2021年、経済は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けましたが、中途採用市場はどう変化しているのでしょうか。株式会社リクルートから発表された「2022年 転職市場の展望」をもとに、2022年の転職市場の動向を見ていきます。

2022年の転職市場の展望

まず、コロナ禍前の2019年からの、「リクルートエージェント内」での求人数推移を見てみましょう。2019年、「販売サービス」を除き増加傾向にあった求人数は、2020年1~3月期を境に大きく減少しました。しかし、2020年度中に回復の兆しが見え始め、2021年度には大半の職種でコロナ禍前の水準を超えています。
また、企業の採用意欲が加速する一方で、実際の採用活動が追いついていない状況が生じています。『リクルートエージェント』における2021年度上半期(4月~9月)の中途採用動向調査結果によると、採用計画を満たせなかった企業は70.5%にも及びました。

(引用:株式会社リクルート「2022年 転職市場の展望」

社会がデジタル化に急激にシフトする中で、特にIT人材の採用は全業界で急務となっており、CX(カスタマーエクスペリエンス)/DX(デジタルトランスフォーメーション)領域での人材は争奪戦となっています。
また優秀なIT人材を採用するために、自社のこれまでの人事制度にIT人材向けの報酬制度・評価制度を新たに構築する企業も出てきており、人事制度の改定に向け動き出す企業が見られます。
加えて、内定者の入社意思決定後の辞退回避のため、入社前から人間関係を構築し求心力を強化する企業や、入社後の研修・配属までの計画を開示し入社後の活躍イメージを提示する企業もあります。

15業界の企業と求職者の動き

それでは、15業界の転職市場の動向を見ていきます。

IT通信

ソフトウェア、SIer、NIer、通信キャリアなどを含むIT通信業界においては、DX加速の影響でコロナ禍以前の水準以上の採用ニーズが見られます。一方でIT人材はどの業界でもニーズが高まっているため、採用競争は激化する一方で、企業側は未経験層・ミドルシニア層の採用実績が増加しています。
求職者側は求人が活況の中、複数の選択肢から選べる状態にあります。よって、「やりがい」「裁量」「キャリアパス」などを判断の軸にしながら、報酬以外の福利厚生や働く環境なども含め、多面的観点から転職先を選ぶ傾向が見られます。

※ITエンジニアの採用に関しては、以下の記事をご参照ください

ITエンジニア・モノづくりエンジニア人材の中途採用を成功させるコツをわかりやすく紹介

コンサルティング

コンサルティング業界の採用数は前年を大きく上回り、過去最高水準の求人数が継続しています。ポジションとしては、アソシエイトからマネージャークラスまで幅広い層の採用に加え、第二新卒採用も強化し始めています。
領域においては、IT領域のコンサルニーズの高まりにともない依然としてIT人材のニーズは高く、加えてデジタル庁新設にともなう官公庁向けコンサル、地域振興の「スーパーシティ構想」実現に向けた行政と民間の架け橋になれるコンサル、新規サービス・新規ビジネスにおけるコンサルなどの採用ニーズが高まっています。また「SDGs」「サステナビリティ」「脱炭素」などの領域の採用強化が図られています。
求人が増加している一方、求職者側はプロジェクトの内容を優先事項とする傾向があり、「やりたいプロジェクトができるか、面白いプロジェクトに関われるか」を重視する傾向が見られます。

インターネット

Webサービス、ネット広告、ゲームなどのインターネット業界の求人数はDX推進の加速を背景に引き続き増加しています。大手インターネットサービス企業、デジタルマーケティングのコンサル企業などでは、数百名規模の採用を継続している企業もあります。SaaS系企業の採用も景気回復にともない活発化し始めています。

売り手市場で求職者が複数の内定を獲得できる状況において、選ばれる企業になるポイントは「選考スピード」が考えられます。選考において面接回数が多く、進捗スピードが遅い企業は辞退率が高い傾向が見られます。また、入社前の不安解消や期待を高める工夫ができているかどうかにおいても、採用の明暗が分かれています。採用の成功に向けて、採用リードタイムの短縮や入社前フォローへの工夫が重要になります。

自動車

「カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)」実現に向けた電動化へのエンジニア採用、製造工程改善に向けた人材採用など、ポテンシャル層から管理職層まで幅広いレイヤーの人材ニーズが高まっています。自動車業界においては近年、異業種からの採用も迎え入れているため、入社後のオンボーディング(入社後の受け入れフォロー~戦力化)・育成に加え、新たな人事制度の導入や、組織・風土改革を担う人材のニーズも生まれています。
技術ニーズは3~4年スパンで変化していきます。よって、求職者側は「求められる領域の技術を磨く」ため、常にアンテナを張っておくことが求められます。転職を図るのも一つの手段ですが、「社内異動」で自社における新たなキャリアの可能性を探る手段もあります。

※オンボーディングの詳細に関しては、以下の記事をご参照ください

オンボーディングとは?人材の受け入れ~戦力化までの手順、メリットを解説

総合電機・半導体・電子部品

半導体が国家戦略技術分野に位置づけられ補助金の支給が導入されたこと、また海外企業と合弁会社を設立して事業拡大を図っていることなどにより、求人数は増加しています。プロセスエンジニア・設備エンジニア・フィールドエンジニアなどの職種では業界未経験の第二新卒も採用対象とする傾向があり、製造・開発ではミドル・シニア層の採用も多い傾向があります。いびつな状態となった組織構成を是正することも課題の一つになっています。また、IoT領域ではIT人材の採用が必須となるため、勤務地における不利を解消するため、リモートワーク中心で勤務地フリーとする企業も出てきています。
コロナ禍以前はオンライン面接などの導入が少なかった業界ですが、コロナ禍を経てオンライン面接が定着しています。結果、求職者側は複数企業への応募・面接がしやすい状況となり、複数の選択肢の中から転職先を選定する動きも出てきています。

環境・エネルギー/サステナビリティ

政府が提唱している「グリーン成長戦略」(※)の推進を背景に、エネルギー関連では産業構造の転換やイノベーション創出の加速に向けた人材採用が活発化しています。
(※グリーン成長戦略とは、2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」実現に向けた実行計画のこと(参照:経済産業省-「グリーン成長戦略(概略)」))

具体的には、再生可能エネルギーにおける技術者ニーズが増加し、加えて水素エネルギー活用に向けた開発、量産に関わる人材投資に乗り出しています。またエネルギーマネジメント案件などは、スタートアップ企業からも求人が出ている一方で、大手企業では新たな領域の人材採用に向けて、新しい雇用形態の導入、人事制度の見直し、風土の改革などにも力を入れ始めています。
求職者側は年収よりもやりがいや将来性を重視する傾向も強くなっており、年代を問わず「スタートアップ」や「新規事業」への興味も高まっています。

化学

半導体・電池・ライフサイエンス領域での採用の活発化や、環境関連でのカーボンニュートラル実現に向けた研究開発職の採用強化が見られます。またリサイクル、バイオマスの事業に注力する動きもあります。プラントエンジニアや、DX関連の人材採用ニーズも依然として高い状況です。また、事業はこれまでのプロダクトアウト型からマーケットイン型への変化が求められています。これにともない、経営企画などのポジションの強化、異分野からの事業変革を期待した人材採用の強化、マーケティング・企画領域の人材強化なども課題となりそうです。
求職者側は自社商材の先行き不安から、成長分野への転職希望が増えていますまた「リモートワーク可」や「転勤が少ない」など、時代に合わせた変化を遂げられている柔軟な企業を選ぶ傾向があります。

医療・医薬・バイオ

医薬品業界では、後発品・先発品ともに工場部門のニーズが堅調です。また、これまでの募集ポジション以外に「研究所専任の広報職」「HEOR(Health Economics and Outcomes Research)職」など新たな採用ポジションが生まれています。その他、CRO分野は人材不足が深刻な状況で、採用の逼迫度も高い状況となっています。バイオ分野も引き続き採用強化の傾向が見られます。
求職者側の動きとしては、企業規模にこだわらず、事業方針や将来性、身に付くスキル・キャリアに着目して選ぶ傾向が強くなっています。

建設・不動産

コロナ禍以前と比較しても求人は増加しており、活発な採用となっています。一方でコロナ禍を経て、在宅勤務の拡大によるオフィス移転や分散化が加速し、転居ニーズにともなう不動産管理・設備管理の求人が増加しています。また発注者側の企業においても、ESGの観点から自社の保有不動産を環境にどう適応させていくかの計画・維持・管理を行う設備系人材のニーズが出てきています。ゼネコンでは人材獲得が困難になる中、残業時間削減に向けて働き方の見直しを進めてきましたが、いまだ大手でも生産性向上に課題があります。恒常的な人材不足の解消には、根本的な解決に本腰を入れる必要があります
求職者側は、企業の将来ビジョンや投資額、自身のキャリア構築を重視しながらも、「いかに心地よく生きるか」を重視する人も増えています。

銀行・証券

銀行・証券とも引き続きDX関連の人材のニーズが高い状況です。銀行では事業企画系に加えSDGs・ESG(※)に関わる人材のニーズも増えており、証券ではDX関連における新規事業人材、IT人材の採用が積極化しています。証券業界では、営業組織の再編が進んでいます。また投資銀行系、M&A、不動産ファイナンスなども含めた金融専門職のニーズも再度高まっています。さらに守りを固めるAML・リスク管理・コンプライアンスなどのポジションも積極採用しています。
(※ESGとは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの頭文字をとった呼び名。従来の財務情報だけでなく、長期的なリスクマネジメントや企業の新たな収益創出の機会評価するベンチマークとして、ESGの要素も考慮した投資が注目されている。参考:経済産業省-「ESG投資」)。

求職者側の動きとしては、銀行においてはDXやSDGs・ESG関連に興味を持った方がコンサル業界へ転職するケースが増えており、証券ではスタートアップでの新規事業創出領域への関心の高まりから、スタートアップ企業への転職が熱を帯びています。

生保・損保

生保では、営業職の採用が引き続き活発で、未経験者採用も行っています。営業マネジメントポジションにおいても、異業種でのマネジメント経験者が迎えられています。またシステムを内製化するためのIT人材の採用やリスク管理、とりわけセキュリティ強化に関わる人材の採用なども見られます。損保業界では既存のビジネスモデルの変革が求められる中で、デジタルマーケティングやデータサイエンティストなどDX推進・新規事業における採用ニーズが高い状況です。
求職者側の動きとしては、生保業界においてより志向に合うキャリアを構築していく人もいる一方で、将来のキャリア形成の観点などから異業種へ転職を希望する人も出てきています。また損保業界では、将来性に不安を感じて転職を検討する傾向が見られます。

消費財・総合商社

消費財メーカーでは、デジタル活用における新たなサービス創出のほか、ブランドマーケティングに力を入れる動きがあり、マーケティングの求人が増加しています。またSDGs・ESGの意識が高まる中で、カーボンニュートラル実現に向けたサステナビリティ推進人材のニーズが高まっていますデジタル化を進める上で必要となるエンジニアの採用は苦戦が続いており、フルリモート、フルフレックスの勤務形態に加え、拠点に縛られない自由な働き方の導入なども増えています。総合商社は業績好調により採用も活発化しており、2022年は総合職採用も増加することが見込まれます。
求職者側の動きとしては、以前は消費財業界を選ぶ際はブランド力を重視する傾向がありました。しかし現在では、より企業や事業の中身に着目し、商材の伸び・企業の戦略・財務状況に加え、自身のキャリア上のメリットという観点で企業を選ぼうとする傾向があります。

外食・店舗型サービス

緊急事態宣⾔が解除され飲食店の営業時間が通常に戻る中、外食業界では店長の採用が復活、デリバリー特需での新規出店増員などのニーズも出てきています。またDX推進にともなうIT人材の採用も引き続きニーズが高い状況となっています。その他の店舗型サービス業界においては、海外展開・EC強化といった新規事業の推進が加速しており、関連する求人ニーズが出てきています。CxO(最高責任者クラス)や部長クラスの求人も増加傾向にあり、幹部を強化する傾向も見られます。また全国転勤有の企業においては「地域限定社員」などの制度を構築し、多様な働き方に対応する動きがあります。

人材・教育

人材業界では、営業の採用ニーズが増加しています。営業不足をカバーするためにインサイドセールス部隊の立ち上げなどを行う企業もあり、インサイドセールスの知見のあるマーケティング人材を求める動きがあります。また、IT・事務分野ともBPO市場が盛り上がりを見せており、BPO関連の人材の採用ニーズも高まっています。
教育業界では、コロナ禍で採用を控えていた反動から求人数が急増しており、4月体制に向けた教室長の採用なども活発化しています。また、海外の大学との提携やリカレント教育サービス、オンライン塾などの新規事業や新ブランドの立ち上げを進めるための採用ニーズも発生しています。

※BPOの詳細に関しては、以下の記事をご参照ください
BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)とは?活用例や選び方を紹介

ベンチャー・グローバル領域

ベンチャー業界においては、SaaS企業において創業フェーズから拡大フェーズになる企業も増え、採用ターゲットの拡大につながっています。また、ハードテック・ディープテック系スタートアップへの投資がここ半年高まりを見せており、これらの企業で今後人材ニーズの高まりが予測されます。
求職者側の動きとしては、コロナ禍で働き方・生き方を見直す傾向が見られ、これまで知名度のある大手企業へと考えていた求職者が、自分でキャリアをデザインしていきたいとベンチャーを選択肢に入れ始めています
グローバル展開に関連する人材ニーズにおいては、2020年はコロナ禍の影響でやや落ち込んだものの現在は復調しており、製造業などで採用意欲が高まっています。また食品・化粧品などの消費財分野では、海外拠点の立ち上げ、進出にともなう人材ニーズや、海外現地での収支改善に関わる人材ニーズなどが見られます。業界を跨いだ採用・活躍の事例も増えています。

コロナ禍を経て、求人数の減少はあったものの早期に回復基調になり、大半の職種でコロナ禍以前の水準を超える求人数となっています。
一方で、コロナ禍でのデジタル化の加速、価値観の変化が今後の採用活動に大きな影響を及ぼしていることが分かります。様々な業界でもDX人材・IT人材の採用が加速化し、採用難易度がさらに上がる中で、リモート体制が整わない企業は、応募検討の候補から除外されかねない状況へと変化をしてきました。一方、個人側はコロナ禍でキャリア観の変容が見られ、「やりたいことを仕事にできる」ということが転職先を選ぶ際の最重要項目に変化しました。仕事の意義(やりがい)と裁量権(やりたい)への共感が転職意思決定のカギとなっています。

激化する人材争奪戦において採用を成功させるために、企業は求職者を「採用する」側の視点だけではなく、求職者から「選ばれる」側の視点も持ち合わせることが重要です。そのため、人事制度改定、組織風土改革、福利厚生の強化、手厚い入社前後のフォロー・研修など、多様な取り組みや改善が求められています。

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