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パラダイムとは?パラダイムシフトの使い方、具体例をわかりやすく解説

パラダイムシフトの意味

まずはパラダイムシフトという言葉の成り立ちと、現代で使われている意味を考えていきましょう。

パラダイムとは

パラダイムという概念をつくったのはトーマス・クーンという科学史・科学哲学者です。言葉自体は古代ギリシア語が起源です。トーマス・クーンが1962年に著書「科学革命の構造」で、その言葉に科学研究における専門用語としての新しい意味を与えました。同著でトーマス・クーンは『「パラダイム」とは、一般に認められた科学的業績で、一時期の間、専門家に対して問い方や答え方のモデルを与えるもの(※)』と記しています。

※引用:トーマス・クーン著 中山茂訳「科学革命の構造」みすず書房

しかし、トーマス・クーンが提唱したパラダイムという言葉は非常に専門的な意味合いであり、捉え方に曖昧な部分があるという指摘もありました。そのうち、変化する時代の流れの中、トーマス・クーンの提唱した概念から離れたところで、急速に浸透していきました。現在のパラダイムという言葉は「ものごとの見方・考え方の枠組み」「その時代を代表するようなものごとの見方・考え方」という意味で使われはじめ、さまざまなシチュエーションで用いられています。

パラダイムシフトとは

パラダイムシフトとは、パラダイム転換ともいわれ、時代に合ったものの見方や考え方に変化することを表します。

言葉の使用例としては、「パラダイムシフトが起きている」「パラダイムシフトが求められる」などです。現在では、変化の現象を指して用いられていることもありますが、意味から考える適切な使い方としては、変化によって社会や個人、科学領域などにおいて「ものごとの見方」が転換することを指します。

「パラダイムシフト」が起こる要因は、産業構造・技術革新・価値観の変化など幅広く存在します。つまり、このような要因に大きな変化があったことで、ものごとに対する見方や考え方が、これまでとは異なるものに変わり新たな価値がつくられるわけです。
今の時代、パラダイムシフトはどのような要因で起きているのか、具体的にあげていきましょう。

ビジネスにおけるパラダイムシフトとは

ビジネスにおけるパラダイムシフトとは、組織や個人が、働き方や経営に対する見方を変える転換のことです。不確実な時代においてビジネスにおけるパラダイムシフトは、組織や個人に新たな価値創造をもたらし、競争力につながるものでもあります。
※VUCAについては、以下の記事をご参照ください
VUCA(ブーカ)とは?予測困難な時代に必要な4つのスキルと、リーダーの資質

ビジネスにおけるパラダイムシフトの事例

今の時代、どのようなパラダイムシフトが起こり、新たな価値を創り出しているのか、事例を挙げてみていきましょう。

情報活用のパラダイムシフト

スマートフォンの出現は人々の生活を大きく変えました。調べる、連絡する、購入する、他者とつながるなど、生活に組み込まれています。スマートフォンはSNSの発達にも影響を与えました。人々は多くの情報にアクセスでき、一瞬のうちに国境を越えて情報共有ができることが当たり前の世の中になりました。また、個人が簡単にメディアを持てるようになり、影響力を持つインフルエンサーと呼ばれる人も出現し、広告メディアや消費者の判断基準も変化しました。

働き方、場所・時間のパラダイムシフト

DX推進により、さまざまな働き方が可能になりました。DXとはデジタルトランスフォーメーションのことを指します。経済産業省の定義では「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(※)」としています。

※引用:経済産業省『「DX 推進指標」とそのガイダンス』(2019年7月)

たとえばオフィスに出社せずに働くテレワークや、旅行先で仕事をするワーケーション。海外にいながら日本の仕事をする海外ノマドワーク、都心にある本社を地方に移転させる企業も増え、DXにより場所や時間に捉われない働き方が珍しくなくなりました。

消費スタイルのパラダイムシフト

所有するのではなく共有するという概念のシェアリングエコノミーも大きな変化です。以前は所有することに価値があったわけですが、現在は所有せずにシェアをすることに価値を感じる人が多くなりました。車や住む場所のほか、個人のスキルを多数の人でシェアするビジネスモデルも出現しました。

サブスクリプションの浸透も大きな変化です。サブスクと呼ばれ、商品ごとに1回ずつ支払いをして購入するのではなく、定額制で動画などをレンタルしたり、定期購入したりするという消費のスタイルです。昨今では、服もサブスクでレンタルするサービスもあります。

株式会社ICT総研の「2020年 サブスクリプションサービスの市場動向調査」では、サブスクリプションサービス市場は2023年には1.4兆円に拡大する見込みであると報告されています。

出典:ICT総研「2020年 サブスクリプションサービスの市場動向調査」(2020年2月)

企業の存在価値へのパラダイムシフト

SDGsは「Sustainable Development Goals(サスティナブル・デベロップメント・ゴールズ)」の頭文字です。2015年に国連サミットで採択された、持続可能な開発目標で「誰一人取り残さない」を掲げ、2030年までに17の目標を達成しようという世界中で行われている取り組みです。多くの企業が自社で取り組む目標を掲げています。また昨今ではESG投資といって財務状況だけではなく環境・社会・ガバナンスへの取り組みも考慮した投資も行われています。
たとえば、リクルートホールディングスではサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を経営戦略の柱の一つとして掲げ、2030年に向けたコミットメントの策定やESG投資に関心の高い方向けにESGデータブックを作成するなど、自社の取り組みをESGの項目別に整理し、関連情報・データの提供をしています。同社が行っているESG・サステナビリティへの取り組みは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の4つのESGインデックスの構成銘柄の選出をはじめ、世界的なESGインデックス構成銘柄に選出されるなど国内外から数多くの評価を受けています。
その他の企業の取り組み事例として、従来低いといわれている職種の給与を引き上げたり、DXにより残業時間を削減したりという取り組みが、社会的に評価され資金調達につながった企業もあります。企業の評価や求められる役割は大きく変化しています。

パラダイムシフトに対応する人材になるには

世界規模のパラダイムシフトが起こる中で、対応する人材になるにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは例として、6つの具体的なスキルについて解説してきます。

1.ものごとを多角的に見る視点

パラダイムシフトに対応する人材になるためには、「虫の目、魚の目、鳥の目」を持つ必要があります。

近くから複眼で様々な視点から見る虫の目のような力、魚のように潮目を読む力、そして全体を俯瞰する鳥の目のような力です。
特に、組織の中で自分のタスクだけを見るのではなく、時代の流れやチーム全体を俯瞰的に見ることで多くの気づきが生まれます。

2.これまでの固定観念や枠を取り払った思考

パラダイムシフトの時代は、これまでにはなかった出来事が数多く起こります。そのため過去のデータや経験では対応できない正解のない問題が発生すると、自分で解を見つけねばなりません。また、今までなかったような新しいものを作りだすことや価値創造も求められます。

このような流れに対応するためには、さまざまな思考法を身につける必要があります。

論理的な思考、当たり前を疑う思考、発想をひろげる思考などを学び、実践できる必要があるのです。
加えて、多様性を認める時代に、たとえば「女性が家事をするもの」など無意識の偏見といわれるアンコンシャスバイアスの問題を理解したり、持たないように心がけることも重要です。

3.イノベーションを起こす行動力

先述のような思考も重要ですが、それを発信する力も必要です。イノベーションとは変革を表します。今や組織はイノベーションを起こさなければ生き残れない時代といえるかもしれません。自ら考えた事業を立ち上げるべく社内起業をする人も増えてきました。あるバス会社では、引退した路線バスを移動型サウナにする新事業を提案し、自ら新会社を立ち上げて出向するという形で起業した社員が海外からも注目されています。
まさに、固定観念を取り払い、新しい価値を見出し、行動している事例だといえます。

※イノベーションに関しては、以下の記事をご参照ください。

イノベーションとは?意味・種類、成功企業の特徴や実現するための課題を解説

4.時代が求める知識習得

コロナ禍においてリモートワークが浸透する中、DX戦略は組織にとってとても大切です。そこに対応できる人材育成も急がれるため、高度なテクノロジー技術を身に付けることが望まれます。新たな知識を学ぶことをリスキルと呼び、デジタル知識や技術を学ぶことで、DX戦略を考える力がつきます。DXにより仕事の効率化や生産性アップにもつながります。

5.多様化する社会でのコミュニケーションスキル

少子高齢化による労働力人口減少が進み、多様な人が多様な働き方で労働市場に参入します。ダイバーシティ・マネジメントが推進される現代で、多様なメンバーとコミュニケーションをとる力は重要です。多様な人材が活躍し組織が活性化するためには、多様性を認め働きかけるコミュニケーション能力を磨く必要があります。

※ダイバーシティに関しては、以下の記事をご参照ください。

ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介

6.変化を好機ととらえるキャリア観

キャリア理論の中に、ジョン・D・クランボルツ博士が提唱した「プランドハップンスタンスセオリー」というものがあります。
予期せぬ偶然を必然に変えるという理論なのですが、私たちのキャリアの8割は偶然の出来事で決められていくというもので、パラダイムシフトが起こる大きな時代のうねりの中では、まさに予期せぬ出来事が起こります。
そこでキャリアを築いていくためには、次の5つの行動姿勢を意識しておくことが大切とされています。

1.好奇心 
2.持続性 
3.楽観性 
4.柔軟性 
5.冒険心

パラダイムシフトが起きている時代でキャリアを形成していくためには、この5つの行動姿勢は必須といえます。

パラダイムシフトに対応できる組織になるための取り組み

ここでは、パラダイムシフトに対応できる組織になるための取り組みを、4つの視点で解説していきます。

1.人事評価制度の見直し

古くからの慣例に基づく人事評価制度ではなく、多様性を重視する時代において、公正かつ透明性のある人事評価制度を構築していくことが大切です。たとえば同一労働同一賃金も、これまで正規社員と非正規社員では給料は違うものだと思われていた過去の慣例から大きく変化したことの1つです。

※人事評価制度に関しては、以下の記事をご参照ください。
人事評価制度とは?種類や基準の作り方など、コツを詳しく解説

2.多様性に対応した施策

これまでのような画一的な施策ではなく、個々の従業員にマッチした働き方やキャリアパスが理想的でしょう。たとえば、一旦辞めた社員は会社とあまり関係性を持たないという企業もありますが、現在は再雇用制度やカムバック制度という名称で、離職しても会社に戻ることができる制度を設けている企業もあります。
また、テレワークによるワークライフバランスの実現や、旅行先で仕事ができるワーケーション。以前は副業を禁止する企業が多かったのですが、現在は本業との相乗効果が望まれるということで副業を推進している企業も少なくありません。

※再雇用制度に関しては、以下の記事をご参照ください。

【弁護士監修】再雇用制度とは?雇用する際の注意点や給与・制度の詳細を解説

3.採用方法や基準の見直しで人材を確保する

多様な人材を確保するために、これまでの採用の方法や基準を見直しましょう。
採用アプローチでは、従来の新卒一括採用から随時の採用に変えている企業もあります。アプローチの仕方もマス型採用といって大勢を集めて説明会を開く方法だけではなく、個別採用でSNSを使うなど個々にアプローチをする方法など新しい視点で考える必要があります。
雇用形態もこれまでは、メンバーシップ型採用といって人に仕事を割り当てる方式がほとんどでしたが、仕事に人を割り当てるジョブ型採用に切り替える企業もあります。
選考方法では新しい方法として、能力や実績だけで応募者を評価して採用するブラインド採用という方法を取り入れる企業も出てきています。

4.経済・環境・社会のバランスを考えた経営

前述したSDGsの動きもですが、企業は経済・環境・社会のバランスをとった経営を行うことが大切です。たとえば、利益だけに走って環境破壊をしたり、人権問題や性差別などがステークホルダーを含め起こっていると、企業の評価は失墜します。

※ステークホルダーに関しては、以下の記事をご参照ください。
ステークホルダーとは?正しい意味と企業経営における重要性を解説

コロナ禍を経験し、世界的なパラダイムシフトが起こっています。
パラダイムシフトに対応するために最も重要なのは、今までの枠にとらわれずに新しい価値創造を築く社会・組織・個人であらねばならないということです。そのためにも、一人ひとりがものごとを見る視点や思考力、行動力を磨いていきたいものです。