少子化による国内市場の縮小や人材不足などにより、日本企業の多くがグローバル戦略を進めています。「グローバル人事」は、企業のグローバル戦略を推進していくための人事戦略。国内で成果をあげた制度も、グローバルで通用するとは限りません。新たな制度を構築する必要もでてくるでしょう。ここではグローバル人事について、その課題と実現方法を解説します。

グローバル人事とは?

「グローバル人事」とは、企業がグローバル市場で成長していくための人事戦略のこと。ビジネスのグローバル化が進み多くの日本企業が事業の海外展開を推進する中で、グローバル人事の重要性は年々高まっています。グローバル人事は自社にマッチしたグローバル人材の採用、世界の各拠点で働く社員の能力を最大に活かす能力開発・評価の構築・運用など、企業のグローバル戦略を人材面から支える役割を担っています。

グローバル人事の課題

商習慣や言語・文化の異なるすべての社員にとって最適な人事制度を構築するのはなかなか難しいことです。現状では、どのような課題があるのでしょうか。
一般社団法人 日本在外企業協会が2016年に行った「日系企業における経営のグローバル化に関するアンケート調査」の結果によると、経営をグローバル化するうえでの最大の課題について自由記述で調査した際、上位3つにあげられたのは「グローバル人材の確保・育成」、「グローバルな人事インフラの構築」、「コミュニケーション力・理念の共有」という結果になり、いずれも人事戦略上で重要な項目です。
出典:一般社団法人 日本在外企業協会「日系企業における経営のグローバル化に関するアンケート調査 結果報告について」2017年1月11日

グローバル人材の確保

2017年7月に総務省が公表した資料「グローバル人材育成の推進に関する政策評価」によると、グローバル人材を必要とする海外進出企業980社のうち、70.5%(690社)が海外事業に必要な人材の確保状況が「どちらかといえば不足」「不足」と回答しています。どのようにして自社が必要とするグローバル人材を確保するかは、大きな課題です。
出典:総務省「グローバル人材育成の推進に関する政策評価 結果に基づく勧告」 2017年7月14日

グローバルな人事インフラの構築

グローバル戦略を推進するためには、採用を強化するとともに、さまざまな国で働く従業員がモチベーションを高く持って活躍できるよう、明確で公正な共通の人事制度の構築が急がれます。一方で、どのような人事制度が自社にとって最適なのかを検討し、作り上げる必要があり、グローバル化のスピードに自社の体制づくりが追い付いていない企業もいます。

コミュニケーション力・理念の共有

本社側の人材の語学力不足や異文化対応力が低く、現地のスタッフとのコミュニケーションが充分にはかれないケースや、M&A先の企業へ経営理念を浸透させることが難しいなど、グローバル展開に際してコミュニケーション・理念の浸透は重要な問題です。

グローバル人事を実現するためのステップ

自社のグローバル化の段階に応じた組織開発・人材開発

リクルートマネジメントソリューションズでは、グローバル展開のステージと人材開発課題を以下のように定義しています。一言でグローバル人材といっても、企業のグローバル展開のステージによってグローバル人材に必要な経験・スキルが異なってきますので、自社のグローバル展開のステージに応じた組織・人材開発に対応していくことが求められます。

出典:リクルートマネジメントソリューションズ「グローバル人材育成」

【グローバル1.0】世界中に出先を作る

日本で製品・サービスをつくり海外で販売するグローバル1.0の段階では、海外赴任者の強化が最も必要となります。一般的には、赴任者の異文化適応や基本的なビジネススキル開発が課題となります。

【グローバル2.0】現地の自律化=部分最適化

現地に合わせて事業を展開するグローバル2.0の段階では、日本人赴任者に代わって組織を運営するローカルスタッフが必要となります。グローバル1.0ではオペレーションを担っていたローカルスタッフの役割が変わってきますので、自律的に考え行動し、マネジメントできる存在になるために役割認識を変え、必要なスキルの取得を支援する教育制度を整える必要があります。

【グローバル3.0】全体最適化

各地域が連携して全体最適化を進めるグローバル3.0の段階では、全世界で人事機能を最適化するため本社のグローバル化が必要になってきます。最適な形で組織・機能を編成できる一方で、組織や人材の流動性を高めていくことが課題となるでしょう。

自社が求めるグローバル人材の明確化

グローバル人材を採用するためには、まず自社が必要とするグローバル人材を明確化することが必要です。 JMAグローバル人事研究会ではグローバル人材を以下の4つに分類しています。

「グローバル経営人材」…グローバルに事業を展開する本社の経営を担う人材
「グローバルビジネスリーダー人材」…自社では経験がない新たなビジネスや文化、ビジネスパートナーに柔軟に対応しビジネスをリードする人材
「ローカルマネジメント人材」…現地人材を適切に理解し、適切な人材マネジメントを行える人材
「グローバル・リテラシー人材」…高い語学力と海外でのビジネス経験、生活経験が豊富な人材

上記の分類も参考に自社のグローバル展開のステージがどの段階で、どのような人材が求められているのか明確化しましょう。

出典:社団法人日本能率協会 【JMAグローバル人事研究会 研究成果報告書】グローバル人事の重点課題とその解決に向けて

2012年2月

グローバル人材の採用については、以下の記事をご参照ください。
グローバル人材の採用を成功させるコツ・注意点とは

グローバル人事のプラットフォームづくり

JMAグローバル人事研究会 研究成果報告書では、「理念の明確化と浸透」「人材資産マネジメントの確立」「人事部門の使命再構築」の3つをグローバル人事推進のための共通検討軸とし、グローバル人事のプラットフォームを構築し、以下の1)2)3)を融合させながら各企業が自社のグローバル人事の体系を構築していくことが重要としています。

1)理念の明確化と浸透

価値観や文化の異なる従業員とともに、事業成長という目的に向かって進むためには、「自社がどのような企業なのか、何のために事業を営んでいるのか」というアイデンティティや思想を明確にすることが重要です。企業理念やグローバル事業戦略のうえで人事理念を明確化することが、多様な価値観を持つ従業員のよりどころとなります。

2)人材資産マネジメントの確立

人材要件を明確にしたうえで採用し、現在の人員の属性を把握・データ化し、今後の事業展開のために必要な採用計画を立案。グローバル人材の資産を拡充できるよう採用・教育を強化していきます。

3)人事部門のミッション、役割の再構築

【JMAグローバル人事研究会 研究成果報告書】によると、グローバル展開において人事部門は以下の役割を遂行していくことが重要になると結論づけています。

1.ビジネスサポート部門

戦略実現パートナーとして事業部のパフォーマンスを最大化するため、人事領域から課題を解決する役割を担うHRBPとしての機能を担う必要も考えられます。

HRBPについては、以下の記事をご参照ください。

HRBP(HRビジネスパートナー)とは?役割と求められるスキルや導入方法を解説

2.未然防止部門

全社の各施策を網羅的に把握し人的リソースの観点から予想し、問題の発生を未然に防止する施策を企画・立案します。

3.DNA継承部門

国籍を問わず、自社の最も大切な価値観を継承・浸透させ、グローバルに通用するよう進化させていく役割です。

4.人材輩出部門

経営のグローバル化を志向するためにも、人材の採用・配置・育成を司る人事部門がまずその典型的な人材集団となる必要があります。

出典:2012年2月 社団法人日本能率協会
【JMAグローバル人事研究会 研究成果報告書】グローバル人事の重点課題とその解決に向けて

グローバル人事を導入するためのポイント

自社のグローバル戦略に適したグローバル人材像を定める

グローバル人事の大きな課題として、企業の理念や経営戦略とマッチしたグローバル人材をいかにして採用するかということがあります。いまの自社の現状やグローバル事業戦略に基づき、必要な人材像を明確にしていくことが重要です。

グローバルな人事インフラの構築

さまざまな国で働く従業員がモチベーションを高く持って活躍できるように、明確で公正な共通の人事インフラを構築することは急務です。優秀な人材を確保し定着率を高めていくためにも、公平性のある全社共通の人事評価制度が必要です。

グローバルに通用する企業理念の構築

さまざまな国籍、多様な価値観を持つ従業員の一体感を醸成し、同じ目的に向かって進んでいくためにも、共通の認識を持てるようグローバルに通用する企業理念をつくり、浸透させていくことが大切になってくるでしょう。

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