「過重労働」とは、時間外労働、休日出勤などが慢性的に重なり、身体的・精神的に大きな負荷のある状態です。2019年4月より施行された働き方改革関連法により、日本の働き方は大きく変わりつつあります。過重労働の定義や労働基準法改正、過重労働を防ぐために企業が取るべき対策などについて、ご紹介します。

過重労働とは?

「過重労働」とは、長時間におよぶ残業や休日出勤、不規則な勤務や頻繁な出張などが原因で労働者の身体・精神に大きな負荷がある働き方のことを指します。過重労働で受けたダメージが身体的・精神的な疾患として現れ、最悪の場合は過労死や過労自殺などの事態を引き起こしかねません。
厚生労働省が発表した『諸外国における「週労働時間が49時間以上の者」の割合(令和元年)』によると、日本は18.3%と労働者の約5人に1人が週49時間以上労働しているというデータがあります。政府が「働き方改革」を推進しているなかで、企業が過重労働を未然に防ぎ、従業員の健康管理を徹底することの重要性がますます高まっています。

出典:厚生労働省「令和2年版過労死等防止対策白書」 諸外国における「週労働時間が 49 時間以上の者」の割合(令和元年)

過重労働に関する法改正

働き方改革を推進するための「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」に基づく法改正により、2019年4月1日に改正労働基準法が施行され、労働基準法制定以来初めて、罰則付きで時間外労働の上限時間が設定されました。
法改正前は大臣告示による時間外労働の上限は月45時間/年間360時間と定められていましたが、違反した場合は行政指導のみで、法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超える時間外労働について絶対的な上限時間が定められていませんでした。また「労働基準法36条 時間外労働についての労使協定」(通称36(サブロク)協定)(及びそれに付される特別条項)を締結すれば、労使で定めた範囲内で法定労働時間を超過しての労働が認められていました。
改正後は、法定労働時間を超える時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできなくなりました。

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、時間外労働年720時間以内、時間外労働+休日労働月100時間未満、複数月平均(2~6か月平均)80時間以内(時間外労働+休日労働が2~6か月平均で全て1月当たり80時間以内)とする必要があります(1日の所定労働時間8時間・土日休みの場合、月80時間の時間外労働は一就労日あたり4時間程度の残業時間)。また原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月までと定められ、違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。
出典:厚生労働省 「時間外労働の上限規制」

あわせて2021年4月1日から「36協定届」が新しくなっています。変更点は大きく2つです。
・届け出の際、使用者の押印及び署名が不要
・過半数労働組合及び過半数代表者についてのチェックボックスを新設

労働者代表が適格性を有するかという点について、チェックボックスへのチェックが必要になります。
出典:厚生労働省 「令和3年4月から、「36協定届」の様式が変わります」

過重労働・長時間労働がもたらすリスク

過重労働は身体にさまざまなリスクを与えると考えられています。厚生労働省によると仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は平成 30(2018)年で58%と半数を超えています。またその内容についても多いのが「仕事の質・量」59.4%となっています。では具体的に過重労働・長時間労働がもたらすリスクにはどのようなものがあるのでしょうか。

出典 : 厚生労働省 「令和2年版過労死等防止対策白書」 職場におけるメンタルヘルス対策の状況

精神障害のリスク

過重労働のリスクは身体的なものだけでなく、長時間労働が原因となる不規則な生活や業務におけるプレッシャーなどから、精神に影響をおよぼすこともあります。実際に業務における強い心理的負荷による精神障害を発病したとする労災請求件数は、年々増加しています。

出典:厚生労働省 「令和2年版過労死等防止対策白書 1過労死等に係る労災補償の状況」

過労死のリスク

「過労死等防止対策推進法」では、「過労死等」を「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう」と定義しています。自殺者のうち勤務問題を原因の一つとする割合は増加傾向にあり、身体面ではなく精神面も含めてケアしていくことが重要です。

出典:厚生労働省 「令和2年版 過労死等防止対策白書」

過重労働・長時間労働になってしまう原因

誰もが「体を壊してまで働きたくない」と思っているはずなのに、いったい何が原因で過重労働・長時間労働になってしまうのでしょうか。

業務量と人員配置のアンバランス

厚生労働省の「過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業」の調べによると、所定外労働(残業)が生じる理由は、「業務量が多いため」(57.0%)が最も多く、次いで「人員が不足しているため」(40.4%)、「仕事の繁閑の差が大きいため」(30.7%)となっています。このデータから「業務量の多さ」が過重労働の大きな原因と考えられます。

出典:厚生労働省 「令和2年版過労死等防止対策白書」 労災支給決定(認定)事案の分析及び労働・社会分野の調査結果 第 1-2-7 図
※全国の労働者(9,798 件)を対象にアンケート調査を実施

長く働くことが美徳とされる傾向がある

働き方改革の推進や働き方の多様化で、現在では「長く働くことが美徳」という感覚は薄れてきてはいますが、まだ仕事の成果ではなく、長く働くことが評価される傾向が残っているのではないでしょうか。このような傾向があると「残業の必要がない従業員まで残業する」、「実は定時に帰りたいのに周囲が残業しているので帰りづらい」ということが起こり、会社全体の労働時間が長くなってしまいます。

過重労働・長時間労働を防ぐための対策

では過重労働・長時間労働を防ぐためには、どのような対策が考えられるでしょうか。

社内の意識改革

もし自社に「残業を美徳」とする考え方があるなら、経営陣や従業員の意識改革を行いましょう。意識改革と同時に、時間内で効率よく働き成果をあげる従業員が評価される制度の構築や、業績給など成果に応じた報酬がもらえるように制度を含め改革していくことが重要です。

業務の見直しと適正な人員配置

一人あたりの業務量を確認し、必要に応じて業務の見直しを行いましょう。単に人員の増減だけでなく、定型業務の外注化やシステム導入による作業の省力化などの手法も取り入れていきましょう。また優先度の低い儀礼的な会議やそのための資料作成など、効率的でない業務は削減していくことも大切です。

管理職のマネジメントを強化

労働時間の適正な管理にあたっては、日々、現場を管理する管理職の役割が大きくなってきます。一人あたりの業務量が適切か、トラブル対応などに時間を割かれていないかなど、常に確認しサポートしていきます。必要に応じて、他メンバーに業務の補助をお願いし業務の平準化を図るなど、早期に適切な対応をとることが過重労働を防ぐことにつながります。

衛生委員会、安全委員会の活用

労働安全衛生法に基づき、常時雇用する労働者が50名以上の事業場(全業種対象)では「衛生委員会」の設置、一定の基準に該当する事業場では「安全委員会」と「衛生委員会」、または両委員会を統合した「安全衛生委員会」の設置の設置が義務づけられています。労働者の意見を反映しながら、労働者が危険や健康被害に遭わないよう対策するために設置されるもので、労働安全衛生規則第23条により、毎月一回以上委員会を開催することが法律で定められています。この委員会を活用し、いま現場でどのような問題が起きているかを把握し、早期に対策をたて解決していきましょう。
出典:厚生労働省「安全衛生委員会を設置しましょう」

長時間労働者への医師による面接指導

企業は長時間労働などにより疲労が蓄積し、健康障害へのリスクが高まっている従業員に対して、医師による面接指導を行うことが義務づけられています。2019年4月1日から施行された「改正労働安全衛生法」では、「長時間労働者に対する医師の面接指導」に関する規定の改正が行われました。法改正前は、時間外・休日労働時間が月100時間を超え疲労の蓄積が認められる労働者から申し出があった場合に、面接指導の実施義務がありましたが、法改正後は、月80時間を超え疲労の蓄積が認められる労働者から申し出があった場合となり、面接指導の実施義務の範囲が拡大されました。
また月100時間超の時間外・休日労働を行った「研究開発業務従事者」、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間について月100時間を超えて行った「高度プロフェッショナル制度適用者」については申出がなくても面接指導の実施が義務付けられています。

出典 : 厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」
法律を遵守することで過重労働をなくし、従業員が健やかに働ける環境を整えることが、従業員の生活を豊かにし、企業の生産性を向上させることにつながります。ぜひいま一度、自社の労働時間の実態を把握しましょう。

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