ピグマリオン効果とは、教育心理学者のローゼンタールらが明らかにした、教師の期待が生徒の学業成績の向上を促すという心理行動上の知見です。この効果を学力だけでなく、仕事に活かすとどのような効果があるのでしょうか。最大限に活用するコツを管理職と部下との関係を例として解説します。

ピグマリオン効果とは

ピグマリオン効果とは、教育心理学者のロバート・ローゼンタールが教育現場における教師と生徒との関係のなかで見出した現象で、教師の期待が生徒の学業成績の向上を促すというものです。
なおピグマリオン効果は、最初にこの現象を見出した人物の名にちなんで「ローゼンタール効果」とも呼ばれています。

ピグマリオン効果は上記のように、もともとは教育心理学における心理行動に関する知見でした。
しかし、その後の他分野も含めた期待に関する効果研究の蓄積により、こんにちでは、企業の上司の期待が部下の業績に与える影響など、ビジネス分野の人間関係の考察にも活用されるようになっています。

ピグマリオン効果の実験内容

ローゼンタールらは、次のような実験内容を行い、ピグマリオン効果を見出しました。

① 小学校1学年から6学年の子どもたちを対象に、新年度前に知能テストを実施する
② 新年度から学級担任になった教師たちに対して、無作為抽出した一部の子どもの学力が今後大きく向上するだろうとの偽りの情報を与える

このように、教師たちが一部の生徒への能力向上を期待するように仕向けました。
その結果、1年後に実施された2回目の知能テストでは、該当の生徒の成績がそれ以外の生徒と比べて優位に上昇していることが確認されたのです。
この実験結果をふまえてローゼンタールらは、教師の期待は子どもの学力向上を促すと結論づけました。

加えて、学力の向上は低学年の子どもほど大きかったことから、他者からの期待の影響は年齢が低いほど大きいことも示唆されました。
そしてこの点は、企業の場合にも符合します。ある研究によると、新入社員のその後の業績と昇進度を左右したもっとも重要な要因は、企業が社員に「最初に」何を期待したのかであったという結果がでたそうです。このことより、社員のなかでもピグマリオン効果がもっとも期待できるのは新入社員と考えられます。

ピグマリオン効果と関連がある心理行動との違い

ローゼンタールは、ピグマリオン効果と関連するものとして「ゴーレム効果」という心理行動にも言及しています。

ゴーレム効果とは

ピグマリオン効果とは逆に、相手に対して期待を寄せていないと、その相手は本来の能力を発揮することができず、結果的に低い成果にとどまってしまうというものです。

ピグマリオン効果の注意点

前述のようにピグマリオン効果とは、期待が人間の能力にポジティブな影響をもたらすというものです。
しかし、ここで注意が必要なのは、ピグマリオン効果が有効に働くためには、単に期待していることを相手に伝えれば良いわけではなく、相手の能力の高さを本当に信じている必要があるということでしょう。

ある調査によれば、上司が部下の能力の高さを確信しているような職場では、その部下には非常に高いパフォーマンスを発揮する傾向がみられたそうです。
一方、上司の期待をほのめかす発言は形だけのもので、本音では部下の能力を低く見積もっているようなケースでは、ピグマリオン効果は大きく減じられてしまったのです。
参考:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部「動機づける力―モチベーションの理論と実践」

なお、後者のような事態が生じてしまう要因のひとつとして、非言語的なメッセージの影響力の大きさをあげることができます。仮に部下の自尊感情を傷つける発言がなかったとしても、言語以外の部分で部下がそのようなメッセージを感じとってしまうことがあるのです。

たとえば次のような行動は注意しましょう。

  • 能力別に編成された部署における下位の部署への配属
  • 上司の何気ないネガティブな仕草

ビジネスでピグマリオン効果を活用する4つの方法

前述のピグマリオン効果の注意点を考慮すると、ビジネスの現場においてピグマリオン効果を最大限に高めるためには、次の2つの状態を達成する必要があると考えられます。

  • 管理職に携わる者すべてが、部下の職務遂行能力に対して高い信頼を寄せている
  • 入社直後の研修など、できるだけ早い時期から社員に対する期待感の醸成に努める

またピグマリオン効果の具体的な方策の例として、次の4つのような方法が考えられるでしょう。

1.ポジティブな情報を見つけられる人物を管理職に据える

部下の評価に際して減点主義ではなく、良い面を見つける習慣がついているような人物を管理職のポジションに据えることがおすすめです。
このような人物を抜擢すれば、部下に対する期待感が生まれやすくなるだけでなく、無自覚に部下の自尊感情を傷つけてしまうリスクも最小限に抑えることができるでしょう。

※ポジティブフィードバックについては、下記をご参照ください。
ポジティブフィードバックとは?モチベーションを上げる方法を例文と共に紹介!

2.部下のポジティブな情報を管理職に伝える

とはいえ現実問題として、前述のような人物がポジションの数だけ企業にいるとは限りません。そのため、このような管理職に適した人物を積極的に育成する必要があります。

このときに有効と考えられる手段の1つが、新しく配属された部下に関する情報のなかにポジティブな要素を積極的に含めるというものです。
これによって管理職の心のなかに、部下に対するポジティブな先入観が生まれることが期待できるでしょう。

3.人事部は選考の段階からポジティブ要素を意識する

前述のように、社員のなかでもピグマリオン効果がもっとも期待できるのは新入社員と考えられます。
そして新入社員の場合、最初に接するのは、人事部など採用を担当する部署の人々と想定されるでしょう。

したがってピグマリオン効果を高めるためには、採用担当者は選考の段階からポジティブ要素を意識する必要があるともいえます。採用する可能性のある応募者に対し、好印象を受ける点の把握に努め、その点を配属部署の上司にあらかじめ伝えておくこともピグマリオン効果に影響するのではないかと考えられます。

もちろん選考の際には、ポジティブ要素だけではなく、ネガティブシュミレーションも必要になるため、適宜使い分けも必要となるでしょう。

4.同僚同士でも積極的に期待を伝え合う

ここまで管理職による部下への期待を中心としてピグマリオン効果の説明をすすめてきました。しかし、他者からの期待によるモチベーションの高まりは、非対等な関係に限ったものではありません。
上司と部下という関係に限らず、いわゆる同僚と呼ばれる間柄でも、期待や感謝、長所などを伝える場を設けることが有益だと考えられるでしょう。

※モチベーションを上げる方法に関しては以下の記事もご参照ください
ポジティブフィードバックとは?モチベーションを上げる方法を例文と共に紹介!

ピグマリオン効果は組織全体で取り組んでこそ成果が見込める

以上のように考えると、ピグマリオン効果による業績向上を目指すためには、対象を管理職など特定の役職に限定することなく、むしろ組織全体で取り組んでこそ大きな成果が見込めるといえるでしょう。上司部下の関係だけではなく、同僚同士や部署が違う先輩後輩など、さまざまな関係においてピグマリオン効果を活用していきましょう。

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