「動機付け」を活用して、社員がよりモチベーション高く働ける状態をつくりあげることは生産性向上につながり、企業にとっても大きなプラスとなります。そこで今回は、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の違い、その行動要因や要求となるもの、動機付けの高め方、マネジメントや採用における具体的な活用方法などをご紹介します。

動機付けとは?

動機付けとは、目的や目標などのある要因によって行動を起こし、それを持続させる過程や機能のことをいい、「モチベーション」と言い換えることもできます。心理学の考え方で、動機付けには「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の二つがあるとされています。

外発的動機付けとは

外発的動機付けは、行動の要因が「評価」「報酬」「賞罰」などの人為的な刺激によるものであるという考え方です。具体例としては「給与アップを目指して仕事を頑張る」「上司から叱責を受けないように業績をあげる」などがあります。

一般的に外発的動機付けの効果は一時的なものであり、人格的成長には必ずしもつながらないという見解もありますが、外発的動機付けによって行動をしているうちに、次第に興味・関心が生まれて内発的動機付けへと変化していくこともあるといわれています。

内発的動機付けとは

内発的動機付けは、行動要因が内面に湧き起こった興味・関心や意欲によるものであるという考え方です。動機付けの要因は、金銭や食べ物、名誉など、外から与えられる外的報酬に基づかないものを指します。一般的には「充実感」「達成感」「責任感」などが要因になりうるとされ、個人の考え方や性格で要因は異なってきます。具体的には「仕事が楽しくて時間を忘れてしまう」「自分で決めた目標を達成したい」などがあります。

動機付けにおける重要な理論

アメリカの心理学者であるエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱し、多くの心理学者から支持されているのが「自己決定理論」です。取り組むことを自ら選び、自分の意志でやっているのだという実感を持つことが、内発的なモチベーションを高めるという理論です。何ごとも自己決定しているかどうかでその後のやる気が大きく変わり、「グリット(やり抜く力)」の源泉にもなります。

一方で、動機付けがされていない場合や外発的動機付けの場合は、自己決定の度合いが高い内発的動機付けよりも、意志が弱くなるといわれています。下の図のように外発的動機付けにも段階があり、アプローチによって変化するなど連続性があります。

自己決定の6段階

※参考:エドワード・デシとリチャード・ライアンの「自己決定論」
※グリットについては下記の記事をご参照ください。
【人事必見】grit(グリット)とは?成功者に共通する「やり抜く力」を解説

また、自己決定理論では、自発的に行動を続けるために3つの欲求を満たすことが大事だとしています。具体的には、自ら行動を選択し、主体的に動きたいという「自律性の欲求」、自分はできる、能力を発揮できていると感じられることへの「有能性の欲求」、他人と互いに尊重しあえる関係性をつくりたいという「関係性の欲求」です。これらの感覚を持てたときに、内発的動機を得やすいといえます。

二要因理論

二要因理論とは、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱したもので、「動機付け要因」が仕事に対する満足につながり、「衛生要因」が不満足につながるという理論です。動機付け要因には、成果、達成、評価、責任、成長の機会などが該当し、衛生要因は、主に人間関係、会社の方針、職場環境、労働条件などが該当します。衛生要因を取り除いたからといって、それが動機付けにつながるわけではありません。

動機付けを高める方法

先に述べたとおり、動機付けには「外発的動機付け」と「内発的動機付け」があり、人によって要因となるものはさまざまです一律にモチベーションを向上させようとするのではなく、相手の環境や経歴、考え方などから推測し、動機付けにつながる要因は何なのかを見極めていくことが重要です。

外発的動機付けの場合、たとえばわかりやすいものが金銭報酬です。「目標を達成したら給与が上がる」「インセンティブをもらえる」などの条件の提示によってモチベーションを高めることができます。また、行動経済学における損失回避理論においては、人は何かを「得る」よりも「失わない」ために行動することを選ぶ傾向があるといわれています。こうした観点から「目標を達成できなければインセンティブが減る」などの罰則の動機付けも効果につながります。ただしこうした外発的動機付けの効果は一時的なものといわれており、これをきっかけに業務に興味関心を持つなど、内発的動機付けにつなげていく方法が効果的です。

内発的動機付けにおいても、相手の動機付けにつながる要因を見極めたアプローチが重要です。たとえば「責任感」が動機付け要因となる相手ならば、責任の求められる仕事を任せたり、果たした責任に対して感謝を伝えたり、動機付けの要因に合わせたアプローチをしていきます。

注意が必要なのが、「アンダーマイニング効果」と呼ばれるものです。内発的動機に基づく行為に対して、報酬などの外発的動機付けが行われることにより、逆にモチベーションが下がってしまう現象のことをいいます。「楽しい」「やりがいを感じる」といった行為そのものを「目的」に取り組んでいた業務なのに、外的報酬を意識した結果、それを得るための「手段」になってしまい、その業務に楽しさを感じられなくなってしまうのです。外発的動機付けを行うことも大切ですが、そのやり方を間違えると、逆にマイナスにもなることを意識しておきましょう。

動機付けが上手にできない理由

動機付けが上手く作用していない場合、いくつかの理由が考えられます。

相手に合わせた動機付けができていない

何が動機付けにつながるかは、人それぞれです。複数の要因が組み合わされてモチベーションに影響を与えるケースもあります。一律で動機付けを行うのではなく、相手のモチベーションや興味関心、成長意欲につながるものは何なのかを把握し、そこにアプローチしていくような動機付けを行いましょう。

「衛生要因」による不満足が大きい

高い動機付けを行うためには、まず衛生要因を取り除くことも大切です。「会社の方針に納得していない」「職場の人間関係に問題が起きている」「労働条件に不満を持っている」など従業員の不満を洗い出して、できるだけ衛生要因の解消をしていきましょう。同時に満足度を向上させるための条件を整えて、動機付け要因を増やしていきましょう。

動機付けされている事柄に慣れてしまった

外発的動機付けに起こりやすいといわれている事象で、得られる「評価」や「報酬」に慣れてしまって、動機付けのための刺激の効果がなくなってしまう場合があります。最初はその動機付けで行動してくれていても、その効果が薄れたら、新たな動機付けを本人と話す必要があります。全く新しい動機付けを見つけるのか、似たようなもので動機付けできるのか、本人に確認しましょう。

動機付けをマネジメントに活かす方法

2017年にリクルートワークス研究所が、東証一部企業およびその主要事業会社(197社)の人事部を対象に行った「Works 人材マネジメント調査 2017」の調査結果では、管理職に必要とされる15の能力・スキルのうち、「部下の動機づけスキル」が最も不足し、課題となっていることが明らかとなりました。

では動機付けに関するマネジメント行動にはどのようなものがあるのでしょうか。

達成動機の把握

部下それぞれの異なる達成動機を把握し、それに沿って業務を振り分けることを指します。達成動機とは、価値のある目標を何としてでも成し遂げようとする気持ちのことです。部下の達成動機を把握できれば、内発的動機づけにつながり、難しい目標であったとしても意欲をもって取り組めるため、高い目標達成や部下の成長を実現しやすくなります。

意義付け

職務を部下に任せる際、その職務の組織における重要性や意義・価値を説明することを指します。部下の立場からすれば、単に職務を割り振られるよりも、その職務における重要性や意義・価値について説明を受けたうえで任された方が、意欲が高まり、内発的動機づけにもつながります。

リアルタイムフィードバック

部下の良い行動について、リアルタイムで褒めることを指します。部下の動機付けにつながる表現でフィードバックを行うことで、部下の承認欲求を満たし、やる気を引き出すことにつながります。また、部下が良い成果を出したときには、積極的に社内外に紹介してアピールしていく「ディスクローズ」も動機付けにつながる行動の一つです。

適切な目標設定とアドバイス

部下の内発的動機付けを引き出すような目標設定へと導くことを指します。さらに成長段階に合わせた助言やアドバイスを的確に行い、部下に気づきを与えることで新たなやる気を生み出し、次なる目標への意識を高めることにもつながります。

動機付けを採用に活かす方法

新卒・中途採用で動機付けを活かす方法は、選考プロセスにあります。選考に動機付けを取り入れることで、内定辞退の防止などにもつながります。候補者に入社への動機付けを行うためには、まずは面接や書類などを通じて「志望理由」や「仕事や会社選びにおいて重視すること」などを把握し、相手の動機付けの要因を見極めていくことが重要です。その上で、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の観点から必要な情報提供を行い、動機付けを行います。本人にとって入社する理由、仕事のやりがいなどが自社と結びつくことで、選考辞退、内定辞退の防止につながります。

動機付けを活用してよりモチベーション高く働ける状態をつくりあげることは、生産性や成果の向上にもつながり、企業と従業員の双方にとってプラスとなります。ぜひ今回紹介した動機付けの理論や具体的な活かし方を参考し、人や組織の成長につなげていってください。

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