従業員のモチベーションを引き出し、個人の成長や持続的な価値発揮を促すために、多くの企業が人事評価制度を取り入れています。一定期間の社員の仕事ぶりを振り返り、評価の結果を給与や役職・役割に反映していくのが人事評価制度の主な目的ですが、実際にはどのような仕組みなのでしょうか。今回は、人事評価制度を基本から解説していきます。

人事評価制度とは

人事評価制度とは、従業員一人ひとりの仕事のプロセスや成果を一定の基準に基づいて測る制度のことです。。半年に1回、年に1回など、ある一定期間ごとに評価を行うことが一般的で、あらかじめ設定された目標や指針に照らし合わせて個人の仕事ぶりを評価します。

人事評価制度によって決まるもの

人事評価制度を整備しておくと、制度上の基準に則って給与などを決定することができます。そのため、以下のような従業員のモチベーションを大きく左右する事柄に対して、上司や人事の主観ではなく客観的な指標をもとに決定することができ、従業員とのコンセンサスが得やすくなります。

等級・役職

従業員の能力や役割、職務のレベルを定義する等級は、人事評価の結果をもとに上下させることが適切です。また、「課長クラスは等級5以上」などのように、等級に合わせた職務範囲や権限を定義しておくことで、人事評価による客観的な指標をもとに昇進・昇格を決定することができます。

報酬

人事評価制度を活用すると、従業員一人ひとりの仕事ぶりを給与や賞与に反映しやすくなります。等級を上下させることで給与が変動するのもその一つ。等級の変更がない場合でも、「A評価は基本給+〇%アップ」などと基準をつくることや、賞与の算出基準に取り入れるなど、その期間の仕事ぶりを報酬に反映させることが可能です。

行動指針

上記のように人事評価制度は、従業員の役割や待遇に直結するものです。そのため、評価の基準に会社として大事にしたい指針を盛り込むことで、一人ひとりが仕事において行動・判断する際にその指針を意識しやすくなる効果もあります。

人事評価制度の目的

では、なぜ人事評価制度が必要なのでしょうか。企業が人事制度を用いているのは、以下のような理由が背景にあります。

最適かつ納得感のある人材配置を行うため

近年、企業は年功序列ではなく、実力に応じて責任の大きな仕事を任せるような人材配置を行う企業もあります。そのような企業において、最適な人材配置を行うには、従業員一人ひとりの能力や仕事の適性をより詳細かつ客観的に評価する仕組みが必要になっています。

従業員のモチベーションを引き出すため

良い仕事をすれば報酬が増え、その逆であれば報酬は下がってしまう。自分に還元されるものが仕事ぶりと連動する仕組みは、「頑張った分だけリターンがある」状態をつくり、従業員の意欲を引き出す効果があります。

従業員育成のため

上記同様、より大きな成果を出せば自分に還元されるものも大きくなるため、従業員は自身の能力開発に自発的に臨みやすくなります。また、評価を従業員に伝える際は、「評価が良かった要因は何か」「どうすればもっと良くなるか(改善できるか)」などとフィードバックすることになり、具体的なアドバイスをしながら成長を促しやすくなります。

※フィードバックについては、以下の記事をご参照ください。
フィードバックとフィードアップの違いは?ビジネスでの使い方を事例付きで紹介

人事評価制度の評価項目

人事評価制度では、主に以下のような基準で従業員の仕事や能力を評価しています。

成果(業績)

一定期間に設定した目標に対して、どの程度到達したのかを測ります。たとえば、営業職であれば売上目標と売上実績を比較し、その度合いによって評点をつけることが一般的でしょう。

行動(プロセス)

成果と対を成すのが、行動の評価です。たとえば、「新たな販路を開拓した」、「業務を効率化して生産性を上げた」など最終成果には見えにくい途中経過の良い取り組みを評価します。中にはこの期間の成果には必ずしも直結しないものもありますが、中長期的に効果があるものや組織への貢献度が高い仕事を加点していきます。

能力(スキル)

上記二つが仕事に対する評価だとすれば、こちらは従業員の業務遂行能力そのものに対する評価です。会社やその職務として求める能力をあらかじめ定義しておき、その能力があるか(どの程度あるか)をスコアリング。今後の育成方針や人材配置の参考にします。

情意(意欲・スタンス)

仕事に対する姿勢や、組織や仲間への貢献なども大事な評価観点です。たとえば組織への帰属意識や仲間に対する責任感などは、管理職など重要ポストに任用するときの大きな判断基準になります。

代表的な人事評価手法

MBO

MBO(Management by Objectivesの略称)は、経営学者として有名なピーター・ドラッカーによって提唱されたマネジメント手法です。MBOの目的は、業務管理や生産性向上であり、派生して人事評価のフレームとして用いられるようになりました。MBOの特徴は、目標に対する達成度合いで人事評価を決めること。また、組織目標と従業員個人の目標を連動させることを前提としており、一人ひとりの目標達成を積み重ねて組織目標の100%達成を目指すようなモデルになっています。

OKR

OKR(Objectives Key Resultsの略称)は、変化のスピードが早い業界・組織で近年用いられるようになった手法です。本来はあくまでも目標管理・達成のマネジメント手法であり、人事評価制度から切り離して運用している企業もあります。野心的な目標を掲げ、それに対する達成度合いを評価するというもので、達成基準は100%ではなく、60~70%で達成とみなすのも特徴です。また、OKRは個人の目標をオープンに公開するのも特徴の一つ。そのため「評価」という意味合いでは、上司や人事から評価されるだけでなく、周囲の同僚からも見られる構図になっているのも特徴です。

※OKRについては、以下の記事をご参照ください
・OKRとは?世界的企業が取り入れる目標管理手法を徹底解説

360度評価

一般的な人事評価は、上司が部下を評価するものです。それに対して360度評価は、自分の周囲にいる複数の立場の従業員が行う評価。上司だけでなく、同僚や部下からも自分の日々の行動や仕事ぶりについて評価をもらいます。これによって、さまざまな視点を取り入れることができ、より納得度の高い評価を行うことが期待できます。

人事評価制度の設計で大事にしたいこと

人事評価の良し悪しは従業員の生活基盤にも影響するため、多くの人にとって関心が高く、制度の細かな部分にも敏感になりやすいものです。そのため、従業員から見たときに、どう感じられるかを想像しながら制度を構築していくことが大切です。

たとえば、成果に偏った評価制度にすると実力主義の傾向が強くなり、個人の成長意欲を刺激しやすい反面、周囲との協調が失われやすいデメリットもあります。会社として実現したい組織風土や育てていきたい人材像をイメージしながら、評価項目や評価方法を検討することが重要です。

人事評価制度の運用を成功させる4つのポイント

納得感のある目標設定をする(対話で納得感を引き出す)

特段の目標や基準がない状態で従業員を評価しようとすれば、評価者の主観で良い・悪いを判断してしまいます。評価される側の従業員と認識を合わせるためにも、この期間で到達してほしい目標を設定しましょう。また、目標は上司が一方的に設定するのではなく、一人ひとりのメンバーに合わせて目標の背景や本人への期待を伝えながら、「頑張って達成したい」と思えるような納得感を引き出すのが理想です。できれば、目標の内容自体にも本人の意思・意気込みが反映できると良いです。

評価をすることよりもフィードバックに力点を置く

従業員を評価し、それぞれに点数やランクをつけることが人事評価には欠かせませんが、「従業員の成長を加速させ、モチベーション高く仕事を通じて大きな価値を発揮してもらう」という人事評価制度の目的に照らし合わせて考えると、本質的に大事なのは評価をすることよりも、評価の結果をフィードバックすることです。「この点数になったのはなぜか」、「評価できることは何で、あと一歩だったことは何か」「どうすれば強みを伸ばせるか(弱みを克服できるか)」といった観点の対話が大切です。評価のポイントを活かして次にどう繋げるかという視点でフィードバックをしましょう。

日々のコミュニケーションで認識をすり合わせ続ける

人事評価は、伝え方次第では従業員のモチベーションを下げ、評価者である上司との信頼関係や組織への帰属意識を低下させるリスクがあります。それは、多くの場合、従業員自身の自己評価と評価者の他己評価がずれていることが要因です。こうしたずれを防ぐために大切なのは、人事評価の結果を伝える場だけでなく日頃から上司部下のコミュニケーション接点を多く持ち、こまめに仕事ぶりを評価することです。たとえば営業同行の帰りや会議の後など、上司が「今日はここが良かった(ここはもっと頑張ってほしい)」と逐次伝えることの積み重ねと、最終的な人事評価が連動していると、納得感の高い評価になりやすいです。

必要があれば期中でも目標を見直す

現代はVUCAな時代とも言われるように、変化が激しく不確実性の高い時代ともいわれています。そのため、半期に1度や年に1度の人事評価では、期初に立てた目標が現実とかけ離れてしまうこともあり、その達成度合いを評価してもあまり意味のないものになりかねません。急速に環境が変化した場合は、事業戦略を変更することと同様に、連動する個人目標も適宜見直し、軌道修正していくことが必要です。

※VUCAについては、こちらもご覧ください。
・VUCA(ブーカ)とは?予測困難な時代に必要な4つのスキルと、リーダーの資質

人事評価制度を運用する際の注意点

評価者の主観が入りすぎていないか

そもそも、人事評価制度は会社として公正公平に従業員を評価するための基準です。そのため、評価者の価値観や好き嫌いによってブレが生じてしまう評価の仕方は好ましくありません。なるべく数字で表せる定量的な目標を設定し、その達成度合いで評価をするような客観性の担保が求められます。

制度を絶対視しすぎず、適宜見直す視点を持つ

人事評価制度には、組織や職務として大事にしたい指針を示し、従業員に身につけてほしい能力・スキル・価値観を提示する効果があります。ただし、組織が置かれているマーケット環境や時代が変われば事業の方向性や戦略も自ずと変化し、求める人材要件も変わって当然です。そのため、人事評価制度の中身については組織全体の戦略や社会変化を注視しつつ、適宜見直しを検討することが健全だといえます。

合わせて読みたい/関連記事

組織設計
組織設計

サバティカル休暇とは?「長期休暇」のメリット・デメリットや導入事例を紹介

組織設計
組織設計

HRBPとは?人事との違い、企業事例、導入ステップを解説

組織設計
組織設計

タレントマネジメントシステムとは?メリット、選び方と選ぶ際のポイントを紹介

組織設計
組織設計

ポジティブ・アクションとは?<すぐにわかる!>企業事例などを解説