一度学校を卒業して社会人になってからも、スキルアップのための研修・トレーニングを受講したり、仕事を中断して大学院に通ったりする「リカレント教育」が注目されています。リカレント教育は、子ども時代の教育課程とは何が違うのでしょうか。今回は、リカレント教育の内容や推進のポイントについて解説。類似するキーワード「生涯学習」についてもご紹介します。

リカレント教育とは

リカレント教育とは、一言で言い換えるならば「社会人の学び直し」です。「リカレント(recurrent)」とは繰り返しや反復を意味する言葉。教育を繰り返すこと、すなわち教育を受ける機会から一度離れたとしても、必要なタイミングで再び教育を受けることがリカレント教育の趣旨です。リカレント教育はスウェーデン発祥の概念で、もともとは働く時期と仕事を離れて学ぶ時期を交互に繰り返していくような学びのモデルを指していました。日本では、これに加えて「昼間は働きつつ、夜間の講座を受講する」などの仕事と並行して学ぶモデルもリカレント教育のひとつと考えられています。

出典:内閣府「政府広報オンライン」「学び」に遅すぎはない!社会人の学び直し「リカレント教育」(2021年8月)

生涯教育との違い

リカレント教育は、「大人になってからの学び」という側面から生涯教育と同じように語られることもありますが、そのふたつを大きく分けるのは学ぶ目的の違いです。リカレント教育は、仕事に活かせるスキルや知識を習得することが目的。実際に働く中で力不足を感じた部分を補強したり、時代の変化に合わせた最新の知識をアップデートして自分の仕事・キャリアを進化させたりするもので、そのために仕事と学びを繰り返します。対する生涯教育は、仕事に限らず人生を豊かにすることが目的。趣味や生活のための学びも生涯教育に含まれており、学ぶこと自体を生きがいにしようという趣旨もあります。

リカレント教育が注目されている理由

現在、日本では国もリカレント教育を後押ししており、教育分野を司る文部科学省では、リカレント教育が必要な背景に、「人生100年時代の到来」「Society5.0の到来」を挙げています。

出典:内閣府「文部科学省におけるリカレント教育の取組について」(2020年4月)

ひとつめの人生100年時代の影響とは、人の生き方や価値観が変わろうとしていること。従来、人の人生は学校で勉強する時期、社会に出て働く時期、仕事をリタイヤして余生を過ごす時期の3ステージを一方通行に経験していくものだと捉えられていました。しかし、人生100年時代は、時代や年齢、ライフイベントに合わせて何度も仕事を変えたり、様々な役割にチャレンジしたりするようなステージの変化をいくつも経験するようになるといわれています。若い頃に学んだ知識だけでは通用しないため、いくつになっても必要なタイミングで学び直しを行うことが必要です。

もうひとつの背景にあるSociety5.0とは、IoTやビッグデータ、人工知能などの技術革新によって訪れる新しい社会のこと。テクノロジーを使いこなすための知識が求められるのはもちろん、AIが人の知能を越える「シンギュラリティ」が起きることも予見されており、AIやロボットが人の担ってきたさまざまな役割を代替する社会が到来する未来で、人にしかできない仕事で活躍していくための学び直しが必要だといわれています。

※「シンギュラリティ」については、下記の記事をご参照ください 

シンギュラリティ(技術的特異点)とは?社会への影響、到来時期を紹介

リカレント教育のメリット

通常の業務では得にくい知識・スキルを習得できる

リカレント教育は、大学・大学院などの社会人コースや、専門資格や技術習得のための講座など、社外の教育機関で学ぶものが中心です。そのため、普段の業務の中では習得しづらいものを学ぶことに最適です。将来的に業務に必要なスキルを先取りして学ぶことや、属人的に身に着けた知識を体系的に学び直して理解を深めることができます。

個人の自由で自律的なキャリア形成を促進する

社内で行う研修やトレーニングなどの学びの機会は、実務に直結するものや中長期的に社内で活躍してもらうことを念頭に設計されており、入社時研修や新任マネジャー研修など、一定の条件に当てはまる従業員に受講を課しているものもあります。

一方のリカレント教育は、基本的に何を学ぶかは個人の自由。将来の独立を目指して経営や会計を学ぶ、海外で働くために英語を学び直す、専門職へのキャリアチェンジを夢見て資格の勉強をするなど、現在の会社や仕事だけにとらわれず、個人の意思で主体的に自身のキャリアを形成するための足掛かりになってくれます。

リカレント教育の現状と国の政策

日本におけるリカレント教育は、海外と比較するとあまり進んでいるとはいえない状況にあります。文部科学省の2018年2月資料によれば、25歳以上の「学士」課程への入学者割合はOECD27ヶ国で26位。30歳以上の「修士」課程では21位でした。

出典:文部科学省「高等教育の将来構想に関する参考資料」高等教育機関における25(30歳)以上入学者割合の国際比較 (2018年2月) 

こうした状況を踏まえ、国もリカレント教育の推進に力を入れており、教育と雇用・労働の両面からアプローチをしています。たとえば文部科学省では、「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」を実施。DX(AI・IoT)、医療・介護、地方創生、女性活躍といった社会的関心の高いテーマのプログラムを無料で受講できるようにしています。

出典:文部科学省「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」

厚生労働省では、労働者の主体的な学びへの支援として、教育訓練給付金や高等職業訓練促進給付金を支給。キャリアコンサルティングや公的職業訓練など、個人を支援する施策だけでなく、リカレント教育を促進するような活動をしている事業主に対する助成金等の支援も行っています。

出典:厚生労働省「リカレント教育」

リカレント教育で活用できる給付金・助成金

ここでは上述した国の給付金・助成金について詳細をご紹介します。

個人が活用できる給付金

教育訓練給付金

一定の受給要件を満たす人が厚生労働大臣の指定を受けた講座を修了した場合に、自身が負担した受講費用の20%~70%が支給されます。対象講座は約14,000講座あり、幅広い職業に通じる教育が想定されています。

高等職業訓練促進給付金

ひとり親の方が、看護師等の国家資格やデジタル分野等の民間資格の取得を目的に修学する場合に、月10万円を支給(住民税課税世帯は月7万5千円、修学の最終年限1年間に限り4万円加算)するものです。就業経験が少ない母子家庭の母親などは、生計を支えるための十分な収入を得ることが困難な状況に置かれている場合が多く、父子家庭も同様の困難を抱えていることから、就業に繋がるための学び直しを支援しています。

企業が活用できる助成金

人材開発支援助成金

企業が従業員に対して職務に関連した訓練を実施した場合や、新たに訓練休暇制度を導入して教育訓練休暇を与えた場合に、これらに要した経費等の助成が受けられます。特に、訓練休暇制度=学び直しのための休暇制度を推奨している点が、リカレント教育の趣旨に沿ったものだといえます。

リカレント教育で企業に求められていること

文部科学省の資料によると、社会人が大学等で学びやすくなるための取組みとしては、「費用の支援」「時間の配慮」「プログラムの拡充」「情報を得る機会の拡充」「学び直し促進のための企業の仕組みづくり」が求められています。こうしたニーズを踏まえると、従業員は学業との両立のためにも働く時間や場所の柔軟性を求めているといえます。また、学んだ成果や学ぶこと自体が職場で評価されるような仕組みづくりのニーズも高いことが調査結果には示されています。さらに、休暇・休職制度のように、一時的に職場を離れても戻ってこられるような環境整備のニーズも高いようです。上述した助成金等も活用しながら学びやすい環境の整備をすることも、企業に期待されていることだといえます。

出典:内閣府「文部科学省におけるリカレント教育の取組について」(2020年4月)

 

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