自社に必要な人材の不足に頭を悩ませる経営者や人事担当者は少なくありません。現在、日本の多くの業界で深刻な問題となっている人手不足ですが、その背景や原因は何なのでしょうか。そして、どの業界が特に影響を受けているのでしょうか。この記事では、人手不足の原因や背景、さらにはその解消方法について具体的に解説します。

日本で人手不足が起こる原因と背景

近年、日本の企業や組織が直面している課題の1つが「人手不足」です。多くの業界や企業で、適切なスキルと経験を持った人材を確保し、保持することが一層困難になっています。
著者の見解になりますが、背後には、社会経済の多様な変動があると考えます。高齢化社会による労働力の減少、労働市場の変化とスキルのミスマッチ、働き方の多様性と労働時間の問題などが、企業が直面する人手不足の根本的な原因となっています。これらの要因がどのように絡み合い、企業や組織にどのような影響をもたらしているのかを理解することで、持続可能な人材確保の戦略を構築する手助けとなります。ここからは、これらの要因を詳細に探り、その解決策について解説していきます。

高齢化社会による労働力の減少

日本の高齢化社会による労働力の減少は、企業や組織においても深刻な課題となっています。特に、生産年齢人口(15歳~64歳)の減少によって、多くの業界で労働力を確保することが困難になっています。
この背景には、長寿化と出生率の低下が挙げられます。長寿化により、高齢者の割合が増加し、一方で出生率の低下により若年層の人口が減少しています。
こうした変化に対応するため、企業は経験豊富な高齢者の活用や、外国人労働者の受け入れの拡大など、多様な働き手を取り込む取り組みを進めています。また、テクノロジーの活用や働き方の多様化も進んでおり、リモートワークやフレックスタイム制度の導入など、さまざまな働き手が活躍できる環境作りが進められています。これらの取り組みを通じて、企業は人手不足の課題に立ち向かっています。

労働市場の変化とスキルのミスマッチ

近年の日本における労働市場は、IT技術の急速な進化や新しいビジネスモデルの出現により変化を遂げています。特に、AIやIoTなどのテクノロジーがビジネスプロセスに積極的に取り入れられるなかで、これらの技術を効果的に活用できるスキルを持つ人材が急募されています。一方で新しいスキルを身につけられなかった労働者が職を失うケースもあります。(このような状況は「スキルのミスマッチ」と呼ばれ、新旧の技術スキルギャップが労働市場における人手不足を一層深刻化させています。企業や組織は、従業員のスキルをアップデートし、多様な働き方を尊重することで、この問題の解決を図るべきでしょう。

働き方の多様性と労働時間の問題

近年、日本の労働環境では「働き方改革」がクローズアップされ、多様な働き方が注目を集めています。特にコロナウイルスの影響で、テレワークやリモートワークが急速に普及し、企業の働き方に革命をもたらしています。一方で、過労死や長時間労働の問題も依然として深刻で、労働者の健康と仕事のバランスを取ることが課題となっています。多くの企業がワークライフバランスを重視した働き方を推進しているものの、実際の現場ではなお改善の余地があります。

企業は、働きがいを感じ、健康を保ちながら働ける環境を整えることで、人手不足の解消につなげる手がかりを得ることができるでしょう。

人手不足が顕著な業界

動きの活発な業界がある一方、人手不足が顕著になっている分野も少なくありません。著者としては特に、IT業界、医療・介護業界、建設業界、物流業界、農業、製造業、飲食業といった7つの業界では、人手不足の問題が深刻化しており、それぞれの背景や原因、そしてその影響について考察することが重要だと考えます。ここでは、これらの業界の現状を解説していきます。

IT業界

著者としては、人手不足の主な理由として、「IT需要の拡大」、「労働人口の減少」、「IT技術の進展による需要構造の変化」があると考えます。IT技術の進展は目覚ましく、事業企業の商品やサービスの開発にも欠かせない要素となっています。また、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進する企業が増え、IT人材の需要が急速に高まっています。一方で、少子高齢化により労働力人口が減少しており、特に先端技術を扱うIT人材は常に不足しています。これらの要因が複合して、IT業界での人手不足が深刻化している状況となっています。

医療・介護業界

著者の見解になりますが、介護業界では求人・採用活動が積極的に行われているものの、職場環境の厳しさから応募が少ない状況が続いていると考えられます。従業員が離職する主な理由としては、人間関係の悪さや職場の方針への不満、肉体的・精神的な負担の大きさなどが挙げられています。これらの課題を解決するため、国もさまざまな対策を講じていますが、業界全体での改善が求められています。

建設業界

建設業界が人手不足である理由として、建設業就業者数のピーク時である1997年の685万人から、2021年は約29%減の485万人と、労働者が減少していることが挙げられます。特に若年層の就業者の減少が著しく、2021年度における建設業就業者の55歳以上の割合は35.5%、29歳以下が12%と高齢化が進んでいます。
また、「2025年問題」として知られる、75歳以上の後期高齢者が増加し、社会保障費が増大する問題も影響しています。さらに、円安により外国人労働者の日本での賃金メリットが薄れ、外国人労働者の確保も困難になっています。これらの要因が組み合わさり、建設業界の人手不足は慢性的な問題となっています。対策としては、労働者の処遇改善、働き方改革の推進、生産性の向上などが進められています。

出典:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」2022年6月

物流業界

人手不足の背景には、ECサイトの利用増加による宅配便取扱個数の増加、24時間体制のコンビニエンスストアやスーパーマーケットの普及、そしてトラックドライバーや倉庫スタッフの労働条件の厳しさなどがあります。国土交通省の調査によれば、トラックドライバー業界には低賃金、長時間労働の課題があり、倉庫で働くスタッフも同様に不足しています。また、物流量は減少しているものの、宅配便の個数は増加しており、一人ひとりの作業量が増しています。これらの要因が組み合わさり、物流業界全体で深刻な人手不足が発生しています。今後は、IT技術やロボットの導入による効率化と、労働環境の改善が不可欠となってきます。

出典:国土交通省「トラック運送業の現状等について」

農業

日本は世界でも有数の少子高齢社会であり、多くの産業で労働力不足が進行していますが、農業は特にその影響を強く受けています。農業就業人口は2010年の約260万人から2019年には約168万人へと大きく減少し、そのうち65歳以上の割合は約70%に上昇しています。また、新規就農者数も減少傾向にあり、2006年の81,030人から2022年には45,840人にまで下がっています。さらに、新規就農者の定着が難しく、たとえば2014年に新規就農した1,591人のうち、3年目までに564人が離農しています。これらの要因として、農業が重労働でありながら収入が低い、期待と現実のギャップ、後継者不足などが挙げられます。これらの課題を解決するためには、就労環境の改善、外国人技能実習生の活用、IT化による効率化などが考えられます。

出典:農林水産省「農業センサス」「農業構造動態調査」

製造業

著者としては人手不足の原因として、少子高齢化による労働力人口の減少、特に技能人材の不足、製造業に対する若者の関心の低下があると考えます。これらの要因は、企業が必要な人員を確保できない状況を生み出し、特に技能を必要とするポジションでの募集が困難になっています。また、製造業の現場では、24時間稼働している工場も多く、シフト勤務が厳しいと感じる方もいることなどの実際の労働環境も、人材確保の難しさの一因になっています。これらの課題を解決するための対策として、DX化推進や外国人人材の活用、労働環境の改善などが考えられています。

飲食業

著者としては、飲食業界の人手不足の一因は、新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少し、人件費削減の動きが強まったことが大きな要因となり、コロナ禍でシフトが減ったアルバイト従事者は新しい仕事を探し、異業種への転職を希望してきたこともあると考えます。また、飲食業は労働時間が長く、体力的・精神的負担が大きいため、新卒者の離職率も高く、報酬や待遇が業務量に見合わないと感じるスタッフが多く、人間関係のトラブルやカスタマーハラスメントも離職の原因となっています。これらの問題を解決するためには、労働時間の短縮、報酬の見直し、職場環境の改善が必要です。ITツールの導入やスタッフとのコミュニケーション強化も有効だと考えられます。

人手不足を解消する効果的な5つの方法

人手不足は、多くの企業や組織が直面している普遍的な課題であり、これに対処することは、組織の持続可能な成長と成功に不可欠です。特に現代の労働市場では、企業は従業員を引きつけ、モチベートし、人材の流出を防止するための新しい方法を見つける必要があります。著者としては従業員のフィードバックの活用、スキルの強化、ワークライフバランスの推進、企業文化の強化、そして福利厚生の拡充は、人手不足の解消と組織の発展において中心的な役割を果たすと考えます。ここでは、これらの要素がどのようにして組織の人手不足の課題に対処し、同時に働きがいのある職場を構築するのに役立つのかを解説します。

従業員のフィードバックに対応する

従業員のフィードバックに対応することは、組織の健全な成長と人材の定着に不可欠です。フィードバックに対する迅速で適切な対応は、従業員のモチベーションを高め、組織へのコミットメントを強化します。具体的なアプローチとしては、フィードバックを定期的に収集し、それをもとに組織の改善点を見つけ出すことが挙げられます。また、従業員が声を上げやすいカルチャーを築くことも重要で、これにはオープンなコミュニケーションと、フィードバックが実際に評価され改善につながる具体的なアクションが取られることが必要です。従業員一人ひとりが組織の一部として価値を感じ、その声が大切にされていると感じることで、働きがいや帰属意識が向上し、結果として人手不足の解消にも寄与します。

リスキリングとアップスキリングの取り組みを実施する

従業員が新たなスキルや知識を学び、スキルアップする「リスキリング」や、すでに保有しているスキルを更新したり、強化・拡張する「アップスキリング」の取り組みは、企業が人手不足を解消し、従業員のスキルを高める重要な戦略となっています。近年、多くの企業がこのアプローチを採用しており、特にテクノロジーの進化によって新しいスキルが必要とされる現代において、これらの取り組みの重要性が増しています。

たとえば、ある企業では、AIやデータ分析のスキルを持たない従業員に対して、オンラインコースやワークショップを通じて必要な知識を身につけさせ、企業全体のデジタルトランスフォーメーションを支えています。また、別の企業では、従業員が自らのキャリアパスをデザインし、必要なスキルを習得できるプログラムを提供し、持続可能なキャリアの構築をサポートしています。これらの取り組みは、従業員が将来の変化に適応し、企業が競争力を保つうえで不可欠となってきています。

ワークライフバランスを推進する

ワークライフバランスを推進することは、企業が人手不足の問題を解決するうえで非常に重要な要素となります。特に現代の労働環境では、従業員が仕事とプライベートのバランスを保つことが難しくなっています。企業がワークライフバランスを重視するポリシーを導入することで、従業員はメンタルヘルスを保ちやすくなり、結果として生産性が向上します。また、 “燃え尽き症候群”などとも呼ばれるバーンアウトの予防や従業員の帰属意識向上にも役立ちます。具体的なアプローチとしては、フレックスタイム制度の導入、リモートワークの推進、有給休暇の取得を奨励する文化の醸成などが挙げられます。これらの施策は、従業員が自身のライフスタイルに合った働き方を選択できるため、仕事とプライベートの両立が可能となり、結果として企業にとっても持続可能な活動が実現する傾向にあります。

企業文化を向上させる

企業文化は、組織と従業員が共有する価値観や文化で、企業イメージに影響を与える可能性があります。その醸成と強化には、全従業員への周知、共通の価値観の明確化、そしてその文化に基づいた行動が重要です。企業文化が浸透することで、チームワークが向上し、異なる部署間でも協力が生まれることも考えられます。また、明確な企業文化は、従業員の行動や意思決定をスムーズにし、生産性を向上させる場合もあります。

外部への企業文化の発信は、共感する優秀な人材を引き寄せ、定着を促すことが期待できます。これに人材データを集約して一元管理し、企業戦略に即した適材適所の実現を助けるタレントマネジメントシステムが導入されれば、従業員のスキル管理と企業文化の可視化が可能になり、新しい文化の形成もサポートできるようになる場合があります。これらを通じて、企業文化の向上と人手不足の解消を図ることができる可能性があります。

企業の特典と福利厚生を増やす

企業が人手不足を解消するために特典や福利厚生を増やすアプローチは、従業員の満足度と帰属意識を高める重要な手段となると著者は考えます。また給与アップやボーナス支給が難しい場合には、非金銭的な報酬やワークライフバランスを重視した施策があります。たとえば、フレックスタイム制度の導入やリモートワークのオプション、キャリアアップのための教育・研修制度、メンタルヘルスをサポートするプログラムなどが挙げられます。また、従業員の声を直接聞くことで、ニーズに合った福利厚生を提供し、働きがいを感じさせる環境作りを進めることも大切です。これらの施策は、従業員が企業に対してポジティブな感情を抱き、長期的なコミットメントを高める要因となり、結果として採用と人材確保の維持・向上に寄与する可能性があります。

人手不足が起きている原因の特定方法

人手不足の原因を特定する方法としては、まず企業内での従業員の退職率とその理由を把握することが基本となります。従業員が退職する主な理由を理解することで、その背後にある組織の課題や問題点を洗い出す手がかりになります。また、業界全体の動向や市場のトレンドを分析し、他社と比較して自社が抱える課題を明確にすることも重要です。さらに、現場の声を直接聞くフィードバックの機会を増やし、従業員が抱える不満や要望を把握し、それに応える形での改善策を検討することで、人手不足の根本的な解決につながります。

人手不足を解消する採用手法とは

人手不足は多くの企業が直面する課題であり、その解消のための採用手法は多岐に渡ります。まず、企業の魅力を最大限に伝えるためのブランディングが不可欠です。魅力的な企業文化や働きがいをアピールすることで、求職者の関心を引きつけることができます。また、新しい採用チャネルの活用も考えられます。たとえば、SNSを用いた採用や、中途採用の場合、リクルートエージェントのようなサービスを活用することで、より適切な人材の獲得が期待できます。さらに、従業員の紹介制度を導入することで、自社とのマッチ度の高い可能性のある人材を採用することも可能です。そして、採用活動を常に見直し、改善することで、効果的な人材獲得を実現することができます。

人手不足、多くの企業が直面するこの課題を解消する手段は何か。本記事では、その背後にある要因と具体的な解決策をご紹介しました。現在の労働環境で問題となっている高齢化社会、労働市場の変化、働き方の多様性など、複雑に絡み合う要因が人手不足を引き起こしています。特にIT、医療・介護、建設業界などでは深刻な事態となっており、それぞれの背景や原因を理解することが解決への第一歩となります。人手不足にならないように日頃から従業員へのフィードバックを大切にし、スキルアップの機会を提供することで、持続可能な人材確保の戦略を構築するよう心がけましょう。

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