現在、多くの企業で人手不足が深刻化しています。コロナ禍を経て経済活動が再開したこともあり、人材争奪戦は激しさを増すばかりといえるでしょう。そうしたなか優秀な求職者を集め、確保していくにはどうすればよいのか、この記事では、採用活動のポイントや具体的な採用手法について解説します。

2022年の採用の動向とは?

リクルートワークス研究所が2022年に発表した「中途採用実態調査(2022年度実績、正規社員)」によると、コロナ禍以降も人手不足が続いています。現在の人手不足の状況についてこのデータを基に確認していきましょう。

2022年度の中途採用実績は前年度の1社当たり1.31人から1.52人へ、採用人数は増加

コロナ禍を経て経済活動が再開したことにより、企業の採用活動も活発化しています。特に企業の中途採用実績は前年実績の1社あたり1.31人から1.52人と増加し、すべての従業員規模において前年を上回っています。

経験者の採用実績が引き続き増加

人材採用においては豊富なスキルと経験を有した人材が広く求められており、企業における経験者の採用人数は0.99人と前年実績を上回る結果となっています。

必要な人数を確保できなかった企業が多く、採用難度が高まっている

採用人数は前年比で大きく増えているものの、企業が中途採用で必要な人材数を確保できたかについて「確保できた」と回答した企業は全体の45.8%と半数以下となっており、人材採用の難度は高まりをみせています。

出典:株式会社リクルート「中途採用実態調査(2022年度実績、正規社員)」2023年7月5日

理由1.採用計画の作成時

採用計画はどの部署でどのような人材が不足しており、その人材を何名、いつまでに採用するかを計画し、社内で共有するものです。採用計画は「全体の設計図」といってよいでしょう。ここでは採用計画の作成時に起こりがちな齟齬について解説します。

求める人物像が不明瞭

採用計画の作成にあたっては、どのような人材を必要としているのか、人材要件を明らかにするところからスタートします。人材要件は配属先となる採用部門のニーズをもとに決める必要があります。この段階で採用部門と人事部門とのすり合わせが不十分であると、そのあとの採用活動も「的外れ」なものになってしまうでしょう。その結果、「結局は必要な人材を採用できなかった」「ターゲットとなる人材からの応募がない」といった事態に陥りかねません。採用計画を作成する際には、事業を展開する採用部門と連携して必要な人材について理解を深めておく必要があります。

事業戦略との不整合

先述した通り、人材要件は採用部門のニーズをもとに作成する必要があると同時に、事業戦略に紐づくものである必要があります。

そのため、人事部門は人材要件を整理する際に、その人材が事業戦略のなかに位置づけられているか整合性を確認する必要があります。また、そのような人材を採用予定であることを経営層に報告し、合意を得ておくことも大切です。経営との合意の際には、採用部門の部門長なども呼び、経営、人事部門、採用部門の三者によって合意しておくとよいでしょう。事業戦略との整合性が取れていないケースや、経営層との合意がないケースでは、採用計画そのものが白紙に戻る可能性もあるため注意が必要です。

期間・予算・マンパワーは現実的に

人材要件を明らかにしたら、必要な人材を何人、いつまでに、どのようにして採用するかを計画します。この時、採用予算や期間、採用に割ける人員は現実的に考えるようにしましょう。たとえば採用する人材によって、適切な採用手法は異なります。新卒採用と技術者の採用、中堅事務職の採用では、ヒットする求人媒体や得意とする人材紹介業者も異なってきます。それぞれについて適切な対応が必要であり、限られた予算、期間、人員のなかでは、すべてに完璧に対応することは不可能でしょう。著者が見てきた「採用活動がうまくいかない」と悩んでいる企業のなかには、そもそもの計画に無理があったといったケースも少なくありません。楽観的な計画にせず、ある程度保守的に見積もることが必要でしょう。

※採用計画に関しては、以下の記事をご参照ください

失敗しない採用計画の立て方とは?具体的な手順と求める人材を採用するためのコツ

理由2.採用手法の検討時

採用計画ができたら、採用手法を検討する段階になります。複数ある媒体のなかから適切なものを選択し、応募者を集める必要があります。ここでは採用手法の検討についてうまくいかない原因を解説します。

適切な採用手法が選択できていない

採用手法は、自社サイトへの求人掲載や転職エージェントへの依頼、求人媒体への掲載、ハローワークの活用、新聞の折り込みチラシなどの紙媒体への求人掲載、人材派遣サービスの利用などさまざまです。それぞれの採用手法にはメリット・デメリットがあるため、適切な媒体を選択し、自社の求める人材にたどり着く必要があります。

※採用手法に関しては、以下の記事をご参照ください

【2023】新卒・中途の採用トレンドとは?ダイレクトリクルーティングなど話題の手法をチェック!

他社と差別化できていない

求人を掲載できる媒体は豊富に存在するため、求職者はさまざまな媒体を通して企業を調べ、応募する企業を検討するのが一般的です。そのため、自社の明確なイメージを提示し、競合他社との差別化ができていなければ、印象が薄れてしまい、採用活動が難航する原因となるでしょう。

理由3.採用募集のスタート時

ここでは、応募者数が思うように集まらない、求める人材とは違った人材が集まってしまうなど、採用募集をスタートした段階でのトラブルの原因について解説します。

求職者への提示内容が適切でない

求職者はその企業で働くことの価値を求めているものです。それは給与額だけでなく、自分が適正に評価されるか、仕事内容に魅力を感じられるかといったことも含まれます。

募集を開始したにも関わらず応募が集まらないといった場合には、仕事に魅力を感じられるような説明文になっているかチェックしましょう。また、画像の掲載が可能な媒体では、働くイメージを描かせる魅力的な写真を使っているかどうかも確認する必要があります。

母集団の数が少ない

そもそもターゲットとしている母集団の数が少ないと、十分な応募数を得ることは難しいかもしれません。労働市場は人手不足に陥っているため、母集団の人数を把握していなければ採用活動が難航してしまいます。

母集団が少ない場合、自社単独で増やすのは不可能ではありませんが、ハードルが高いのも現実です。いずれにしても、母集団の変更や拡大を含めた採用計画の見直しが必要になります。採用代行業者や転職エージェントなどの利用を検討し、現実的に採用活動を進めていくことが大切です。

ライバル企業の分析ができていない

応募数が集まらない原因の一つには、ライバル企業との人材獲得競争に負けている可能性もあります。自社の将来に課題を抱えているのはライバル企業も同じことです。厚生労働省が2023年3月3日に発表した全国の2023年1月の有効求人倍率(季節調整値)は1.35倍で、総務省の労働力調査においても男女別就業者数は11カ月連続の増加となっています。採用活動にあたってはライバル企業の分析を行い、各種条件において見劣りしていないかも確認してみましょう。

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年1月分)」2023年3月3日

総務省統計局「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)6月分 」2023年

理由4.選考時

採用活動に関する準備ができていても、選考時の自社の担当者が十分な能力を発揮できなければ意味がありません。ここでは選考時に採用がうまく進まない原因について解説します。

採用担当者や面接担当者のスキルに向上の余地がある

著者の経験を踏まえれば、面接で応募者のスキルや人間性を見極めることは、ベテランの面接官であっても難しいものです。そのため、採用担当者や面接担当者のスキルを高めることで、より適切な選考が可能になる場合があります。特に即戦力人材を採用したい場合などは、現場の仕事への理解も不可欠です。必要に応じて現場担当者も面接に呼ぶなど、体制を整えるようにしましょう。

また採用担当の対応も改善していくとよいでしょう。企業説明が十分か、採用担当者の熱意は伝わっているか、必要な情報は提供されているかなど改善できるポイントは沢山あります。

経験・スキル以外の選考基準のすり合わせ不足

日々の業務はチームで行うことが多いため、経験やスキルだけで応募者の選考を行うべきではないと著者は考えています。採用担当者は一緒に働く現場の従業員との関係性も考慮に入れながら応募者の仕事に対する姿勢やコミュニケーション能力なども把握する必要があります。これは、採用後のミスマッチを防ぐためにも重要なプロセスです。

選考では経験やスキルなどを重視しがちですが、それ以外のポイントについても選考基準としてピックアップし、共有しておくことが大切です。

理由5.内定オファー時

選考を重ねて自社の希望する求職者に内定を出したとしても、断られてしまっては意味がありません。ここでは内定を出す段階でうまくいかない原因について解説します。

内定を出すまでに時間がかかってしまう

採用活動に関する決定権を持つ担当者が別の業務を兼務している場合や、採用決定までに多くの承認が必要とされていると応募者への対応が遅くなってしまいます。現在の就職・転職市場は活発に動いているため、内定通知をはじめとする各段階で必要な連絡やレスポンスが遅い場合、応募者はほかの求人に興味を移してしまう可能性が高まります。また、結果を待たせる時間が長くなればなるほど「落ちた」という感覚が強くなることが考えられ、他社へと興味関心が移ってしまう可能性があるため注意が必要です。

なぜ内定となったのか、選考結果に対する説明が不足している

内定者が「本当にこの企業でよかったのか」などと不安を抱くと、せっかく内定を出したとしても、辞退につながる恐れがあります。内定までのプロセスが過度に少ない場合や内定連絡の担当者の熱意が低いと感じられてしまった場合など、内定者の気持ちが揺れてしまうことが考えられます。そのため、内定通知を送る際には、なぜ採用となったのかの理由を具体的に説明することが大切です。採用部門が一緒に仕事をすることを心待ちにしているといった、「歓迎の気持ち」を添えることも忘れないようにしましょう。

理由6.内定後フォロー時

応募者から内定の承諾をもらえたからといって、必ずしも入社につながるわけではありません。内定者は複数の企業に応募していることが多いため、内定承諾後のフォローを怠ると内定辞退につながってしまう可能性も考えられます。また内定者は「この企業が自分にとってベストな選択だったのか」「この職場についていけるのだろうか」といった不安を常に抱えていると考え、的確なフォローを行っていく必要があります。ここでは内定後のフォローがうまくいかない原因について解説します。

内定後フォローの内容が決まっていない

「内定を出したのに辞退されてしまった」といった企業のなかには、内定後にどのようなフォローを行うのか、そもそも決まっていないといったケースもあります適切なタイミングでフォローを行うには、事前に、いつ、何をするのかメニューを決め、担当者も再確認しておきましょう。内定承諾へのお礼メール、そのあとの説明会の連絡、説明会実施や入社前研修など、内定後のフォローメニューはさまざまです。内容によっては他部門の協力を仰ぐ必要もあります。

同期との交流の場がない

内定後フォローの一つとして、同期や先輩従業員との交流の場を設けるケースが多く見られます。ここ数年はコロナ禍によってオンラインでの採用が主流となっていたため、応募者は自分以外の内定者について知る機会が少なくなっていました。著者が担当した採用支援においても「入社してからはじめて同期を知った」「オンラインでの印象と全く違った」といった感想を聞きました。特に同期は、求職者にとって困った時に支え合う存在であり、離職防止につながる存在でもあります。

内定後には適宜同期や先輩従業員との交流の場を設け、関係性をつくっていきましょう。

理由7.入社後

せっかく入社したものの早期離職となってしまった場合、採用活動がうまく進んだとはいえません。ここでは入社後に問題の起きる原因について解説します。

入社前と入社後にギャップがあった

内定者が、入社前に抱いていた企業への印象と入社後の実情にギャップを感じてしまうと早期退職につながる可能性が高まります。こうしたギャップは現場で働くことで経験値を高め、払拭することも可能ですが、不安を感じている渦中の内定者にとっては毎日の出社が苦痛になってしまう場合もあります。

早期退職を防ぐためにも入社後は現場に任せるのではなく、できる限り採用担当や現場の人事決定権者が声がけをするといったフォローが大切です。また、チームワークを活かした仕事を中心にして帰属意識を高め、コミュニケーションを積極的に取りながら働けるよう努力することも早期離職の対策となります。業務内容に不満がある場合には、仕事の効率化や残業を減らすための方法を一緒に考えることも有効です。

今回解説した通り採用がうまくいかない原因は、採用計画時から入社後までのそれぞれの段階に存在します。採用部門や関係各部署とのすり合わせで解消できる事柄もあるため、人事部門には採用活動の事務局となって、積極的に社内の橋渡しを担うことを期待されているといえるでしょう。

しかしマンパワーや予算規模の関係から十分な採用活動ができない、自社だけで問題を解決するのが難しいといった場合には、人材紹介サービスを活用するのも有効な方法です。これらのサービスをうまく活用することで、自社だけでは思いつかないアイデアを提案してくれる可能性もあります。本記事でご紹介したように、「採用がうまくいかない原因」を払拭してみたいという方は活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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