メンバーが生き生きと自分の意見に自信をもって発言しあい、闊達な議論ができている状態が組織の望ましい在り方です。社員の「自己肯定感」が高いことが、こういったメンバーが集まる組織の重要な要素として考えられています。今回は、組織の風土や生産性にも影響を及ぼすこの「自己肯定感」について見ていきます。

自己肯定感とは?

自己肯定感とは、自分を肯定できる感覚のことをいいます。自分を自分であると認める感覚でもあり、自分の短所や弱み、悪いところも含めてありのままの自分を肯定する力と考えられています。他人と比較するのではなく、「自分はこれでいいのだ」とありのままの自分を認める力で、あらゆる人間関係の構築においても、自己肯定感は重要な役割を果たします。

日本における自己肯定感

2018年の内閣府による調査結果(※)では、日本の若者(満13~29歳の男女)は諸外国の若者と比べて、自身を肯定的に捉えている者の割合が低い傾向にあるという結果がでています。この結果は、自己肯定感が低い状態で社会に出て仕事に従事している可能性を示しています。

※参考:内閣府「令和元年版 子供・若者白書」

組織における自己肯定感

自己肯定感が高いメンバーが集まる組織では、互いの足りないところを率直に指摘しあえたり、失敗に対して前向きに捉え新たなチャレンジができたり、主体的に動ける風土になっていきます。自己肯定感は、個人の仕事に対するスタンスやパフォーマンスに影響するだけではなく、組織全体の風土や生産性にも関わってきます。
そこで企業としても自己肯定感の意味や自己肯定感が高いメンバーが集まることのメリットを理解することが重要です。

自己肯定感が高い人の特徴

では、自己肯定感の高い人はどのような特徴があるか3つご紹介します。

1.他人の評価に左右されない

自己肯定感の高い人は、自分には価値があるという考えがベースにあり、自分の良いところも悪いところも受け入れることができます。自分の考えに自信を持っているため、周りからの評価に必要以上に左右されることもありません。
たとえ周りからのマイナスな意見や忠告があったとしても、自分とは切り離して考え、「そういう意見もあるんだな」と俯瞰して受け止めることができます。

2.失敗を恐れない

自己肯定感の高い人は、物事の失敗に対して「自分がダメだ」とは捉えず、「失敗する自分もありのままの自分」と受け入れることができます。そのためチャレンジに対して必要以上に恐れを抱かず、突き進む意欲と行動力を持っています。物事を肯定的に捉えることができるため、失敗に対しても落ち込みが少なく、次のチャレンジに向けて行動を起こしていけます。

3.他人を尊重できる

自己肯定感の高い人は、自分とは違う価値観や意見に対して耳を傾けることができ相手を尊重できるため、他人のことも受容できる力があります。そのため多様性を受け入れ、違う価値観や意見も前向きな議論に発展させることができます。周りとのコミュニケーションがうまく取れるため、結果として人間関係も良好になることが多い傾向にあります。

自己肯定感が低い人の特徴

一方で、自己肯定感の低い人はどのような特徴があるのでしょうか。自己肯定感が低い人の特徴を3つご紹介します。

1.他人と比較し劣等感を持ちやすい

自己肯定感が低い人は自分を認めることができないため、自分に自信がもてず、周りからの評価や他人との比較で自分の存在価値を図ろうとします。周りと比較して「自分は劣っている」と劣等感を感じたり、反対に自分で自分を認められないために、「自分はもっとできるはずなのだ」と自分を過大評価したりしてしまうこともあります。
事実から目を背け自分を過大評価したところで、結果として現実の自分と理想の自分とのギャップや、周りの評価が得られないことに苦しむことになり劣等感が増すことにも繋がります。

2.物事を否定的に受け止めやすい

自分自身を肯定できないために、自分の周りに起こる事象に対しても否定的に捉えてしまう傾向があります。たとえば、客観的に見れば成果を残していても「自分は出来ていない」や「もっとできるはずなのに実力を出せていない」と認めることができません。
また失敗が自己否定につながってしまう傾向があり、失敗したくないという思いから不安や恐れが大きくなり、新しい取組みに挑戦する機会があっても行動に移せなくなります。

3.人間関係に問題が生じることが多い

自分と違う意見や価値観に対しても、自分自身が否定されているように感じるため、他人の意見を素直に受け取れません。他者の意見やアドバイスに耳を傾けられなかったり、他者を否定してしまったりすることもあります。そのためコミュニケーションがうまくいかないことも多く、結果として人間関係がうまく構築できない、信頼関係が築けないなど問題が生じることが多くなります。

自己肯定感の高低による仕事へのメリット・デメリット

社員の自己肯定感の高低は組織に対してどのような影響があるのでしょうか。ここでは仕事におけるメリット・デメリットを見ていきます。

自己肯定感が高い組織のメリット

自己肯定感が高いメンバーが集まる組織では、自主性が高く活発的なコミュニケーションがなされる傾向があります。また互いの受容性が高いため、心理的安全性が担保され、課題解決に向けた前向きな議論をおこないやすくなります。
自己肯定感が高いリーダーがいると、メンバーを受容することができるため、それぞれの個性や長所が生かされた組織になる可能性が高まります。

自己肯定感が低い組織のデメリット

自己肯定感が低いメンバーが集まってしまった組織では、自分の意見が否定されるのではないかと恐れ発信を躊躇うため、コミュニケーションの量が減ってしまうかもしれません。周りに貢献しようという意識よりも自分を守ろうとするため、良い情報も自分の中で留めてしまったり、自分と違う意見は受け入れず否定的になったり、チーム内での連携が生まれなくなってしまう恐れがあります。
自己肯定感が低いリーダーの組織は、「目標は達成しなければ認められない」「失敗してはダメ」というマネジメントになりがちで、メンバーは疲弊していきチャレンジする風土も生まれにくくなる可能性があります。

自己肯定感を高めるための意識や行動

自己肯定感とは、紐解くと自分自身に対する解釈にすぎません。客観的な事実ではなく、事実に自分の解釈が加わった「物事に対する捉え方」になります。

たとえば、会議で自分とは違う意見が出てきた際に「そういう考え方もあるんだ」と肯定的に捉えるか、「自分の意見を否定してなんなんだ」と否定的に身構えるか、どちらの受け止め方もできます。これは「発言した人の意図」とは関係なく、受け止める側の「解釈」次第で、その場の空気が作られてしまうということです。プラスになるはずの発言も、マイナスに作用する恐れがあります。

では、自己肯定感を高めるために気を付ける意識や行動について見ていきましょう。

事実と解釈を分ける

起こった「事実」と、それに対してどう感じるかの「解釈」を分けて考えることが重要です。
たとえば、会議で反対意見が出た際も、それは単なる意見であり、自分の人格否定や自分への反発とは違うと分けて考える必要があります。
自分が感じることは「事実」ではなく、あくまで自分自身の「解釈」であると思えることが大事です。

自分の「解釈」を知る

自分はどんな考え方や捉え方をしているのか、自分の「解釈」を客観的に見ることができれば、それを認めるためのステップになります。
会議での反対意見に「反対されることが嫌だ」と感じていることを、「自分はこういう風に感じているのだ」とまずは認識することです。さらに感じていることを紙に書き出してみる、声に出してみるなど整理することで、少しずつそれを客観的に見ることができるようになります。

自分の良い面を見る

短所は長所にもなるように、解釈の仕方には良い面と悪い面があります。良い面にも目を向ければ、それを自分の強みに変えていくことができます。
たとえば、

  • 慎重になりがちな面は、リスクに対する感度が高いという強みになります。
  • 完璧を求めがちな面は、向上心が高いという強みになります。

良い面にも目が向けられるようになると、良い面も悪い面も含めて自分だと自己を認められるようになります。

組織における自己肯定感を高める3つの方法

組織において自己肯定感が高いチームを作ることは、課題解決に向けて前進し生き生きとした風土を作っていくための重要な要素です。ここでは組織における自己肯定感を高める3つの方法を見ていきます。

1.対話を心掛ける

対話とは、互いの意見の違いを理解し意見交換をすることです。会議では、誰かが一方的に進めるのではなく皆の意見を引き出し、出てきた意見を皆が受けとめることができるとよいでしょう。対話自体のプロセスに互いの理解や発見があり、互いに認め合う風土が作られていきます。

2.情報共有を行う

自分の持っている情報はたいしたことがない、共有しても意味がないと思いお互いがアウトプットをせずにいると、組織内の情報共有が促進されません。チームで働くメリットは、自分一人では得られない多くの情報を集められることです。自分が持っている現場の生の情報を積極的に共有し、情報を活かしていく風土が出来れば、自分が組織に貢献できているという感覚も高まっていきます。

3.上司による適切な関わりを持つ

上司やリーダーは、自己肯定感について理解し、メンバーとのかかわりにおいて適切なフォローをしていく必要があります。
たとえば、1on1(上司と部下の1対1の定期ミーティング)の場を設けて部下の考えを認め寄り添っていくことや、サンクスカードなどチーム内で互いに称賛できる仕組みを作るなど、メンバーやチームへの関わり方や仕組み作りが自己肯定感の高いチーム作りの大きなポイントになります。

※1on1に関しては、以下の記事をご参照ください

1on1とは?効果的なやり方、導入方法、具体的なテーマ例を紹介

個人が主体性を持ち、互いの強みを出し合い成長していく組織においては「自己肯定感」は重要な要素となります。
自己肯定感は個人の要素ですが、個人が結集したものが組織の風土を作り、企業の成長の支えになります。
「自己肯定感」とは何かを理解し、自己肯定感を高める組織づくりを手掛けてみてはどうでしょうか。

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