労務管理

離職票とは?退職証明書や退職時に会社が用意するものを紹介

従業員退職後に必要な、各種事務手続き

従業員が退職すると、企業にはさまざまな事務手続きが発生します。

そのなかには期限が決められているものもあり、遅れた場合、退職者に不利益が発生することがあるので、迅速に対応しましょう。

社会保険(健康保険と厚生年金保険)に関する手続き

企業に勤めていた給与所得者が退職すると、企業を通じて加入していた健康保険と厚生年金保険の資格を喪失します。

企業は退職者から本人および扶養親族分の健康保険証を回収したうえで、退職日の翌日から5日以内に、退職者が勤務していた事業所の所在地を管轄する年金事務所に、回収した健康保険証を添えて「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出します。

なお、退職日が月末日でない場合は退職月の社会保険料控除は必要ありませんが、退職日が月末日であった場合、退職月の社会保険料を控除し会社負担分と合わせて納付する必要があるため注意が必要です。

※社会保険の加入に関しては、以下の記事をご参照ください

【社労士監修】社会保険の加入条件とは?加入義務や罰則をわかりやすく解説

雇用保険に関する手続き

給与所得者が退職した場合、前述の健康保険と厚生年金保険の資格に加えて、雇用保険の資格も喪失します。

企業は、退職日の翌日から10日以内に、退職者が勤務していた事業所を管轄するハローワークに、「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出しなければなりません。これは正社員に限らず、一定の要件を満たして雇用保険の被保険者となっていたすべての従業員についても同じです。

退職する従業員が再就職まで間があり、基本手当(失業手当)の受給を希望する場合は、上記の雇用保険被保険者資格喪失届とあわせて、賃金台帳、出勤簿、タイムカード、労働者名簿、退職届などの必要書類を添えて、「雇用保険被保険者離職証明書」を提出します。

雇用保険被保険者離職証明書は、記載した内容に異議がないかどうかを退職者に確認してもらい、本人の署名を得たうえで提出する必要があります。

住民税に関する手続き

企業に勤めている給与所得者の住民税は、通常毎月の給与から天引きしたうえで、企業が、本人の住所がある市区町村に納付しています(特別徴収)。

退職する場合、それ以降の特別徴収を行うことができなくなるので、企業は、退職月の翌月10日までに、退職者の住所がある市区町村に対して「給与所得者異動届」を提出します。

退職後の住民税の支払いは、退職時に納付が済んでいない分を一括徴収したうえで企業が納付する方法(一括納付)と、退職後に退職者が自分で納付する方法(普通徴収)、転勤・転職先で特別徴収を継続する方法があります。

退職したタイミングと退職後の状況によって選べる納付方法や手続きが異なるため、間違いなく手続きできるよう確認しておきましょう。

源泉徴収票に関する手続き

企業に勤めている人の所得税は、毎月の給与から一定額を天引きしたうえで、年末に年間の納税額を確定させ毎月徴収した分の合計との差額を返還(合計額が年間の納税額に不足する場合は不足額を徴収)する「年末調整」を行うことで納付が完了します。そのため、年の途中に退職した人の年末調整については、企業は行うことができません。

そこで企業は従業員が退職した日から1カ月以内に、退職者と税務署に対して「源泉徴収票」を発行・提出する必要があります。これは法令に定められた義務であり、退職者からの求めがなくとも企業が進んで発行すべきとされています。

従業員が退職するときの流れ

従業員が退職する場合の企業の対応は、以下のような流れになります。

退職届を受理する

従業員が退職を申し出てきた場合は、退職理由や退職日などを記載した「退職届」を提出してもらいましょう。従業員には退職の自由が保障されており、たとえば期間の定めのない雇用の場合は、退職の申入れをしてから二週間を経過することによって雇用が終了するとされています。

法律では退職届が書面であることは求めていませんが、退職に係わる手続きを円滑に進めるためにも、退職の意思を聞いたら、書面での提出を求めたほうがよいでしょう。事前にフォーマットを用意しておくとスムーズです。

就業規則で退職届は書面で提出する旨を定めている場合は、裁判などでも書面提出が必要と判断されます。

万が一、従業員が退職の撤回を申し出てきた場合、本人の意思で退職届を提出したあとであれば、企業はこれに応じる義務はありません。

さらに、退職届を受理することは、自己都合による退職であることの証明にもなります。

貸与しているものを返却してもらう

社員証やパソコン、備品類など業務を行うために本人に貸与していたものを返却してもらいます。

その際、本人が業務を通じて取得した取引先などの名刺も忘れずに回収するようにしましょう。

これらの対応によって、退職後に退職者本人が営業などを行うことで発生するトラブルや、競合相手となってしまうリスクを低減させることができます。

社会保険や税金に関する確認を行う

健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を作成する場合、退職者の基礎年金番号またはマイナンバーの記入が必要となります。雇用時に得ている情報をもとに、必要に応じて本人確認を行ったうえで記載しましょう。

なお、健康保険に関しては退職後であっても、2年間は企業を通じて加入していた健康保険制度を継続することができます(任意継続)。そのため、健康保険の継続を希望するかの確認も行います。

さらに住民税に関しては前述の通り、退職月によっては、未納付の税金を企業が退職月に一括で徴収するか、退職者本人が自分で納付するかを選ぶことができます。手続きについて説明のうえ、退職者の希望を確認します。

退職後の事務手続きを行う

社会保険や税金に関する確認を終えたあとに、所定の期限までに、社会保険・雇用保険・住民税に関する手続きを行います。

退職者に必要な書類を発行する

退職後、退職者はさまざまな手続きを行うことになりますが、それらの手続きに必要な書類を企業は発行しなければなりません。退職者に企業が発行する書類には、以下のようなものがあります。

・社会保険資格喪失証明書

退職者が退職後に国民健康保険や国民年金に加入する場合、加入手続きは退職者自身で行います。その際、企業の健康保険の被保険者ではなくなったことを証明するため、「社会保険資格喪失証明書」の添付が求められます。この証明書を発行するのは元雇用主企業であり、必要事項が記載されていれば企業独自の形式でよいことになっています。

発行が遅れると退職者の無保険期間が発生しかねないため、企業としてはできる限り迅速に発行するのが望ましいでしょう。

・源泉徴収票

前述の通り、年の途中に退職した退職者に対して、企業は「源泉徴収票」を発行する必要があります。

・雇用保険被保険者離職票(離職票)

退職者が雇用保険の基本手当(基本手当(失業手当))(基本手当)を受給する場合、受給手続きを行うには「雇用保険被保険者離職票」が必要になります。一般にこれが「離職票」と呼ばれているものです。

企業は退職者が希望する場合は、離職票発行に対応しなければなりません。

・退職証明書

本人が希望する場合、企業は「退職証明書」を作成し、発行します。

離職票とは

退職者が雇用保険の基本手当(失業手当)受給手続きの際には、前述の通り離職票が必要になります。企業は退職者が希望する場合、速やかに発行する必要があります。
ただし、退職者が離職日において59歳以上の場合には、本人の希望の有無に関わりなく、離職票の発行が必要です。

離職票発行のために企業が行う手続き

次に、退職者に離職票が発行されるまでの流れについて説明しましょう。

まず退職予定者に離職票が必要かどうかを確認のうえ、企業は「離職証明書」を作成します。離職証明書は3枚つづりで、企業が必要事項を記入して、退職日の翌日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」とともに、管轄のハローワークに提出します。

ハローワークは離職証明書の内容を確認して追記し、「雇用保険被保険者離職票-1(離職票1)」と「雇用保険被保険者離職票-2(離職票2)」と合わせて、企業に返送します。

企業は離職票を受領後、退職前であれば本人に手渡し、退職後であれば郵送するのが一般的です。

このように離職票が退職者の手に渡るまでには手間と時間がかかります。発行手順を確認のうえ、従業員の退職がわかった時点で、速やかに準備を開始しましょう。

離職証明書の書き方

離職証明書は、左ページに支払った賃金に関することを、右ページに離職した理由を記入する様式となっています。

賃金に関しては、賃金支払いの基礎日数が11日以上(または80時間以上)になる月を1カ月とし、このような月が6カ月分になるまで退職日からさかのぼって記載します。賃金の締め日以外の日に退職する場合、基礎日数が11日以下の場合は、直近の月は6カ月分に算入されません。

離職理由に関しては、会社都合か自己都合なのか、離職に至った経緯などを具体的に記入します。

なお、賃金や離職理由などに関しては、退職者本人が記載内容に異論がないことを確認して署名したものをハローワークへ提出する必要があります。退職者に忘れずに確認をしてもらいましょう。

離職票と離職理由

離職証明書および離職票に記載される離職理由は、「事業所の倒産等によるもの」「定年によるもの」「労働契約期間満了等によるもの」「事業主からの働きかけによるもの」「労働者の判断によるもの」「その他」という区分に分かれ、それぞれの区分ごとに具体的な離職理由が記されています。

企業は該当する離職理由に○印をつけ、「具体的事情記載欄」に「自己都合による退職」などと記載します。

書類には事業主(企業)の記載欄と退職者本人の記載欄があり、退職者は企業の記載に異議がないかを明記したうえ、署名します。

離職票を発行する場合の注意点

ハローワークから離職票発行を受けるには、企業は離職証明書を作成してハローワークへ提出しなければなりません。その際には、以下のことに注意をする必要があります。

支払った賃金の証明について

雇用保険の基本手当(基本手当(失業手当))(基本手当)の金額は、退職前に支払われていた賃金に応じて決定されます。

そのため、証明した金額の算定根拠を退職者に対して丁寧に説明し、誤解を生じさせないようにする必要があります。

離職理由の証明について

雇用保険の基本手当(基本手当(失業手当))(基本手当)の支給開始時期や受給期間は、離職理由によって異なります。

不可抗力や会社都合によって離職した場合のほうが自己都合で離職した場合よりも早く支給が開始され、かつ受給できる期間も長くなる仕組みになっています。

そのため、後々のトラブルを防止するために、離職理由を具体的に記入したうえで退職者への確認を行うとともに、自己都合退職の場合は必ず退職届を提出してもらう必要があります。

作成時期について

繰り返しになりますが、企業が離職証明書をハローワークへ提出する時期が遅れてしまうと、その分離職票が退職者のもとに届く時期も遅れてしまい、結果的に雇用保険の基本手当(基本手当(失業手当))(基本手当)の受給申請がすぐにできなくなります。

離職証明書の提出方法について

離職証明書の提出方法は、以下の3つから選ぶことができます。いずれの方法でも事前準備が必要なため、遅滞なく退職者に渡せるよう、段取りをつけていきましょう。

・専用用紙を使って提出する

離職証明書を提出するには、専用用紙に必要事項を記入し管轄のハローワークへ提出します。離職証明書の専用用紙はインターネットからダウンロードすることができません。書類を入手するには、直接ハローワークに出向くか郵送してもらいます。

・電子申請を行う

離職証明書の提出は、総務省が運営する「e-Gov」を使って電子申請で行うこともできます。e-Govの「雇用保険被保険者資格喪失届(離職票交付あり)」で申請を行いましょう。ただし、事前に電子証明書を取得しておくなどの準備が必要です。

・事前申請をして印刷物で提出する

管轄のハローワークに「印刷物による届出の承認申請」を事前に行うことで、自社でプリントアウトした書面を、離職証明書として提出することができます。申請方法など詳しくは、管轄のハローワークへお問い合わせください。

退職証明書とは

離職証明書や離職票と混同されがちなものに、「退職証明書」があります。退職証明書とは、従業員が正式に退職したことや在籍期間中の処遇内容を企業が証明するための書類です。企業に発行の義務はありませんが、退職前に退職者から交付を依頼された場合には、必ず発行することが法律によって義務づけられています。

書式は自由ですが、退職者が希望する内容だけを記載するのが基本です。退職者が伏せてほしいと希望する内容を記載したり、特に申し出のない内容について記載することは法律で禁止されています。退職証明書に記載される主な事項は以下の通りです。

退職年月日

退職した年月日を記入します。

使用期間

本人を使用していた期間を記入します。

業務の種類

本人が在籍していた期間中の業務の内容を記入します。

事業における地位

本人が在籍していた期間中の役職や立場などを記入します。

離職以前の賃金

離職時の賃金の内容や金額を記入します。

退職の理由

退職の理由を具体的に記入します。

そのほかに退職時に用意すべき書面

ここまで説明してきた書類以外にも、以下の書類を退職者に交付するケースがあります。状況に応じて、必要な書類を発行しましょう。

会社への返却物に関する通知書類

会社に返却する必要のあるものについて、対象となるものごとに、返却先や返却方法、返却期限を記した書類を作成し、退職者に発行することがあります。

解雇通知書

解雇を行う場合、後々のトラブルを防止するために、解雇日や具体的な解雇理由、解雇後の手続きを記した「解雇通知書」を作成し、退職者に交付する場合があります。

退職時の事務手続きは、退職者が退職後も社会保障の適用を受け、就職活動を円滑に進めていくために必要なものです。

そのなかでも離職票は、次の仕事が見つかるまでの間、退職者が生活費の保障を受けるための重要な書類であり、労働者の支援を目的に法令でさまざまな対応が義務づけられています。

退職した元従業員に関する手続きを遅滞なく進めることは、退職者の新生活の円滑なスタートを支援することにもつながります。元雇用主としての責務の一つとしてとらえ、決められた期限内に適切に手続きを進めていきましょう。