会社への事前の連絡もなく従業員が突然休んでしまう「無断欠勤」。周りの社員にも心配や業務上の負荷をかけてしまうため、頭を悩ませる人事担当者も多いのではないでしょうか。そこで今回はよくある無断欠勤の理由やその対処法、無断欠勤で解雇する場合の注意点、給与や有給消化などの対応方法などを弁護士監修のもと詳しくお伝えします。

監修者

星野 悠樹(弁護士)

杜若経営法律事務所所属。経営法曹会議会員。中央大学法学部卒、慶應義塾大学法科大学院中退。 主に使用者側の人事労務案件(解雇案件、労災民事案件、ハラスメント案件、残業代請求案件等)の法律相談、団体交渉、訴訟、労働審判等を取り扱う。

無断欠勤とは

無断欠勤とは、就業日に事前の連絡もなく欠勤をすることを指します。始業時間になっても職場に現れず、本人からの連絡がない状態です。様々な理由が想定されますが、繰り返し無断欠勤が発生する場合、本人はもちろんのこと、会社としても業務に支障をきたし、信頼を失うことにもつながりかねません。

社員が無断欠勤する理由

なぜ無断欠勤が発生してしまうのでしょうか。先の対応を検討するためにも、まずは無断欠勤でよくある理由を確認してみましょう。

自己管理上の問題

寝坊などをしてしまい、気づいたら始業の時間を過ぎていたなどのケースが最も多い理由かもしれません。こうした社員の自己管理上の理由での無断欠勤が続く場合は、労務提供義務の無断放棄という観点から解雇を含む懲戒処分の対象となることもあります。

病気やケガによる体調不良

急病やケガによって適切なタイミングで休みの連絡ができず、結果として無断欠勤になってしまったというケースです。時に本人が連絡を取りたくても取れない状況もあることを忘れてはなりません。こうした場合は、正当な理由のある欠勤となりますので、適切な休暇制度や休職制度の適用を検討してください。

緊急事態

事件や事故に巻き込まれた、自宅や通勤途中に亡くなったなど、本人または家族に何らかの不測の事態が発生した可能性もあります。普段の勤務態度に問題がない社員の場合は、こうしたケースも考えられますので、速やかに家族への連絡や自宅訪問などにより確認を進めましょう。

強いストレス状態にある

職場でのハラスメントやいじめなどにより精神的に損害を受けている、もしくは「うつ病」を発症しているといった可能性もあります。うつ病の症状が進むと無気力状態に陥り、ベッドから起き上がれない、電話やメールもできないという状態にまでなることも。こうした精神疾患による無断欠勤は、会社側では解雇などの懲戒処分の措置が取れない場合があります。場合により、休職をさせるなど、治療に専念できる環境を整えることが先決です。また、職場の人間関係や就業環境に問題がある場合は、本人や関連部署への確認調査を行い、管理部門が適切な対応を取る必要があります。

会社を辞めようと考え、連絡を断っている

退職の意思も伝えずに無断欠勤をし、そのまま連絡が取れなくなってしまうというケースです。会社としては退職手続を進めたいところですが、進め方を間違えてしまうと後から退職自体が無効になる可能性もありますので、注意が必要です。

無断欠勤が続く社員の対応とその流れ

無断欠勤が続く社員への対応は、しっかりと手順を踏むことが大切です。

無断欠勤が続く社員に連絡をする

なぜ欠勤をしているのか、その理由を確認しましょう。トラブルを避けるためにもしっかりコミュニケーションを取ることが大切です。また、今後の対応のためにも、話した内容は記録に残しておきましょう。

無断欠勤の理由に合わせた対応を行う

病気やけがの場合は、しかるべき休暇制度や休職制度を適用しましょう。
メンタルヘルスの問題の場合は、産業医面談や医療機関の受診をする流れになります。就業規則に記載しておくことで、診断書の提出を義務付けることも可能です。症状に合わせて、休職や契約内容の変更など適切な方法を検討します。無断欠席の理由となる職場環境の改善を行うことも重要です。
寝坊や自己管理不足など無断欠勤の理由に正当性が認められない場合は、注意・指導を行います。社内規定などに則って出勤停止や減給などの処分を行う企業、反省文・始末書の提出を求める企業もあるようです。また何度連絡をしても出社しない場合は、会社から出社命令を送付します。こうした対応はすべて書面で行うことが重要です。こうした手順を踏まないと無断欠勤を黙認したと捉えられてしまい、法的紛争で不利益を被るリスクもあります。無断欠勤が発生した場合に都度対応を行うことにより、後に解雇した際、解雇の客観的合理性と社会通念上の相当性を欠くとされないことにつながっていきます。

休職・退職の勧奨や解雇を行う

社員が出社命令にも応じない場合は、休職や退職を勧奨することになります。それにも応じず、無断欠勤の改善が見られない場合は、解雇を視野にいれた対応を進めていきます。

無断欠勤社員の給与や有給消化について

無断欠勤を続けている社員の給与や、有給休暇消化についての取り扱い方についてご説明します。

無断欠勤には通常給与の支払い義務はない

無断欠勤は有給休暇ではありませんので、ノーワークノーペイの原則に則って、労働していない人物に対価となる給料を支払う義務はありません。後から正当な理由のある欠勤であったことが認められた場合、有給休暇として処理することになった日数分は通常どおりの給与の支払い義務が発生します。また、無断欠勤する前に働いていた日数分の給与は、必ず支払う必要があります。支払わない場合、給与の不払いとして労働基準監督署から会社側が指導を受けることになりますので、注意が必要です。

無断欠勤を有給休暇の消化とみなす義務はない

無断欠勤後に、有給休暇を申請するケースもありますが、企業として有給休暇の消化とみなす義務はありません。有給休暇は事前申請が原則であり、就業規則でその旨を定めている企業がほとんどです。また、労働基準法では、労働者から有給休暇の申請があった場合でも事業の正常な運営を妨げる場合は、有給休暇を他の時季に変更するよう命じることができる「年次有給休暇の時季変更権」を認めています。この条文は、有給休暇取得に事前申請を要することを前提としているため、事後の申請は認めなくても良いという取扱いになっています。

無断欠勤によるトラブルに適切に対応していくためには、まずは就業規則や労働契約書の内容を確認し、必要に応じて懲戒規定などを整えておくことが重要です。実際に無断欠勤が発生した場合は、それぞれの理由や状況を的確に把握しながら適切な対応をしていきましょう。また、何よりも大切なのは、無断欠勤をする社員を出さないための職場環境にしていくこと。会社側の努力だけは難しいのも事実ですが、勤怠管理体制や労働環境の見直し、メンタルヘルス対策、無断欠勤が出た場合の早期フォローなどの対策も検討してみると良いでしょう。

無断欠勤する社員の裁判事例

労働基準法には、無断欠勤に関する細かい定義はありません。そのため、無断欠勤に対する処分を決めるには、就業規則で対象となる無断欠勤や解雇可能な基準について規定しておく必要があります。
ただし、就業規則で定めたとしても、解雇には法律上一定の制限が存在しているため、無断欠勤を理由に会社が従業員を即時解雇できるわけではありません。解雇の要件については、労働契約法16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められています。「解雇権濫用の法理」と呼びますが、この条文の文言は抽象的なため、どのような解雇理由が「客観的に合理的」かつ「社会通念上相当」と認められるかは判例・裁判例の蓄積をもとに判断されています。これまでの裁判例から、無断欠勤している社員を解雇したケースを紹介します。

有効と判断された事例

ある企業では、従業員が業務指示の拒否、会議への欠席などの勤務態度不良で譴責、減給及び出勤停止処分を受けました。このような状況において、従業員は、無許可で3度早退した後、さらに約50日間連続して無断欠勤をしました。企業は従業員を懲戒解雇しました。裁判所は、企業が行った懲戒解雇を有効と認めました。
本件において、企業は、従業員が業務命令違反等の不適切な対応を行う度に、適宜、従業員に態度を改めるようにメールを送付したり、警告書を交付したりするなどしていました。そのうえで、企業は懲戒処分を段階的に行っていました。

繰り返される業務命令違反等に対して企業が適切な対応を行っていたことが懲戒解雇有効と判断される裏付けとなった事例です。 

東京地判平14.4.22 

無効と判断された事例①

ある企業は、45日間の出張命令を従業員に出しました。しかし、当該従業員は、正当な理由なく、この出張命令に従わず、欠勤をし始めました。また、当該従業員から、その後に提出された欠勤届も不十分なものでした。企業は、当該従業員の欠勤期間が約3か月以上となったことから、当該従業員を懲戒解雇しました。
  裁判所は、まず、当該従業員から提出された不十分な欠勤届について、企業が何ら異議を唱えなかったことをもって、企業の出した出張命令が撤回されたものと判断し、その結果、当該従業員の欠勤は一部のみにとどまるとしました。そのうえで、裁判所は、当該従業員のなした労働局へのあっせん申立てや労働組合との団体交渉にも企業が応じなかったことなどを理由として、企業の行った懲戒解雇を無効としました。
  

 本事例は、欠勤期間が相当長期に及ぶ場合であったとしても、企業側に落ち度といえるような対応があるときは、懲戒解雇が無効とされた判例です。 

東京地判平20.2.29 

 

無効と判断された事例②

ある企業では、実際には存在しないにもからず、上司などから嫌がらせを受けている(自分は常に監視されている、日常生活に関する情報が使用者間で共有されている等)と信じて無断欠勤を約40日間続けた従業員を諭旨退職の懲戒処分にしました。
裁判所は、従業員に「精神的な不調」が窺われる場合は、企業は、精神科医による健康診断の実施、その診断結果等に応じた必要な治療の勧告、休職等の処分の検討、その上での経過の観察等の対応をとるべきであり、このような対応をとらずに諭旨退職の懲戒処分をしたことは適切でない(諭旨退職の懲戒処分は無効)としました。

本事例は、形式的に「無断欠勤」に該当する事案においても、当該従業員に「精神的な不調」が窺われ、それが原因で欠勤を継続していると考えられた判例です。 

最判平22.4.27 

無断欠勤で解雇する際の注意点

解雇をする際には適切な手順を踏まなければ、訴訟や労働審判で解雇が無効とされてしまうリスクもあります。注意すべき点をいくつか紹介します。

記録や証拠を残す

タイムカードや出勤簿などの無断欠勤の証拠、無断欠勤が始まってから対象の労働者とやりとりした記録はすべて残しておきましょう。これがないと裁判所で会社側が不利になるケースがあります。

手順を追って進める

無断欠勤が続く場合でも、いきなり解雇予告通知を送ると手続きとして不当であると主張されるケースもあります。注意・指導、出社命令、懲戒処分、退職勧告などあらゆる手順を踏んだにもかかわらず改善が見えない場合は、「一定期日までに連絡が取れない場合には、就業規則の定めに基づいて解雇手続きを行う」といった通知を予めした上で、解雇手続きを進めていきます。

解雇通知は確実に行う

解雇通知は法律上、口頭でも可能とされていますが、これでは証明することができませんので、必ず書面にて解雇通知書を作成し、内容証明郵便などで送ります。

解雇日の設定に気をつける

労働基準法では、解雇予告期間として定められている30日から解雇日を短縮する場合、残日数に応じた金額を支払うことが義務付けられています。そのため解雇通知を作成する際に、解雇日を本人の手元に解雇通知が届いた日とするのか、30日後にするのかなどによって、会社側の対応が大きく変わりますので注意が必要です。

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