ビジネスの場で、「ステークホルダー」という言葉を耳にする機会があります。「株主や取引先のこと?」と何となく理解はしていても、正確な意味や使い方は曖昧という人も多いのではないでしょうか。
ここでは「ステークホルダー」の正しい意味や具体的な使い方、企業における重要性などを解説します。

ステークホルダーとは

「ステークホルダー」とは、企業が活動することによって直接的または間接的に影響を受ける組織や人を指しており、「利害関係者」などと説明されます。
利害関係者というと、主に金銭的なつながりがある相手を想像することが多いと思いますが、ステークホルダーはその範囲に限らず、たとえば地域社会や行政機関など、企業活動を行う上で関わりや影響を及ぼし合う、すべての組織や人が該当します。
ステークホルダーは必ずしも利害が一致する場合だけに限らず、たとえば競争や競合によって損失を被るような関係性でも、相互に影響を受けているという意味ではステークホルダーに含まれます。

直接的ステークホルダー

「直接的ステークホルダー」とは、企業や組織の活動において、その規模や内容について直接的な影響を与えたり、逆にその活動によって直接的な影響を受けたりする対象をいいます。
具体的には、商品やサービスを購入する顧客、原料の仕入れや製品を取り扱う取引先、企業で実際に働く従業員、株を保有する株主、融資している金融機関など、社内外問わず金銭や商品・サービスなどを直接やり取りするような関係が挙げられます。

間接的ステークホルダー

「間接的ステークホルダー」とは、企業や組織の活動に関する内容や規模に直接的な影響は与えないものの、お互いに間接的な影響や関係性が認められる組織、団体、個人を指します。
具体的には、企業の立地場所により関係する地域経済や地域社会、政府や地方自治体他の行政機関、従業員の家族、労働組合など、企業活動が雇用、経済、その他社会や環境に対して、間接的な影響を与えるような関係が挙げられます。

ステークホルダーの範囲

「ステークホルダー」に位置づけられる対象の範囲は、その企業が置かれている場面や状況によって捉え方が変わってきます。以下で具体的に確認しておきましょう。

使い方は文脈で考える

どこまでの対象をステークホルダーと考えるかは、その企業によって捉え方が異なります。またどのような場での発言か、どういった関連の話によるものかなど、その文脈によっても対象となる範囲は変わってきます。
たとえば、株主総会に関係する場でステークホルダーといえば主に株主を指すでしょうし、融資に関する話であれば主に金融機関を、営業関連の社内会議であれば顧客や取引先などを主な範囲にしていることが多いでしょう。拠点進出といった話であれば、地域住民や行政機関などが含まれます。
また近年意識されることが増えている環境問題についても、大きな地球環境まで含めて考える会社から、企業活動が直接的に与える影響範囲に限定した捉え方をする会社まであるでしょう。その企業の持つ考え方によって、ステークホルダーの範囲はさまざまです。
使われている場面や文脈から、対象としている範囲を推測、想定することも必要でしょう。

ステークホルダーが注目される理由

特に近年は「企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)」が注目されるようになり、企業は単に自らの利益を追求するだけでなく、環境活動の実施や地域社会との共存、後援や寄付活動、ボランティアも含めた社会貢献など、社会全般に関する責任の遂行が求められるようになりました。
また、企業の不正や不祥事を防止する観点からは、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化を進める企業も増えており、クリーンな事業活動を進めるための相互監視が実施されています。
このどちらにおいても、ステークホルダーに対して不利益をもたらすことなく、良好な関係を構築することは、企業にとっても重要で欠かせないものとなっています。

このように、企業活動が社会に向けて行われる以上、社会全体がステークホルダーであり、企業活動の規模が増していくほどステークホルダーの対象範囲は拡大していきます。
企業活動においてさまざまな責任が増していることが、ステークホルダーが注目されている主な理由といえるでしょう。

※社会的責任(CSR)については、下記の記事をご参照ください

【事例つき】CSRとは?活動の種類や企業のメリット・デメリット、進め方を解説

ステークホルダーと混同しやすい単語

ステークホルダーと混同しやすい単語として、「ストックホルダー」と「シェアホルダー」という言葉があります。
両方とも株主を指す言葉で、「ストックホルダー」は単なる株の保有者を言うのに対して、「シェアホルダー」は議決権を有するような保有数の多い株主を指しています。どちらもステークホルダーの範疇に含められるものですが、それぞれステークホルダーの対象を絞った限定的な意味として使われます。
また「ストックホルダー型」と呼ばれる企業があり、これはその企業が株主最優先主義であることを指しています。こういった企業では、「ストックホルダー」を指して「ステークホルダー」と表現している場合がありますので、意味に違いがあることをよく理解しておきましょう。

ステークホルダーの重要性

ステークホルダーについて、近年企業としては、株主や顧客など一部の関係者に限定せずにあらゆるステークホルダーの利益に配慮すべきという考え方が広がっており、その取り組み内容が企業活動を評価するうえでの重要な指針のひとつとなっています。
主な取り組みとしては、以下の2つが挙げられます。

1.ステークホルダーマネジメント

「ステークホルダーマネジメント」とは、言葉の通り利害関係者を管理することで、「利害関係者のニーズを把握して活動を円滑に進められるようにすること」を指します。利害関係者と良好な関係を保つことで、企業活動をスムーズに進めていくことが目的です。

たとえば、あるプロジェクトについて否定的な意見を持つ人がいた場合、その利害関係者を特定して利害を認識し、情報共有やコミュニケーションを通じてさまざまな対応をすることによって、プロジェクトが円滑に進められるようにする活動などが当てはまります。
「ステークホルダーマネジメント」を行うにあたっては、利害関係者のニーズを幅広く確認し、一部の関係者の利害ばかりに偏らないように進めることがポイントです。可能な限り多くのステークホルダーからの納得を得られるように、緻密で丁寧な対応をおこなうことが大切です。

2.ステークホルダーエンゲージメント

「ステークホルダーエンゲージメント」とは、「ステークホルダーが期待や関心を寄せている事項を把握、理解して、それを組織の意思決定や事業活動の中に取り入れるための取り組み」をいいます。「ステークホルダーマネジメント」が全般的な管理をする取り組みであるのに対し、「ステークホルダーエンゲージメント」は情報発信や各種コミュニケーションを通じた信頼関係構築を中心とした取り組みをいいます。
ステークホルダーエンゲージメントの具体的な実施例としては、以下のものが挙げられます。

  • 株主に対する実施例

株主総会や投資家向けの説明会、株主向けの社内見学会の実施、株主優待、ホームページやニュースリリースなどの情報公開

  • 顧客、ユーザーに対する実施例

ショールームやサポート窓口などの設置、展示会の開催、商品やリコールなどに関する情報開示、提供など

  • 従業員に対する実施例

従業員満足度調査の実施、社長ほか経営陣との面談、社内報、労使懇談会の開催など

  • 取引先、協力会社に対する実施例

満足度調査ほかアンケートなどの実施、パートナー企業との説明会や懇談会の実施、環境問題への協働など

  • 地域社会、地域住民に対する実施例

講演や懇談会の実施、工場見学などの開催、市民団体やNGOとの協働、ボランティア活動など

「ステークホルダーエンゲージメント」を通じて、すべてのステークホルダーと積極的にかかわりを持ち、そこから得た情報や要望を企業活動に活かしていくことは、自社の業績や企業価値の向上に資するという点で、重要な取り組みといえるでしょう。

企業経営におけるステークホルダーとの関係性

これまで見てきたように、「ステークホルダー」は金銭的なつながりだけでなく、企業活動にかかわるすべての利害関係者を指しています。

昨今では、企業が起こした不祥事やトラブルに対する視線は厳しさを増し、企業の社会的責任(CSR)が問われる機会も増えています。こういった環境下で、企業として問題発生の防止や、企業活動におけるさまざまな責任を果たしていくためには、ステークホルダーに向けた情報開示やコミュニケーションを通じた信頼関係の構築など、お互いのかかわりは欠くことができません。
その関係性は、必ずしも相互利益につながるものばかりではなく、一方もしくは双方の損失になるようなものも含んでおり、それぞれの立場や状況によっては、一致しないこともあり得ます。ここではお互いの信頼関係が一層重要になります。

ステークホルダーとの関係を強化することは、企業業績をはじめとした直接的な利益にかかわることもあり、どのようにして信頼し合える良好な関係を築いていくかは、企業にとって非常に重要な課題です。
企業活動を行ううえでは、さまざまなステークホルダーが存在していることを認識し、株主や従業員、顧客、取引先のような直接的な相手だけでなく、行政機関や地域社会、その他影響を及ぼす範囲を十分に理解して、責任を果たしていく必要があります。
また、特定のステークホルダーばかりに偏らず、幅広い信頼関係を作っていくことが大切です。そのためにガイドラインなどを整備することも必要でしょう。

企業の持続的な発展のために、ステークホルダーの意味を理解して、良好な関係を築くための取り組みを行っていきましょう。

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