ポジティブ・アクションとは、男女労働者の間に生じている差を解消するための企業の取り組みのこと。今後ますます労働人口が減少していくといわれている中、女性の活躍推進は企業にとっても重要なテーマとなります。そこでこの記事では、ポジティブ・アクションの目的やメリット、取り組みの流れや注意点、具体的な導入例をご紹介します。

ポジティブ・アクションとは?

ポジティブ・アクションとは、男女労働者の間に生じている差を解消しようとする企業の取組であり、男女の機会均等および待遇の確保を目的としています。厚生労働省はポジティブ・アクションについて次のように説明しています。

「固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、
・営業職に女性はほとんどいない
・課長以上の管理職は男性が大半を占めている
等の差が男女労働者の間に生じている場合、このような差を解消しようと、個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組をいいます。」

引用:厚生労働省「ポジティブ・アクションって、なに?」

また、ポジティブ・アクションは単に女性を「優遇」するためのものではなく、こうした状況を是正するための取組全般を指します。

参考:
厚生労働省「女性が輝く社会の実現に向けて」 平成26年5月

どのような取組なのか

ポジティブ・アクションには「女性のみを対象とするまたは女性を有利に取り扱う取組」と「男女両方を対象とする取組」があります。以下、厚生労働省の「女性が輝く社会の実現に向けて」から解説します。

女性のみを対象とするまたは女性を有利に取り扱う取組とは

女性を対象とした取組には、以下のようなものが考えられます。

・女性の応募を促すために、会社案内などで、社内で活躍をしている女性従業員が活躍している様子を積極的に紹介する
・モデル(模範)となる女性を育成し、提示する

・昇進・昇格試験の受験を女性に奨励する

男女両方を対象とする取組とは

男女両方を対象とした取組には、以下のようなものが考えられます。

・作業の方法や工程を見直したり、使いやすい器具、設備を導入するなど、男女ともに働きやすい職場環境を整備する
・女性従業員を受け入れた経験が少ない管理職に対する研修を行う
・人事考課基準、昇進・昇給基準などを明確に定める
・女性従業員の能力発揮の重要性について意識啓発研修を実施する
・出産や育児による休業などがハンディとならないよう制度を見直す

引用:厚生労働省「女性が輝く社会の実現に向けて」 平成26年5月

2016年に女性活躍推進法が施行

職場における男女格差の是正を推し進め、採用、昇給、昇進、教育訓練などにおいて男女を平等に扱われることを定めた男女雇用機会均等法が1986年に施行されました。その30年後の2016年には女性活躍推進法が施行されました。

この法律は女性が活躍できる仕組みを整えることを企業求めるもので、具体的には、常時雇用する労働者が301人以上の企業に対して、女性が活躍するための行動計画を策定・公表するよう義務づけています。2022年4月1日には、行動計画の策定・公表の義務対象が労働者数101~300人以内の企業にも拡大されました。

さらに同年7月8日施行の改正法によって、301人以上の企業に対して、男女の賃金差異の公表が義務化されるなど、男女の格差是正への取り組みが義務化されてきています。

アファーマティブ・アクションとの違い

ポジティブ・アクションと似た言葉として、アファーマティブ・アクションがあります。アファーマティブ・アクションとは「積極的格差是正措置」と訳され、民族・人種・性別などの歴史的・構造的に不利な立場の人々における格差の是正を目的としています。海外では「人種や民族、性別などによる差別の是正」といった意味で使われていますが、日本におけるポジティブ・アクションは、「性別による格差の是正」に限定して使われるのが一般的です。

ポジティブ・アクションの目的

日本ではさまざまな分野において共通して、リーダーや指導的な地位を占める女性の割合は、ほかの先進諸国と比べて低い水準となっています。世界経済フォーラムが発表した2022年のジェンダー・ギャップ(男女格差)指数においても、日本の総合順位は146カ国中116位と、世界的に見てもさまざまな男女格差が是正されていない状況が続いているとの指摘を受けています。

男女雇用機会均等法では男女の機会均等を目指していますが、雇用の機会を同等に設けても、 長時間労働の是正や多様な働き方への対応などが進まなければ、女性が活躍することはできないと考えられます。そのため、働きたい女性が活躍できる仕組みや体制などを、現在の時代・社会の流れに沿った形で社内に取り入れていくためにも、ポジティブ・アクションが重要視されているといえます。

ポジティブ・アクションのメリット

ポジティブ・アクションには、個々の労働者に対してはもちろん、企業にもさまざまなメリットがあります。

労働者にとってのメリット

ポジティブ・アクションを進めることで、個人の能力や努力に関係なく性別によって活躍を制限されていた労働者が、より能力を活かしやすい環境になります。また、女性の活躍の前提となるワーク・ライフ・バランスなどの実現に向けた取り組みなども促進され、ライフイベントと両立しながら長く活躍しやすい環境になっていくことが期待できます。

企業にとってのメリット

女性の活躍を推進することで、企業で働く女性のモチベーションアップにつながることが考えられます。

また少子化が進み、労働力人口が減少している日本において、ポジティブ・アクションを進めることは、優秀な人材の確保につながる可能性が高まるといえます。

さらに多様な人材が活躍する土壌をつくり、ダイバーシティを進めることで、新たな価値の創造や企業イメージの向上にもつながるなどのメリットが考えられます。

※ダイバーシティについては、以下の記事をご参照ください

ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介

ポジティブ・アクションの事例

企業において、ポジティブ・アクションを進めている例をご紹介しましょう。企業の取組はさまざまな場面で実施されています。

採用活動におけるポジシティブ・アクション

多くの企業が採用活動においてポジティブ・アクションを導入しており、企業内で活躍する女性の姿を発信しています。これらの訴求が、優秀な女性を惹きつけるといった“目に見える成果”につながっている企業も少なくありません。

【具体例】

・ 大卒定期採用者向けのホームページにて、女性が在籍しているプロジェクトチームの仕事内容を対談形式で紹介。(製造業)
・大卒定期採用者向け会社案内資料に、女性も店長になれることを明記したところ、意欲的な女性の応募が増加した。(卸売・小売業)
・ 採用チームに女性はいたが他の業務と兼任だったため、女性を専任で1名配置。また、学生向けの説明会の登壇者やリクルーターとしても女性を活用した。女性の専任スタッフがいることは好評で、優秀な女性の応募・採用増につながった。(金融・保険業)

管理職登用におけるポジシティブアクション

管理職登用も企業が力を入れているポジティブ・アクションの一つです。

【具体例】

・ロールモデルとなる女性のキャリアステップをホームページ上で公開。(製造業)
・女性管理職を増やすために、支店に課長職ポストをつくり、転勤ができなくても管理職に登用できるようにした。(金融・保険業)
・総務担当として採用した女性従業員を1年間の建設現場を含むすべての部署に配置し、自社の全体像を理解してもらうことで、基幹的業務に携わることができるようにした。(建設業)

職場環境、組織文化の改善におけるポジシティブアクション

女性が活躍しやすい職場環境づくりや意識改革を含む組織文化の醸成もまた、重要なポジティブ・アクションです。

【具体例】

・原則として異動は通勤可能な範囲で行い、男女の区別なく異動を実施。(卸売・小売業)

・随時立ち上げられるプロジェクトには、女性もメンバーに入れるのを基本としている。具体的なメンバーの人選はプロジェクトリーダーが行うが、人事が随時チェックし、適宜調整を行っている。(運輸業)

・部・店舗ごとに定例会議が開かれているが、会議の議長は役職や性別に関わりなく、メンバー全員が順番に担当する仕組みとしている。(金融・保険業)

出典:厚生労働省「ポジティブ・アクションの取組事例集」

ポジティブ・アクションへの取組方法

取組体制をつくる

経営者から必要な権限を与えられたプロジェクトなどを立ち上げます。一般的な体制としては、「人事部門が中心となって各部署のリーダーと全社横断で進める」「推進委員会などを設置し、労働組合と共に推進する」「各部署の代表者による女性活躍プロジェクトチームを発足する」などがあります。女性社員を含めた全社的な取組体制をつくることが理想的です。

自社の課題と目標を明確化する

まず自社の現状を分析し、問題点を把握しましょう。たとえば、従業員の男女比や勤続年数、採用状況、管理職数など男女従業員の現状を定量で把握、労働条件や待遇に差がないか、女性が能力を発揮しやすい環境になっているのか、などを調べます。ヒアリング実施や社内アンケート調査なども有効です。改善すべき課題が見えてきたら、経営者と共に具体的な取組目標を決め、取組計画をつくります。

具体的な取組策をつくる

目標ごとの取組策を検討します。たとえば女性の職域拡大を目標に「女性がいない・少ない職種に女性を積極的に配置する」「自己申告制度を導入・活用する」などがあります。

施策の実施と振り返り

施策の実施にあたっては、企業からの一方的な押しつけではなく、労働者の意識や組織文化を変える全社的な取組が必要になりますので、各組織と連携しながら実施体制をつくりましょう。目的や具体的な計画について社内に周知することも重要です。また、計画が開始されたら、施策が計画通りに進んでいるのか、取組の効果があがっているのかを検証し、必要に応じて計画の見直しや修正も行います。

ポジティブ・アクションに取り組む際の注意点

ポジティブ・アクションを進めるには、組織的かつ計画的に取り組むことが成功の秘訣です。経営者、人事労務部門、従業員、労働組合が一体となって組織的に取り組むことで、企業の制度や体制、企業文化などを多面的に変革させていくことができます。

また、長く根づいた意識や体制を変革していく必要があるため、ポジティブ・アクションは長期的な視野での取組が重要になります。男女間の差に関する現状を分析し、取組目標を決めて実施し、効果を確認し、必要に応じて計画の見直しを行うというPDCAを回しながら、徐々により良い状態へと近づけていきましょう。

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