近年、AI(人工知能)の能力が飛躍的に向上し、企業活動にも盛んに取り入れられるようになりました。こうした技術進化の先に待っているといわれるのが、レイ・カーツワイル氏が提唱した「シンギュラリティ(技術的特異点)」。シンギュラリティが訪れると人類はどうなるのか、社会・人間への影響について、採用・雇用のテーマを交えてご紹介します。

シンギュラリティ(技術的特異点)とは?

シンギュラリティ(Singularity:技術的特異点)とは、人間がもつ生物としての思考や存在が自分たちのつくり出したAIなどのテクノロジーと融合する「臨界点」とされています。今後、テクノロジーが急速に変化すると、その影響によって人間本来がもつ、精巧さと柔軟さに追いつき、そのうち大幅に抜き去ることで人間の生活が後戻りできないほど変化してしまう、シンギュラリティ以後の世界はそんな未来がやってくると考えられています。

たとえば、2022年11月に公開された「ChatGPT」は高度なAI技術によって、人間のように自然な会話ができるAIチャットサービスとして話題となっています。このサービスは、無料でも利用でき、まるで人間が回答をしているかのような自然で完成度の高い文章を作成してくれます。

ChatGPTはGPTという言語モデルがベースとなっており、与えられた文章の指示に対して自然言語を生成できるAIが、インターネット上にある膨大な情報を学習し、複雑な語彙や表現を理解していくという特徴を持っています。

また、過去の会話内容を記憶することもでき、誤りがあった場合はユーザーが訂正することが可能です。このように、より自然な会話に近づけるための機能も搭載されています。
人間とAIのようなテクノロジーが融合し、さらに進化した世界がシンギュラリティ(技術的特異点)といえるでしょう。

シンギュラリティはいつ来るのか?

人工知能(AI)研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏は著書である『シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき』において、近年、ITの能力を示すコストパフォーマンスや速度、容量、帯域幅は現時点で毎年約2倍のペースで成長しており、今後はさらに速いペースで成長していくと述べています。また、20年以内には、人間の脳のすべての領域の働きについて、詳細に理解できるようになるとも述べています。

また、人間の知能を模倣するために必要なハードウェアが、スーパーコンピュータでは10年以内に、パーソナルコンピュータ程度のサイズの装置では、その次の10年以内に得られ、2030年代までには、人間の知能をモデル化した有効なソフトウェアが開発されるとも述べています。

このように近々シンギュラリティは訪れると考えられていますが、はっきりといつとは明言されていません。というのもテクノロジーの進化は一次関数のような直線的ではなく、対数関数のように最初は目に見えないほどの変化だったものが、やがて予期しないほど爆発的に進化していくものだからです。ここでは2つの説をご紹介します。

出典:『シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき』NHK出版2016年

レイ・カーツワイル氏の主張

カーツワイル氏は2005年に発表した前述の著書において、はじめて「シンギュラリティ」という言葉を使い、「シンギュラリティ」の訪れを2045年と予想しました。

この根拠に使われたのは「ムーアの法則」です。ムーアの法則のムーアとは、1970年代の半ば、トランジスタに代表される集積回路の主要な発明者であり、後にインテル社の会長となったゴードン・ムーア氏のことです。ムーア氏は24カ月ごとに集積回路上に詰め込むことができるトランジスタは2倍になると発言し、これがムーアの法則と呼ばれるようになりました。

現在、通常のITの性能についてのさまざまな基準である「コストパフォーマンス」「容量」「帯域幅」が2倍になる時間は、およそ1年だとわかっており、2040年代の半ばにはコンピュータの能力が今の人間のすべての知能よりも約10億倍も強力になると述べています。 こうした理由から、シンギュラリティーは2045年に到来するとしています。

出典:『シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき』NHK出版2016年

ヴァーナー・ヴィンジ氏の主張

「シンギュラリティ」という言葉を広めた人物の一人でもあるヴァーナー・ヴィンジ氏は、1993年に発表した著書『The Coming Technological Singularity』において、30年以内に情報技術の進歩により、機械は人間を超える知能を得ることができる、と予想しました。このことにより、シンギュラリティは2023年より前に訪れるということになります。

しかし、カーツワイル氏が技術革新によって明るい未来を予想したのとは異なり、ヴィンジ氏は人間が理解できない領域までAIが進化することで、人間の時代が終焉を迎えるという悲観的なことも予想しています。

出典:”TECHNOLOGICAL SINGULARITY” © 1993 by Vernor Vinge

※ITリテラシーに関しては、以下の記事をご参照ください

リテラシーとは?意味、使い方、ITリテラシーの高め方を解説

シンギュラリティが社会に与える影響

シンギュラリティが到来した後、人間が行わなくてもよいものが増えていきます。シンギュラリティは社会にどのような影響をおよぼすのか、「雇用」「社会制度」「健康」の3つの観点から説明します。

雇用

シンギュラリティによって一部の仕事や職業は人工知能に置き換えられ、消失すると予想されています。ただ、これは100年前に航空管制官やWebデザイナーが存在しなかったように、新しい産業の出現によって仕事の形態が変わっていくだけであって、人間の労働が不要になるわけではないとカーツワイル氏は述べています。

これに関連して、アメリカ最大の独立系投資顧問企業・イーデルマン・フィナンシャル・エンジンズ社の創業者リック・イーデルマン氏は、シンギュラリティが加速し、自動化されることによって失われる可能性が高い仕事は171あると予測しました。以下にその可能性が90%以上であるものを一部ご紹介します。

・医療および臨床検査技師

・鉄筋コンクリート作業員

・屋根ふき職人

・不動産鑑定士と不動産査定人

・ゲームとスポーツの書籍ライターと運営者

・楽器の修理師と調律師

・旅行案内人と添乗員

・專門機械修理工

・医療事務従事者

・コーティング、塗装、スプレー機械の設定者、作業員、担当員

・鉄道運転手、副操縦士、整備士

・ダイニングルーム、カフェテリアの接客係、バーテンダーヘルパー

・自動車修理工

・調剤技師

・貸出担当者と銀行員

・保険セールスエージェント

このような仕事はある一定の基準が備われば、状況判断が可能なものであり、反復と学習が得意なAIにとってはこなしやすい仕事です。また、比較的単純な作業的な仕事もAIが得意とするところであり、失われる可能性が高いでしょう。

その一方で、自動化によって失われる可能性が低い仕事は175あり、その可能性が10%以下であるものをここで一部ご紹介します。

・社会福祉士

・作業療法士

・栄養士

・振付師

・内科医と外科医

・心理学者

・臨床心理士とスクールカウンセラー

・人材開発マネージャー

・言語聴覚士

・住宅管理アドバイザー

・進路指導教員

・セールスマネージャー

・最高経営責任者

・ファッションデザイナー

・写真家

・インテリアデザイナー

このような仕事はクリエイティブで、人体に影響を与える仕事となるため、一定の基準をもってこなせる仕事ではなく、個別に考え、判断する必要があります。そのためAIではなく、人間がやるべき仕事となるため失われる可能性は低いといえるでしょう。

出典:『2030年代へ備えるマネー・プラン シンギュラリティに向けて急加速する技術革新が金融・経済・生活を一変させる』リック・イーデルマン著 翔泳社 2022年

社会制度の変化

シンギュラリティが到来し、AIが行う仕事が増えてくると従来の仕事からキャリアチェンジができなかった人が仕事を奪われてしまうことが考えられます。そして、所得格差が生まれ貧困層が拡大する可能性があります。

こうした状況に対して、政府は社会システムの維持のために一定の金額を国民に支給することで、貧困格差の拡大を防ぐ動きが出てくると考えられます。

これが「ベーシックインカム制度」です。国民に対して政府が最低限の生活に必要な額を支給する政策であり、最低限の所得を保障する仕組みです。

ベーシックインカム制度は、貧困格差の拡大を防ぎ、長時間労働の削減、フルタイム以外の多様な働き方が可能になるというメリットがある反面、労働意欲の低下といった問題を引き起こすリスクがあります。また、社会保障費の支出増大による増税、年金などが廃止され自己責任での生活を要求されるようになるなどのデメリットが考えられます。

健康への変化

これまで人間がテクノロジーを進化させ、本来の寿命を伸ばしてきたように、シンギュラリティが加速すると人体への介入がさらに進むと考えられています。

病気やケガなどによって機能を失った臓器の代替手段としてだけではなく、人間の体や脳が動く仕組みを明らかにし、それらを入れ替えるシステムも導入していくと予想されています。仕組みが明らかになることでさらに優れた器官がつくられ、長寿命で機能的に優れ、老化や劣化しないものへと変えることも可能でしょう。

また、ワクチンや新薬の開発において、何万種類もある化合物の候補物質のなかから、最適な化合物を見つけ出す際、量子コンピューターを用いることで、従来よりももっと短時間で新薬を開発できる可能性が高くなることが考えられます。

2030年に起こるプレ・シンギュラリティとは?

スーパーコンピューターの開発者であり、次世代の汎用人工知能の研究者でもある齊藤元章氏によるとスーパーコンピューターが2020年から2030年にかけて確実に実用化され、技術革新を強力に推し進めることによって、シンギュラリティの前段階にあたるプレ・シンギュラリティの世界がくると考えられています。ここではその具体的な社会事象を3つご紹介します。

エネルギー問題が解消される

発電効率が改善され、新しいエネルギーが開発されてエネルギーが無料となる可能性があります。

基本的な生活が安定し、長期保障が実現する

エネルギー問題が解消することで衣食住が無料となり、「貨幣」が不要となります。生活が安定するので、事件や事故、犯罪のない社会が実現します。

老化と寿命から解放される

老化がコントロールされ、不老が実現し、寿命という概念がなくなります。

AIによるテクノロジーの進化は、人間の暮らしに大きな変化を与えるものですが、命令がなくとも自分で考え、自らの判断で行動ができる「AGI」(Artificial General Intelligence)と呼ばれる、人間と同じように自律的に思考・学習できる「汎用型AI」の実用までには至っていません。しかし、テクノロジーは確実に進化しているため、シンギュラリティが起こる日はそう遠くないかもしれません。その変化が私たちの社会にどのような影響をおよぼすのか、今後も考えていきましょう。

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