「採用しても早期に離職してしまう」。これは採用担当者であれば一度はぶつかったことのある悩みかと思います。入社後のミスマッチは「転職者」も「採用企業」も大きな損失です。面接時には問題のなかったことが入社後に「こんなはずではなかった」とならないためにも、お互いのギャップを事前に埋めておくことが重要で、具体的な施策でミスマッチを防ぐことが可能です。ここでは採用ミスマッチを防ぐ方法を具体的にご紹介していきます。

採用ミスマッチとは

ミスマッチとは、「釣り合わないこと。また、釣り合わないものどうしを意図的に組み合わせること」を指します(引用:デジタル大辞泉「ミスマッチ」)。企業の採用活動における「ミスマッチ」とは、企業側と応募者との間で認識に何らかの相違が起こっている状態といえるでしょう。

こうした「採用ミスマッチ」が起こる原因として、新卒・中途採用に関わらず、「入社前にイメージしていた業務や職場の環境」と「入社後に体験する現実」とのギャップ(リアリティショック)が挙げられます。具体的には、入社予定の企業に関する情報不足、詳細な仕事内容が分からないままの入社、福利厚生などの条件についての予想と実情とのギャップ、企業のカルチャーやハウスルールに対する違和感などがあります。

よくある4つの退職理由とは

厚生労働省が毎年発表している「雇用動向調査結果の概要」では、離職率は近年14〜17%程度で推移しており、ここ数年で大きな変化はありません。令和3年の産業別の離職率では、「宿泊業、飲食サービス業」が25.6%ともっとも高く、次いで「生活関連サービス業、娯楽業」が22.3%となっています。

令和3年1年間の離職理由としてもっとも高かったのは、「個人的理由」(結婚や出産・育児、介護・看護、その他の個人的理由の合計)の10.1%でした。次いで多かった「事業所側の理由」(「経営上の都合」「出向」および「出向元への復帰」の合計)が0.9%であることを考えると、多くの人にとって「個人的理由」が退職を決意するきっかけとなっていることが分かります。

引用:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」

また、株式会社リクルートが行った「就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022」によると、現在・転職前ともに「正社員・正職員」の20〜50代の転職経験者の退職理由の上位3項目は、「仕事内容への不満」29.7%、「人間関係への不満」29.2%、「賃金への不満」27.5%となっており、次いで多かったのは「労働条件や勤務地への不満」も23.3%でした。

出典:株式会社リクルート「就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022」

ここでは、上記に挙げた「仕事内容への不満」「人間関係への不満」「賃金への不満」「労働条件や勤務地への不満」の4つの退職理由について、著者が耳にした事例も交えながら解説していきます。

仕事内容への不満

残業が常態化している

面接時は「忙しい時期はいっときで、それ以外の残業はほぼない」と言われていたにも関わらず、実際には残業が常態化しており、そうした状況について訴えても「仕事を覚えるのが遅いから」と取り合ってもらえない、といったケースも退職する理由としてよく耳にします。このほか、職場のパソコンが古く処理が遅い、手書きの日報に対して上司のフィードバックを得なければ帰れないなど、職場のシステムに効率の悪さを感じてしまい、それが改善される見込みがない場合なども、退職につながるケースです。

企業の将来が心配になった

家族経営の企業で社長に気に入られないと出世が望めなかったり、仕事がなくて掃除やほかの人の手伝いなどをする毎日が続いていたり、中途採用で入社したのに1年経っても同じ仕事の繰り返しが続いていて発展性がないと感じたなど、給与や自身のスキルに関する成長余地が感じられなかったり、企業そのものの将来性が見えない場合なども、退職を決意する要因となります。

2.人間関係への不満

上司の仕事の進め方が自分に合わない

社員にとって上司がどのようなタイプの人間であるかは、その仕事の良し悪しを決定づける大きな要因の一つといえます。たとえば失敗を部下に押しつけ、失敗に対してフォローをしないような上司の場合、退職を考える部下は少なくないでしょう。また、決裁が必要なときに上司が離席しがち、期日を守らないなど、「自分本位な上司に限界を感じてしまった」ことは、退職理由として非常によく聞かれます。

同僚と気が合わない

上司と並んで、日常的に接する機会が多いのが同僚です。その同僚の言葉遣いが荒い、話がまとまっておらず何を言いたいのか分からない、いつも忙しそうで話しかけづらい、あいさつや会話に対してそっけない反応しかない、隣の席にいるにも関わらず連絡がメールやチャットのみで直接話そうとしないなど、「同僚の態度に限界を感じてしまった」ことも、退職理由と挙げられます。

自分が必要なときに相談や報告をする時間がとれない

テレワークが浸透したことによって、退職につながる新たな課題も近年耳にするようになりました。テレワークは業務上のコミュニケーションが不足しがちとなり、たとえば、決まった時間のミーティングしかなく、必要なときに気軽に相談や報告ができないなど、「人間関係の希薄さにやりづらさを感じてしまった」ことも、退職理由としてよく聞かれます。

3.賃金への不満

毎日残業をしなければ生活できないような給与形態や、企業の業績がよくなっているにもかかわらず年次昇給がわずかだったり、昇給のペースに男女で差があるなど、給与に対する不満は大きな退職要因の1つです。

労働条件や勤務地への不満

入社時の雇用条件と異なっている

入社時に説明された雇用条件は法令違反ではなかったにも関わらす、実態は、サービス残業の常態化や有給休暇が取得しにくいなど、当初聞いていた雇用条件とは異なるケースもあります。このような不当な就労状況は、退職を決意させる大きな理由となるだけではなく、労働基準法違反にもなりかねないため注意が必要です。

勤務地の立地が不便

勤め先が遠い、転勤などによって自宅と離れてしまうなど、勤務地に対する不満が退職につながることもあります。毎日の職場と自宅の往復に苦痛を感じてしまうと、やがて退職を検討するようになることは、よく耳にするケースです。

採用ミスマッチが起こる原因

採用ミスマッチにはさまざまな原因が考えられます。ここでは企業側における原因のうち、著者が考える代表的なものを紹介しましょう。

企業が求職者情報を把握しきれていない

企業は、履歴書や職務経歴書、1〜2回の面接などによって求職者の情報を把握します。

しかし、こうしたプロセスのなかで、求職者について十分に把握しきれていないとミスマッチが起こりがちです。特に中途採用においては、経歴の確認と実績だけを中心に判断してしまうとミスマッチが起こりやすいといえるでしょう。

十分な企業情報が求職者に伝わっていない

説明会などでメリットを中心に伝えてしまい、デメリットが伝わっていない場合もミスマッチが起こりやすいケースです。このようなミスマッチを防止するためには、実際の休日出勤や残業の度合い、研修制度や資格取得の奨励、職場の雰囲気やチームメンバーの構成など、リアルな職場についての情報を求職者に伝えることが大切です。

求めるスキルが現場レベルと一致していない

企業側の採用基準が明確になっていなければ、求職者は混乱してしまいます。

また入社後の、求職者のスキル不足の発覚は早期離職の原因になります。そのため、書類による確認だけでなく具体的な実績を示してもらうなど、求職者のスキルレベルの確認については慎重に行う必要があります。

入社後のサポート体制に問題がある

入社前の想像と職場の実情の違いが大きければ、求職者は不安になってしまいます。

そうした不安を解消するためにも、入社後のサポート環境を充実させておく必要があります。

教育の必要があるのなら教育担当へ引き継ぎ、課員として働いてもらう場合であれば管理職や同僚への教育に加えて、ソフト面での準備も必要になります。

※フォローアップに関しては、以下の記事をご参照ください

フォローアップとは?具体的なやり方、タイミング、ポイントを解説

採用ミスマッチを起こさないためのポイント

採用活動は時間と費用をかけて行われます。そのため採用ミスマッチが起こってしまうと、それらの準備も無駄になってしまいます。

ここでは、採用ミスマッチを起こさないようにするための心構えをいくつか紹介しましょう。

求職者の意思や希望を確認する

面接は限られた時間であり求職者のすべてを知ることはできないため、ベテランの面接官であっても求職者の本質を見抜くことは難しいといえます。面接時の発言のみを基にして判断せず、面接ですべてを知ることは難しいといった面接の限界を理解したうえで、求職者の意思や希望を十分に確認することが重要だといえます。

経験者だからといって即戦力になるとは限らない

経験者の場合、仕事を覚えてもらうための教育にかける費用を節約できますが、教えなくても即戦力として活躍してもらえるかどうかは実際のところ働いてもらわなければ分からないものです。書類に並んだ華やかな経歴はあくまで自己申告であり、それらを過信しないことが大切です。

採用ミスマッチを起こさないための具体策

採用後のミスマッチは、企業側と求職者の双方にとって不幸な結果だといえます。
ここでは、そうしたミスマッチを防ぐための具体策を提案します。

任せたい業務・仕事を明確にする

前任者からの引き継ぎが不十分となる場合も想定し、過度な期待によってプレッシャーを与えすぎたり、前任者と比べたりしないようにすることが大切です。企業側のこうした対応によって、ストレスを感じたり、モチベーションが下がってしまう場合があります。

採用できたからといって安心しない

昨今では、求人を出せばすぐに応募があるという状態ではありません。そうした状況下で好条件な採用ができた場合、担当者としては安心したい気持ちもあると思います。しかし、実際には欠員の補充ができただけであり、これから育成して、職場に定着してもらう必要があることを忘れてはなりません。採用後も適切にフォローを続けるなど、長期的な対応を計画的に実施していく必要があります。

会社の将来性を具体的に示せるようにしておく

求職者は入社後、社内の実情に通じる過程で、友人や他社と比べる機会に遭遇することもあるでしょう。「ここで働き続けても大丈夫だろうか」という不安を持たれないためにも、自社の将来像について具体的に示せるようにしておくことが大切です。

リファラル採用を活用する

リファラル採用とは自社の従業員からの紹介や会社見学会、食事会など、ハードルの低い環境をつくって企業と求職者が接触し、採用につなげていく方法です。ただし、リファラル採用を成功させるためには、紹介者となる社員の企業に対する信頼感や忠誠心といったエンゲージメントが高いことが前提となります。社員のエンゲージメントを高める施策としては、仕事を通じて企業が、社員の企業に対する期待作社員は、それにこたえる形で、高いモチベーションを持って業務に邁進しているという、双方向の信頼関係が成立していることが重要です。

※リファラル採用に関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見!】リファラル採用とは?メリットや定着・促進させる方法を解説

入社後にやるべき社員が定着する施策

社員に「自分はこの企業にとって必要な人間なんだ」と実感してもらうことによって、社員は定着します。ここでは社員の定着化に対して必要な施策の例を紹介します。

指示を与える人は最小限にする

新入社員をはじめとして、役職の低い社員には、上位者が多く存在します。上位者それぞれから異なった指示を与えられると、まとまりがなくなってしまい混乱してしまうことがあります。最後まで面倒を見る覚悟でアドバイスをするのなら問題ありませんが、指示を出しっぱなしで中途半端な状態になってしまわないようにすることが大切です。

企業側の失敗を責任転嫁しない

努力を続けてもうまくいかないことはあります。しかし、上司が部下に対して企業側の至らないところを言ったり、業界のせいにしたりすると部下はなんのために自分は頑張っているのかが分からなくなってしまいます。厳しい状況だからこそ上司は部下と一緒に頑張って仕事に取り組む姿勢を見せる必要があります。

大切にされているという意識を持ってもらう

業務上の成果を出すには、結果に対する厳しさが必要ですが、うまくいかないときにはそれをフォローする体制を整えておく必要があります。フォロー体制がなく、できなかった責任だけを追及されるような組織では、「自分は大切にされていない」「自分はここにいる意味があるのだろうか」といった疑問を社員は抱いてしまうでしょう。何事においてもまず、社員自身に考えてもらうことは大切ですが、できなかったときのフォローについても丁寧に行う必要があります。

採用者教育の役割を明確にしておく

さまざまな考えや個性を持った人が集まる組織では、多様性が生み出す相乗効果を得られる可能性がある一方、組織全体としてまとまることの難易度が上がることも考えられます。採用者に対する教育は、事業のミッションや文化を伝達し、各人の方向性をそろえる役割と同時に、画一的にルールを押し付けるのではなく、厳しい人や優しい人、まじめな人や面白い人、それぞれの個性を活かすことを第一とすることで、採用者の帰属意識を高めていく効果もあることを忘れないようにしましょう。

人材育成はじっくりと行う

経験者採用であっても、「自社では未経験者」という意識を持って接することを忘れないようにしましょう。人の育成は、焦ったところで、成長速度が早まるわけではありません。無理な要求は、ストレスを与えてしまうことにつながります。まずは基礎固めをし、時間がかかっても確実に成果につながる計画性のある人材育成を目指しましょう。

指示をするときは理解を優先させる

指示をする側はその仕事について深く理解をしているものです。しかし、指示を受ける側は初めてその仕事について知ることになるので、指示する人ほどの理解にはおよびません。相手が経験豊富であったとしても過信せず、口頭だけでなく、必要に応じてマニュアルを用意するなど、確実に実行できるよう準備を整えておくことが大切です。「指示を受ける側が理解する」ことを第一優先とした指示出しをするよう、上長などへ意識づけをしておくことが必要不可欠です。

仕事のことは勤務時間中に終わらせる

仕事は勤務時間中に終わらせるのを当たり前のこととし、定時で業務を終わらせることを徹底しましょう。SNSなどの気軽につながれるデバイスがあったとしても、時間外に業務に関連する連絡をすることは人間関係に支障が出る可能性もあるので避けましょう。

まとめ

アメリカの臨床心理学者ハーズバーグの研究では、仕事で成果を上げたときの達成感や承認、任せてもらっているとの実感などから働くことへの満足感が生まれるとされ、この満足感が社員の定着化につながる「動機づけ要因」であると述べています。求人票に掲載される給与や福利厚生、職場環境などは「衛生要因」といい、こちらは入社するきっかけとはなりますが、定着のためには「動機づけ要因」のほうが大切だとされます。採用時のミスマッチを防ぎ、社員の企業に対するエンゲージメントを高めるためにも、「動機づけ要因」を意識した組織づくりと採用活動に努めましょう。

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