会社では、人事異動や昇進・昇格に関する辞令を出す前に、「内示」を出して内々に人事異動について伝えることがあります。この記事では、内示の意義、辞令・発令との違い、必要性、人事異動を拒否された場合の対応について解説します。

内示とは

「内示」とは、人事異動、昇進・昇格、昇給等に際して、辞令を交付する前に、本人や関係者の一部だけに、事前に人事異動などの内容を伝えることを言います。主な目的は、人事異動等のための準備期間を設けることです。
人事異動や昇進・昇格には業務の引継ぎや心の準備が必要ですし、転勤を伴う場合には転居やその準備なども必要になります。いきなり辞令を交付するのではなく、あらかじめ内示によって通知しておくことで、本人に準備期間を与えることができます。
また、従業員本人の意向を確認し本人が納得した上で異動できるようにするために、内示を使うこともあります。

内示の時期

内示を出す時期は人事異動の内容によって異なりますが、筆者の経験上、辞令を発令する1ヶ月前には内示が出されることが多いようです。転勤前の打診時期については、独立行政法人労働政策研究・研修機構による調査(※)が行われており、国内転勤の場合は「2週間~1ヶ月」が34.9%、「1ヶ月~2ヶ月前」が32.5%、「1週間超~2週間前」が13.3%、海外転勤の場合は「1ヶ月~2ヶ月前」が30.7%、「3ヶ月より前」が30.4%、「2ヶ月超~3ヶ月前」が23.9%となっています。業務の引継ぎや転居などに必要な準備期間が確保できるように、余裕をもって内示を行いましょう。
※参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構-「企業の転勤の実態に関する調査」-「第2章 2-3 (3) 転勤前の打診時期」2017年10月

辞令・発令との違い

辞令とは、会社から従業員に対して、人事異動、昇格、昇進、昇給など人事に関する決定事項について通知するものです。
内示はまだ決定事項ではなく変わる可能性もありますが、辞令は決定事項であり基本的に覆りません。内示が人事異動等の準備や打診のために用いられるのに対して、辞令は正式に決定したことを通知するために用いられます。
従業員は、辞令については正当な理由がなければ拒否することはできませんが、内示については拒否できることもあります。
発令とは、内示や辞令のように特定の内容を表すものではなく、辞令や指示などを出す行為自体のことを言います。たとえば「辞令を発令する」といった使い方をします。
辞令を出すときには「発令日」を記載して、いつ出された命令なのかを明確にします。

人事内示の3つの種類

人事内示はおおまかに、転勤や配転などの「異動に関する内示」、職位・等級などの「昇進・昇格に関する内示」、給与などの「昇給に関する内示」の3つに分けられます。

1.異動に関する内示

異動内示とは、転勤や配置転換の際に行われる内示です。所属部署や勤務地が変更になるため、本人だけではなく関係者・関係部署への通知も必要になります。転勤の場合、業務の引継ぎだけではなく、転居を伴うこともあります。余裕をもって伝えられたほうが引継ぎや転居の準備をしやすくなります。

2.昇進・昇格に関する内示

昇進・昇格内示とは、昇進や昇格の際に行われるものです。昇進・昇格により職位や等級が上がる場合には、人事異動と同じように業務の引継ぎなどのことを考慮して、正式な事例を出す前に内示をしたほうが良いでしょう。

3.昇給に関する内示

昇給内示とは、昇給を通知するだけのものです。異動内示や昇進・昇格内示とは異なり、本人の意向確認、業務の引継ぎや心の準備、転居の準備のために行われるものではありません。昇給内示は、本人のほか、給与計算を行う部署に対して行われます。

内示するのは義務か?

内示を行うことは義務ではありません。しかし人事異動に際しては、業務の引継ぎや心の準備、転居が必要ならその準備などが必要になるため、その場合には内示を利用して準備期間ができるようにしましょう。
内示を行わずに急な人事異動を命じてしまうと、業務の引継ぎがスムーズにいかず、業務に支障をきたしたり、取引先に迷惑をかけてしまったりするリスクがあります。従業員に納得してもらうために説得することもできないため、従業員が不満を抱いてしまい、離職してしまうリスクもあります。こういったリスクを避けるために内示が役に立ちます。

内示の通達方法

内示の通達方法は口頭、書面、メール、チャットなど、どのような方法でも可能です。メールやチャットなどでも構いません。
なお辞令については書面交付、掲示板への掲示、メールなど、客観的証拠が残る形で交付したほうが誤解なく正確に伝えることができ、「言った言わない」のトラブルを回避することもできます。
内示はまだ正式に決定していない内容を伝えるものなので、伝える相手は必要最小限にします。口頭で伝える場合は個室で行い、メールやチャットであれば必要な相手だけに個別送信するなど、第三者に情報が漏れないように気をつけましょう。

内示の前に確認すること

情報漏洩に注意

内示を出す際は、情報漏洩に気をつける必要があります。うっかり情報を漏らしてしまうと、社内に不信感が生まれるリスクがあります。特に役員変更など会社経営に影響のある人事異動であれば、取引先や株主にも影響を与えることがあります。
内示を行う相手を必要最低限にすることに加え、内密にしなければならない旨やその期間を明確にしておくことが大切です。

人事異動の内容は適切か

そもそも人事異動の内容が適切かどうかも確認しておく必要があります。

会社の就業規則として人事異動を命じる根拠規定がある場合、従業員本人の同意がなくても人事異動を命じることができますが、無制限にできるわけではありません。業務上の必要がない人事異動は権利濫用として認められません。業務上の必要があったとしても、不当な動機・目的によるものや、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものについては、権利濫用とされることがあります。

また、雇用契約において勤務地や職務が限定されている場合は、勤務地の変更や、職務の変更を命じることはできません。どうしても変更が必要な場合には、本人の同意が必要です。

人事異動を拒否された場合

内示は正式な決定ではなく、従業員が納得した上で人事異動するためのものでもあるので、場合によっては拒否されることがあります。拒否する理由を確認して、適切に対応することが重要です。

まずは理由を確認

内示を拒否されたときは、まずは理由を確認するとともに、配慮することができるか検討しましょう。特に、育児や介護のために転居が困難などの理由がある場合は、育児介護休業法第26条により、子の養育または家族の介護の状況に配慮する必要があります。配慮することが難しい場合は、会社の経営方針や、人事異動の目的や妥当性を伝えるとともに、従業員本人の不安や不満を解消できるように、可能な範囲で対応しましょう。

内示を拒否されても人事異動を命じることは可能

会社には人事異動を命じる権利がありますから、内示を拒否した従業員に対しても、人事異動を命じることは可能です。業務上必要な人事異動であって、不当な目的・動機によるものではなく、従業員に著しく過大な負担を強いるものでなければ、内示を拒否していたとしても人事異動を命じることができます。
ただし上述したように、業務上必要のないものや、不当な目的・動機によるもの、従業員に著しく過大な負担を強いるものについては、人事権の濫用として無効になることもあります。

転勤を伴う場合、家庭状況への配慮を

育児・介護休業法第26条では、「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」と定められており、育児や介護を行う従業員に転勤を命じる場合には注意が必要です。

たとえば、実家で親の介護を行っている従業員で、他に介護を代わってくれる人がいないような場合、転勤を命じられれば退職せざるを得ないことがあります。このような場合、育児・介護休業法第26条にあるように、配慮が必要となります。

実際、要介護者の母や、非定型精神病を患っている妻がいる従業員に対する転勤命令が権利濫用であり無効とされた裁判例があります。転勤を伴う人事異動については、対象従業員の家庭状況を把握し、過大な負担がかからないように注意しましょう。

本記事では、人事内示について解説しました。内示は義務ではありませんが、円滑な人事異動を実現するために実施できる方策の一つです。。
一方的で急な人事異動命令をしてしまうと、業務の引継ぎがうまくいかず取引先に迷惑をかけたり、従業員の納得が得られず不満に思われてしまったりするリスクがあります。特に転勤など転居を伴う場合は、従業員に過度の負担がかからないように配慮が必要なことがありますから、事前の調整が大切です。
内示を活用して事前の調整を行うことで、人事異動をより円滑に行うことができます。

合わせて読みたい/関連記事

組織設計
組織設計

ピアボーナス®とは?新しい報酬制度と導入のメリット・デメリットを紹介

組織設計
組織設計

リーダー研修とは?主な目的、研修内容をサービスとあわせて紹介

組織設計
組織設計

クレドとは?「行動指針」の重要性やミッションとの違い・導入手順を解説

組織設計
組織設計

最適な人員配置とは?成功させるポイントや手順を徹底解説