケースが挙げられます。

1.傷病休暇

傷病休暇には、「私傷病休暇」と「公傷病休暇」の2種類があります。
従業員が会社の業務とは関係がない病気や怪我が原因で長期間仕事ができない場合は、「私傷病休暇」に該当します。休職の際には医療機関で診断書を書いてもらい、企業に提出するのが一般的です。また、傷病が原因で休職した場合には、一定の条件を満たせば傷病手当金が支給されます。
一方、「公傷病休暇」とは業務中の負傷や疾病によって長期の休みを取ることで、労働災害(労災)による休職の扱いになります。公傷病休暇に該当する場合は、労働基準法による休業中の補償規定に沿って対応することになりますので、企業は注意が必要です。

2.自己都合休職

会社からの指示ではなく、従業員個人の希望で留学やボランティア参加などにより業務を一定期間休む場合は、自己都合休職となります。一定期間の留学の場合、本来ならば「退職」という選択肢を取るケースも少なくありませんが、会社側が自己都合休職を認めることで、留学で習得した能力を活かして再び自社で活躍してもらうというメリットが生じます。また、従業員のモチベーションやスキルアップ、対外的なイメージアップのためにボランティアによる休暇や休職を認め、その間の給与や賞与を補償している企業もあります。

3.公務休職

議員に選出されるなどの「公職への就任」のために休職することを、公務休職といいます。
労働基準法による公民権行使の保障はあるものの、公職就任で長期間労務の提供自体ができない場合などに、企業と従業員の双方でよく話し合った上で、公職休職扱いとするケースがみられます。

4.事故休職

勤務外の事故により長期間にわたり休職することを、事故休職といいます。従業員が刑事事件を起こし逮捕・拘留され、長期欠勤する場合も適用される場合があります。

5.起訴休職

従業員がなんらかの犯罪の嫌疑を受けて起訴され、一定期間自宅などで待機する必要がある際は、起訴休職扱いとなります。
ただし、過去の裁判例では起訴の事実だけでは起訴休職を認めておらず、起訴により企業の社会的信用が失墜し、職場秩序に支障が生じるおそれがあるなど、休職命令に合理的な必要性が認められなければ、無効になる場合もあります。
また、起訴休職は、なんらかの非行を対象とする処分である点で懲戒処分に近似する措置となりますので、企業には懲戒処分との間で著しい不均衡を生じさせず、バランスを取った対応を取ることが求められています。

6.組合専従休職

労働組合の役員業務に専念するために休職する場合、組合専従休職扱いとなります。
なお、組合専従者とは、労働組合の活動に専念する者のことで、原則として労働組合が労働基準法上における使用者になります。
企業が在籍専従者に給与を支払うことは、労働組合に対する経理上の援助にあたり、労働組合法で不当労働行為として禁じられているため、専従期間中は休職とされるのが通例となっています。

7.出向休職

従業員が出向元との雇用関係を維持したままグループ会社や関連会社に一時的に出向する場合、出向元はその出向期間を「出向休職」として扱います。休職には、出向元に籍を残す在籍出向と、籍ごと移す転籍出向がありますが、前者の場合に出向休職を適用します。

傷病手当金(休職手当金)とは?

傷病手当金とは、業務外で病気やケガの療養のための休業中に、健康保険の被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた公的な制度で、要件を満たせば健康保険から所定の手当金を受け取ることができます。

支給する条件

支給する条件は、

  1. 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
  2. 仕事に就くことができないこと
  3. 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  4. 休業した期間について給与の支払いがないこと
    の4つです。

傷病手当金(休職手当金)がもらえる期間は?

傷病手当金が支給される期間は、同一の疾病・負傷に関して、支給開始日から最長1年6ヵ月となります。その間に仕事に復帰した期間があった場合、その復職期間も1年6ヵ月に含まれる点に注意が必要です。
なお、支給開始後1年6ヵ月を超えた場合は、たとえ仕事に就くことができない場合であっても傷病手当金は支給されません。

支給額は?

1日あたりの支給額は、「1日につき、直近12ヵ月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額(※)」です。イメージとしては、1日あたりの報酬の3分の2程度を想像すると良いでしょう。

※引用:厚生労働省保健局「傷病手当金について」(令和2年3月26日)

実際の計算例から内容を確認してみます。
過去1年のうち、10ヵ月分の標準報酬月額が28万円、2ヵ月分の標準報酬月額が30万円だった従業員の場合は、以下の計算式で算出することになります。

(1)傷病手当金が初めて支給される月以前の直近1年間の標準報酬月額の平均値
(28万円×10ヵ月+30万円×2ヵ月)÷12ヵ月=283,333.333
(2)(1)の平均値÷30日(日額を算出)
283,333.333÷30日=9,444.444 ※10円未満は四捨五入するため、9,450円
(3)(2)の額の3分の2(支給額を算出)
9,450円×2/3=6,300円 ※1円未満は四捨五入する

※上記の計算は、基本的な内容であり、会社の裁量によって報酬が支払われた場合は傷病手当金が差し引かれる場合がありますので、ご注意ください。 

休職時の給与や社会保険の対応方法

休職中の給与は、「ノーワーク・ノーペイの原則」によって休職期間中の賃金を無給とするケースが一般的です。「ノーワーク・ノーペイの原則」とは、従業員が「労働」を提供していない場合、つまり働いていない場合、使用者はその部分についての賃金を支払う義務はないという、給与計算の基本原則のことを指します。
しかし、各社の就業規則によっては、休職中でも一定の割合分の給与を支給する場合があります。このようなケースにおいてもしも傷病手当金の支給があった場合は、支払われた給与の日額が傷病手当金の日額よりも少ない場合に限り、傷病手当金と給与の日額との差額分が支給されることになります。

また、休職中でも社会保険料は免除されないため、会社・従業員の双方に保険料の支払い義務が発生し、負担額は通常勤務の従業員と同額となります。
通常は給与から社会保険料を天引きしていますが、休職中は無給としている会社が多く、従業員が社会保険料を支払い続けるのが困難になるケースがあります。
しかし、会社が立て替えた場合、万が一復職できないまま退職してしまうと立て替えた分の回収ができなくなる可能性もあり、リスクが大きいのも現実です。トラブルを未然に防ぐためにも、予め会社と従業員との間で取り決めを交わし、就業規則等に明記しておくことをおすすめします。

休職の手続き方法

休職者が発生した場合は、まず従業員を診察した医師の診断書を取り寄せます。従業員がどのような状況で、なぜ業務にあたれないのかを判断するための重要書類となりますので、できるだけ入手する方が効果的です。

診断書を入手した後は、その内容をもとに会社と従業員が話し合い、具体的な休職スケジュールを設定します。
まずは会社側が社内の休職制度についてあらためて説明を行い、従業員に理解をしてもらいます。休職制度の詳細内容は前述の通り会社側の裁量にゆだねられているため、従業員が制度の内容を把握するためにあらかじめ就業規則を周知させておくなどの措置が必要になる点に注意しましょう。
具体的には、休職の申し出方法や会社で認めている休職期間、期間中の従業員の待遇や賃金、賞与などの扱いなどを一つずつ確認していくことになります。

休職中から復職までに必要な会社側の対応

休職していた従業員が安心して復職をするためには、会社側のサポートが必要不可欠です。しばらく職場から離れていた従業員は、当然ながら出社の際に不安や緊張感を抱くものです。従業員の不安感を取り除くため、従業員が休職している時期から復職支援策を立てておくことが効果的です。

具体的には、復職時のサポート体制の整備や復職者のポジション確認などが挙げられます。必要に応じて配置転換を行う方法や、定期的に上司と面談を行う方法などのフローを整えておきましょう。

なお、従業員の復職にあたり、担当医との連携も必要になります。従業員の心身に負担をかけずにスムーズに職場復帰ができるよう、医師と相談しながら慎重に進める方法が求められます。会社側も従業員側も少しでも早く元の生活に戻れるよう心がはやるかもしれませんが、少しずつステップを踏んでいくことが、その後安定して仕事を行うための方法であるといえます。

休職中の従業員との連絡について気をつけるべきこと

休職中の連絡方法は、連絡が取りやすく、個人の状態により負担がなるべく少ない方法を休職前に話し合っておくことをおすすめします。
また、休職中の従業員は、労働を免除されており、労働提供義務を理由として報告を課すことはできませんので、就業規則に休職中の報告を義務付ける条文を入れておく方法もあります。

ただし、療養目的の場合は、じっくり休める環境を作るためにも、休職中の事務手続きや定期的な状況把握など、必要最低限の連絡に絞ることも大切です。また、人によって伝える内容や対応が異なることで混乱を招くことがないよう、休職中の従業員とのやり取りを記録に残し、窓口担当者間で共有しておくことも忘れないようにしましょう。

ここまでの項目で休職についてご説明をしてきましたが、前述のとおり、休職制度は法律によって定められたものではありません。導入する場合は、事前に休職に関する対応方法をまとめ、就業規則や労働協定に明記しておくことが、トラブルを未然に防ぐことにつながります。

(https://theshabazzcenter.org/)

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