『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』で世間の関心を集めた「アドラー心理学」。自分のことや対人関係、仕事で悩んでいる方、どんな心理学なのか知りたい方に「アドラー心理学」について改めて体系的に解説し、仕事に役立てる方法をご紹介します。

※記事内でのアドラー心理学の解釈は筆者の見解に基づいた内容であることをご了承ください。

アドラー心理学とは

アドラー心理学とは、アルフレッド・アドラーが提唱した実践的な心理学です。
心理学者としてはフロイトとユングがよく知られており、フロイトは心理学で初めて「無意識」を扱ったことで、ユングはさらなる深層にある「普遍的無意識」などを研究したことで有名です。アドラーもこの2人と並ぶ同時代の心理学者でしたが、日本ではあまり認知度が高くありませんでした。

アドラー心理学が広まった背景

日本でアドラー心理学が広まったきっかけは、2013年に岸見一郎氏と古賀史健氏の共著によって出版された書籍『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)のヒットにあります。

この本がたくさんの人に受け入れられた要因は、「嫌われる勇気」という一般的な心理学解説書とは異なるタイトルであったこと、また疑問に対する回答という対話形式の解説で実践的な内容であったことから、自分の人生を変えるために何をすれば良いのかが読者にストレートに伝わり、イメージできたからではないでしょうか。
さらにテレビドラマ化されたことで、多くの人に「日常のなかでも心理学に基づく行動をすぐに起こすことができる」という意識づけが行われたことから、アドラー心理学に対するハードルが下がり広まったと考えられます。

アドラー心理学の特徴

他の心理学では「無意識」という大きな哲学を背景に、個別の事象に対してある特定の心理になる原因の解析に終始しているものが見られます。それに対しアドラー心理学は「意識も無意識も対立することはない」としたうえで、背景の哲学を大きく以下の5つの理論に絞り、かつそれぞれの理論で解決のための実践的な方向性を示していることが特徴として挙げられます。
5つの理論について概要をまとめました。

1.自己決定性:人生は自分が主人公

自分の人生を決めるのは自分、自分の人生を変えるのも自分と認識することで、外部環境や成長過程での出来事に原因や責任を求めるのではなく、自ら主体的に生きることができるようになります。

2.目的論:人の行動には目的がある

過去の原因に目を向けることから、未来の目的に目を向けることに視点を変えられるようになります。自分にとって大切なことは「どうしてこうなったのか」ではなく「これから何ができるのか」であると物事の捉え方を変えられるようになり、明るい未来に対して生きることができるようになります。

3.全体論:人の心に矛盾はない(意識も無意識も自分自身)

「意識のある自分が理性的で好ましい自分、無意識の自分が感情的で好ましくない自分」など、意識のある自分と無意識の自分とで自身を分けて考えたり、「この場合の無意識の自分は好ましくない」などと自分の一部を否定したりするような捉え方をしないで、すべての自分を受け入れられるようになります。

4.認知論:誰もが自分だけのメガネで見る

人は主観で物事を見ていて、人によって立場も異なることから、ある現象に遭遇したときに意見が異なることがあります。もし仮に自分の意見を否定されても、あなたの意見を相手に合わせようとしたり、否定されたことを悔やんだりする必要はありません。多様性を受け入れ、さまざまなことを割り切って捉えられるようになります。

5.対人関係論:行動にはすべて相手役がいる

人間のあらゆる行動には、相手役が存在することを認識することで、相手の行動によって自分が影響を受けるほか、自分の行動によって相手も影響を受けている、と捉えられるようになります。これをさらに発展させることで、相手を変えることはできないものの、あなたが相手との接し方を変えることで、相手のあなたへの接し方が変わる(変えられる)と認識できるようになり、相手との関係性も変えることができるようになります。

また、他の心理学は「今の自分を知る」ことを基盤とし自分を変えることは前提としていないものもありますが、アドラー心理学は「自分は変えられる」という前提に立っていることも、実践的な解決策を示している特徴といえるでしょう。

さらに、多くの人が日々の生活の中で悩みがちな対人関係に対する方向性を示していることも、実践的で有用な理論といえるでしょう。

アドラー心理学のメリット

アドラー心理学の理論を知り、それに基づく思考・行動を行うことで、結果として大きく2つのことが得られると考えられます。
1つは、自分に対しては自分自身の、相手に対しては相手の「承認欲求」を満たすことができるようになることです。もう1つは、承認欲求を満たしていくことで「自己肯定感」が高まることです。

その結果、自分の存在を肯定でき、ひいては自分の言動に自信を持てるようになります。理論のなかでは「勇気づけ」といわれていますが、言い換えると、自信づけ、ともいえます。

一般的には、自分に対して自信を持ちそれを高めていくための要素として、経験や努力に基づいた結果の実績や他人からの賞賛などによる客観的な評価によるもの。もう1つが、経験や努力を行ったことに対する充足感や悔いなくやり切ったことに対する達成感などから構成される自己肯定感に基づくものの2つがあります。
多くの人は、経験を重ね努力によって実績を積むことで他者からの評価を得ますが、安易に充足感や達成感を得ようとしないことから、いつまで経っても自信が持てない、という状態になりがちです。そういった人は、アドラー心理学を学び自己肯定感を高めることで、今まで得られなかった自己肯定感に基づく自信が持てるようになります。

また、アドラー心理学を学ぶことで相手の承認欲求を満たすことができるようになるため、リーダーをはじめとする育成や指導の立場にいる人は、効果的に相手を良い方向に導くことができるようになります。
さらに、相手にとって承認欲求を満たしてもらえる存在と認められるようになることで、「信頼のおける人」としてさまざまな相談を受けるようになるなど、周囲に対して自分の存在価値を大きく高めることができるようになります。

アドラー心理学に学ぶ仕事への活かし方

アドラー心理学を活かすことで、自信が持てない人は自信を高め、堂々と活動できるようになります。またリーダーなど、指導・育成の立場にいる人は、相手からの信頼度が高まることで、結果的に周囲への影響力を高めることができるようになります。
つまり、アドラー心理学は、ビジネスの場でスタッフとして働く人にも、リーダーとして働く人にも、非常に効果があるといえます。
仕事に活かす具体的な考え方の一例をご紹介します。

仕事に当事者意識が持てる

仕事に自信が持てない人は、業務において上司の命令にいつも従っているだけのように感じているかもしれません。しかし、アドラー心理学では、「さまざまな機会のなかには自分の主張も含まれており、その主張が一部でも認められている」と認識します。その結果、実は自分の人生でさまざまなことを自分の意志で提案し、自分で決めているということを実感できるようになります。すると主体的に生きること、当事者意識を持って物事にあたることが楽しくなっていきます。

意見が対立する相手も尊重できる

自分も相手も、自分のメガネを通して物事を見ていることを意識することで、物事の捉え方が相手は自分と大きく異なることも認識できるようになります。すると自分と異なる意見に遭遇したときにも、「相手は相手の立場があるから、このような主張をしているのか」と、自分の意見を正として無理に相手を合わせようとすることなく、相手を尊重しながら意見に耳を傾けられるようになります。

加えて「人の言動には目的があり、目的達成のためにはさまざまな言動をする」ということも理解しておくと、相手が自分と異なる意見を持ったときに、相手を非難したり反発したりすることなく、相手を受け入れることができるようになります。逆に、相手が自分と異なる意見を持っているがために自分を非難したり反発したりする行為に対しても、合目的なこととして受け入れられるようになるため、一般的には「傾聴力」といわれるような、納得性を高めていくプロセスの能力を高めていくことができるようになります。

※傾聴に関しては、以下の記事をご参照ください
ビジネス力を高める「傾聴」とは?効果や種類など傾聴力を高めるトレーニング方法

人間関係のストレスが減る

人間関係におけるストレスも軽減されます。これは、先に述べた認知論(自分も相手も自分のメガネを通して物事を見ていることを意識すること)によって、「相手の意見が自分と異なっていることは、自分を嫌っていることが原因ではない」と捉えられるようになるためです。それにより心が軽くなることに加え、自分と相手とを分離して捉えることで人間関係を重く考えなくても済むようになるため、ビジネスにおける人間関係を考慮する程度を減らすことができます。

特に自分がターゲットとしている(嫌っている/嫌われている)人との間で生じるミスコミュニケーションは、実は自分に限らずその人と接している人との間にはいつでも生じることである、と認識できるようになります。つまり、自分に対して抵抗や攻撃をしてくる人は、自分だけではなくすべての人に同様のコミュニケーションをとっていて、それは相手の問題である、と認識できるようになります。
もちろん他責にすれば問題が解決するわけではありませんが、自分だけが被害者ではない、攻撃対象ではない、と捉えることでストレスは大きく軽減されます。そして相手に気に入られることを主目的とはせず、ビジネスの問題解決に焦点を当てることで、「自分とは意見が異なることがわかったが、最終的な目的達成のためには何をすれば良いのか」といった建設的なコミュニケーションができるようになります。

人間関係によるストレス要素が減りビジネスの問題に焦点が当てられるようになると、問題解決のためのステップを前に進められるため、ビジネスにおける行動力が高まってきます。人間関係による挫折要素とビジネスの問題とを分離させることができるようになることから、ビジネスに対するモチベーションを高めることができるようになります。

部下の指導・育成力が上がる

リーダーなど指導・育成の立場にいる人は、どのような対応をすると部下をくじけさせるのか、勇気づけることができるのかわかるようになります。ある問題が生じたとき、部下を勇気づけるような言動をとることができるようになるため、指導・育成力が格段に上がり、チームの力を最大限に引き出す力がついてきます。

※部下の育成に関しては、以下の記事をご参照ください

部下育成に悩んだら!育成を成功させるポイント、失敗する4つの原因を解説

アドラー心理学を仕事に活かせる研修

これまで、アドラー心理学は実践的な理論であり、具体的な言動を想起しやすいことを説明してきましたが、体系的に理解することと、実践に移すことは大きく異なります。また、人が合目的な言動をすることは頭で理解できたとしても、実際に非難や抵抗をされると対処に困ってしまいます。
そういったことを補うために、アドラー心理学を仕事に活かすためのさまざまなビジネス研修があります。

特に以下の研修では、「チームワーク」と「リーダーシップ(指導・育成)」に的を絞り、それぞれの場面で生じがちな問題に対して、アドラー心理学で学べる効果的な対処スキルを体系的に身に付けることができます。
リクルートマネジメントスクール「アドラー心理学入門 ~職場で活かせる対人関係4つの条件~(163)」

職場で生じがちな「人間関係」の問題を、自分や相手への「勇気づけ」で解決できることを理解していただけます。

アドラー心理学で示されているさまざまな要素を、自分で工夫しながら実行に移したり、研修などでそのきっかけをつかんだりすることで、実践的な心理学であることを実感していただけると思います。職場におけるプレゼンスを高める手段の1つとして、アドラー心理学を利用されてみてはいかがでしょうか。

※当ページに記載している内容は執筆者による見解です

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