現在では、毎月定期的に支給される給与とは別に、年に数回、企業が従業員に対して賞与(ボーナス)を支給する慣習が定着しています。賞与に対する従業員の期待も大きく、モチベーションを維持する要因ともなっています。
このように賞与は、雇用維持において欠かせない要素となっていますが、保険料の扱いなど、具体的な手続きについては曖昧な方も多いのではないでしょうか。この記事では、賞与の種類や賞与額の基準、社会保険料の計算方法などについてご紹介します。

賞与(ボーナス)とは

一般的に、賞与(ボーナス)とは、賞として特別に与えられる金品のことをいいます。

賞与とは

雇用における賞与とは、毎月定期的に支給される給与(基本給や各種手当など)とは別に、あらかじめ定められた所定の時期に支給される賃金のことをいいます。

給与との違い

給与は、法律上、毎月支給することが義務付けられています。

支給日や支給額などをあらかじめ就業規則や個別の雇用契約書で定めた上で、それに基づいて支給するのが給与です。

一方、賞与に関しては、法律上支給しなければならない義務はありません。

就業規則や個別の雇用契約書であらかじめ定められている場合は、企業に支給する義務が生じますが、具体的な支給日や支給金額は、企業が任意に決定できます。

ボーナスとの違い

ボーナス(Bonus)とは、賞与という言葉を英語で言い換えた表現であり、内容は前述の賞与と同じです。

ヨーロッパでは古くから「よい成果を上げたときの特別報酬」として従業員にボーナスを支給する慣習があったとされ、そのことにより、日本でもボーナスという言い方が定着したといわれています。

アルバイト・パートにも賞与は支払う?

アルバイト・パートに対して賞与を支給するかどうかは、企業が任意に決定できます。
就業規則や個別の雇用契約書でアルバイト・パートにも賞与を支給することが定められている場合は、支給する義務が生じます。

一般的には、本人のがんばりや勤続年数、会社の業績に応じて、賞与の支給時期に金一封程度の金額をアルバイト・パートに対して支給する例が多く見られます。

なお、アルバイト・パートに対する賞与に関しては、「同一労働同一賃金の原則」に留意する必要があります。

同一労働同一賃金の原則とは、企業への貢献が同一である正社員と非正社員との間で合理的な理由のない処遇格差を設けてはならないとする法律です。

企業に対する貢献度は、担当する職務の内容や責任の程度、配置の範囲などから判断されます。

仕事内容が正社員と同一であり、貢献内容が正社員と同等とみなされるアルバイト・パートに関しては、正社員に準じた賞与を支給することが望ましいでしょう。

出典:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」

賞与の種類

賞与には、一般的に「基本給連動型賞与」「業績連動型賞与」「決算賞与」「寸志」という4種類があります。

基本給連動型賞与

基本給連動型賞与とは、毎月支給される給与のうち、基本給部分に連動して賞与の支給額を決定する制度です。

「基本給額×○カ月分(支給月数)」という形で、従業員それぞれの賞与支給額が決定されます。

支給月数は全従業員一律が一般的ですが、個人の評価に応じて差を設ける企業もあります。

業績連動型賞与

業績連動型賞与とは、企業の業績を基準に賞与の支給総額を決定し、その範囲内で個人の評価に応じて賞与支給額を決定する制度です。

そのため、従業員それぞれの賞与支給額が「基本給額×○カ月分」という形にはなりません。賞与支給額の差が、基本給連動型賞与よりも大きくなるのが一般的です。

基準となる業績には、営業利益や経営利益が用いられることが多いと考えられます。

決算賞与

決算賞与とは、決算時期に明らかになった企業の業績に応じて、決算時期に賞与を支給する制度です。従業員への利益還元という意味合いがあります。

また、「事業年度終了日に従業員それぞれの支給額が決定している」「事業年度終了日の翌日から1カ月以内に支給する」という二つの要件を満たした場合、その期の損金として認められるため、節税対策として決算賞与を支給する企業も多く見られます。

寸志

寸志とは、特定の時期に、金一封程度の賞与を支給する制度です。

企業の業績が悪い場合に従業員に対して気持ち程度の賞与として寸志を支給するケースや、企業の業績が好調な場合に通常の賞与とは別に従業員に対して特別な賞与として寸志を支給するケースなどがあります。

賞与の支払時期・支払日

賞与の支払時期や支払日は、企業が任意に決定することができます。

支払時期

就業規則や個別の雇用契約書であらかじめ賞与の支払時期が定められている場合は、その時期に支給します。

定められていない場合は、企業が支払時期を任意に決定することができます。
一般的には、夏休みを迎える直前の7月と、年末年始の休暇を迎える直前の12月を支払時期とすることが多いです。

支払日

賞与の支払日は、支払時期の中で企業が任意に決定することができます。
支払日は、毎年同じである必要はありません。

一般的には、資金繰りへの影響を少なくするために、賞与支給月の所定給与の支払日とは別の日を支払日とすることが多いです。

賞与額の基準・決め方

企業によっては、社長が独断で従業員各人の賞与支給額を決めている企業もあるようです。しかし、支給額を決定する基準を明確にした上で社内に周知するほうが、従業員の納得性は高まるでしょう。

以下に、一般的な賞与支給額の決定方式を解説します。

基本給連動方式

従業員それぞれの基本給額に支給月数を掛け合わせて、賞与の支給金額を決定する方式です。

「各人の賞与支給額=各人の基本給額×全従業員共通の支給月数」という形で決定されます。
基本給額は過去からの企業経営に対する貢献や能力向上への評価が蓄積された結果であり、それを基準にして賞与を支給するべきだという考え方に基づいた運用といえます。

等級・役職ごとの均等方式

等級や役職ごとに同一の賞与金額を支給する方式です。

等級とは仕事のレベルや仕事で発揮することのできる能力などを基準にした職務階層のことであり、役職というのは部長や課長などの職位のことです。

等級や役職と企業の経営に対する貢献度合いが比例するという前提に立った上で、賞与支給額に差を設けるべきだという考え方に基づいた運用といえます。

等級・役職ごとの支給基準×個人評価方式

等級や役職ごとの支給基準に、個人の評価を掛け合わせて、賞与の支給金額を決定する方式です。

計算式は、「各人の賞与支給額=等級・役職ごとの標準支給額×個人評価による支給係数」となります。

こうすることで、等級や役職が同じであっても、賞与の支給額に差が生じます。

個人評価は、仕事の成果や業績への貢献度、能力向上による今後への期待度などを基準に行うケースが多いと考えられます。

上位の等級・役職の職務を担い、かつ評価期間中の貢献や今後への期待が大きい従業員に賞与を多く支給するべきだという考え方に基づいた運用といえます。

勤務日数に基づく控除

中途入社や欠勤などで賞与評価期間中の勤務日の一部を勤務しなかった場合、その期間を控除して賞与を支給する企業もあります。

たとえば、賞与評価期間の勤務日の合計が120日間であった場合、中途入社で80日間勤務した従業員に対して、本来の賞与支給額に80/120を掛けた金額を支給します。

なお、有給休暇や育児・介護休業の取得などを理由にした不利益な取り扱いは、法律で禁じられています。有給休暇の使用日に関しては通常勤務したものと見なし、育児・介護休業に関しては、勤務日数に応じて賞与を支給するなどの対応を取る必要があります。

平均的な賞与の支給額とは

賞与の平均的な支給額は、従業員規模や業種によって異なります。

従業員規模による差

政府が毎月実施している勤労統計調査の結果によると、2021年の年末賞与に関して、従業員数5名以上30名未満の企業の平均支給額が18万7,868円、従業員数1,000名以上の企業の平均支給額が68万2,696円と、3倍以上の差が存在します。

出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査/全国調査/年末賞与/2021年」

業種による差

事業規模が同じであっても、業種による平均支給額の差が存在します。

2021年の年末賞与に関する勤労統計調査の結果によると、従業員数5名以上30名未満の企業の場合は研究に関する業種、通信業、機械設計業などの平均支給額が高く、従業員数1,000名以上の企業の場合は不動産業、建設業、電気機械器具卸売業などの平均支給額が高い結果になっています。

出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査/全国調査/年末賞与/2021年」

賞与支払い時の手続きと流れ

賞与にも社会保険料が発生するため、賞与を支給したときは、管轄の年金事務所または事務センターに対して、以下の手順で「被保険者賞与支払届」の提出手続きを行う必要があります。

被保険者賞与支払届を入手する

あらかじめ管轄の年金事務所または事務センターに賞与支給予定月を登録している場合は、賞与支払予定月の前月に被保険者の氏名や生年月日などが印字された届出用紙が企業に送付されます。

賞与支給予定月の登録は、「健康保険 厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届」という様式を使って行います。

賞与支給予定月の登録を行っていないなどの理由で届出用紙が送られてこない場合は、管轄の年金事務所または事務センターに出向くかインターネット上からダウンロードする方法で、被保険者賞与支払届を入手します。

出典:日本年金機構「被保険者賞与支払届のダウンロード(日本年金機構)」(2022年4月1日)

被保険者賞与支払届を作成する

被保険者賞与支払届に、賞与を支給した従業員ごとに、賞与支払い年月日や賞与支払い額などの必要事項を記入します。

出典:日本年金機構「被保険者賞与支払届の記入例」

中途入社の従業員に関しては、入社日以降に支給した賞与が対象になります。
また、退職した従業員に関しては、退職月の前月までに支給した賞与が対象になります。
ただし、月末日退職の場合は、退職月に支払われた賞与も対象になります。
産前産後休業中や育児休業中の従業員に関しては、社会保険料は発生しませんが、賞与を支給した場合は被保険者賞与支払届に記入します。

被保険者賞与支払届を提出する

管轄の年金事務所または事務センターに、賞与支給日から5日以内に被保険者賞与支払届を提出します。

賞与支給予定月の登録をしたものの、予定月に賞与を支給しなかった場合は、賞与不支給報告書を提出します。

社会保険料を納付する

被保険者賞与支払届を提出した後、管轄の年金事務所または事務センターから保険料決定通知書が送付されてきます。

それに基づいて、賞与支給日の翌月末日までに社会保険料を納付します。

賞与における社会保険料の計算方法

賞与に対する各種社会保険料の計算方法を、以下にご説明します。

※社会保険の加入に関しては、以下の記事をご参照ください
【社労士監修】社会保険の加入条件とは?加入義務や罰則をわかりやすく解説

健康保険料

年3回以下で支給する賞与に関しては、賞与を支給する都度、「税引前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた金額(標準賞与額)×都道府県ごとの健康保険料率」で計算した健康保険料が発生します。

健康保険組合に加入している企業は、健康保険組合が設定している健康保険料率を掛けます。

出典:全国健康保険協会「都道府県ごとの健康保険料率」

介護保険料

40歳から64歳までの従業員に関しては、健康保険料とは別に「標準賞与額×介護保険料率」で計算した介護保険料が発生します。

令和4年度の介護保険料率は1.64%です。

出典:協会けんぽ「令和4年度介護保険の保険料率について」

健康保険組合に加入している企業は、健康保険組合が設定している介護保険料率を掛けます。

厚生年金保険料

年3回以下で支給する賞与に関しては、賞与を支給する都度、「標準賞与額×厚生年金保険料率(18.3%)」で計算した厚生年金保険料が発生します。

出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」(2020年9月13日)

雇用保険料

雇用保険料に関しては、賞与支給時期に保険料を納付する形ではなく、毎年6月1日から7月10日までの期間中に行う労働保険料の申告納付手続き(年度更新)の中で確定保険料を計算するときに、支給した賞与の総額を賃金総額に含めて計算し、確定保険料があらかじめ納付した概算保険料を上回った場合は差額を納付することで手続きが完了します。

ただし、従業員負担分の保険料は、賞与支給時に控除します。

労災保険料

賞与支給と労災保険料に関しては、雇用保険料と同様に年度更新手続きを行うことで手続きが完了しますが、従業員の負担はないため、賞与支給時の控除は発生しません。

賞与から保険料が控除されないケースとは

以下のケースでは賞与支給に対して社会保険料が発生しないため、社会保険料の控除はありません。

賞与支給月に社会保険を喪失した場合

賞与支給月に退職により社会保険資格を喪失した場合は、賞与に関する社会保険料が発生しないため、社会保険料の控除は発生しません。

ただし、月末日に退職した場合は、社会保険料が発生します。

産前産後の休業を取得した場合

従業員が産前産後の休業を取得した場合、産前休業を取得した日が含まれる月から産後休業が終了した日の翌日が含まれる月の前月までの期間中の賞与に関する社会保険料が免除されるため、社会保険料の控除は発生しません。

育児休業を取得した場合

従業員が1カ月間を超える育児休業を取得した場合、休業期間中に月末が含まれる月に支給された賞与に関する社会保険料が免除されるため、社会保険料の控除は発生しません。

賞与は法律上支給が義務付けられた賃金ではありません。しかし支給額を決定する基準を明確にして公正に評価を実施し、その結果を支給額に反映させることで、従業員のモチベーションが向上します。

加えて、会社の業績に対する従業員の関心を高める効果もあります。

賞与は運用の仕方によって、会社にとっても従業員にとってもプラスになるものです。他社の例なども参考にしながら、よりよい方法を考えることが重要です。

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