採用市場での人材の争奪戦が激化するなか、「採用課題」というワードを耳にするようになりました。企業の採用活動における課題は、新卒採用・中途採用によっても違いがあるほか、採用ターゲットに対する自社の魅力が不足しているといった内部要因だけではなく、社会情勢や採用市場の動きといった外部要因の影響も受けます。今回はこの採用課題について詳しく解説します。

採用課題とは

採用課題とは、企業が採用活動を行う際に、採用の成功を阻む「課題」のことを指します。採用課題は自社に起因する内部要因だけではなく、経済・市場の動向や人口減少といった社会問題である外部要因も含みます。そのため、採用課題を考える際は、社会動向や経済動向なども踏まえて広い視点で課題を分析・対策する必要があります。

また内部要因においては細かな視点で課題を分析・改善する必要があり、採用プロセスの一つ一つをチェックして課題を分析するなど、採用プロセスを細分化して考えていきます。

最新の採用市場

最初に、企業の採用活動に外部要因として影響を与え、採用課題を考えるうえで重要な要素となる昨今の採用市場について解説します。

新卒採用

採用状況

2022年12月に発表されたリクルートワークス研究所「ワークス採用見通し調査」によれば、2023年卒の新卒採用の充足率(2022年10月1日時点)は78.5%と、過去10年間で最も低い水準となりました。従業員規模別の採用充足率を見ると、1,000名以上企業では93.4%、1,000名未満では71.9%、300名未満企業では65.5%となっており、企業の規模が小さくなるほど人材の充足率が低くなっていることがわかります。このデータからは、中小企業で新卒採用の採用意欲が回復基調にあるなかで、採用の実績に結び付いていない状況がうかがえます。

初任給の引き上げ

同じ調査からは人材の採用力を高めるための戦略として、初任給を引き上げる企業が増えている傾向が見られます。初任給の引き上げに「既に取り組んでいる」と答えた企業は27.8%、「今後取り組む予定である」と答えた企業は27.1%、合わせて54.9%の企業が初任給の引き上げを検討していることがわかりました。また、従業員規模別では「既に取り組んでいる・今後取り組む予定である」企業は、1,000名以上企業では62.3%、1,000名未満企業では52.4%となっており、企業規模の大きな企業ほど検討している割合が高い傾向がありますが、1,000名未満企業でも約半数が初任給の引き上げを検討していることがわかります。

出典:リクルートワークス研究所「ワークス採用見通し調査」2022年12月21日

中途採用

採用状況

中途採用では、2022年度上半期の人員を確保できた企業は39.3%、確保できなかった企業は58.7%となり、2013年度以降において人員確保できなかった企業の割合が最も高くなっています。従業員規模別での確保D.I.(「確保できた」-「確保できなかった」)では、1,000名以上の企業は-26.2%ポイント、1,000名未満の企業のD.I.は-16.6%ポイントとなり、中途採用では大手企業のほうが人員確保に苦戦している状況がうかがえます。2023年度の中途採用の見通しについては「増える」(20.0%)が「減る」(2.6%)を上回っており、採用意欲が高まっています。特に従業員規模1,000名以上の企業で1,000名未満企業と比較して採用意欲の回復が顕著となっており、2023年度は新卒採用と同様に大企業を中心に採用意欲がさらに回復する見通しとなっています。

異業種・異職種人材の採用

人材採用力を高めるための戦略として「異業種・異職種人材の積極的な採用」の傾向が見られます。異業種・異職種の人材の採用に「既に取り組んでいる」企業は26.3%、「今後取り組む予定である」企業は17.0%となり、合わせて43.3%の企業が異業種・異職種人材の採用を検討していることがわかりました。昨年と比較してほぼすべての業種で異業種・異職種採用の取り組みが増加していますが、人手不足が顕著な業種でよりその傾向が見られます。

従業員規模別では「既に取り組んでいる・今後取り組む予定」の企業は、1,000名以上企業では50.6%、1,000名未満企業では40.8%となり、企業規模が大きい企業ほど前向きに検討している傾向がみられます。大手企業では教育体制が充実しており、不足している知識やスキルは採用後に教育で身に付けさせればよいとの考え方があります。そのため、活躍が期待できる人材であると見なしたら、異業種や異職種であっても採用に前向きであることが考えられます。

出典:リクルートワークス研究所「中途採用実態調査」2023年1月23日

採用課題の見つけ方

採用活動を成功に導くためには、採用課題を正しく把握することが大切です。採用課題には外部要因と内部要因があり、ここでは主要な要因について解説しましょう。

外部要因となる4つの要素

代表的な外部要因は以下の4要素です。自社に影響の強い要素はどれかを考えることで、自社の課題を特定する助けとなります。従業員規模や業種・職種によっても採用課題が変わるため、自社の立ち位置とともに、採用に関する競合企業との比較やターゲット層の動向も分析していくとよいでしょう。外部要因は自社だけでは解消できない要因もあるため、まずは課題と原因の分析をして解決策よりも課題に対してどう対策をしていくかを考えていきましょう。

●社会環境の変化(人口減少、経済の動向など)

●採用市場の動向(求人倍率、求人充足度など)

●他社企業の採用戦略(先述の初任給の引き上げや、異業種・異職種人材の採用など)

●就職(転職)希望者の動向(世代・年代による価値観の変化、ターゲット層の希望・志向の傾向、活動状況の動向など)

内部要因となる3つの要素

採用課題のうち内部要因は、以下の3要素から見直しを行うことが必要です。内部要因は自社内で改善できる課題も多いため、改善に向けて取り組みやすい傾向があります。課題の分析だけに終わらず、課題とその原因・解決策までセットで考えていくとよいでしょう。

●採用プロセスにおける課題(採用企画・母集団形成・選考フェーズ・内定~入社前フェーズなどの各プロセスにおけるKPI上の課題、KPI外の課題など)

●組織体制・ノウハウにおける課題(組織上の課題など)

●入社後の課題(採用ミスマッチによる早期離職・入社後ギャップ)

新卒採用の課題・原因・解決策

それでは新卒採用における課題にはどのようなものがあり、どうすれば解決できるのでしょうか。ここでは状況を可視化するうえで数値化しやすく、改善に向けて取り組みやすい「採用プロセス」を例に、各段階での課題例や解決策について解説します。

母集団形成

「母集団形成」とは、応募者を募るフェーズを指します。このフェーズでの採用課題は、「応募者が集まらない」「採用したい人材の応募が来ない」といったものが一般的です。

この際にポイントとなるのは、「採用ターゲット」の設計とそのターゲットに刺さる採用ツールの活用・打ち出し方です。ありがちなケースとして、「優秀な人」といった漠然とした採用ターゲットや採用基準しか持たないで、採用活動をしてしまうことです。

採用手法が多様化している近年、ほしい人材に応じて採用手法・アピール方法を変える必要があります。自社で活躍する(している)人材はどのような人材なのかを分析し、そのターゲットの採用に最適な採用ツールの選定や打ち出すPRポイントを明確化していくことが母集団形成のポイントとなります。

選考

「選考」フェーズは、応募者の書類選考や面接などの選考段階を指しています。選考フェーズで課題となり得るのが「通過率」「辞退率」「選考基準」です。

「通過率」「辞退率」「選考基準」のいずれも母集団形成からつながる部分のため、母集団形成に立ち戻り、ターゲットの見直し、採用ツールの見直しなどを行う必要があります。また面接官・採用に関わるメンバー全員が採用ターゲットや採用基準について理解し認識合わせをしていく必要があり、自社の面接力の向上などにもあわせて取り組むとよいでしょう。ここではそれぞれの課題について解説します。

通過率

「通過率」が課題になる場合、選考中の応募者の通過率が低い、つまり採用基準を満たす候補者が少ないことが想定されます。原因としては「応募者が求めるターゲットとマッチしていない」「面接官のジャッジが的確でない」などが考えられます。

辞退率

「辞退率」が課題になる場合、選考中の候補者の辞退率が高いことが想定されます。原因としては、「面接官が適切に対応できていない」「選考段階での応募者フォローができていない」といった面接官の面接スキル不足や選考前後のフォロー不足が考えられます。また、「応募者が求めるターゲットとマッチしていない」「母集団形成時に適切なPRができていない」といった選考中の応募者側の違和感やミスマッチが原因となる場合もあります。

選考基準

「選考基準」が課題になる場合、面接官ごとに選考基準がずれていることが想定されます。このように、面接官が選考基準を把握できていない場合や、面接官同士の選考基準が揃っていない場合には、1次面接は通過しても役員面接で毎回落ちてしまうといった事態が発生しやすくなってしまう可能性があります。

中途採用の課題・原因・解決策

次に中途採用における「採用プロセス」の課題例とその解決策について解説します。

母集団形成

中途採用における母集団形成でも、「応募者が集まらない」「採用したい人材の応募が来ない」ことなどが課題となります。中途採用は外部要因によって職種ごとの採用難易度に大きな差があるため(たとえばエンジニアなどは採用難易度が極めて高いなど)、採用ポジションごとに分析をしていく必要があります。

また、新卒採用に比べ配属部署・求める経験などを明確にしやすいため、募集ポジションごとに配属部門、活躍している人材、採用したい人材といった「採用ターゲットの設計」をしていくとよいでしょう。さらに採用ターゲットに合った採用ツールの選定を行います。新卒採用とは使うツールや候補者の動き方も異なるため、中途採用における自社の採用ターゲットの動向を押さえておく必要があります。

選考

中途採用においても同様に「通過率」「辞退率」「選考基準」が選考フェーズでの課題となることが考えられます。

通過率

中途採用は各配属先が面接をするケースも多く、「通過率」は配属先やポジションごとに差がでる傾向があります。そのためポジションごとに課題分析をしていくとよいでしょう。

辞退率

中途採用における「辞退率」は特に外部環境の影響を受けやすい要素です。職種ごとの採用難易度の差といった外部環境要因を踏まえる必要があるため、辞退率においてもポジションごとの課題分析をしていきましょう。

選考基準

面接官の「選考基準」のズレは中途採用においても課題となりやすいといえます。新卒採用に比べ選考の過程で配属先を巻き込むことが多く、関わる面接官が多くなるため、面接官の間での選考基準のすり合わせや合否の結果分析などが重要なポイントになります。

※中途採用に関しては、以下の記事をご参照ください

【人事必見】中途採用とは?採用計画の作成方法、選考・入社までを徹底解説

採用成功のポイント

採用市場の競争が激化しているなかで、採用ツールも年々多様化しています。そのためツールの活用にあたって、企業の知見やノウハウのレベルは二極化していると考えられます。採用部門に専任担当を置き、自社の採用力を上げる努力をし続けている企業もあれば、10年前と同じような採用を続けている企業もあります。自社のノウハウだけでは望むような採用が実現できない場合は、外部環境の要因分析や他社と比較した自社の課題などに関して採用のプロからアドバイスをもらいながら、採用活動を進めていくのもひとつのポイントです。リクルートエージェントでは、完全成功報酬型のため入社するまで費用が発生せず、採用の成功に向けて営業担当と二人三脚で取り組むことが可能です。外部要因・内部要因を含めた分析とアドバイスをもって採用支援を行うため、こうした外部の採用のプロもうまく活用しながら自社の採用課題に取り組んでみてもよいでしょう。

今回は新卒採用・中途採用における採用課題と原因から解決策までをまとめました。採用課題は時代や環境の変化によって変化し続けるため、常に自社の立ち位置や現状を客観的に分析し、原因を把握して対応策まで考えていく必要があります。

またプロセス分析においては、KPIの設計とその振り返りなどを数値化し、振り返りを行いながら改善していくことが望ましいでしょう。採用成功に向けたステップとして採用課題の分析から取り組んでみてはいかがでしょうか。

合わせて読みたい/関連記事

基礎知識
基礎知識

イノベーションとは?意味や種類から起こせる企業の特徴や抱える課題を解説

基礎知識
基礎知識

RPO(採用代行)とは?メリット、依頼の流れ、導入に向いている企業を紹介

基礎知識
基礎知識

【事例あり】ジョブローテーションとは?メリット・デメリット、導入方法を解説

基礎知識
基礎知識

スクラム採用とは?事例やメリット、採用のポイントを紹介